景況調査

第26号-2000年5月
景気水面浮上――業況判断DIが14四半期ぶりにプラスへ

【概況】
【業況判断】14四半期ぶりのプラスに転じる
【売上高】【経常利益】売上高は「増加」超過に,経常利益は「好転」超過に転じる
【在庫】在庫過剰感高まる
【価格変動】【取引条件】価格「低下」超過幅拡大
【資金繰り】窮屈感弱まる
【設備過不足】【施設稼働率】設備は「不足」超過に,施設稼働率は「上昇」超過に転じる
【雇用】「不足」超過に転じる
【経営上の力点など】「民間需要の停滞」と「販売先の値下要請」がトップ
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(2000年5月)第26号(PDF:918KB)


【概況】

 業況が「よい」と回答した企業が「悪い」と回答した企業を上回り、業況判断DI(「今月の状況」)がプラスに転じました。DI値は前回の△5から6ポイント改善のプラス1を示し、わずかとはいえ、96年11月調査以来14四半期ぶりの「水面浮上」となりました。
 業況感の改善は98年11月調査以降7期連続となりましたが、今回調査では、各指標のほとんどが改善を示したことに特徴があります。売上高DIだけでなく経常利益DIもプラスに転じたほか、雇用の「過剰感」も縮小し、設備についても「不足」と回答した企業が「過剰」と回答した企業を上回る結果となりました。中小企業の景況が着実に改善していることを示すものと言えます。
 ただし、注意が必要なのは、今回業況判断DIはたしかにプラスに転じましたが、それは「よい」と回答した企業の割合が増加したことによるものではないということです。それはむしろ「悪い」と答えた企業の割合が8%減少したことによるもので、「よい」と答えた企業の割合は、反対に前回調査よりも2%減少しています。したがって、今回の調査結果は、景況の「良さ」が広がりつつあるというよりも、「悪さ」が多少薄らいできたといった程度の状況を映し出したにすぎないということになります。そのことは「さほど良くない」と回答した企業が49%とほぼ半数を占めていることからも確認できます。
 さらに、いくつかの点で、懸念すべき状況も見受けられます。その一つは、前回の調査報告でも指摘した点ですが、「個人消費」に直接関わる分野では依然として厳しい状況が続いているということです。そのことは景況分析会議やヒヤリングなどでも多くの経営者が指摘しています。
 そして今一つは、建設業の業況に再び「息切れ感」が出てきたことです。建設業は、官公需の拡大や優遇税制の拡充措置などの諸施策によって、他業種に比べ一足早く業況判断DIがプラスに転じ、その後も改善を続けてきました。しかし、ここにきて、DI値が4から△19へと大幅に悪化するなど「息切れ」が鮮明化しつつあります。先行きについても、財政とりわけ地方財政の悪化による官公需の縮小や大手ゼネコンの本格的再編・淘汰が予測されることなどから、厳しい見通しが広がっています。
 今回の調査結果は、あくまでも、こうした「保留事項」を踏まえた上での景況改善であることを強調しておきたいと思います。

[調査要項]
 1.調査時  2000年5月25日~5月29日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 1000社より、175社の回答をえた(回収率17.5%)
  (建設業32社、製造業64社、流通28社、小売・サービス業51社)
 5.平均従業員 26.4人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学助教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
14四半期ぶりのプラスに転じる

 「今月の状況」DIは前回の△5から6ポイント改善し、1となった。「今月の状況」DIがプラスに転じるのは14四半期ぶりのことである。これで業況は1998年11月調査以降7期連続で改善する結果となった。業種別では、流通業は3→12、サービス業は△21→6、製造業は△4→3とそれぞれ改善を示した。一方、前回、前々回の調査で2期連続でプラスを記録していた建設業は、今回4→△19と大幅に悪化した。また、前年同月比DIも1と、調査開始以来初めてプラスに転じた。また、次期見通しに関する調査でも「よい」と見通す企業が「悪い」と見る企業を7ポイント上回る結果となっている。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
売上高は「増加」超過に、経常利益は「好転」超過に転じる

 売上高DI(前年同月比)は△9→4と4期連続で改善するとともに、「減少」超過から「増加」超過へと転じる結果となった。これは「増加」したと答えた企業の割合が9%増加したことに加え、「減少」したと回答した企業の割合が4%減少したためである。売上高DIが「増加」超過となるのは、97年8月調査以来11期ぶりのことである。業種別では、流通業は23ポイント(0→23)、製造業は15ポイント(△2→13)改善し、「増加」超過に転じた。また、建設業は10ポイント(△19→△9)、サービス業は8ポイント(△18→△10)改善し、「減少」超過幅が縮小した。次期見通しについては、建設業で売上「減少」を見通す企業が多数を占めたものの、他の三業種では売上「増加」を見通す企業が「減少」を見通す企業を上回っている。
 経常利益DI(前年同月比)は△16→5と7期連続で改善するとともに、「悪化」超過から「好転」超過へと転じた。経常利益DIが「好転」超過となるのは、97年5月調査以来12期ぶりのことである。業種別にみると、製造業は28ポイント(△15→13)、流通業は27ポイント(△23→4)、サービス業は11ポイント(△5→6)改善し、「悪化」超過から「好転」超過へと転じた。また、建設業は7ポイント改善(△26→△13)し、「悪化」超過幅が縮小した。「今月の状況」DIにおいても0→7と「黒字」超過幅が拡大した。また、次期に対する見通しも明るく、DIは10と「黒字」見通し超過の状態にある。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
在庫過剰感高まる

 在庫感DI(今月の状況)は18→22と「過剰」超過幅が4ポイント拡大した。また、前年同月比のDI値も△1→6と「減少」超過から「増加」超過へと転じている。業種別(前年同月比)に見ると、前回調査で「減少」超過へと転じた流通業が「増加」超過(△4→17)に転じ、製造業もまた0→2と「増加」超過へと転じた。次期見通しDIは、製造業(16)流通業(17)ともに、先行き在庫が「過剰」になると見通す企業が「不足」と見る企業を上回っている。

【価格変動】【取引条件】
価格「低下」超過幅拡大

 価格変動DI(前年同月比)は△51→△52と1ポイント「低下」超過幅が拡大した。業種別では、建設業が25ポイント(△36→△61)、サービス業は11ポイント(△34→△45)「低下」超過幅が拡大した。一方、流通業は18ポイント(△62→△44)と製造業は7ポイント(△63→△56)「低下」超過幅が縮小した。次期見通しにおいては、価格が「低下」すると見通す企業が約44%を占めるなど、価格の低下傾向は今後も続きそうである。
 取引条件DI(前年同月比)は△23→△18と5ポイント「悪化」超過幅が縮小した。業種別では、サービス業で「悪化」超過幅の拡大(△14→△20)がみられたものの、流通業は23ポイント(△23→0)、建設業は8ポイント(△38→△30)、製造業は3ポイント(△21→△18)「悪化」超過幅が縮小した。次期見通しDIは△18と、「悪化」すると見る企業が「好転」すると考える企業を上回っている。

【資金繰り】
窮屈感弱まる

 資金繰りDI(今月の状況)は△32→△24と8ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。これは、資金繰りが「窮屈」だと回答した企業が5%減少したことに加え、「余裕」があると答えた企業が3%増加したためである。業種別に見ると、製造業は14ポイント(△25→△11)、サービス業は8ポイント(△41→△33)、流通業は5ポイント(△23→△18)、建設業は3ポイント(△44→△41)「窮屈」超過幅が縮小した。次期の資金繰りについては、「窮屈」になると見る企業が45%を占めるなど、依然として資金繰りの先行きに対する見方は厳しい。

【設備過不足】【施設稼働率】
設備は「不足」超過に、施設稼働率は「上昇」超過に転じる

 設備過不足DI(今月の状況)は、5→△1と「過剰」超過から「不足」超過へと転じた。DI値が「不足」超過を記録したのは、98年2月調査以来9期ぶりのことである。業種別では、サービス業で12ポイント(△5→△17)、流通業で8ポイント(△7→△15)設備「不足」感が高まった。製造業は依然として「過剰」超過であるものの、「過剰」超過幅は18→13と5ポイント縮小した。一方、建設業は8→10へと2ポイント「過剰」超過幅が拡大した。次期見通しにおいては、流通業(△20)とサービス業(△6)が「不足」を見通す企業が多いのに対し、製造業(19)と建設業(6)では「過剰」を見通す企業が多い。
 施設稼働率DI(前年同月比)は、△6→11と「低下」超過から「上昇」超過へと転じた。DI値が「上昇」超過を記録したのは、97年5月調査以来12期ぶりのことである。業種別では、製造業の△2から7へと、流通業は△13→22へとそれぞれ「上昇」超過へと転じている。次期見通しについては、流通業で稼動率が「上昇」するとみる企業が「低下」するとみる企業を上回っている(17)ものの、製造業では稼働率「低下」を見通す企業の多い(△3)。

【雇用】
「不足」超過に転じる

 雇用動向DI(全業種)は、前回の「過剰」超過から今回「不足」超過へと転じた(5→△6)。全業種DIが「不足」超過に記録したのは、98年2月調査以来9期ぶりのことである。業種別では、3割を超える企業が「不足」すると回答したサービス業は、「不足」超過幅が11ポイント拡大した(△13→△24)。また、建設業は15→△13、流通業は17→△15とそれぞれ「不足」超過に転じた。一方、製造業では6→16と「過剰」超過幅が拡大した。次期見通しにおいても、製造業で「過剰」見通し超過である(13)以外は、他3業種とも先行き雇用が「不足」すると見通しており、とりわけ製造業での「不足」見通し(△19)が強い。

【経営上の力点など】
「民間需要の停滞」と「販売先の値下要請」がトップ

 「経営上の問題点」としては、「民間需要の停滞」と「販売先からの値下要請」が最上位を占めた(47%)。業種別では建設業の56%が「民間需要の停滞」を、製造業の66%が「販売先からの値下要請」が問題点であると回答している。3番目に多かったのが「大企業の進出による競争の激化」と「人件費の増加」である(22.3%)。今回調査で業況が唯一悪化した建設業では、上記問題点の他に「官公需要の停滞」をあげている企業が34%いる。
 「経営上の力点」においては、前回調査同様「新規受注(顧客)の確保」(62%)を取り上げる企業が最も多かった。その他は「付加価値の増大」、「社員教育」そして「情報力の強化」が上位を占めている。

<会員の声>

(1)建設関連
(注文住宅)
住宅ビッグバン開始の1年です。キーワードはCS(顧客満足)です。本当の付加価値はCSあるのみ。全社一丸となって取組んでいます。それともうひとつはトップの本物の強さを身につけること。それ以外の事はうちのような零細は全く関係なし。
(電気工事)
建設業は昨年夏より悪くなり、昨今の競争は大手ゼネコン、地元ゼネコンともに正気の沙汰ではない状態になっている。下請業者がゼネコンを支えている図式であるが、今年から来年には力つきるところが、続出するであろう。
(電気工事)
受注単価が段々安くなってきて、どうして景気が良いと言えるのか?わからない!
(総合建設)
4月以降全体(業界)仕事量が減った。

(2)製造
(自動制御装置製作)
売上が簡単に上がらないため、いかに回転率を上げるかの課題になってきた。
(組立用省力化設備)
設備投資にやや明るさが見えてきたように感じます。特にIT関連の設備が動いていると感じます。
(写真製版)
製造業の悪い5月、8月、12月と稼働日数の少ない月はどうしても売上減は避けられないが、今期11年度(5月決算)はかなりの増益が見込まれます。
(機械製造)
新聞等でいわれているような景気の回復を全く感じないのですが・・・。確かに一部の外注先で忙しかったりしますが、量が増しているというより、短納期に対応するために短期間だけ忙しいようです。
(印刷)
景気は上向き気味といわれておりますが、一向にパッとしないようです。銀行の貸し渋りについてチョイチョイと聞きます。銀行側に言わせれば、これからは貸手責任を問われるので、慎重にならざるを得ないとも聞きます。
(プラスチック成形加工)
ライン別に受注のバラツキが大きく、生産対応に苦労している。日常課題と将来の展望を両立させて考えねばならない。

(3)流通
(包装資材販売)
生き残りの最終段階に入ったように感じます。
(機械修理販売)
経済構造の変化が本格化してきた影響を感じるようになった。
(建材卸)
ゼネコンの低価格、押し付けが厳しい。下請がどうなろうと(つぶれようと)かまわないといった風潮になってきた。ゼネコンに頼らない営業を考えている。
(建材卸)
3月まで業況回復の感があったが、4~5月と悪化がみられる。市況の中に仕事が足らない。
(運送)
「金を出さずに元気を出せ」的な政策が多く、経営革新支援法においても資金的バックアップがされていない。またやる気、元気を出して前進しようとして、安全第一としたリスクヘッジが重視されベンチャーは支援されるが、従来からの企業体ははざまに位置している感あり。

(4)サービス
(工作機器販売)
「三歩前進、二歩後退」を繰り返しながら全体の流れは少しづつ上向きになるようです。しかし実感できるのは年末でしょうか?
(求人広告)
昨年に比べると苦しい現状から抜け出せやっと見通しが出てきた。少しづつではあるが、仕事量が増えてきている。現在の課題は他社に負けない人材育成である。
(旅行業)
海外渡航者がわずかながらも増加の傾向。しかし、依然[安い、近い、短い]旅行が中心である。
(中古車販売等)
営業努力で売上高を一生懸命伸ばしてはいるが(95年、96年の売上高に近づける)、同時に現在の売上高で採算があう内容に努力している。特別融資の返済がやはり今になると重い。
(不動産)
一部の勝組と多くの負組に分れてきたと思う。不動産売買の件数も絶対数で減っていき、より小さいパイの取り合いとなる。