景況調査

第35号-2002年8月-
期待強まるも、底這い続く-米国景気腰折れが最大の不安定要因

【概況】
【業況判断】 「今月」は改善、前年同期は悪化
【売上高】【経常利益】 売上高・経常利益ともに改善
【在庫】 引き続き在庫過剰感弱まる
【価格変動】【取引条件】 3期連続で取引条件「悪化」超過幅縮小
【資金繰り】 3期連続で改善
【設備過不足】【施設稼働率】 「過剰」「低下」超過幅縮小
【雇用】 雇用過剰感弱まる
【経営上の力点など】 「民間需要の停滞」が問題点のトップに
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(2002年8月)第35号(PDF:990KB)


【概況】

 景気は依然底這いを続けています。業況が「よい」と回答した企業から「悪い」と回答した企業を差し引いた業況判断DI(今月の状況)は△22となり、前回調査に比べ4ポイント改善しました。しかしその一方で、前年同月比では5割を超える企業が「悪い」と回答し、DI値は△33と、前回調査に比べ2ポイント悪化しています。「今月の状況」と前年同月比調査が逆の結果を示したことからもわかるように、業況が改善しているとは言い難い状況です。
 その一方で次期の見通しについては、改善を見通す経営者が増えてきています(11月△42→2月△29→5月△12→8月△9)。業況改善を期待させているものとしては、政府筋からの「景気底入れ」のアナウンスがあります。実際に政府は7月以降景気判断を「一部に持ち直しの動きが見られる」と上方修正し、低迷が続いている設備投資についても「下げ止まる兆しが見られる」など、明るい面を強調した分析が目立ちます。またトヨタの好調さも改善を見通す一つの背景となっています。国内販売の不振が伝えられているトヨタですが、アメリカでの販売は好調が続いており、今年8月の販売台数は前年比二桁増を記録しています。ヒアリング調査でも「現地生産で賄えない分を国内で生産・輸出しているため、国内生産もフル生産の状態が続いている」との話が聞かれました。
 しかし、ここにきて大きな不安定要因が持ち上がってきました。それは、アメリカ景気に底割れ懸念が出てきていることです。企業の設備投資は依然として低調なままですし、個人消費の伸び率も鈍化しています。自動車・住宅については借入金利の低下でなんとか好調を維持してきましたが、個人破産件数が過去最高を記録していることからも明らかなように、「借金」に依存した消費も限界に達しつつあります。アメリカ依存の強い日本がその影響を受けて、景気が底割れする危険性が懸念されます。また、そうした懸念を反映して日本の株価もバブル後最安値の水準にまで下落してきています。株安が銀行の貸し渋り・貸し剥がしを誘発することで、中小企業が金融面からのデフレ圧力にさらされる可能性も否定できません。今のところ資金繰りDIに顕著な悪化はみられませんが、今後中小企業を巡る金融環境の変化に注意が要されます。このように底を這う景気も改善どころか息切れの可能性もあり、今こそ中小企業への積極的な政策支援が求められます。

[調査要項]
 1.調査時  2003年8月20日~8月23日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 945社より、200社の回答をえた(回収率21.2%)(建設業29社、製造業80社、流通53社、小売・サービス業38社)
 5.平均従業員 34.8人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
「今月」は改善、前年同期は悪化

 「今月の状況」DIは△22と前回から4ポイント改善した。これは「良い」と答えた企業が2%増加したことに加え、「悪い」と回答した企業が2%減少したためである。業種別に見ると、流通業が△37→△17と20ポイント。大幅な改善を記録し、建設業は△37→△34と3ポイント、サービス業は△16→△14と2ポイント改善した。一方、製造業は△21→△24と3ポイント悪化し、2期連続で悪化する結果となった。
 前年同月比DIは前回の△31から2ポイント悪化し、△33となった。業種別に見ると、建設業が△39→△55と16ポイント、サービス業は△23→△30と7ポイント悪化した。その一方で流通業は△36→△28と8ポイント改善している。製造業は前回から横ばいの△30であった。次期見通しについては、「良い」とみる企業を「悪い」と予想する企業が上回る状態が続いている。とはいえ「悪い」超過幅が徐々に縮小する傾向は依然続いている(11月△42→2月△29→5月△12→8月△9)。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
売上高・経常利益ともに改善

 売上高DI(前年同期比)は△30と前回の△29から1ポイント改善する結果となった。これは「増加」と回答した企業の割合が前回と変わらなかった一方で、「減少」と回答した企業の割合が1%増加したためである。業種別にみると、建設業は△47→△39と8ポイント、流通業は△32→△25と7ポイント改善した。その一方で、サービス業が△11→△26と15ポイント、製造業が△29→△33と4ポイント悪化する結果となった。次期見通しは「減少」見通す企業が「増加」を見通す企業を20ポイント上回る結果となった。最も「減少」見通し超過幅が大きかったのは、サービス業である(△36)。
 経常利益DI(前年同月比)は△28と前回の△30から2ポイント改善する結果となった。経常利益DIの改善はこれで3期連続となる。業種別にみると、流通業が△33→△23と10ポイント、製造業が△32→△25と7ポイント改善した。一方、建設業は△37→△48と11ポイント、サービス業は△20→△24と4ポイント悪化した。また経常利益の「今月の状況」DIについても△6→△4と2ポイント改善する結果となった。業種別では、流通業(5→22)とサービス業(5→9)で「黒字」超過幅が拡大する一方で、建設業(△14→△28)と製造業(△16→△18)で「赤字」超過幅が拡大する結果となった。次期の利益見通しは8期ぶりに「黒字」見通しが「赤字」見通しを上回る結果(7)となっている。業種別に見ると流通業の黒字見通しが突出している(27)一方で、サービス業は依然として「赤字」見通し超過の状態である。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
引き続き在庫過剰感弱まる

 在庫感DI(今月の状況)は21と前回の22から1ポイント「過剰」超過幅が縮小した。在庫の「過剰」超過幅の縮小はこれで4期連続となる。業種別にみると、流通業で22→17と5ポイント「過剰」超過幅が縮小する一方で、製造業では22→24と2ポイント「過剰」超過幅が拡大する結果となった。前年同月比についても7→3と4ポイント「増加」超過幅が縮小した。業種別にみると、流通業で12→△13と「減少」超過へと転じた一方で、製造業は4→11と7ポイント「増加」超過幅が拡大した。次期見通しについては、製造業(16)流通業(10)ともに「過剰」見通しが「不足」見通しを上回る結果となった。

【価格変動】【取引条件】
3期連続で取引条件「悪化」超過幅縮小

 価格変動DI(前年同月比)は前回の△55から今回の△59へと4ポイント「低下」超過幅が拡大した。業種別では、サービス業で△52→△63と11ポイント、建設業で△55→△62と7ポイント、製造業で△56→△58と2ポイント「低下」超過幅が拡大する結果となった。一方、サービス業は△56→△54と2ポイント「低下」超過幅が縮小した。次期見通しについては、全体で5割を超える企業が価格の「低下」を見通しており、DI値は△51であった。
 取引条件DI(前年同期比)は前回の△28から今回△26へと2ポイント「悪化」超過幅が縮小した。取引条件の改善はこれで3期連続となる。業種別では、製造業で△27→△22と5ポイント、流通業で△24→△22と2ポイント「悪化」超過幅が縮小した。一方、建設業で△34→△39と5ポイント、サービス業で△28→△31と3ポイント「悪化」超過幅が拡大した。次期の取引条件が「悪化」すると見込む企業は、「好転」すると見る企業を24ポイント上回る結果となっており、建設業・流通業・サービス業では取引条件が「好転」すると予想する企業は皆無である。

【資金繰り】
3期連続で改善

 資金繰りDI(今月の状況)は△29と前回の△31から2ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。これで資金繰りの改善は3期連続となる。業種別にみると、流通業で△28→△19と9ポイント、製造業で△36→△29と7ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。一方、サービス業で△18→△28と10ポイント、建設業で△40→△46と6ポイント「窮屈」超過幅が拡大した。次期見通しについては全業種押し並べて厳しく、とりわけ6割を超える企業が「窮屈」と回答している建設業の次期見通しが厳しい。

【設備過不足】【施設稼働率】
「過剰」「低下」超過幅縮小

 設備過不足DI(今月の状況)は5と前回の7から2ポイント「過剰」超過幅が縮小した。業種別にみると、建設業は前回の「過剰」超過(4)から「不足」超過(△22)へと転じ、製造業では18→14と4ポイント「過剰」超過幅が縮小した。一方、流通業は0→6と「過剰」超過幅が拡大し、サービス業は「不足」超過(△4)から「過剰」超過(3)へと転じた。次期見通しについては、建設業が「不足」見通し超過である一方、製造業(13)サービス業(9)では「過剰」見通しが「不足」見通しを上回る結果となった。
 施設稼働率DI(前年同月比)は△16と前回の△21から5ポイント「低下」超過幅が縮小した。施設稼働率が改善するのは3期連続のことである。業種別で見ると、製造業は△23→△22と1ポイント「低下」超過幅が縮小し、流通業については△19→0と「低下」超過幅が解消した。次期見通しについては、製造業で引き続き「低下」を見通す企業が「上昇」を見通す企業を上回っている(△12)一方で、流通業では「上昇」見通しが超過する(6)結果となった。

【雇用】
雇用過剰感弱まる

 雇用動向DI(今月の状況)は6と前回の8から2ポイント「過剰」超過幅が縮小した。業種別にみると、建設業が「過剰」超過(3)から「不足」超過(△4)へと転じ、製造業では23→18と5ポイント「過剰」超過幅が縮小した。一方、流通業で7→8と1ポイント「過剰」超過幅が拡大し、サービス業では△18→△16と2ポイント「不足」超過幅が縮小した。次期の雇用見通しについては、建設業(△11)とサービス業(△6)で「不足」見通しが優勢なのに対して、製造業(10)と流通業(8)は「過剰」見通しが優勢であった。

【経営上の力点など】
「民間需要の停滞」が問題点のトップに

 全業種で見た「経営上の問題点」のトップは「民間需要の停滞」(60%)となった。それに「販売先からの値下げ要請」(51%)、「取引先の減少」「人件費の増加新規参入者の増加」(19%)が続く。業種別にみて特徴的なのは、建設業が「官公需要の停滞」を第二位の問題点としてあげていること、製造業が「人件費の増加」を第三位の問題点としてあげていることである。その他文書回答では、「輸入増による資金繰り及び在庫管理」、「原材料による産地名の問題と表示問題」などが問題点として取り上げられている。
 「経営上の力点」は「新規受注(顧客)の確保」(67%)が引き続きトップであった。それに「付加価値の増大」(48%)、「社員教育」(36%)、「財務体質の強化」(23%)が続いた。業種別にみて特徴的なのは、建設業が「新規事業の展開」を第三位の力点として回答していることである。その他文書回答では、「債権の不良化の防止」などが力点として取り上げられている。

<会員の声(業種別)>

(1)建設業
●次期見通しが前回、△54から△19と好転していますが、今回も△10と上向いています。今月の業況判断も前回の△37から△34とわずかに好転しています。これらは大筋において全業種平均と同じカーブを描いています。ただ前年同月比は△54⇒△39⇒55と足踏み状態です。建設業会員の声を聞いてみました。
1.M社(総合建設業)
・昨年8月に展示場を自社直営とすると同時にリニューアルオープンした。その影響か、ここ2~3ヶ月で従来の4倍近い売上げになってきている(ただし初期投資等経費は掛かっているから、それほどは儲かっていない)。ある同業者の会員から、忙しくて仕方がないから手伝ってほしい旨の依頼があったが、申し訳ないが手が回らないと断ったところ。
2.A社(不動産・開発業)
・住宅の着工件数は前年と変わっていない。それはペイオフ対策で賃貸の物件が増えているから。分譲では戸建ては減ってマンションが増えている。当社は前年対比で売上げは伸びているが、粗利は減っている。
3.M社(電気工事業)
・今はマンション関係の仕事しかない。しかも非常に安い金額で、やっても赤字。官公需についても名古屋市について言えば前年3割カットと言っている。つぶれたはずの会社が会社更生法によって無借金になり、入札に参加してくる。最近仕事が取れているのはそんな会社ばかり。
4.M社(住宅設備)
・仕事はあるが小さい。さし値発注で、やるかやらないか、とせまられる。また見積もりの問い合わせは多くなっているが、相見積もりと思われる。
5.H社(電気工事業)
・役所の物件は減ってきている。当方からすれば遠方で、近所の親戚に電気工事業者がいる人から仕事の依頼があり、戸惑っている。良いところと悪いところがハッキリしてきたのではないか。
6.T社(空調設備)
・建設業界はパイの縮小、単価の低下による利益率の悪化で二重苦、三重苦。非常に景況は悪いと思われる。

●少子化の影響などにより、長い目でみれば新築着工件数は確実に減っており、建築業界では「勝ち組み」なしと言われています。しかしその中でも、良いところと悪いところの差がハッキリして来たように思われます。全体として見れば悪い中での横ばいといったところでしょうか。(事務局・山田)

(2)製造業
●今年に入って一度も下がらない次期業況見通しが△15から△5へとさらに強気、経常利益見通しも△20から1へ一年ぶりに水面に顔を出していますが、今月の状況は△19→△21→△24と、2期連続で悪化しています。回答数も10社減少。業種ごとのご意見をみてみました。
1.食品関連
・原材料による産地名の問題と表示問題。毎日の新聞等マスコミで食品問題が報道され消費者の神経が食品に対することでピリピリしている。
2.印刷関連
・本社(東京)出入業者が支店まで進出し、受注合戦を展開中。当然価格は下がっている。自社の持ち味をどんな点で出すか大きなカギ。
3.自動車関連
・メーカーが国内生産を明言している分さえ確実に実行してくれれば当面問題はない。
・現在は過去の実績と営業力でかなり恵まれた状況です。1年後~5年後に備えての技術力upを考えています。業界全体では現状は厳しいし将来はもっと厳しくなります。
・生産台数、輸出の増加により受注量が増したものの、毎年の値下げにより、売上、利益はあまりない状況である。また輸出による受注増に関しては海外現地生産に移る速度が増していると思われ、来期以降の受注が懸念される。
4.コンピュータ関連
・人件費削減は実施済み.現在の政治、経済情勢で将来を予測した時、これからも雇用を維持しながら経営を続けても良いものかふと迷うことが多くなった。
5.設備関連
・設備もコストダウンによる投資の考え方が強く、無人で低価格を要求され、まったく利益に繋がらない。家業の相場が一般チャージとする考え方が強くなっているように見えます。我社は企画力を持ちマネジマントを強く発揮できる環境を作る。
・目先のことを追うと判断に迷いが生じる。自社の進むべき方向を決めてそこから今を判断することが今必要だと痛感する。社員さん、お客さん、そして未来をどう巻き込むか、経営者として大変だが面白い時代である。
6. その他
・ 不祥事の発表前に極端に発注を減らしていた東電がその間の分を一挙に発注してきた。その後の予定はない。(金属部品)

●前年同期、今月業況ともにプラスとしている14社(製造全体の17.5%、前回25%)はそろって次期見通しもプラスとしていますが、この他に次期見通しをプラスにしているところはありません。これが今回の最大の特徴で、企業間の格差がより鮮明になってきたといえます。このうち過半数を自動車関連が占め、食品関連が2社、印刷関連が1社ですが、製造業全般としては低迷が続いています。(事務局・服部)

(3)流通業
●「業況判断」(「今月の状況」DI)は△37→△17と20ポイントの大幅な改善を記録し、「前年同月比」DIも△36→△28と8ポイント改善しています。
●「売上高」(前年同期比)は△32→△25に、「経常利益」(前年同期比)も△33→△23とそれぞれ好転の兆しが出ていますが、「売上減・利益増加」という回答も少なからず見られました。
●また特徴として、特定の業界だけが良いという結果にはなっておらず、同じ業界でも企業間の格差が拡大しているように見受けられました。(以下、文書回答より)

1.OA機器販売等
・景況は新店舗進出により売上は前年比増加しているが、個々の新店舗で前年比4%減の店舗があり、売上単価の引下げをしなければならず、今後の収益に大きく圧迫される。
2.工作機械・省力化機械・機械工具などの卸(3社より)
・景気下げ止りは感じられません。現状の受注金額はまだ下落しています。新商材による売上確保でマイナス分を補う方向に持っていきたい。
・機械製造は今後も縮小してゆく。国内の工作機械メーカーも50%はこの3年程で淘汰されてゆくのではないか。新商品、新規事業のターゲットが立ち上げられない。
・「嵐の前の静けさ」的な感じあり。米国の動向次第の雰囲気あり。
3.酒類卸
・飲酒運転規制の強化が飲食店、業務用酒販売店に20%強の売上減となっている。
4.食品用資材等卸
・直近の日本ハムの事件など事件が多すぎる。必然的に消費者の信頼を失いもがき苦しむ食品業界。何れも当事者のペナルティは軽く被害者となる我々は補償もなし。補償制度があるから悪が生まれる。景況はまだ悪化すると予測するが?
5.運送
・自動車NOX、PM法改正で10月1日より施行されます。2~3年後の資金繰りに問題点が運輸業界に起こるだろう。

●やや持ち直してきたとはいえ、文書回答から見る限り、まだまだ先行きは楽観できない状況です。また気になるのが、資金繰りです。「業況判断DI」が11月△10(今月△17)と好転を予想しているのに対し、「資金繰りDI」が今月△19から11月△25と悪化を予想しており、今後とも、中小企業をめぐる金融環境の変化に注意を要する必要があるでしょう。(事務局・内輪)