景況調査

第37号-2003年2月-
「踊り場」続く景気~依然高い景気下降リスク~

【概況】
【業況判断】 「今月の状況」・前年同月比ともに改善
【売上高】【経常利益】 売上高・経常利益ともに引き続き改善
【在庫】 在庫過剰感弱まる
【価格変動】【取引条件】 価格「低下」超過幅拡大。取引条件は改善。
【資金繰り】 5期連続で改善
【設備過不足】【施設稼働率】 施設稼働率の改善続き、設備は「不足」超過に
【雇用】 「不足」超過幅拡大
【経営上の力点など】 「民間需要の停滞」が問題点のトップに
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(2003年2月)第37号(PDF:979KB)


【概況】

200302-1

 業況が「よい」と回答した企業から「悪い」と回答した企業を差し引いた業況判断DI(今月の状況)は△6となり、前回調査に比べ8ポイント改善しました。これは「良い」と答えた企業が5%増加したことに加え、「悪い」と回答した企業が2%減少したためです。確かに数字上では改善していますが、今月の状況を業種別によくみると、「建設業悪化」「製造業横ばい」「サービス業微改善」の中で、前回大幅に悪化した流通業が前々回レベルに戻したことよる改善であることがわかります。こうしたことを考慮すると、今回の改善は「流通」のブレによる要因が大きく、いぜん景況は不安定な、「踊り場」的状態が続いていると判断すべきでしょう。
 「勝ち組み」と称されるトヨタの影響などで製造業の業況悪化が阻止されていることが、今回DI値の改善を支えたと思われますが、今後の景況悪化を懸念する声は小さくありません。今後を懸念させる最大の要因は、イラク攻撃後のアメリカ経済の不安定さです。短期の戦争終結が実現すれば一時的には株価の回復はみられるでしょうが、雇用悪化などを背景にした最近の米国消費の弱含み傾向は大きく転換するとは考えにくく、米国経済の調整過程は持続すると思われます。短期終結した湾岸戦争後、米国経済が低迷し、それがブッシュ(親)政権の敗退を導いた過去が思い出されます。もちろん、不良債権処理加速化にともなうデフレ圧力など、日本経済の下振れ懸念も依然強いものがあります。
 こうした現況を打開すべく「大規模な財政出動」を求める声が政界・財界を中心に大きな勢力となりつつあります。単純な「構造改革論」も問題ですが、単純な「財政ばら撒き」も景気浮揚効果が低いことは「平成不況」が実証済みです。財政が出動されるとしても、あるべき日本の未来社会像を呈示し、その構築に至るプロセスを踏まえたうえでなされるべきであって、いわゆる「火事場泥棒」的財政資金の散布では、展望は生まれてきません。小泉政権の政策転換を、中小企業の積極的な位置づけと明確な国家ビジョンの呈示という、あるべき方向へ誘導できる健全で力強い中小企業運動の高まりが今こそ求められています。

[調査要項]
 1.調査時  2003年2月25日~2月27日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 910社より、178社の回答をえた(回収率19.6%)(建設業29社、製造業69社、流通46社、小売・サービス業34社)
 5.平均従業員 31.5人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、村上琇樹・村上電気工業㈱社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
「今月の状況」・前年同月比ともに改善

 「今月の状況」DIは前回の△14から8ポイント改善し、△6となった。業況改善は3期連続となる。これは「良い」と答えた企業が5%増加したことに加え、「悪い」と回答した企業が2%減少したためである。業種別に見ると、流通業が△40→△16と24ポイント、サービス業が△18→△12と6ポイントの改善を記録した。一方、建設業は0→△4と4ポイント悪化した。製造業は前回から横ばいの1であった。
 前年同月比DIは前回の△25から13ポイント改善し、△12となった。前年同月比DIの改善は2期連続となり、全業種押し並べて改善する結果となった。サービス業が△37→△18と19ポイント、製造業は△9→6と15ポイント、建設業は△27→△17と10ポイント、流通業は△39→△33と6ポイント改善した。
 次期見通しについては、「悪い」と予想する企業が「良い」とみる企業を5ポイント超過する結果となった。前回見通しに比べ、「悪い」超過幅が縮小しているものの、今般の地政学的リスクの高まりを考慮に入れれば、先行き楽観視出来ないのが実状である。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
売上高・経常利益ともに引き続き改善

 売上高DI(前年同月比)は前回の△20から13ポイント改善し、△7となった。2期連続の改善である。今回の改善は「増加」と回答した企業の割合が9%増加したことに加え、「減少」と回答した企業の割合が4%減少したためである。業種別にみると、製造業が19ポイント改善の10となった。製造業のDI値がプラスに転じるのは実に9期ぶりのことである。その他業種でも押し並べて改善が見られた。サービス業は△31→△15と16ポイント、建設業で△24→△14と10ポイント、流通業で△26→△22と4ポイントの改善がみられた。次期見通しは「減少」見通す企業が「増加」を見通す企業を11ポイント上回る結果となった。最も「減少」見通し超過幅が大きかったのは建設業であった(△37)。一方製造業では「減少」見通しよりも「増加」見通しの方が多かった(3)。
 経常利益DI(前年同月比)は前回の△21から9ポイント改善し、△12となった。5期連続の改善である。業種別にみると、サービス業が△29→△12と17ポイント、流通業が△36→△24と12ポイント、製造業(△8→△3)と建設業(△23→△18)は5ポイント改善した。一方、経常利益の「今月の状況」DIについては14→7と7ポイント悪化する結果となった。業種別では、建設業で15ポイント(19→4)、製造業で14ポイント(18→4)、サービス業で8ポイント(21→13)「黒字」超過幅が縮小した。その一方で流通業は前回の△2から今回8へと「黒字」超過に転じた。次期の利益見通しについては、「黒字」を見通す企業が「赤字」とみる企業を11ポイント超過する結果となった。最も「黒字」見通し超過幅が大きいのはサービス業であった(24)。一方最も利益見通しが厳しかったのは建設業(△25)である。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
在庫過剰感弱まる

 在庫感DI(今月の状況)は前回の27から4ポイント「過剰」超過幅が縮小し、23となった。業種別にみると、流通業で24→11と13ポイント「過剰」超過幅が縮小した一方で、製造業は28→30と2ポイント「過剰」超過幅が拡大する結果となった。前年同月比についても10→1と9ポイント「増加」超過幅が縮小した。業種別では流通業が8→△9と「減少」超過へと転化し、製造業は11→7と4ポイント「増加」超過幅が縮小した。次期見通しについては、製造業が「過剰」見通し超過であるのに対して、流通業は「過剰」見通しと「不足」見通しが同数であった。

【価格変動】【取引条件】
価格「低下」超過幅拡大。取引条件は改善。

 価格変動DI(前年同月比)は前回の△55から今回の△56へと1ポイント「低下」超過幅が拡大した。業種別では、サービス業で△34→△60と26ポイント「低下」超過幅が拡大した一方で、建設業で△58→△36と22ポイント「低下」超過幅が縮小した。製造業(△61)と流通業(△58)は前回から横ばいであった。次期の価格見通しは依然として「上昇」を見通す企業よりも「低下」を見通す企業が多い状態が続いており、DIは△47であった。最も「低下」見通し超過幅が大きかったのはサービス業で、全体の6割の企業が「価格」が先行き低下すると予想している。
 取引条件DI(前年同月比)は前回の△29から9ポイント「悪化」超過幅が縮小し、△20となった。業種別にみると、製造業で△32→△15と17ポイント、流通業で△21→△12と9ポイント、建設業で△45→△38と7ポイント「悪化」超過幅が縮小した。一方、サービス業で△23→△24と1ポイント「悪化」超過幅が拡大した。次期の取引条件については、「悪化」を見通す企業が「好転」すると見る企業を18ポイント上回る結果となった。取引条件「悪化」見通しの超過幅が最も大きかったのは建設業である。

【資金繰り】
5期連続で改善

 資金繰りDI(今月の状況)は前回の△28から今回の△24へと4ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。資金繰りが改善するのはこれで5期連続となる。業種別にみると、流通業で△31→△20と11ポイント、建設業で△23→△17と6ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。一方、サービス業で△32→△35と3ポイント、製造業で△24→△25と1ポイント「窮屈」超過幅が拡大した。次期の資金繰り見通しは「窮屈」予想が「余裕」予想を25ポイント上回る結果となった。最も資金繰り見通しが厳しい業種は製造業(△28)である。

【設備過不足】【施設稼働率】
施設稼働率の改善続き、設備は「不足」超過に

 設備過不足DI(今月の状況)は前回の0から今回△2となり、「不足」超過に転じた。設備が「不足」超過となるのは2001年5月調査以来7期ぶりのことである。業種別にみると、流通業は△10→△12と2ポイント「不足」超過幅が拡大した。また製造業では13→3と10ポイント「過剰」超過幅が縮小した。その一方で、サービス業の「不足」超過幅が縮小し(△9→△6)、建設業は△9→4と「過剰」超過に転じた。次期見通しについては、建設業で「過剰」見通し超過(8)である以外は、流通(△20)サービス(△7)製造(△1)ともに「不足」を見通す企業が多かった。
 施設稼働率DI(前年同月比)は△4と、前回の△9から5ポイント「低下」超過幅が縮小した。施設稼働率が改善するのは5期連続のことである。業種別で見ると、製造業が△8→5へと「上昇」超過に転じたのに対し、流通業は△11→△22と11ポイント「低下」超過幅が拡大した。次期見通しについては、製造業が「上昇」見通し超過である(△6)のに対して、流通業は「低下」見通し超過であった(△24)。

【雇用】
「不足」超過幅拡大

 雇用動向DI(今月の状況)は△1→△3と2ポイント「不足」超過幅が拡大した。業種別にみると、建設業の「不足」超過幅は、△8→△18と10ポイント拡大した。また流通業は4→△2と「不足」超過に転じ、製造業は9→7と2ポイント「過剰」超過幅が縮小した。一方で、サービス業は△28→△13と15ポイント「不足」超過幅が縮小した。次期の雇用見通しについては、製造業のみが「過剰」見通し超過(6)であるのに対して、建設業(△10)、流通業・サービス業(△9)では「不足」見通しが優勢であった。

【経営上の力点など】
「民間需要の停滞」が問題点のトップに

 全業種で見た「経営上の問題点」は「民間需要の停滞」(43%)がトップであった。それに「販売先からの値下要請」(41%)、「取引先の減少」(25%)、「新規参入者の増加」(18%)、「人件費の増加」(17%)が続いた。業種別で特徴的であったのは、第二位の問題点として建設業では「官公需要の停滞」が、製造業では「熟練技術者の確保難」が指摘されていることである。その他文書回答では「官公庁の単価大幅切下げ」などが問題点として取り上げられている。
 「経営上の力点」は「新規受注(顧客)の確保」(66%)が引き続きトップであった。それに「付加価値の増大」(48%)、「社員教育」(35%)、「財務体質の強化」(21%)、「人件費節減」(14%)が続いた。業種別にみて特徴的なのは、建設業が「人件費以外の経費節減」「新規事業の展開」を、サービス業が「得意分野の絞込み」「人材確保」を第四位の力点として回答していることである。その他文書回答では、「新製品開発」などが力点として取り上げられている。

200302-2

<会員の声(業種別)>

(1)建設業
●前回調査時(02年11月末)に、次期見通しは全体として「悪くなる」という判断でしたが、やはり今月の業況判断DIは±0から△4に、経常利益DIも19から4へ悪化し、次期見通しも業況で△27から△28へ、経常利益で△20から△25と、さらに厳しさが予想されています。文書回答で寄せられた、会員のみなさんの声をご紹介します。(事務局・山田)

1.電気工事
・建設業は今年に入ってから一段の新規工事が減っており、戦後最悪の状況にある。これまでは地元愛知の中堅ゼネコンは(旧東海BK、管理会社六合建設は昨年UFJ銀行の意向で倒産したが)表面化していないが、数社倒産が生じると思われる。その下請業者も計り知れない影響が発生することになるだろう。一方政府の中小企業セーフネット対策も遅まきながら今打ち出されて(名古屋市中小企業振興センター)はその認定を受けるのに2、3時間待たされて認定をもらっているが、その実態は市・県保証協会がその企業に認定を受けても特別に保証総額を越えてはやってくれないのが実情。パンフレットには増額保証をするようなことが書いてあるが、それはなし。実情の調査を。
2.住宅設備
・建設業は最も不況業種と言われて数年が過ぎ尚且つ近年公共事業の減少が叫ばれている。今年は危機的状況を迎えるものと覚悟。生き残りをかけ経費節減、借入金をいかに返済していくかに腐心し新規受注に努力する。また新規事業も視野に入れて頑張るのみ。
3.総合建設
・公共事業の縮小と単価の切下げ。愛知の場合、大型プロジェクトに金を食われ生活関連の中小規模の仕事が少ない。
4.内装
・内装業界なので2月は忙しいです。特にバンパク、空港の関係とかデパートの工事(三越、松坂屋新築)が2005年まで多く、ここ2年は明るい感じです。
5.建設設備リース
業界全体的に仕事の減少を感じます。公共工事関係は他府県からの業者が多い。
6.水処理プラント
・上下水道分野での民間委託が全国的に進んできました。大手水処理メーカー、電機メーカー、メンテナンス専業企業と入り乱れての受注合戦が起きています。外国企業も日本進出を虎視耽々と狙っており、大競争時代に突入しました。

(2)製造業
●「今月の業況」で見ると業況判断DIは1→1と、前回調査に引き続き、水面に顔を出しています。経常利益DIは18→4と14ポイントの悪化ですが、まだ水面上にあります。また「次期見通し(5月)」では、業況判断DIは10(+28ポイント)、売上高DIは3(+17ポイント)、経常利益DIは22(+28ポイント)と大幅な改善を予測しています。文書回答等では、自社が何をなすべきかについて明確な回答が増えていますが、懸念材料としてイラン問題が上げられています。(事務局・服部)

1.自動車部品
・昨年の8月より売上アップ(2割)はしているが、仕入先の業績が悪い為、無理難題を押し付けてくる。会社の業績アップは社員教育に限ると実感している。
2.自動車部品
・仕入れ、技術、納期、単価など、一つ一つが他社より、半歩だけうちのほうが進んでいる状態にするよう努力している。トータルで見て何歩かは前に出る。それでも利益が出る体制づくりに、ここ数年寝食を忘れ、ようやく落ち着いた。
3.機械部品
・自動車業界が好調なこともあり、生産量は増加しているが、値下げ要請により利益は追従していない。また新規受注においても単価下落が止らず、原価割れすれすれの受注となってきている。
4.機械部品
・製造業に関しては厳しい状況にあるものの、やり方しだいでは何らか道があるはずだと感じている。3カ月先の目標はたてられるが、見通しに関しては分らない。
5.自動搬送装置関連
・使途不明の注文が増えてきた。各社、新規の取り組み機材かと思うが、図面どおりのものを創ってくれれば良い。「余計なことは聞くな」式の発注で手離れは良いが、訳がわからない。仕事はある。営業を増やしたい。
6.印刷関連
・経営者の考え方、会社の理念がこのような悪い経済情勢の中ではより鮮明に見えてくることに、びっくりしています。
7.自動車部品関連
・イラク戦争が始まると、一層景気が悪くなるのではないかと心配です。
8.機械部品関連
・13年前の「湾岸戦争」では、3カ月間仕事が止まった。今、イランに目を離せない。

(3)流通業
●「業況判断」(「今月の状況」DI)は「概況」で指摘されているように、昨年8月△17、11月△40、そして今年2月は△16と大きく変動しています。経常利益(今月の状況)では前回△2→8と「黒字」に転じ、在庫感DI(今月の状況)は8→△7となっています。文書回答では、業界ごとにバラツキがあり、自動車関連での好調に引きずられる側面が伺われます。文書回答では、今後の「生き残りをかけて」という言葉が多くみられました。(事務局・内輪)

1.機械工具等販売
・自動車関連に関しては比較的良い(売上)が、粗利は十分に確保できない。値下げ要求は相変わらず厳しい。その他の産業は動きが鈍い。
2.工作機器等販売
・3月までは仕事量はあるようです。しかし単価が安いため企業努力には限界があり、死活問題になっています。
3.自動車ガラス販売
・我々自動車のアフターマーケット業界も本当に厳しい時期に向かいます。あたり前の事をあたり前にやっているだけでは最悪の結果しかないように思います。
4.液化石油ガス等輸送
・季節物(ガス)輸送である為、昨年11月~本年2月中旬まで気温が低かったゆえ、好調に推移したが、2月中旬以降の陽気で一気に状況の悪化を感じている。このような状況でまた値下げ競争が始まること、原油高が一段と進むこと、悪材料は多い。
5.食品添加物卸
・食品業界の倒産及び予備費増加している。優者が明白になっており、優との競争激化。能力のある定年退職者(メーカーなど)の利用を考えている。
6.クリーニング資材等販売
・当社顧客のクリーニング店は現金前受け制で、本業に専念していれば倒産するような業種ではないと言われてきたが、本業不振から倒産するところが出てきた。
7.総合服飾
・中国産の製品の多い中で国産(国内)での縫製が認められてきている。