景況調査

第87号-2015年8月
ターニング・ポイントに差し掛かった景気 ~経営者は細心の注意を!~

【概況】

【業況判断】 今月の状況、前回の見通しが外れ横ばい

【売上高】・【経常利益】
 売上高、前年同月比は変化がないものの、見通しは全業種で改善
 経常利益、建設業のみ大幅改善

【在庫感】 小幅ながら2期連続の「過剰」超過幅拡大

【取引条件】 前年同月比・次期見通しともに前回調査から変化なし

【資金繰り】 建設業で窮屈感弱まる

【設備過不足】・【施設稼働率】
 設備過不足、建設業・流通業で「不足」超過幅拡大
 施設稼働率、前年同月比3期連続の「低下」超過幅拡大

【雇用】 今月の状況、再び「不足」超過幅拡大

【価格変動】
 仕入価格、「上昇」超過幅縮小続く
 販売価格、建設業のみ今月の状況で「上昇」超過幅拡大

【借入金利】 短期・長期ともに大きな変化なし

【経営上の力点など】 経営上の問題点、今回も第1位は「従業員の不足」

<会員の声>

DI値推移一覧表(PDF:530KB)

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景況調査報告(2015年8月)第87号(PDF:1.31MB)


【概況】

業況が「よい」と回答した企業から「悪い」と回答した企業を差し引いた業況判断DI(今月の状況)は前回調査の21から20と横ばいでの推移となりました。前年同月比も前回の7から変化がありませんでした。この調査結果からは景気は「踊り場」にあると読み取れますが、中国経済をはじめ海外景気の現状を考慮すれば、愛知の景気が下方向へと転換するターニング・ポイントにある可能性もあります。経営者にとって、景気は細心の注意を要する局面に達したとみなされます。

3ヶ月後の次期見通しは28から30と2ポイント改善しましたが、前回・前々回も19→26→28と強気な見通しがなされていたにもかかわらず、今月の状況は25→21→20で推移しており、この間「予想」がことごとく外れてきています。経営者の期待感に現実がついて来ていないことをあらわしています。

景況分析会議でのヒアリングでは、景気の転換点を感じさせる声が相次ぎました。建設業からは官民ともに繁忙が続いているものの「期待したほど売り上げが増えていない」といった声や、「人手不足で忙しいように思えるだけで、仕事量自体はそれほど増えていない」とする意見が聞かれました。また、民需の好調要因として分譲マンションの建設が挙げられましたが、それには中国マネーによる不動産投資が大きく寄与していると考えられることから、中国経済の減速によって需要の減退やマンション価格の値崩れが起きる可能性もあるとする指摘もありました。

製造業では、自動車関連企業から「忙しい」という声も聞かれましたが、それは北米向けの一定の車種に関する部品を生産している企業に限定されているようです。その一方で、すでに中国での減産の影響を受け、「納入ストップ」までかかっているケースもあるようで、今後の中国経済の動向次第ではさらなる落ち込みも予想されます。また、前回から引き続いて工作機械業界からは「活況が続いている」との報告が出されましたが、受注残があることがその要因で、新規受注の先細りを懸念する声も聞かれました。個人消費は依然として低迷しているようで、消費関連の企業からは明るい話はほとんど聞かれませんでした。

このように、愛知経済は一部では繁忙が続いているようですが、先行きに対する不安の声は次第に高まっています。中小企業経営者には、今後の経済動向に注意を払い、「潮目の変化」をしっかり読み取りながら経営を行う姿勢が求められます。

[調査要項]

調査時 2015年8月18日~8月31日
対象企業 愛知中小企業家同友会
調査方法 会員専用サイト「あいどる」
回答企業 会員企業より1650社の回答を得た。業種内訳は以下。
(建設業269社、製造業367社、流通業491社、サービス業523社)
平均従業員 24.3名(中央値8名)

なお、本報告は愛知中小企業家同友会・経営環境調査委員会(委員長、太田厚・(株)太田電工社社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議(座長、山口義行立教大学教授)での検討を経てなされたものです。

【業況判断】 今月の状況、前回の見通しが外れ横ばい

「今月の状況」DIは前回の21から20と横ばいでの推移となった。前回の次期見通しは26から28と2ポイントの改善となっていたが、それを裏切る結果となった。業種別で見ると、建設業が27から46と19ポイント、製造業が12から15と3ポイントの改善、反対に流通業は15から10と5ポイント、サービス業は30から19と11ポイントの悪化となり、全業種で変動がみられた。中でも建設業の改善幅は非常に大きなものとなっており、「良い」と回答する企業の割合は57%にも達している。前年同月比は前回の7から変化がなかった。業種別で見ると、ここでも建設業が8から17と9ポイント、製造業が△1から3と4ポイント改善したのに対して、流通業が3から0と3ポイント、サービス業が17から13と4ポイントの悪化となっている。製造業は1年ぶりに「好転」超過となった。3ヶ月後の次期見通しは28から30とわずかながらの改善となった。4割を超える企業が「よい」と見通していて、これで3期連続の改善である。業種別では、建設業が40から43と3ポイント、製造業が25から31と6ポイント、サービス業は27から29と2ポイント見通しを改善させたが、流通業は24から23で横ばいであった。ただし、流通業においても「よい」と見通す企業の割合は2%増加している。

【売上高】・【経常利益】
売上高、前年同月比は変化がないものの、見通しは全業種で改善
経常利益、建設業のみ大幅改善

売上高DI(前年同月比)は前回の9から変化がなかった。業種別で見ると、建設業が4から16と12ポイント、製造業が△1から5と6ポイント改善した。流通業は3から△1で4ポイント、サービス業が24から17と7ポイント悪化した。流通業が「減少」超過に転じたのは2014年5月調査以来である。次期見通しは前回の11から6ポイント改善して17となった。業種別でみても、建設業が16から23と7ポイント、製造業が8から12と4ポイント、流通業が9から15と6ポイント、サービス業が13から20と7ポイントと全業種で見通しが改善した。

経常利益DI(今月の状況)は前回調査の20から18と横ばいでの推移となった。業種別で見ると、建設業では20から32と12ポイントの改善となったが、流通業が14から8と6ポイント、サービス業が30から22と8ポイントの悪化となった。製造業は16から15と大きな変化はなかった。前年同月比も3から4と小幅な動きにとどまった。しかし、わずかながらも、1年ほど「好転」超過幅が拡大している。業種別で見ると、建設業が△1から8と9ポイント改善したが、サービス業は14から9と5ポイント悪化した。製造業は△3から△2、流通業が0から△1と横ばいであった。次期見通しは前回の19から4ポイント改善して23となった。建設業が20から29と9ポイント、製造業が18から21と3ポイント、サービス業が23から28と5ポイント見通しを改善させた。流通業は14から16と横ばいで推移した。

【在庫感】 小幅ながら2期連続の「過剰」超過幅拡大

今月の状況DIは、前回調査の10から12となった。わずかな変動幅ながら、2期連続の「過剰」超過幅拡大である。業種別で見ると、製造業は8から14と6ポイントの「過剰」超過幅拡大となったが、流通業は13から10と3ポイントの縮小となった。前年同月比は5から3ポイント「増加」超過幅が拡大して8となった。前年同月比も2期連続の「増加」超過幅拡大である。業種別では、製造業が7から11と4ポイント「増加」超過幅が拡大し、流通業(4→5)は横ばいでの推移となった。次期見通しは5から6と大きな変化がなかった。業種別で見ても、製造業(8)は前回から変化がなく、流通業(2→4)も大きな動きはなった。

【取引条件】 前年同月比・次期見通しともに前回調査から変化なし

前年同月比DIは前回の0から変化がなかった。業種別で見ても、製造業(△1)・サービス業(0)は前回調査から変化がなかった。建設業(5→4)・流通業(△3→△1)は横ばいでの推移となった。次期見通しも前回の0から変化がなかった。業種別で見ても、建設業(2→4)・製造業(△1→△2)・流通業(△1→△1)・サービス業(1→0)と全業種で見通しに大きな変化は見られない。

【資金繰り】 建設業で窮屈感弱まる

今月の状況DIは前回の△23から△24と横ばいで推移した。業種別で見ると、建設業(△26→△19)で「窮屈」超過幅が縮小したが、製造業(△17→△23)では拡大した。流通業(△22→△23)・サービス業(△27→△28)は横ばいでの推移となった。次期見通しは前回の△24から4ポイント「窮屈」超過幅が縮小して△20となった。業種別で見ると、建設業(△27→△14)・流通業(△24→△21)・サービス業(△25→△20)で「窮屈」見通しの超過幅が縮小し、製造業(△21→△23)は大きな変化がなかった。

【設備過不足】・【施設稼働率】
設備過不足、建設業・流通業で「不足」超過幅拡大
施設稼働率、前年同月比3期連続の「低下」超過幅拡大

設備過不足DI(今月の状況)は前回調査(△15)から変化がなかった。業種別では、建設業(△15→△18)・流通業(△10→△14)で「不足」超過幅が拡大したが、製造業(△15→△10)は縮小した。サービス業(△19→△18)は横ばいでの推移となった。次期見通しは前回の△14から△16と大きな変化はなかった。業種別では、建設業(△16→△19)・流通業(△10→△14)で「不足」見通しの超過幅が拡大したが、製造業(△15→△16)・サービス業(△15→△16)は横ばいであった。

施設稼働率DI(前年同月比)は前回調査の△5から△7とわずかながら「低下」超過幅が拡大した。これで3期連続の「低下」超過幅の拡大である。業種別で見ると、流通業(△5→△8)は「低下」超過幅が拡大したが、製造業(△5→△6)は横ばいで推移した。次期見通しは前回(1)から変化がなかった。業種別で見ると、製造業(5→2)では「上昇」見通しの超過幅が縮小したが、流通業(△4→0)は「低下」見通し超過幅の縮小となっており、反対の動きを見せている。

【雇用】 今月の状況、再び「不足」超過幅拡大

今月の状況DIは前回の△38から5ポイント「不足」超過幅が拡大して△43となった。前回の調査では、1年ぶりに「不足」超過幅縮小となったが、再び拡大に転じた。業種別で見ても、建設業(△52→△58)・製造業(△28→△32)・流通業(△37→△42)・サービス業(△39→△44)と全業種で「不足」超過幅の拡大に転じている。次期見通しも前回の△36から4ポイント「不足」超過幅が拡大して△40となった。業種別で見ると、製造業(△26→△34)・流通業(△34→△38)で「不足」見通しの超過幅が拡大したが、建設業(△53→△54)・サービス業(△36→△38)は横ばいであった。

【価格変動】
仕入価格、「上昇」超過幅縮小続く
販売価格、建設業のみ今月の状況で「上昇」超過幅拡大

仕入価格変動DI(今月の状況)は前回の36から27と9ポイントの「上昇」超過幅縮小となった。横ばいをはさみながらも、1年以上「上昇」超過幅の縮小傾向が続いている。業種別では、建設業(43→36)・製造業(39→27)・流通業(38→27)・サービス業(26→23)と全業種で「上昇」超過幅が縮小した。前年同月比も前回の36から5ポイント「上昇」超過幅が縮小して31となった。業種別では、建設業(45→40)・製造業(46→33)・流通業(36→29)は「上昇」超過幅が縮小したが、サービス業(23→25)だけは、わずかながら拡大した。次期見通しも前回の27から23と4ポイント「上昇」超過幅が縮小した。業種別では、製造業(31→18)・流通業(33→27)で「上昇」超過幅が縮小したが、サービス業(18→21)は拡大した。建設業(28→29)は横ばいでの推移となった。

販売価格変動DI(今月の状況)は前回の9から8と大きな変化はないものの、傾向としては「上昇」超過幅が縮小している。業種別でみると、建設業(8→15)は「上昇」超過幅が拡大したが、製造業(7→2)・流通業(13→11)・サービス業(8→5)では縮小した。前年同月比も前回の11から10と大きな変化は見られなかった。業種別では製造業(10→4)で「上昇」超過幅が縮小したが、建設業(16→16)・流通業(12→13)・サービス業(9→7)は大きな変化がなかった。次期見通しも前回の7から8と小幅な変化にとどまった。業種別では、建設業(7→11)・流通業(11→14)は「上昇」見通しの超過幅が拡大したが、製造業(4→1)は反対に縮小した。サービス業(6→8)は横ばいで推移した。

【借入金利】 短期・長期ともに大きな変化なし

短期借入金利DIは前回調査の△4から△5と横ばいで推移した。業種別でみると、建設業(△5→△4)・製造業(△6→△6)・流通業(△4→△6)・サービス業(△2→△3)の全業種で大きな変化は見られなかった。

長期借入金利DIも前回の△7から△6と横ばいでの推移となった。業種別で見ると、建設業(△10→△5)・製造業(△11→△7)は「低下」見通しの超過幅を縮小させたが、流通業(△6→△8)・サービス業(△4→△4)は大きな変化はなかった。

【経営上の力点など】 経営上の問題点、今回も第1位は「従業員の不足」

全業種で見た経営上の問題点は、第1位が44%で「従業員の不足」となっている。それに「民間需要の停滞」(26%)と「人件費の増加」(22%)が続いている。業種別で見て特徴があったのは、前回同様、建設業で「下請業者の確保難」(45%)、製造業で「熟練技術者の確保難」(30%)、サービス業で「新規参入者の増加」(29%)がそれぞれ第2位になっていたことである。文書回答では「マイナンバー制度の導入による費用の増加」などがあった。

全業種における経営上の力点は、前回と同じ順位で第1位「付加価値の増大」(54%)、第2位「新規受注(顧客)の確保」(53%)、第3位「人材確保」(35%)であった。文書回答では「業務のマニュアル化」や「事故の削減」などがあった。


<会員の声(業種別)>

(1)建設業

●建設業のDI値は水面上高位で推移していますが、文章回答からは民需を中心に件数減少や値下げ交渉および在庫高など局面転換と見られる現象もあり注視が必要です。雇用不足DI値もやや緩む一方で、経営上の問題点では、従業員不足が54.5%と過去最高値となり下請業者の確保難45.1%が続きます。技術者不足など社会を支える基盤の弱体化が懸念され、花火的施策だけでは多数の地域の中小企業にとってより複雑な難しい問題を抱えこむ実情が伺われます。中小企業や地域で起きている実態をよく把握し、真に豊かな地域や社会づくりへ向けた地道で着実な政策が望まれます。(事務局 加藤)

1.建築設計、不動産

  • 建築費高騰と人手不足により計画通りの事業推進ができない。そのため仕事はあってもお金が回りにくくなっており多くの取引先で支払い時期や金額を延ばす要請がある。不動産は、中心部の買い意欲は高いが住宅地では在庫高で一服感あり。建設費高騰の原因は、資材の値上がりと職人や現場監督の不足によるもので根本的解決は不可能に近く、しばらくはこの状態が続きそうだ。しかし、住宅の販売状況などを見ると景気が良いとは言いにくく、業界としては民需に不安を感じている。
  • 消費増税前の駆け込み需要の影響がまだあり販売需要低下がみられる。また在庫物件の増加にかかわらず、消費税価格転嫁から若干の価格上昇および値引き不能物件が多く販売が少ない。住宅ローン金利低下もあまり購入意欲に繋がっていない。一部の投資物件の価格上昇や東京首都圏の過熱需要に押された投機的な不動産需要が名古屋圏にも波及しているが実需ではないと思われる。賃金上昇の影響も限定・短期的と捉えている消費者が多いようだ。仲介一本の業態では利益のでる契約件数を確保できない。

2.総合工事、一般建築

  • 仕入価格の上昇は深刻を超え、客先が様子見で遠のく不安が出てくる。職人不足が深刻な業者とそうでない業者があり、従業員が将来に不安を感じ辞めた人が戻らないなど深刻な業者は見積もりも出来ない状態。社員教育は大切だが仕事が立て込んでくるとどうしても疎かになりがちで怖い。それぞれの会社であると思われる得意分野の絞り込みが大切だ。
  • 職人不足で売上を上げることができない。今いる職人でやれる分しか工事ができない。

3.鉄筋・鉄骨

  • 建設業界全体が受注活動に慎重な姿勢を示すようになり、技能工の賃金も約3年前の「異常」から「正常」へ戻った。しかし半減した技能工数はそう簡単には戻らず人手不足は解消されないまま今後も続くと思われる。若い人を雇用し育成するためには業種によって相当の年数が必要であり、企業経営面の「余裕」と「安定受注」が必要だ。再び「安値受注合戦」を繰り返すことがあれば建設業界に将来はない。
  • これまでにない人手不足で進行案件の工期が間に合わず今後の受注も控えたいところだ。元請も協力業者探しに難儀をしている。手間単価は上昇しているが、倍にされてもこなす下請けや職人や応援を確保するのが非常に困難な状態である。

4.屋根、塗装防水、給排水設備、サッシ建具

  • 物件は減少し請負単価値下げ圧力があるのに、材料、燃料、輸送単価などは値上げ要請が頻出しており両社からの板挟みで非常に厳しい環境にある。
  • 決算を終えて消費税を払う時期となりその金額にびっくりした。
  • 7月は例年落ち込み今年も想定内。着工物件数は増えているため10~11月は問題ない。注文住宅メーカーは順調にエンドユーザーと契約ができているが分譲メーカーは売れていない。エンドユーザーの動向は価格でないデザイン性等の価値に需要を感じる。
  • 大手メーカーより板ガラスの値上げ告知。需要増は来年9月末消費増税予定に向けた動きのみで、その後はかなり厳しい見通しがされている。競争が激化する中で、仕入価格が高止まりしたままで販売価格が下落していくシナリオが予想される。付加価値率増大のための新規事業戦略が急務だと考えている。

5.内装、リフォーム、エクステリア

  • メーカーからの値上げがあり取引先からの値下げが始まり、利益率は急激に下がっている。自社施工率を上げ利益率を上げなければ倒産の可能性も出てくるかもしれない。人手不足が問題化している今、いかにスピーディに案件をこなしていくかが現在の課題になっている。
  • 消費増税の駆け込み反動で新規見積依頼件数は30%ダウン、受注は15%ダウン。駆け込み受注残がしっかりとあるため完工高は10%アップだが見通しは暗い状況。職人が一部単価の上昇している職種に鞍替えする動きもあり、益々職人の確保が難しくなっている。
  • アベノミクス効果への期待へのギャップが大きい。少子化や高齢化に起因する環境変化に対応していない。
  • とにかく人材難。新入社員はもとより協力業者の人手不足が深刻です。景況感は、名古屋駅周辺開発も仕上げ段階に入る建物が増え今後の見通しは明るく東京オリンピックまでこの景気は続きそう。
(2)製造業

●「今月の状況」DI値は、全業種では落ち込む中、製造業(12→15)は建設業と並んでやや持ち直しています。「次期見通し」は前回調査に引き続き上昇値(業況判断25→31、売上高8→12、経常利益18→21)を示していますが、全業種での「今月の状況」DIは2回連続で落ち込み、期待との乖離が気になるところです。また、在庫感(8→14)が高まっており、設備過不足(△15→△10)も不足感が改善しています。仕入価格(39→27)、販売価格(7→2)のいずれも低下傾向で、特に中国経済を中心に今後の動きに注意が必要です。(事務局 井上一)

1.金属、樹脂などの量産加工

  • 海外での人件費の増加や円安の影響により、国内回帰の判断が見受けられる。
  • 個人事業主の廃業に伴う、仕事が少なからず増えてきている。ということから、新たな設備投資をしてまで零細企業は、事業を永続しようとはしていないと思う。これは、加工単価が、依然上昇していないためだ。
  • 近年、得意先からの値下げ要求が厳しく、販売価格が低下し続けている。今後も改善される見込みもない。人件費は、基準値があがり、仕事量をこなしても利益は相当上がりにくい状況。
  • 自動車部品業界では、海外現地生産と国内生産がはっきりと分かれつつある。見積では、相見積され受注できていない。国内だけの生産量では、量産機の効率が落ち減益となってきている。自動車以外の受注確保がカギになってくる。

2.電子部品・デバイス製造

  • 大企業が人件費を上げると値下げ要求の土台ともなり、結局のところ中小企業と大企業の人件費の格差が広がると考えます。人材確保もままならず、中小企業が社員の質で対応するには、税制も含めた施策の充実を望む気持ちです。

3.機械部品・機械製造

  • 大手カーメーカーの試作に対する方針転換による影響が大きく、今後については非常に読みにくい。
  • 昨年より見積りの案件が少ないので、動きは鈍いと感じています。夏以降、設備投資の方向は忙しくなるという話も聞いてはいるもののいつものことなので鵜呑みにはせず、慎重に見極める必要がある。
  • 大手企業の海外生産への移行の勢いが止まらず、海外生産用の販路を作らないと売り上げが伸びない。 現状のままでは縮小の一途をたどる形になるので設備投資が必須。
  • 為替の大幅な変動により、国外からの調達が困難になってきている。現状は、日本とほぼ変わらない為、以前の様な国外調達によるコストダウンは厳しく、通常の協力会社という感覚で取引を行っている。

4.印刷

  • 春から紙・インク・印刷版の値上げがありました。紙はある程度交渉の余地があり、値上げ幅をある程度抑えることができましたが、インク・印刷版は一切交渉の余地がなく値上げを飲むしかありませんでした。これほど強硬な値上げは初めてです。しかしそれを販売価格に転嫁することはできず大きな問題になっています。
  • 水産練り業界では、半年ごとの価格改定ごとに輸入材料が約1割アップするためロットが小さくなり、包材のコストアップが避けられないにもかかわらず残り予算が少ないため、包装資材値上げの余地が少なく厳しい状態です。包材を製造・納入する当社には円安より円高の時の方が、業界が元気であったような気がします。

5.食品・繊維・雑貨など

  • 現場の安全・安全衛生にかかわる商品を製造・販売しているが、受注業者は最初にこの部分の費用を削って利益を確保していく傾向がある。やはり、労働者・近隣の地域住民の安全を考えると、もう少し国レベルで規則を厳しく義務化し、その部分は予算として認めるべきだと考えます。
  • 中部圏ではコンビニエンスストアチェーンの再編が始まっており、中規模チェーンからの発注量には対応できていたメーカーも、トップクラスの規模には対応できなくなるところがでてくる可能性がある。

(3)流通業

●「今月の状況」は、業況判断DIが15→10、経常利益DIが14→8と大きく下がりました。また販売価格変動DIが15→13→11と小幅の続落傾向を示す一方、仕入価格変動DIは37→38→27と今回急落しました。原油価格が低い水準で移行していることに加え、最近中国経済が急減速したことなどの世界情勢を反映し、愛知の経済も現在は停滞・縮小傾向にあるものと思われます。その他、資金繰りDIは△22→△23と横ばい、雇用動向DIは△37→△42と悪化しました。特に雇用動向は今回、全業種において小さくない幅で悪化しています。文書回答では業界問わず「深刻な人手不足」にある他には一定した特徴は見られず、全体としては厳しい状況が続いている中、業種業界によって景況は実にまだら模様の様相です。各社各業種の立ち位置ごとに、ミクロ・マクロの経済動向を慎重に見極めなければならない情勢にあると思われます。 (事務局 政廣)

1.機械器具(自動車、事務機器、電設資材等)

  • 自動車は良いというが、決して良いという実感はない。ただ、悪いかと言われれば、そこまで悪くないという感じ。来年に向けては厳しい話が多い。特に中国の不調が大きく影響すると言われている。
  • 当社業界は5年周期くらいで大きな谷が来るのだが、リーマンショックから5年を経ている。そろそろ需要がピークを迎え、大きな谷が待ち構えているような気がする。全世界的に製造業は供給過多の状況になっている事と、金融にひずみが来ている事を考えるとそろそろリセッションの時期か。

2.建築資材

  • 足元の活況感はまだない。アベノミクスの「第3の矢」に期待したいが、自助努力のみが頼りの印象。
  • 国内のお客様の反応や声がすこしづつ明るくなってきた気がする。しかし、まだ円安なので非常に仕入が高くなり、粗利確保が苦しい。

3.繊維、衣服、雑貨

  • アベノミクス効果は中小企業(少なくとも自社には)には実感できない。仕入単価は確実に上がる気配に対し、売値は上げていけるのかどうか心配である。
  • 販売価格は理想通りとはいかないまでも、ある程度転嫁できているが、小売店の販売価格の上昇に消費者がついてこれていない。

4.飲食料品

  • 農作物の天候不良による、発育生育不足・病気発生・産地の被害の為、仕入れ単価の上昇、連休前後の仕入れの増大、資金繰りはやや厳しい。
  • 世の中の動きが変わり主力事業が主力でなくなり、8月お盆の繁忙期で、天候などにより仕入れ価格が倍になり大変であった。

5.運輸、情報通信

  • トラック業界は輸送品種によって景況感にバラつきがあり、近年にはなかった荷物格差を感じる。全体の景況が好調なのではなく、政策によって動く業界と、停滞する業界がハッキリし、荷物に表れてきているように感じる。また、若いドライバーの担い手が少なく、業界としてはそれが一番の課題になってきている。
  • 一般消費者の物品の購入量が、全体的に減少しているように思える。それによって、購入する店舗は大手に集中し、小売店のネットショップの退店が今年度続いている。大手も、これまで外注に出していた仕事を、自社内でまかなう傾向があり、取引先の減少になっている。新規参入する小売店も先に述べたとおり、一年前後で撤退しているので、かなり厳しい状況にある。

6.保険、不動産

  • 保険業法の改正など、あまりにも急激な就労条件の変化(悪化)による職業モラルの低下が起きないか、業界全体のマイナスになるので心配になる。
  • 不動産への銀行融資が積極的なので、投資系の不動産はかなり過熱気味だが、実需の不動産、特に新築戸建は低迷しているようだ。たまたま弊社は収益系を扱っているので、その恩恵にあずかっているが、今後も新築戸建、新築マンションは慢性的に苦戦していくと思う。一方中古マンション、中古戸建は毎年伸びているようで、人口減、建設費高騰の要因の他、消費形態自体が変化している様に思う。
(4)サービス業

●前回調査時の予測通り主要指標が落ち込み、カテゴリー別においても総じて悪化しています。具体的には、今月の業況判断DIは、専門サービス業が32→18、対個人サービス業が31→11、対事業所サービス業が26→25、今月の経常利益DIは、専門が35→22、対個人が20→12、対事業所が33→31、前年同月比売上高DIは、専門が28→16、対個人が19→17、対事業所が22→16となっており、専門・対個人サービス業において悪化超過幅がより大きくなっています。経営上の問題点の上位三項目「従業員の不足、新規参入者の増加、人件費の増加」は全業種の平均を上回り、人材確保がサービス業全般において深刻な問題として恒常化しています。「新規参入者の増加」は、専門サービス業の回答が7割を占め、自社の強みを活かした事業展開が急務と言えます。次期見通しは、経営上の力点を「付加価値の増大、新規受注の確保、人材確保」に置き、業況判断DIで2ポイント、売上高DIで7ポイント、経常利益DIで5ポイントの持ち直しが予測されています。 (事務局 岩附)

1.飲食

  • とにかく人員不足が深刻。商売柄アルバイト依存度が高いが、人員確保が困難な上、同業他社や異業種の雇用増大に伴い、アルバイトスタッフは掛け持ちで働く。結果、時給・職務内容・人間関係など条件のよい職場に行く。アルバイト依存体質から正社員比率を上げるべく、試行錯誤している。

2.クリーニング

  • 業状、売上も良くない中、決算も近く税金の支払いなど資金繰りが不安。今後の見通しも、業界団体の反応では5%のダウンがささやかれている。新たな雇用があいかわらず進まない中、最低賃金のさらなる上昇に人件費増大の覚悟を決めなくてはいけない。

3.自動車整備

  • 自動車事故の際、保険を使うと今後3年間高くなる(事故有り等級)ので、単独事故のちょっとしたへこみ等は治さない人が増えてきた。よって入庫台数が減っていく傾向にある。
  • 今後、自動車板金塗装業界は、完全な二極化が進み、何もしないところは消えていく。後継者問題も深刻で次世代の人が育たない。

4.リース

  • 引き続き取引先の経費削減ほかの要因はあるが、昨年に比べると活発な取引が続いている感じはする。ただ、ここにきて経費削減要求の話がちらほら聞こえ始め気がかりな要素ととらえている。

5.広告・印刷

  • 広告業界は、厳しい状況が続いている。低価格にお客さまが慣れてしまい、費用の出ないプレゼンが普通になってきている。どのように価値を認めてもらい適正価格で商売していくかが大きな課題。プレゼン・コンペは予算との戦いで、苦労はしたが利益は出ない事が多い。

6.産廃・環境

  • 中国の景気後退による安売り輸出政策で、国内・海外とも価格下落が続いており、苦境に立たされている。元の切り下げにより、さらなる輸出攻勢がかかると、もっと市況が悪くなるかもしれない。したくはないが、規模縮小も視野に入れないと生き残れないかもしれない。

7.ビジネス支援・専門サービス

  • 建築業界は、ここ数ヶ月は忙しい。年末の繁忙期が予定通りであれば、年内の見通しはよい。ただ、小規模事業者は周りより数ヶ月遅れて景気の波がくる。今の状況が、景気からくる短期的なものなのか、方針戦略を実践した結果なのか、見極める必要がある。
  • 新規参入者の増加により、法律相談の割当等の減少が顕著である。それ以外の仕事についても全体のパイが変わらない中、仕事量の減少がみられる。いかに他者との差別化をはかり、強みを活かした事業展開を行うかがポイントとなっている。
  • 「世界で一番企業の活動しやすい国に」は、政府のスロ-ガンだが、字が一字抜けてはいないか。「企業」でなく「大企業」の間違いであろう。あらゆる産業において、大手企業への寡占化が顕著に進みつつあり、中小企業の総事業数は、依然として縮小の方向である。政府のとるべき政策は「日本国民に役立つ企業、その基本は地に付いた、即ち中小企業の発展とそれに即応しうる大手企業」に的を絞るべき。そのような諸政策が、今日、緊急に求められるべきものでは無いかと考える。