景況調査

第23号-1999年8月
期待強まるも、弱い回復力―「建設」に息切れ

【概況】
【業況判断】小幅改善が続く
売上高】【経常利益】経常利益改善が続くも、二極分化が進行する
【在庫】在庫の「過剰」超過幅縮小する
【価格変動】【取引条件】価格「低下」超過幅が大幅に縮小
【資金繰り】「窮屈感」大幅に緩和するも、見通しに厳しさ
【施設稼働率】【設備過不足】依然として設備過剰感強く、施設稼働率の「低下」超過幅拡大
【雇用】「過剰」超過幅が縮小
【経営上の力点など】「民間需要の停滞」「販売先からの値下げ要請」が上位を占める
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(1999年8月)第23号(PDF:807KB)


【概況】

 プラス成長への転換を受けて景気回復への期待が大きく高まっています。今回の調査でも「売上」「利益」が今後増加や改善に向かうと見通す企業が過半数を占めており、少なくともマインド面では大きく好転してきたことが見て取れます。しかし、現実の業況は依然として厳しく、改善の傾向は維持されているものの、回復への強い期待とは裏腹に、その足取りは力強さを欠いたものとなっています。
 業況が「よい」と回答した企業の割合から「悪い」と回答した企業の割合を差し引いた業況判断DI(「今月の状況」)は前回の△46から△43へと3ポイントの改善を示し、4期連続でマイナス幅が縮小する結果となりました。しかし、回答の内訳を見てみると、「悪い」と回答した企業が減少している一方で、「よい」と答えた企業もまた減少しているなど、回復の足取りに力強さがありません。
 とくに、前回△29にまでDI値が改善した建設業では、今回は△53と再び大幅な悪化を示す結果となりました。建設業での業況改善は今年に入ってからのプラス成長の重要な支えとなってきましたが、公共投資の息切れだけでなく、8月以降は個人住宅の需要も低迷しはじめているという報告もあるなど、その悪化は景気の先行きに強い懸念を抱かせる要因となっています。
 これに対し、今回大幅な改善を示したのが製造業です。前回の△51から今回は△40までマイナス幅を縮小させました。情報関連の生産拡張やアジア経済の立ち直りが背景にあると思われます。しかし、愛知の製造業に強い影響をもつ自動車関連ではいまだ明白な回復が見られないほか、設備投資関連も低迷が続いています。大企業のリストラ・経費削減の影響で、販売先からの値下げ圧力が一段と強まる可能性も少なくありません。売上増が利益増に結びつかない「利益なき繁忙」を訴える声も強く、製造業の中小企業経営者の表情にもはっきりとした明るさが見られないのが現状です。
 株式市場やマスコミの論調では景気回復が強調されていますが、少なくとも中小企業の景気状況は、パイの拡大に伴って企業活動が活発化する拡大局面ではなく、依然として、少ないパイの分け前を求めて企業が激しい競争を展開するサバイバル局面にあります。むしろ、その厳しさが昨今の景気回復期待の強まりに反映しているとも考えられ、今後の政策発動もこの点を十分に踏まえたものであることを期待せずにはいられません。

[調査要項]
 1.調査時  1999年8月27日~8月31日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 626社より、160社の回答をえた(回収率25.6%)
       (建設業26社、製造業56社、流通・商業36社、サービス業42社)
 5.平均従業員 28.6人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学助教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
小幅改善が続く

 「今月の状況」DIは前回調査比3ポイント改善の△43となり、4期連続の改善となった。業種別では、サービス業(△39→△27)と製造業(△51→△40)で大幅な改善が見られる一方、建設業(△29→△53)と流通業(△56→△59)は悪化した。全体でみれば小幅ながら改善を続けてきた業況判断であるが、改善する業種と悪化する業種の格差が出始めてきたことを示す結果となった。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
経常利益改善が続くも、二極分化が進行する

 売上高DI(前年同月比)は△38→△25と「減少」超過幅が大幅に縮小した。業種別では、全業種押し並べて改善が見られたものの、製造業(△45→△24)と建設業(△42→△23)の改善幅が大きかった。次期見通しDIは2と「増加」を見通す企業が「減少」を見通す企業を上回っており、先行きに対して明るい見通しを持つ企業が過半を占める結果となった。
 経常利益DI(前年同月比)は△34→△23と11ポイントの大幅な改善を示し、4期連続で「悪化」超過幅が縮小する結果となった。業種別では、△40→△48と8ポイント悪化した建設業を除く他三業種で改善が見られ、とりわけ製造業は△37→△16と21ポイントの大幅な改善を示した。しかし、その改善は、赤字企業が減少しつつ黒字企業が増加するのではなく、赤字企業が増加ないしは横ばいのまま黒字企業が増加するという、二極分化を伴なう形で進行している。製造業の「今月の状況」では、黒字企業が増加する一方で赤字企業は40%のまま横ばいであり、流通業ではむしろ赤字企業が42%から44%へと増加している。「サバイバル競争の激化」が同一業種内の企業間格差を拡大させていることを示す結果であるといえる。しかし、売上高同様先行きに対する見通しは明るく、次期見通しは「黒字」を見通す企業が「赤字」とみる企業を9%ポイント上回る結果となった。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
在庫の「過剰」超過幅縮小する

 前回調査で大幅に拡大し、景気「底割れ」を懸念させた在庫感の「今月の状況」DIは、29→20と9ポイント「過剰」超過幅が縮小した。また、前年同月比においても2→△2と再び「減少」超過に転じた。業種別では、流通業で△7→△12と「減少」超過幅が拡大し、製造業でも13→4と「過剰」超過幅が縮小した。しかし、先行き在庫が「過剰」になると見通す企業が「不足」と見通す企業を上回っていることから、今後の在庫の動向には注意が要される。

【価格変動】【取引条件】
価格「低下」超過幅が大幅に縮小

 前回調査で大幅に「低下」超過幅が拡大した価格変動DI(前年同月比)は、△72→△51と超過幅が21ポイント縮小した。また、取引条件DI(前年同月比)も△31→△28と3ポイントの改善を示した。しかし、全体の57%もの企業が依然として価格が「低下」していると答えており、競争激化と販売先の値下げ要請などから価格の低下圧力が依然として強いことをうかがわせている。また、次期見通しにおいても価格変動(△38)、取引条件(△26)とも悪化を見通す企業が大勢を占めている。

【資金繰り】
「窮屈感」大幅に緩和するも、見通しに厳しさ

 資金繰りは大幅に改善し、「窮屈」超過幅が調査開始以来最小の結果となった。資金繰りDI(今月の状況)は△28→△17と11ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。業種別では、建設業を除く三業種で窮屈感が低下した。流通業では4割強の企業が「窮屈」と回答しているものの、「余裕」と答える企業が大幅に増加したため、25ポイント(△39→△14)の大幅な改善を示す結果となった。製造業では13ポイント(△30→△17)、流通業も1ポイント(△23→△22)「窮屈」超過幅が縮小した。しかし、先行きに対する見通しは依然として厳しく、資金繰りが「窮屈」になると見通す企業は全体の4割を超えている。

【施設稼働率】【設備過不足】
依然として設備過剰感強く、施設稼働率の「低下」超過幅拡大

 設備過剰感が依然として解消されていない。設備過不足DIは調査開始以来最大の超過幅であった前回から横ばいの11となった。横ばいとはいえ、「過剰」及び「不足」と回答した企業がともに増加していることから、企業間格差が拡大していることがうかがえる。業種別では、製造業が調査開始以来の「過剰」超過幅を記録し、建設業では「不足」超過から「過剰」超過へと転じた。その一方で、流通業は5→△19と大幅な「不足」超過に転じた。次期見通しにおいても、設備「過剰」を見通す企業が「不足」とする企業を6%ポイント上回っており、建設業と製造業で特にその超過幅が大きい。
 施設稼働率DI(前年同月比)は△25→△28と「低下」超過幅が拡大した。業種別では、流通業で3期連続で「低下」超過幅が拡大する一方(△29→△25)、製造業は前回に引き続き「低下」超過幅が縮小した(△27→△33)。次期見通しにおいては、製造業が8と、先行き施設の稼動率が「上昇」するとみる企業が大勢を占める一方、流通業においては「上昇」と見る企業は全くなく、「低下」すると見通す企業が27%を占めた。

【雇用】
「過剰」超過幅が縮小

 前回調査開始以来最大の「過剰」超過幅を記録した雇用動向DI(全業種)は、25→16と9ポイント「過剰」超過幅が縮小した。改善はしたものの悪化する以前の水準にも戻っておらず、依然として雇用過剰の状況にあることに変わりはない。業種別では、製造業(25→20)と流通業(31→22)で「過剰」超過幅が縮小し、サービス業においては26→△6と「不足」超過に転じた。一方で建設業のDI値は15→33と18ポイント「過剰」超過幅が拡大し、調査開始以来最悪の結果となった。次期見通しにおいては、サービス業が大幅な「不足」超過を見通す(△17)一方で、建設業(33)流通業(26)では雇用の「過剰」を見通す企業が多数を占めており、業種間格差が大きいことを示す結果となった。

id=”aidor9908-9″【経営上の力点など】
「民間需要の停滞」「販売先からの値下げ要請」が上位を占める

 「民間需要の停滞」が引き続き「経営上の問題点」のトップを占めている。全業種においてトップであるが、とりわけ建設業でその比率が高く、77%の企業が「民間需要の停滞」を問題点として挙げている。2番目に多かったのが「販売先の値下げ要請」であるが、製造業では「民間需要の停滞」(54%)とほぼ同じ割合(52%)の企業が問題点として挙げているのが特徴的である。
 「経営上の力点」では、「新規受注(顧客)の確保」(69%)、「付加価値の増大」(50%)、「社員教育」(34%)を挙げる企業が多かった。

<会員の声>

(1)建設関連

(電気工事)建設業は今後かなり厳しい状態になると思われる。仕事量がかなり減少しているので単価も低下し、悪循環に入っている。
(サッシ施工)不安定な取引先が多く、安心した商談ができない。
(内外装工事)名古屋支店管内の大手ゼネコンの値下げ要請が大きいのと、民需の停滞による仕事量の減少が大問題である。

(2)製造業

(鉄工業)得意先からの発注状態が偏り、ある時期はめちゃくちゃ集中し、またある時期はまったく無しというサイクルになってきている(2~3ケ月くらい)。当初の取引先についてその傾向が全業種(自動車関係、雑貨関係、公共事業関係など)についてあてはまるため、生産計画がたてにくい。ちなみに現在はまったく無しの時期である。
(製版業)中小企業政策に対する政治的発言をもっと強くするべき(同友会)。最近の政治の動きは極めて危険である。反動政治そのものだと言わざるをえない。このままでは経済は再興しても社会は衰退する、との内橋先生の話の通りになるだろう。
(衣料製造)全体的に悪くなってきている。政府が言う景気の底打ち感は全くない。自社努力が必要と感じている
(機械製造)今月はたまたま受注が乗って何とかなりましたが、とにかく悪い。本当にどうなるのでしょう。周りでは本当に追い詰められてかあせりが見える取引先も出ていて危機感を持っています。
(生活雑貨製造)海外からの商品調達が主なので、為替の変動がポイント
(プラスチック成形加工)この秋新車が立ち上がり、その設備のために活気は出ている。新車の売行きによって大きく変動する。経営指針に基づいた経営をすることが求められている。
(工作機械設計製作)現在の景況;誰がこんなにした、責任者出てこいと言いたいが、言っても誰も出て来ずに国会に多数決システムが成立するとはあきれるばかりだ。
(電気機器製造)製造業の工賃はすべて下がるところまで下がり、稼働率により資金繰りが行なわれている。仕事量低下によって赤字経営となり弱体となる小企業の本音の部分となっている。
(プラント設計施工)我が社は水処理プラントメーカーですので最近の不況により設備投資が抑えられ見通しは悪い。新しく開発した機械の販売に期待する。
(工作機械設計製作)価格競争が激しく、受注のむつかしさに加工コストをあわせるのに必死です。低価格で出荷できるために仕入の考え方と設計の技術が問われています。
(制御盤設計製作)今の国の中小企業政策では自力のみでは限界を感じる。雇用を確保し、良い風土を保つために新規事業(環境にあった)を起こすと共に貸し渋りにあわないためにも財務体質を強化が必要。

(3)流通

(食品添加物卸)現状では業況は好調。近い将来食品添加物は減少するので天然系への移行を急速に進めること。高齢者対策の食品開発も急務など脱化学製品へのシフトを考える。
(家具販売)思い切ったリストラ(再構築)が今こそ、早急に実施すべき時。
(酒類卸)名古屋都ホテル、センチュリ・ハイヤットホテルの明年3月をもっての閉鎖、ホテル間競争激化のしわ寄せを受けて納入単価の見直し、行事への協賛の要求が大変激しい。新規開拓もしているが追いつかない感じである

(4)サービス

(不動産)新規のお客様からの問い合せがかなり減ってきた。以前のお客様でつないでいる。
(工作機器・工具販売)体力勝負的要素が大きいが、社内的に人材要請、レベルアップ。社外的には新規開拓に力を入れています。現状一番実施したいのがキャッシュフローです。(少々時間がかかる)
(自動車修理販売)経費の節減もかなりやり尽くし、新手法にて7月よりはじめた。なんとかと思っています。全く本業とは違う新分野への展開も手掛けつつありなんとかと思っています。
(貸おしぼりサービス)自由党、公明党が消費税アップを容認する発言があるが、絶対に認められない。