景況調査

第28号-2000年11月
景気回復に「黄信号」―3期ぶりに「利益」DIマイナス、2年ぶりに資金繰り「窮屈」が5割超

【概況】
【業況判断】 「今月の状況」は9期連続で改善するも,前年同月比では悪化
【売上高】【経常利益】 売上高、経常利益ともに悪化
【在庫】 製造業の在庫過剰感高まる
【価格変動】【取引条件】 価格の低下超過幅拡大
【資金繰り】 「窮屈感」高まる
【設備過不足】【施設稼働率】 設備は「不足」超過に,稼働率は「上昇」超過に転じる
【雇用】 「不足」超過幅拡大する
【経営上の力点など】 引き続き「新規受注(顧客)の確保」「民間需要の停滞」がトップ
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(2000年11月)第28号(PDF:852KB)


【概況】

業況は依然として改善しているものの、景気回復の足取りが減速しつつあります。業況が「よい」と回答した企業から「悪い」と回答した企業を差し引いた業況判断DI(今月の状況)は7と、前回調査に比べ5ポイント改善しました。これにより業況感の改善は1998年11月調査以降9期連続で改善する結果となりました。しかし、前年同月比でみた業況判断DIが前回調査に比べ1ポイント悪化するとともに、先行きに対する見通しについても、「悪い」と見通す企業が「良い」と見通す企業を上回る結果となり、前回の強気見通しから一転しました。
景気に減速感が強まっている背景としては、次に示す二つの点が指摘できます。
その一つは、収益環境が悪化していることです。経常利益が前年同月に比べ「好転」したとする企業から「悪化」したとする企業を差し引いた経常利益DIは△3と、「悪化」した企業が「好転」したとする企業を上回る結果となりました。これまで中小企業は、「利益無き繁忙」といわれるなか、利益「率」の悪さを売上げの「量」で補ってきました。しかし、ここにきて前提となる「売上高」の増加に陰りが見えてきたため、利益環境が一段と悪化する事態に至ったと考えられます。
いま一つ、さらに注意を要するものとして、新たに金融面から企業経営を圧迫する要因が出てきたことを指摘しておく必要があります。「資金繰り」について「余裕あり」と答えた企業から「窮屈」と回答した企業を差し引いた資金繰りDIは、前回調査に比べ6ポイント悪化し△37となりました。DI値の水準もさることながら、「窮屈」と回答する企業が半数を超えた(51%)のは、「貸し渋り対応特別信用保証制度」が導入される直前の98年8月以来2度目のことです。金融機関の大型再編、ゼロ金利政策の解除、そして中小金融機関への金融庁による検査強化などを背景にして、中小企業金融は金融危機が騒がれていた2年前に匹敵しうる厳しい状況を再び体験しつつあります。
現状が景気回復過程の中の一時的な「足踏み」を示すものなのか、それとも本格的な「腰折れ」の前兆なのか。「設備」や「人手」に不足感が見られる状況からして、単純に後者と断定することはできませんが、中小企業を巡る環境悪化を食い止めるための諸施策が今こそ強く求められる、「きわどい」状況にあることだけは間違いありません。

[調査要項]
1.調査時  2000年11月24日~11月27日
2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
4.回答企業 976社より、176社の回答をえた(回収率18.0%)
(建設業27社、製造業76社、流通29社、小売・サービス業44社)
5.平均従業員 30.0人
なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学助教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
「今月の状況」は9期連続で改善するも、前年同月比では悪化

「今月の状況」DIは前回の2から5ポイント改善し、7となった。これで業況は1998年11月調査以降9期連続で改善する結果となった。業種別に見ると、製造業が前回の3から今回の16へと13ポイントの大幅な改善を示しているのが目立つ。サービス業も2→5と3ポイント改善した。一方、建設業は11→4と7ポイントの悪化、流通業は△8→△10と2ポイントの悪化であった。一方、前年同月比DIは前回の3から今回2へと1ポイント悪化し、98年11月以降続いていた改善の流れにストップがかかった。今回調査で特に注意を要するのが、全体としては改善を示しながらも、好転する企業だけでなく悪化する企業もまた増加するという二極化現象が鮮明化していることである。「今月の状況」では「よい」とする企業が31%→36%、「悪い」とする企業が29%→30%とそれぞれ増加し、「前年同月比」でも「好転」とする企業が38%→39%、悪化35%→37%とそれぞれ増加している。また、先行きについては前回調査まで強気見通しが優勢であったが、ここにきて「次期見通し」DIは「悪い」と見通す企業が「よい」と見通す企業を上回る結果となった。とりわけ、建設業と流通業でその傾向が強く、4割前後の企業が「悪い」と見通している。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
売上高、経常利益ともに悪化

売上高DI(前年同月比)は8→7と1ポイント悪化した。これは売上高が「減少」したと回答した企業が1%減少したものの、「増加」したと答える企業が2%減少したためである。これにより99年5月調査以来続いてきた改善の流れはストップする結果となった。業種別に見ると、製造業は19→15と4ポイント「増加」超過幅が縮小し、サービス業は7→0と「増加」超過状態が解消した。また、流通業は0→△7と「減少」超過へと転じた。一方、建設業は△6→9と「減少」超過から「増加」超過へと転じた。次期見通しについては、全業種押し並べて「減少」見通しが優勢であるが、とりわけ流通業で「減少」を見通す企業が多かった(54%)。
前回調査で改善の流れにストップがかかった経常利益DI(前年同月比)は3→△3と、3期ぶりに「悪化」超過に転じた。業種別に見ると、流通業は△8→△21と13ポイント「悪化」超過幅が拡大し、製造業は18→△4と「悪化」超過へと転じた。また、サービス業は4→2と2ポイント「好転」超過幅が縮小した。一方、建設業は△16→7と「好転」超過へと転じた。「今月の状況」(全業種)でみても前回の17から今回の14へと3ポイント「黒字」超過幅が縮小している。「次期見通し」については、建設業と流通業で「赤字」見通しが大勢を占める一方で、製造業とサービス業では「黒字」見通しが「赤字」見通しを上回る結果となった。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
製造業の在庫過剰感高まる

在庫感DI(今月の状況)は前回と変わらず14であった。業種別に見ると、製造業は7→15と「過剰」超過幅が8ポイント拡大する一方で、流通業は33→9と24ポイント縮小する結果となった。一方、「前年同月比」で見た在庫DIは△5→△6と1ポイント「減少」超過幅が縮小する結果となった。次期見通しについては、流通業(14)、製造業(11)ともに「減少」見通しを「過剰」見通しが超過する結果となった。

【価格変動】【取引条件】
価格の低下超過幅拡大

価格変動DI(前年同月比)は、△42→△46と「低下」超過幅が4ポイント拡大した。業種別では、製造業で△48→△44と「低下」超過幅が4ポイント縮小したものの、他三業種では押し並べて「低下」超過幅が拡大した。サービス業は△26→△40と14ポイント、建設業は△45→△52と7ポイント、流通業は△50→△54と4ポイント「低下」超過幅が拡大した。次期見通しについては、全業種押し並べて「低下」見通しが大勢を占めた。とりわけ流通業では5割を超える企業が「低下」を見通しており、DI値は△46であった。
取引条件DI(前年同月比)は、△18→△14と4ポイント「悪化」超過幅が縮小した。業種別では、製造業で△20→△9と11ポイント、サービス業で△12→△5と7ポイント「悪化」超過幅が縮小した。逆に、建設業では10ポイント(△21→△31)、流通業では5ポイント(△21→△26)「悪化」超過幅が拡大する結果となった。次期見通しについては、全業種押し並べて「悪化」を見通す企業が多く、全体のDIは△13であった。

【資金繰り】
「窮屈感」高まる

資金繰りDI(今月の状況)は△31→△37と6ポイント「窮屈」超過幅が拡大した。これは「余裕」と回答した企業が横ばい(14%)であった一方で、「窮屈」と答える企業が過半数を超えたためである。「窮屈」と答える企業が5割を超えるのは、「貸し渋り対応特別信用保証制度」が導入される直前の98年8月に記録して以来2度目のことである。業種別に見ると、サービス業で△38→△34と4ポイントの改善が見られたものの、他三業種では悪化が見られた。流通業は△31→△48と17ポイント、製造業は△16→△28と12ポイント、建設業は△53→△58と5ポイント「窮屈」超過幅が拡大した。ちなみに、「建設業」と「流通業」では「窮屈」と答えた企業が6割を超えている。次期の資金繰り見通しも「窮屈」と答える企業が過半数を占めている。とりわけ建設業の見通しが厳しく、74%の企業が「窮屈」を見通している。

【設備過不足】【施設稼働率】
設備は「不足」超過に、稼働率は「上昇」超過に転じる

設備過不足DI(今月の状況)は、前回の1から△11へと大幅な「不足」超過へと転じた。全業種で「不足」超過幅の拡大あるいは「不足」超過への転化が生じた。製造業は、前回調査では8と「過剰」超過であったが、今回△7の「不足」超過へと転化した。流通業は19ポイント(△3→△22)、建設業は8ポイント(△8→△16)、サービス業は6ポイント(△2→△8)「不足」超過幅が拡大した。次期見通しについては、全業種押し並べて「不足」見通しであるが、とりわけ流通業(△23)と建設業(△19)で「不足」見通し超過幅が大きかった。
施設稼働率DI(前年同月比)は、前回の△4から2へと「上昇」超過へと再転化する結果となった。業種別に見ると、製造業で0→8と「上昇」超過に転じる一方で、流通業では△20→△19と「低下」超過幅は縮小したものの、依然として大幅な「低下」超過の状態にある。次期見通しについては、製造業で「上昇」を見通す企業の方が多かった(3)ものの、流通業では「低下」を見通す企業の方が多数を占めた(△26)。

【雇用】
「不足」超過幅拡大する

雇用動向DI(全業種)は、前回の△6から5ポイント「不足」超過幅が拡大し△11となった。業種別に見ると、流通業は6→△28と「過剰」超過から大幅な「不足」超過へと転じた。建設業は△19→△16と3ポイント、サービス業は△20→△18と2ポイント「過剰」超過幅が縮小した。また、製造業は4→0と「過剰」超過の状態が解消する結果となった。次期の見通しについては、「過剰」を見通す企業が14%なのに対して、「不足」を見通す企業が30%と大幅な「不足」見通しの超過である。とりわけ「不足」見通しが優勢だったのは、サービス業(△36)と流通業(△29)であった。

【経営上の力点など】
引き続き「新規受注(顧客)の確保」「民間需要の停滞」がトップ

「経営上の力点」としては、前回調査同様「新規受注(顧客)の確保」を指摘する企業が66%と、最も多かった。それに続くのが、「付加価値の増大」(53%)、「社員教育」(34%)、「財務体質の強化」(27%)であった。
「経営上の問題点」としては、前回調査同様「民間需要の停滞」を取り上げる企業が48%と、最も多かった。それに「販売先からの値下要請」(44%)が続いた。業種別に見ると、建設業、流通業、サービス業は「民間需要の停滞」を、製造業は「販売先からの値下要請」を最大の問題点として取り上げている。

<会員の声>

(1)建設関連
(塗装工事)
利益が確保できない。
(電気工事)
良くなったと政府に言われても、まわりが感じないところが多い。

(2)製造業
(看板)
不当な値引要求が多い。
(機械部品)
元請からの原低要求が厳しく、対応に苦慮している。
(菓子)
景気は良くはありません。昨年より今年の方が悪いですね。我々零細企業はますます悪くなるでしょう。
(印刷業)
何と言っても受注量の減少が心配。官公庁の年々の予算削減がひびいている。
(電気機器)
家電機器、自動車関連の仕事より、一般産業機器の仕事が多くなっている。
(作業服等)
都銀、地銀、第2地銀、信金等融資を含め日常業務(一般サービス態勢)について大変格差を感じています。会員各社はどのように感じて居られますか?特に上位行(都銀)は規模順位が小さくなる程、積極的に行動するのに比べ、誠意のない口先だけの態度が見える。大型(合併)が実現したら中小は切り捨てての予測が各方面から耳にされます。会員企業がどの程度金融機関選別に配慮しているかアンケートしてはどうか?(大銀行の動向を把握したい)
(建設資材)
大企業と違って中小企業はまだまだ悪化すると思います。取引先の選別等厳しい状況にある。
(金属加工)
仕事の量は確保できるが、価格が厳しく、短納期の対応で利益が出ない。
(工業用ゴム)
自動車関連は売上は上昇していますが、経常利益が上がらないため、増収減益という経営が続いており、今後も客先からのコストダウンの要請も厳しくなるため、いかにして付加価値の上がる社内の体質を強化していくかがカギとなります。
(ばね成形)
コスト引下げ要請とは裏腹にコスト高要因となる間接業務の末端企業へのシワ寄せが目立つ。
(金型等製造)
受注の値下げがきつい。

(3)流通
(包装資材)
6月、8月、9月、11月と各月毎によくなったり悪くなったり。良いのか悪いのかつかめない。見通しのたたなさが最大の問題点。
(食品販売)
景気の回復と言われるが、全く感じない。むしろ悪化している。小売・流通は大型店のかけこみ出店ではなやかに見えるが、既存店の落込みがカバーできていない。人口が減少するのにそんなに店はいるのか?
(菓子・食品)
我々の周辺にて好況とは全く縁がなく同業の倒産が極めて多い。こんな悪い時は同業他社の中にしめる我が社の位置(他が2桁ダウンでも全くそれを言わない、好況の時は大体掴めるが)が全くというくらい判らない。皆それ程悪くないようなお顔をしてみえるが本当にそうでしょうか。ウチは四苦八苦です。
(グラフィックデザイン)
過去5年間で最も業績が悪い。
(工作機器販売)
他の地域に比べて愛知はIT産業が少ない分景気回復が実感できない。逆に11月に入って若干下降気味に感じられる。自動車の生産台数が増えても海外シフトされているので還元が少ないのでは?

(4)サービス
(工作機械等販売)
世の中全体の方向が判然としない。特に政治がダメ。
(広告代理店)
いろいろなカテゴリーの中で勝ち組と負け組がよりはっきりしてきた感がある。当社は情報分野での勝ち組の「リクルート」の代理店なので売上も昨対30%UPと非常に好調。この余裕がある時期(おそらくあと1~2年)に新規事業を展開していく予定。とにかくこれからはゼロサム時代が続くので何とか圧倒的な勝ち組として生き残りたい!