景況調査

第38号-2003年5月-
景気、下降局面に突入か

【概況】
【業況判断】 「今月の状況」・前年同月比ともに悪化
【売上高】【経常利益】 売上高・経常利益の改善続く
【在庫】 在庫過剰感高まる
【価格変動】【取引条件】 「低下」超過幅縮小・取引条件改善
【資金繰り】 6期ぶりに資金繰り悪化
【設備過不足】【施設稼働率】 施設稼働率が悪化、設備は「不足」超過幅拡大
【雇用】 一転「過剰」超過に
【経営上の力点など】 「民間需要の停滞」・「新規受注(顧客)の確保」が引き続きトップ
<会員の声>
DI値推移一覧表(PDF 133KB)

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景況調査報告(2003年5月)第38号(PDF:730KB)


【概況】

 景況は「踊り場」を経て、下降局面へと突入する可能性が高まっています。
 業況が「よい」と回答した企業から「悪い」と回答した企業を差し引いた業況判断DI(今月の状況)は△8となり、前回調査に比べ2ポイント悪化しました。これは「悪い」と答えた企業が2%減少したものの、「よい」と回答した企業が4%減少したためです。また前年同月と比べても4ポイント悪化しており、見通しも△11と明るくありません。業況悪化の原因として、ヒアリング調査の中で指摘されたのは、「建設業向けの官公需の縮小」です。季節的要因と見られますが、それを支えるだけの民需が不足していることも相俟って、建設業のDI値は大幅に悪化しました。また、「トヨタの輸出の鈍化」も大きく影響しています。 2002年第4四半期と比較して、2003年第1四半期は台数ベースで1割ほど輸出が落ち込んでいます。業況悪化を食い止める「後ろ盾」を失ったことにより、製造業のDI値は1→△6と再び水面下へ沈み込む結果となりました。
 今回の悪化が一時的な下振れではなく、下降局面への突入を懸念させる要因としては、以下の二点を指摘できます。第一に、「米国経済の不安定性」です。イラク戦争が短期終結したことを受けて、米株式市場は回復の動きを続けていますが、米国経済を牽引してきた個人消費は鈍化したままです。その背景にある雇用情勢の悪化は、当面改善する気配はありません。第二に、「りそな銀行破綻の影響」です。今回の破綻は、監督当局・監査法人が「税効果資本に過度に依存した金融機関経営を許さない」というシグナルを金融機関に与えました。これを受けて税効果資本に依存している地域金融機関が資本不足を懸念し、9月の決算期に向け貸出資産の圧縮に動けば、資金繰りの面から中小企業の業況の下降圧力が加わるという事態が再発しかねません。
 景況分析会議の中で「中小企業への再編圧力が高まっている」との声が聞かれました。こうした圧力は、景気下降がもたらす取引先からのコスト削減圧力や、サバイバル競争を通じて、今後一層高まることが予想されます。加えて、企業の社会的責任、とりわけ環境への責任ある対応が求められていることも、新たな競争条件となって、企業の再編を促すことでしょう。こうした新しい動き、新たな競争環境の研究と、新たな戦略の構築が今中小企業に求められています。

[調査要項]
 1.調査時  2003年5月28日~6月1日
 2.対象企業 愛知中小企業家同友会、会員企業
 3.調査方法 調査書をFAXで発送、自計記入、FAXで回収
 4.回答企業 2,284社より、327社の回答をえた(回収率14.3%)(建設業69社、製造業104社、流通78社、小売・サービス業76社)
 5.平均従業員 33.6人
 なお、本報告は愛知中小企業家同友会情報ネットワーク委員会(委員長、藤田彰男・赤津機械(株)社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行・立教大学経済学部教授)での検討を経てなされたものである。

【業況判断】
「今月の状況」・前年同月比ともに悪化

 「今月の状況」DIは前回の△6から2ポイント悪化し、△8となった。業況が悪化するのは2001年11月調査以来のこととなる。これは「悪い」と答えた企業が2%減少したものの、「よい」と回答した企業が4%減少したためである。業種別に見ると、建設業が△4→△18と14ポイント、流通業が△16→△27と11ポイント、製造業が1→△6と7ポイント悪化した。一方、サービス業は△12→19と、31ポイント改善した。
 前年同月比DIは前回の△12から4ポイント悪化し、△16となった。業種別ではサービス業だけが△18→0と18ポイント改善し、その他三業種は押し並べて悪化した。製造業は6→△8と14ポイント、流通業は△33→△39と6ポイント、建設業は△17→△22と5ポイント悪化した。
 次期見通しについては、「悪い」と予想する企業が「良い」とみる企業を11ポイント超過する結果となった。前回見通しに比べ、「悪い」見通し超過幅は拡大しており、業況悪化の見通しが広まりつつあることを示している。

業況推移DIグラフ

業況推移DIグラフ
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【売上高】【経常利益】
売上高・経常利益の改善続く

 売上高DI(前年同月比)は前回の△7から1ポイント改善し、△6となった。3期連続の改善である。業種別にみると、サービス業が前回の△15から25ポイント改善し、10となった。また、建設業は14ポイント改善し、0となった。サービス業がプラスに転じるのは9期ぶりのことであり、建設業が売上高「減少」超過から脱するのは10期ぶりのことである。一方、製造業は10→△4と14ポイントの悪化、流通業は△22→△30と8ポイント悪化した。次期見通しについては、「減少」見通す企業が「増加」を見通す企業を19ポイント上回る結果となった。前回に比べ、「減少」見通し超過幅は拡大した。最も「減少」見通し超過幅が大きかったのは流通業であった(△32)。
 経常利益DI(前年同月比)は前回の△12から3ポイント改善し、△9となった。6期連続の改善である。業種別にみると、サービス業が△12→12と24ポイント、流通業が△24→△21と3ポイント改善した。一方、建設業は前回の△18から10ポイント悪化し、△28に、製造業は前回の△3から1ポイント悪化し、△4となった。また、経常利益の「今月の状況」DIについても7→11と4ポイント改善する結果となった。業種別では、15ポイント(4→△11)悪化した建設業を除く三業種で改善が確認された。サービス業は24ポイント(13→37)、流通業は4ポイント(8→12)、製造業は3ポイント(4→7)「黒字」超過幅が拡大した。次期の利益見通しについては厳しい見通しが多く、「赤字」を見通す企業が「黒字」を見通す企業を6ポイント超過する結果となった。最も「黒字」見通し超過幅が大きいのは前回同様サービス業であった(19)。一方最も利益見通しが厳しかったのは建設業(△22)である。

売上高推移DIグラフ

売上高推移DIグラフ
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経常利益推移DIグラフ

経常利益推移DIグラフ
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【在庫】
在庫過剰感高まる

 在庫感DI(今月の状況)は前回の23から5ポイント「過剰」超過幅が拡大し、28となった。業種別にみると、流通業で11→32と21ポイント「過剰」超過幅が拡大した一方で、製造業は30→26と4ポイント「過剰」超過幅が縮小する結果となった。前年同月比についても1→11と10ポイント「増加」超過幅が拡大した。業種別では流通業が△9→11と「増加」超過へと転化し、製造業は7→11と4ポイント「増加」超過幅が拡大した。次期見通しについては、製造業・流通業ともに「過剰」見通し超過であった。

【価格変動】【取引条件】
「低下」超過幅縮小・取引条件改善

 価格変動DI(前年同月比)は前回の△56から今回の△55へと1ポイント「低下」超過幅が縮小した。業種別に見ると、前回の△36から△69へと33ポイント「低下」超過幅が拡大した建設業を除く他三業種で「低下」超過幅の縮小が見られた。サービス業は△60→△44と16ポイント、流通業は△58→△51と7ポイント、製造業は△61→△57と4ポイント「低下」超過幅が縮小した。一方、次期の価格見通しは、依然として大幅な「低下」超過状態にある。半分以上の企業が次期の価格が「低下」すると見通しており、DI値は△50であった。最も「低下」見通し超過幅が大きかったのは建設業で、全体の6割の企業が「価格」が先行き低下すると予想している。
 取引条件DI(前年同月比)は前回の△20から2ポイント「悪化」超過幅が縮小し、△18となった。業種別にみると、前回の△12から△23へと11ポイント「悪化」超過幅が拡大した流通業を除く他三業種で「悪化」超過幅の縮小が見られた。建設業で△38→△22と16ポイント、製造業で△15→△9と6ポイント、サービス業で△24→△21と3ポイント「悪化」超過幅が縮小した。次期の取引条件については、「悪化」を見通す企業が「好転」すると見る企業を17ポイント上回る結果となった。取引条件「悪化」見通しの超過幅が最も大きかったのは流通業である。

【資金繰り】
6期ぶりに資金繰り悪化

 資金繰りDI(今月の状況)は前回の△24から今回の△28へと4ポイント「窮屈」超過幅が拡大した。資金繰りが悪化するのはこれで6期ぶりのこととなる。業種別にみると、製造業で△25→△22と3ポイント「窮屈」超過幅が縮小した一方で、建設業は△17→△40と23ポイント、サービス業は△35→△36と1ポイント「窮屈」超過幅が縮小した。なお流通業は前回と変わらず横ばいであった(△20)。次期の資金繰り見通しは厳しさを増している。「窮屈」予想が「余裕」予想を34ポイント上回る結果となっており、ほぼ半数の企業が「窮屈」になると見通している。最も資金繰り見通しが厳しい業種は建設業(△43)である。

【設備過不足】【施設稼働率】
施設稼働率が悪化、設備は「不足」超過幅拡大

 設備過不足DI(今月の状況)は前回の△2から今回△8へと、「不足」超過幅が6ポイント拡大した。業種別にみると、流通業で△12→△1と11ポイント「不足」超過幅が縮小した一方で、サービス業は△6→△14と8ポイント「不足」超過幅が拡大し、建設業(4→△18)と製造業(3→△3)は「過剰」超過から「不足」超過へと転じた。設備の次期見通しについては、△8と「不足」見通し超過であった。「不足」見通し超過幅が最大であったのはサービス業である(△15)。一方製造業は「過剰」超過見通しが「不足」見通しを1ポイント上回った。
 施設稼働率DI(前年同月比)は△15と、前回の△4から11ポイント「低下」超過幅が拡大し、6期振りに悪化する結果となった。業種別で見ると、製造業が5→△6と「低下」超過に転じたのに対し、流通業は△22→△31と9ポイント「低下」超過幅が拡大した。次期見通しについても「低下」見通しが「上昇」見通しを超過する結果となっている。製造業については11ポイント、流通業は29ポイント「低下」見通しが多かった。

【雇用】
一転「過剰」超過に

 雇用動向DI(今月の状況)は△3→1と「不足」超過から「過剰」超過へと転じた。業種別にみると、サービス業のみが「不足」超過(△11)であり、製造業(7)、流通業・建設業(3)はそれぞれ「過剰」超過へと転化した。次期の雇用見通しについては、サービス業だけが「不足」見通し超過(△12)であるのに対して、製造業(11)、流通業・建設業(1)では「過剰」を見通す企業の方が多かった。

【経営上の力点など】
「民間需要の停滞」・「新規受注(顧客)の確保」が引き続きトップ

 全業種で見た「経営上の問題点」は「民間需要の停滞」(46%)が引き続きトップであった。それに「販売先からの値下要請」(44%)、「取引先の減少」(21%)、「大企業の進出による競争激化」(19%)、「新規参入者の増加」「人件費の増加」(18%)が続いた。業種別で特徴的であったのは、建設業が第三位の問題点として「官公需要の停滞」を、製造業が第四位の問題点として「熟練技術者の確保難」が指摘していることである。その他文書回答では「社会保険料の増加」「輸入価格(ユーロ)の上昇」などが問題点として取り上げられている。
 「経営上の力点」は「新規受注(顧客)の確保」(62%)が引き続きトップであった。それに「付加価値の増大」(53%)、「社員教育」(32%)、「財務体質の強化」(24%)、「新規事業の展開」「得意分野の絞り込み」(18%)が続いた。業種別にみて特徴的であったのは、サービス業が第四位の力点として「人材確保」を力点として解答していることである。その他文書回答では、「顧客育成」「生産技術の向上」などが力点として取り上げられている。

<会員の声(業種別)>

(1)建設業
●今月の業況判断DIを前回調査と比較すると、△4から△18、前年同月比も△17から△22と悪化しています。ただ次期見通しは△28から△10と好転しています。この傾向は毎年あり、年度末には仕事があり、年度始めは仕事がないという、官公需に起因する季節要因の影響が大きいかと思われます。全体としては足踏み状態でしたが、個々の会員はどう感じているのか、お話を伺いました。(事務局・山田)

1.K社(電気工事業)
・取引先が経費節減のため、自社でやれることはやる方向にある。そのため設備の新設や改造等の工事が減っている。官庁や民間大手も供給が少なすぎる。ましてや町工場などの仕事の発注が徐々に減ってきている。
2.I社(給排水衛生工事)
・取引先の倒産2件。仕事量が少なくなってきている。現在の対策として地域密着を目指し、リフォーム事業の拡大、建築業者から仕事をもらい、自社から建築業者に仕事を出して、お互い助け合ってがんばりたい。
3.S社(建築業)
・何とか今期(5月決算)まで前期比10%ダウン程度で推移したが、いよいよ来期の状況はすこぶる厳しいものになりそうである。気を引き締めている。
4.K社(総合建設業)
・愛知県内でも仕事量の格差が大きい。尾張、名古屋地区は万博・空港の2大プロジェクトに関連した仕事が出ているので、まあまあのようだが、三河地区はその反動で県の仕事がほとんど発注されない状況である。今年は倒産する会社も多くなるような気がする。
5.M社(電気工事業)
・毎年の季節要因で4月以降はヒマになる(今年は早くて2月に終わってしまったが)。名古屋市に陳情に行ったが、「発注しようにも財源がない」と言われる。
6.H社(電気工事業)
・バブル後初めて5月は赤字になった。当社はこれまで役所の仕事が6割だったが、これが全然ない。指名願いは出してあるのだが指名がない。他社に出た話も聞かないので、結局役所の仕事はないということだ。民間の提案営業も始めたが、まだまだ実は結ばない。

●今後ますます厳しさが予想されるお話ばかりで、一向に明るい話はありません。こういう時こそ自社を分析し、経営指針を確立し着実に実践することが重要だと思います。

(2)製造業
●「今月の業況」は昨年11月、今年2月ともにDIが1で推移していましたが、今回は△6(7ポイントの悪化)です。経常利益DIは今月7で、2月調査の4から3ポイント改善しています。「次期見通し(8月)」では、業況判断DIは△17(27ポイントの悪化)、経常利益DIは△13(35ポイントの悪化)を示しています。 2月はモデルチェンジとトヨタの決算が重なり好調であり、悪化は折込み済としながらもその反動としての悪化となっているようです。今後の見通しについては、好転材料はあまり見られず、悪化材料だけが目立つ結果となっています。(事務局・服部)

1.木工関連
・全体の市場は工場の海外移転、国内工場の閉鎖、統合、顧客の買い控え等により確実に減少している。同業者との単価のたたき合いに負けず、より多くの客と新しい商品で勝負したいと思っている。
2.包装資材製造
・メーカーでありながら自社の製造、管理経費を考慮して提出した製品単価が得意先に通らない。付加価値の低い製品を取り扱っているので、仕事量が減るとすぐ値下げ競争と過剰サービスとなる業界の体質は変わらない。先行きまったく不透明である。
3.食品製造
・得意先の倒産や廃業が出てきている(特に大口)。大手小売店は競争激化で納入価格が厳しい。将来の人口の減少を考えると、食品の製造業は全く先が見えない状況になっていくのではないか。とりあえず早急な景気回復を!!
4.機械部品
・短納期に応え、海外には持っていけない仕事に特化しているので、仕事量としては、過去最高といえるほどである。しかし単価の切り下げで、売上げや利益は増えていない。さらなる切り下げ要請にどこまで応じていけるか。
5.機械部品
・自動車業界の好調なこともあり出荷量は増加しているが、値下げ要請は更に厳しくなり、売上、利益が比例せず、財務体質の強化や新規受注に力を注いでいる。だがそろそろ単価下げも限界にきている
5.自動車部品プレス
・自動車だけでは先行きが見えないので、3年程前から軸足を少しずつ住宅関連や生産生活資材に移している。

(3)自動車関連(製造)
●「概況」において業況悪化の一要因として、製造業での「トヨタの輸出の鈍化」が あげられています。今回特に自動車関連の会員のメンバーに事務局で聞き取りを行った結果は以下です。(事務局・内輪)

1.自動車部品(切削加工)
・2~3月、そして4月に入ってからガクッと全体的に仕事量が出なくなった。1割ダウン。昨年5月頃からはやや上昇傾向ということについてもそんな感じではなく、価格が厳しく、利益率が悪いのでトントンの状況。三菱のリコール隠し以降、トヨタも3次以下の下請けには仕事を出さなくなった。小さいところは、これから先は大変になるだろう。
2.省力化設備
・当社の納める設備も値が下がっているので、売上が落ちている。当社のような設備の場合は仕事が中国などに行ってしまうことはまだないが、トヨタへ納めた製品がその後、北米やチェコに行っていようだ。トヨタが利益を上げているのは、設備投資のコストを抑えていることも大きいのではないか。自動車関係は良いといわれても設備投資の金額は抑えられており、昨年に比べても下がっている。このジリ貧傾向は今後も変わらないのではないか。
3.自動車部品(プレス)
・1~3月減産在庫調整期を経て、4~5月は特に落ち込んできている。1~2次メーカーなどの親会社が少なくなった仕事を取り込んでいるためで、その下請は加速度的に仕事が減っている。バブル10年後の買い替えサイクルで昨年は良くなる見通しだったが、それも思ったよりは伸びが悪かった。
4.自動車部品(切削)
・2005年にトヨタの仕事の30%が海外へ出て行くという情報はない。事実だとしても自社の製品は国内で合理化を進めていくことで仕事を確保していく自信はある。 ただ、自動車産業がこれからどのように変化していくのか不透明であり、世界的な視野をもって戦略を立てていきたい。