景況調査

第13号-1997年2月
「消費税効果」限定的、停滞感強まる

【概況】
【業況判断】水面下に沈んだ業況DI
【売上高】【経常利益】売上高、経常利益ともに悪化する
【在庫】増加する「過剰」感
【価格変動】【取引条件】価格変動は若干改善、取引条件は3四半期「水面下」で変化なし
【資金繰り】広がる業種間格差
【施設稼働率】【設備過不足】施設稼働率「上昇」割合が低下
【雇用】徐々に強まるサービス業での「不足」感
【経営上の力点など】流通業での「経営上の問題点」の第1位に「販売先からの値下げ要請」
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(1997年2月)第13号(PDF:577KB)


【概況】

 前回調査における業況DI値は、昨年夏の落ち込みが一過性のものであり、景気の基調は回復にあることを示唆したものであったが、しかし、予測値は全般に芳しいものではなかった。今回調査の結果は、消費税上昇前の駆け込み需要や円安効果などが見込まれたにもかかわらず、前回調査での予測どおりとなった。業況判断DI値は、前年同月に比して△11(全業種)となり、前回調査より7ポイントマイナス超幅を拡大し、また、3ヶ月後の予測値も前回の△4から5ポイント低下させて△9となっている。したがって、景況感は、昨年の5月以来、調査時期ごとの変動はあるものの水準自体は未だ水面下での足踏み状態にあると言えよう。

 では、この状態からの脱皮はどの方向に向かって行くであろうか?

 上昇要因としては、’97年度の設備投資が、少なくとも昨年度並みにはなるであろうという循環的要因、また、円安による輸出の増加が挙げられる。他方、下押し要因としては、大企業におけるリストラの継続的進行と海外生産拡大傾向の進展。その反映として、消費税前の駆け込み需要も限定されたものに終わったことに現れているように、消費者の「生活不安度指数」が上昇し、その心理が悪化していること。したがってまた、設備投資の一定の進展にもかかわらず、従来のような波及効果が弱化していること。また、円安による物価上昇懸念からの消費者心理の悪化を挙げることができる。さらに、自動車、住宅に対する駆け込み需要の反動がどの程度であるか、また、米国の金利上昇が日本の株価にどの程度の影響をもたらすか。これら諸要因の動向が今後の景気動向を規定することになるであろう。いわば、景気の一岐路に現在われわれは立っているということができるのではないだろうか。

[調査要項]

 1.調査時  1997年2月25日~3月3日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 610社より、174社の回答をえた(回収率28.1%)
 (建設業33社、製造業62社、流通・商業42社、サービス業37社)
 5.平均従業員 28.5人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報センター(委員長、村上秀樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学助教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】 水面下に沈んだ業況DI

 前回調査では、業況の絶対水準を尋ねる「今月の状況」が調査開始以来初めて水面上に浮上したが、今回は再び水面下に沈んで、4→△5となった。前回調査より9ポイント低下したのであるが、この結果は、消費税上昇前の駆け込み需要による建設業の0→18への上昇と、他の3業種での低下、とくに規制緩和下での競争激化に見舞われている流通業での0→△31への低下によってもたらされたものである。建設業での駆け込み需要の反動がどの程度になるか、これによって次期の業況判断が大きく左右されることになるであろう。前年同月との比較では、全業種では△4→△11と7ポイントの低下であった。業種別に見ると、製造業が△4→3と7ポイント上昇させたほかは、建設業、流通業、サービス業それぞれ、△12→△19、△21→△35、8→0と低下させている。また、次期見通しも前年同月比と同様の動きを示している。すなわち、全業種では△4→△9、業種別では、製造業が△8→5へとその値を上昇させ、他の3業種で低下させている。なお、製造業では次期見通しでも業況判断DIを上昇させているが、その内部を見ると、規模に関係なく印刷関連の企業が軒並「悪化」を、そしてまた、機械・設備関連の企業が「良」を予測しているのが際だっている。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】売上高、経常利益ともに悪化する

 前回調査では一気に22ポイント上昇させた売上高DIであるが、今回はその値を13ポイント低下させて、25→12となった。建設業では7→26となり19ポイントも上昇させたが、他の3業種での低下幅も大きく、この結果となった。業況判断DI同様、次期以降における建設業の動向が注目される。経常利益推移DIは、製造業で15→8に、またサービス業で17→6へと低下したが、他方で、建設業3→9と6ポイント上昇のほかに、流通業でも△16→△12と4ポイント上昇した結果、全業種では6→3となり、3ポイントの低下にとどまった。次期見通しでは、売上高では6→11と増加を予測している。しかし、経常利益では、「黒字」と答えた企業の割合が1ポイント増えたが、「赤字」と答えた企業の割合は4ポイント増加し、前回調査の18から15に、3ポイント低下の予測となった。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】増加する「過剰」感

 昨年5月以来、改善傾向を示していた在庫感DI(「過剰」「適正」「不足」農地「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合をひいたもの)は、今月(’97年2月)の絶対水準でも、また、前年同月比でも「過剰」と答えた企業の割合が増加して、それぞれ、全業種で11→19、3→16となった。なお、時期予測では、前回調査と変わらず、11となっているが、「適正」と答えた企業の割合が若干低下している。

【価格変動】【取引条件】価格変動は若干改善、取引条件は3四半期「水面下」で変化なし

 価格変動DIは、前回調査より2ポイント上昇し、昨年2月から改善傾向にあるとはいえ、未だ前年同月と比較して「上昇」したと答えた企業の割合を「低下」したと答えた企業の割合が26ポイントも上回って(△26)いる。同様に、取引条件にあっても、「好転」したと答えた企業の割合が4%弱である一方、「悪化」したと答えた企業の割合は20%強あり(△18)、この割合には昨年8月以来ほぼ変化が見られない。ただ、業種別の動きで見れば、サービス業で△3→△24と「悪化」と答えた企業の割合が増大し、他の3業種では若干改善されているというように、業種間には格差がある。なお、次期見通しでは、価格変動DI、取引条件DIともに、若干づつではあるが改善が見込まれている。

【資金繰り】 広がる業種間格差

 全業種で見た資金繰りDIは、前回調査に比べ4ポイントマイナス超幅を縮小した。業種別に見ると、製造業で、「順調」と答えた企業の割合は前回調査と同様の6割弱であったが、「窮屈」と答えた企業の割合が減少して「余裕」と答えた企業の割合が増加した結果、△33→△15へと改善した。また同様に、流通業においても△31→△15へと改善されている。しかし、建設業、サービス業では「窮屈」と答えた企業の割合が5割越し、それぞれ△42→△55、△24→△46と資金繰りが悪化している。なお、この業種間格差には変化は見られないが、次期見通しでは全業種で改善すると予測されている。

【施設稼働率】【設備過不足】施設稼働率「上昇」割合が低下

 前回調査の施設稼働率DIは、昨年夏に低下した反動から急速にその値を上昇させた(△3→19)が、これは製造業で前年同月に比べた施設稼働率が急上昇した結果であった。しかし、今回調査では、製造業で「上昇」したと答えた企業の割合が前回より減少し、また「低下」したと答えた企業の割合が増加した結果、プラス超幅が減少し、全業種では、19→4となった。次期予測では、全業種で「低下」すると答えた企業の割合が「上昇」すると答えた企業の割合を上回り、3四半期ぶりにマイナスに(△3)転じている。設備過不足DIは、前回調査より「不足」度合いを弱めて△21→△16となった。「不足」と答えた企業の割合が前回調査より増加しているのは、建設業だけである。

【雇用】徐々に強まるサービス業での「不足」感

 全業種で見た雇用動向は、前回調査より「過剰」と答えた企業の割合が若干増え、「不足」と答えた企業の割合が若干減少した結果、△22→△17となった。「適正」と答えた企業の割合は、前回調査とほぼ同じ65%であった。業種別に見ると、製造業、建設業では前回調査より「過剰」が若干増加し、流通業では「過剰」・「不足」ともに前回調査より増加、サービス業だけは、昨年5月調査より3四半期連続で「不足」と答えた企業の割合を上昇させている。

【経営上の力点など】流通業での「経営上の問題点」の第1位に「販売先からの値下げ要請」

 「経営上の問題点」の全業種で見た順位は、前回調査と変わらず、第1位「民間需要の停滞」(35%)、第2位「販売先からの値下げ要請」(33%)、第3位「人件費の増加」(29%)であった。「販売先からの値下げ要請」の項目では、建設および製造業ではそれぞれ、26→21%、45→35%へとその割合を下げているが、流通およびサービス業ではそれぞれ、34→43%、16→30%へとその割合を上昇させている。とくに流通業では「経営上の問題点」の第1位になっている。なお、他の3業種の「経営上の問題点」の第1位は、建設業「民間需要の停滞」(39%)、製造業「販売先からの値下げ要請」(35%)、サービス業「人件費の増加」(43%)であった。また、今回調査では従来一桁の割合であった「税負担の増加」を挙げた企業が全体で10%になり、全業種でその割合を増加させた。また、その他の経営上の問題点では、建設業では「品不足」、製造業では「時短」、そして流通業では「円安による原価上昇」などが挙げられている。文書回答では、消費税実施以降の景気に対する不安や低下する利益率など、前回調査と同様の見解が目立ったが、今回は、従来になかった製造業での機械・設備関連における繁忙感についての記述がいくつか寄せられている。景況分析会議に参加された会員経営者からは次のような見解が出されている。

<会員の声>

<印刷>
 1、2月に消費税の駆け込み需要を期待したが、なし。チラシ等は過当競争時代に入っている。紙も生産過剰で、値下がりしている。建築、不動産、求人広告が増えているが、当社の受注は少ない。

<自動車・家電部品製造>
 3・4月のトヨタの受注は変わらない。しかし200万円以下の部品が多い。従来の部品は合理化と単価の値下げを余儀なくされている。