景況調査

第94号-2017年5月
足踏む景気
~「今月の状況DI」は2期連続悪化、「前年同期比DI」は横ばい~

【概況】
【業況判断】 今月の状況は悪化するも次期見通しは改善
【売上高】・【経常利益】 売上高、前年同月比、横ばいで推移。経常利益、業種ごとに明暗分かれる
【在庫感】 製造業、流通業ともに「過剰」超過幅拡大
【取引条件】 横ばい傾向が続く
【資金繰り】 やや「窮屈」超過幅が拡大傾向
【設備過不足】・【施設稼働率】 設備過不足、流通業で「不足」超過幅縮小。施設稼働率、すべての局面で「低下」傾向
【雇用】 人手不足感、深刻ながら緩和傾向
【価格変動】 仕入価格、「上昇」超過幅拡大。販売価格はサービス業で「低下」傾向
【借入金利】 短期金利、サービス業以外「低下」超過幅が拡大。長期金利、製造業で低下
【経営上の力点など】 経営上の問題点、「従業員の不足」・「人件費の増加」が上位に

<会員の声>

DI値推移一覧表(PDF:602KB)

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景況調査報告(2017年5月)第94号(PDF:1.44MB)


【概況】

「よい」と回答した企業の割合から「悪い」と回答した企業の割合を差し引いた「今月の状況DI」は、前回の26から23へ3ポイントの悪化となりました。昨年11月調査の32をピークに2期連続の悪化です。業種別には建設業が38から28へ10ポイント、製造業が19から15へ4ポイント、流通業が19から18へ1ポイントの悪化となりました。サービス業は前回調査と同じ29でした。

今回の調査でも「良い」と答えた企業が「悪い」と答えた企業を上回っている状況(DI値がプラス)に変わりはありませんが、2期連続でDI値が低下したということは景気の足取りに力強さが失われつつあると見ることもできます。このことは、「前年同期比DI」が昨年11月以来3期連続で6と、「横ばい」状態が続いていることでも確認できます。

総じていえば、昨年後半に回復基調にあった景気が本年に入ってから「力強さ」を徐々に失い、「足踏み」状況に入ってきていると言えそうです。

こうした景気の「足踏み」感を反映するかのように、今回の景況分析会議の論調も前回の会議と大きな変化はありませんでした。前回同様、建設業については当面マンションを中心に新築件数が高位で推移しそうだが、先行きは厳しくなるだろうという「慎重論」が大半でした。15年後半以降2桁の伸びを示してきた銀行(全国)の「アパートローン」新規融資額が本年4月に0.2%のマイナスに転じたというニュースもこうした「慎重論」の背景になっています。また、名古屋駅周辺などの大型の工事案件がおおむね終了したことも、先行き不安を生んでいるようです。

製造業については、半導体や工作機械については「非常に好調だ」という意見が出されましたが、その他については5月に入ってからはむしろ低調気味という意見が聞かれました。自動車関係では、前回同様「二極化」の進行が顕著であるとする意見が多く出されましたし、北米での新車販売台数の減少が国内の製造業に与える影響を懸念する声も聞かれました。

サービス業については業態があまりに多様であるため、全体の「傾向」をヒヤリングで読み解くことは難しいですが、個人向けについては消費の低迷を反映して、小売りも含めて前回同様「回復を示すような現象は確認できない」とする声がほとんどでした。

今後については、「次期見通しDI」が今回の調査で32となり、前回(29)よりも強気の見通しが増えました。先行きへの強い期待を見て取ることができます。ただ、「今月の状況DI」(23)が前回調査で今期を予測した「次期見通しDI」(29)を6ポイントも下回ったように、今後景気が期待通りに推移するかどうかは予断を許さない状況です。

[調査要項]

調査日 2017年5月22日~5月31日
対象企業 愛知中小企業家同友会
調査方法 会員専用サイト「あいどる」
回答企業 会員企業より1673社の回答を得た。業種内訳は以下
(建設業295社、製造業353社、流通業463社、サービス業562社)
平均従業員 24.9名(中央値7名)

なお、本報告は愛知中小企業家同友会・経営環境調査委員会(委員長、太田厚・(株)太田電工社社長)が実施した調査結果をもとに、景況分析会議での検討を経てなされたものです。

【業況判断】 今月の状況は悪化するも次期見通しは改善

「今月の状況」DIは前回の26から23と3ポイントの悪化となった。業種別でみると、建設業が38から28と10ポイント、製造業が19から15と4ポイント悪化した。また流通業が19から18とほぼ横ばい、サービス業も29から29と横ばいで推移し、後退傾向を示した。前年同月比は前回の6から今回も6と変わらなかった。業種別でみると、建設業が10から5と5ポイント悪化し、流通業は1から2、サービス業も13から14とほぼ横ばいとなった。製造業だけは△3から0と3ポイント改善となった。3ヶ月後の次期見通しは前回の29から32と3ポイントの改善となった。建設業では31から39と8ポイント、流通業は23から27と4ポイント見通しが改善したが、製造業は24から26、サービス業は36から35とほぼ横ばいとなった。

業況推移DIグラフ(クリックで拡大表示します)

【売上高】・【経常利益】
売上高、前年同月比、横ばいで推移
経常利益、業種ごとに明暗分かれる

売上高DI(前年同月比)は前回の8から横ばい傾向で推移して10となった。業種別でみると、建設業が9から7と、製造業が△1から1と、サービス業が14から16と、それぞれ横ばい傾向で推移した。流通業は6から11と5ポイント改善した。次期見通しは前回の15からほぼ横ばいで推移して16となったと。業種別でみると、建設業が9から7と横ばい傾向であるものの、製造業が5から8と3ポイント、流通業が14から17と3ポイント改善した。サービス業は22から20と売上が減少傾向の横ばい傾向だった。

売上高推移DIグラフ(クリックで拡大表示します)

経常利益DI(今月の状況)は前回調査の24から24と横ばいとなった。業種別でみても、製造業が20から18と、サービス業が27から29と横ばい傾向となった。建設業は28から20と8ポイント悪化したが、流通業は21から26と5ポイント改善した。前年同月比は前回の3から6と3ポイント改善した。業種別では、建設業が7から3と4ポイント悪化した。流通業は△1から6と7ポイント、サービス業が9から12と3ポイント改善した。製造業は△2から△1とほぼ横ばいとなった。次期見通しは前回の23からほぼ横ばいとなり24となった。業種別でみると、サービス業は27から31と4ポイント改善した。他の業種は、建設業は24と変わらず、製造業は19から17と横ばい傾向、流通業は22から21とほぼ横ばい。サービス業だけは、27から31と4ポイント見通しを改善させた。

経常利益推移DIグラフ(クリックで拡大表示します)

【在庫感】 製造業、流通業ともに「過剰」超過幅拡大

今月の状況DIは、前回調査の4から7と3期ぶりに過剰傾向を表した。業種別でみると、製造業(7→9)・流通業(1→5)とも「過剰」超過幅が拡大した。前年同月比は前回の1からほぼ横ばいで2となったと。業種別でみても、製造業(3→5)・流通業(△2→△1)ともに「過剰」超過幅が拡大した。次期見通しは前回の2から4と2ポイントの「過剰」見通し超過幅の拡大となった。業種別でみても、製造業は5と変わらず、流通業は0から2と横ばい傾向で推移した。

【取引条件】 横ばい傾向が続く

前年同月比DIは3と変化がなかった。業種別でみると、建設業(7→5)が2ポイントの「悪化」超過幅拡大となった。製造業(△2→0)・流通業(1→3)は3期連続の改善、サービス業(4→4)は横ばいでの推移となった。次期見通しも前回の4から2と大きな変化はなかった。業種別でみると建設業(7→6)・流通業(2→2)では見通しに大きな変化はみられず、製造業(1→△1)・サービス業(5→3)では「悪化」超過幅が拡大となった。

【資金繰り】 やや「窮屈」超過幅が拡大傾向

今月の状況DIは、今回、前回とも△21と横ばいで推移した。業種別でみると、建設業(△26→△26)と変化がなく、製造業(△20→△19)・流通業(△20→△19)と穏やかに改善傾向がみられた。サービス業(△20→△22)は「窮屈」超過幅が拡大した。次期見通しは前回の△19から△20とほぼ横ばいであった。業種別では、建設業(△24→△23)・流通業(△17→△16)は「窮屈」超過幅が縮小する結果となったが、製造業(△21→△23)・サービス業(△17→△19)では「窮屈」見通しの超過幅が拡大した。

【設備過不足】・【施設稼働率】
設備過不足、流通業で「不足」超過幅縮小
施設稼働率、すべての局面で「低下」傾向

設備過不足DI(今月の状況)は前回調査の△19から△17と「不足」超過幅が縮小した。業種別でみると、建設業(△19→△17)・製造業(△23→△20)・流通業(△16→△11)で「不足」超過幅が縮小した。サービス業だけは△19→△20と「不足」超過幅が拡大した。次期見通しは前回△18から△15と穏やかな改善傾向が見られた。業種別でみると、建設業(△18→△19)が僅かながら「不足」見通しの超過幅が拡大したが、製造業(△22→△17)・流通業(△14→△10)・サービス業(△18→△17)は反対に縮小した

施設稼働率DI(前年同月比)は前回調査の3から0と3ポイントの「低下」超過幅拡大となった。業種別でみると、製造業(4→0)・流通業(1→△1)ともに「低下」傾向に転じた。次期見通しは前回の0から△2と2ポイントの「低下」超過幅拡大となった。業種別にみると、製造業(0→△3)・流通業(1→△1)ともに「低下」超過幅を拡大した。

【雇用】 人手不足感、深刻ながら緩和傾向

今月の状況DIは前回の△49から△39と10ポイントも大幅に「不足」超過幅が縮小した。これは、2年前の人手不足感のレベルに戻ったことになる。業種別でみると、建設業(△64→△49)・流通業(△49→△37)は「不足」超過幅が二ケタ縮小した。その他、製造業(△42→△33)で9ポイント、サービス業(△44→△40)で4ポイント、いづれも縮小した。人手が「過剰」と回答した割合は変わらず、「不足」の割合が減った。次期見通しは前回の△43から△37と6ポイント「不足」超過幅が縮小した。業種別にみると、建設業(△57→△49)・製造業(△36→△29)・流通業(△41→△32)はいづれも「不足」見通しの超過幅が縮小した。サービス業(△40→△38)は横ばい傾向で推移した。

【価格変動】
仕入価格、「上昇」超過幅拡大
販売価格はサービス業で「低下」傾向

仕入価格変動DI(今月の状況)は前回の21から24と3ポイント「上昇」超過幅が拡大した。これで3期連続超過幅が拡大している。業種別でみると、建設業(17→23)・製造業(29→34)・流通業(23→25)では「上昇」超過幅が拡大し、サービス業(16→16)は大きな変化がなかった。前年同月比でも前回の21から23と2ポイント「上昇」超過幅が拡大した。業種別でみると、製造業(29→35)・流通業(21→24)は「上昇」超過幅が拡大した。建設業(21→23)・サービス業(14→16)は穏やかながら「上昇」傾向を示した。次期見通しは前回の19から1ポイント「上昇」見通しの超過幅が縮小して18となった。業種別でみると、建設業(16→18)・サービス業(11→15)では「上昇」超過幅が拡大したが、製造業(29→21)・流通業(22→20)では「上昇」見通しの超過幅が縮小した。

販売価格変動DI(今月の状況)は前回の6から1ポイント「上昇」超過幅が縮小して5となった。業種別でみると、建設業(3→4)・流通業(8→9)はほぼ横ばいで推移したが、製造業(△2→0)は「上昇」超過幅が拡大した。サービス業(10→6)は「上昇」超過幅が縮小した。前年同月比も今回、前回と7と変化がなかった。業種別でみると、製造業(△1→0)は「上昇」超過幅が拡大したが、建設業(5→5)・流通業(9→10)と大きな変化がなかった。サービス業(11→8)は「上昇」超過幅が縮小した。次期見通しは5から4と僅かに「上昇」超過幅が縮小した。業種別にみると、建設業(2→4)・流通業(7→8)は「上昇」超過幅が拡大したが、製造業(0→△3)・サービス業(8→7)と「上昇」超過幅が縮小した。

【借入金利】
短期金利、サービス業以外「低下」超過幅が拡大
長期金利、製造業で低下

短期借入金利DIは△5と横ばいで推移した。業種別でみると、流通業(△7→△5)は「上昇」超過幅が拡大したが、建設業(△2→△4)・製造業(△7→△11)では縮小した。サービス業(△3→△3)では変化がなかった。

長期借入金利DIは前回の△6から△8と小幅ながら「上昇」超過幅が縮小した。業種別でみると、建設業(△4→△7)・製造業(△5→△15)・サービス業(△4→△6)では「上昇」超過幅が拡大し、流通業(△8→△7)では大きな変化がみられなかった。

【経営上の力点など】 経営上の問題点、「従業員の不足」・「人件費の増加」が上位に

全業種でみた経営上の問題点は、第1位は前回から変化なく「従業員の不足」(44%)であった。「人件費の増加」(28%)も前回同様第2位となり、「民間需要の停滞」(22%)が第3位となった。業種別でみて特徴があったのは、建設業で「下請業者の確保難」(38%)が、サービス業で「新規参入者の増加」(29%)、「人件費の増加」が流通業(27%)、製造業(32%)といづれも第2位に入ったことである。文書回答では「二極化が進んでいる」「人手不足が恒常化している」があった。

全業種における経営上の力点は、第1位「付加価値の増大」(55%)、第2位「新規受注(顧客)の確保」(50%)、第3位「人材確保」(35%)で前回から変化がなかった。


<会員の声(業種別)>

(1)建設業

●建設業の業況は、水面上高位ながら「今月の状況」「前年同月比」で2期連続悪化、「次期見通し」は一旦上昇するも同「経常利益」は横ばいで推移(グラフ参照)、「雇用動向」不足感は△64→△49と若干緩和しています。名古屋駅前大型開発などで全国大手の名古屋支店開設ラッシュが続いてきましたが、大型物件収束により4月から一般物件へ参入し価格競争が激化。材料費上昇、運賃上昇、人手不足などにより採算面が厳しくなっていきています。投資物件は矛盾を拡大させながらも堅調に推移、戸建新築は好悪と分化、工場も半導体ロボットなどで堅調、不動産は実需に落ち着き感があるようです。

経常利益推移DI(建設業)グラフ(クリックで拡大表示します)

また、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」の誤った解釈で、任意適用の小規模事業者や一人親方が、社会保険未加入を理由に現場から排除されないよう、現場の実態を踏まえた対策が望まれます。

(事務局 加藤)

1.総合工事

  • 仕入れ価格の上昇から建設価格も上がり計画延期もでてきた。新築案件、官庁工事で影響が出ている。利益を確保できなくなってきているにも関わらず低価格で取りに来る企業がある。弊社には無理して受注しない方針だが対抗できるか不安。
  • 4月からの受注落ち込みがひどく9月決算が赤字になりそう。頑張りが必要。

2.店舗、リフォーム

  • 「働き方改革」と「人材難」で社員食堂やオフィスづくりの仕事の依頼が増えている。仕入れでは、建材メーカーの一部から配送費の値上要請(委託運送会社の運賃値上げのため)。社内では、賃上げと残業時間規制で人件費の増加はまぬがれない。受注も仕入れも社内も、「働き方改革」によって振り回されているように思うこの頃である。また県内の建設業の好況に頭打ち感が出てきたと思う。

3.基礎、土木

  • 建設業は全般に良好。トヨタからの仕事は出ていないが、中企業からは出ている。
  • これまで個人の事情で社会保険加入が難しい状況だったが、仕事が限られてしまうため何とか加入させたものの、過去未払い分やその他もろもろの督促や差し押さえになるケースが多く、安定をはかるための政策がより人材確保を困難にし窮地に立たせている状況。かといって相談窓口もなく容赦ない扱いにより過去の精算を会社で立替えたり負担が大きく厳しい状況。業界的に日雇い労働者で現場作業が成り立っていた事も否めない中、整えるどころか状況を悪化させ、人権無視の現状だと感じている。
  • 取引先により仕事受注のむらが大きい。良いところと悪いところとある。

4.鉄筋

  • 春から鋼材費が上昇し停滞。スクラップが急激に下がり鋼材メーカーは弱含みで在庫分の購入時期をにらんでいる状態。受注は地場の案件が順調に受注しているが、大型物件が少なくもうひと踏ん張り。大手の動きが芳しくなく、今は小さい案件でもありがたく受注し、基本に立ち返って粛々とこなしている状態。夏から年末にかけての受注を色濃くしたいところ。
  • 材料価格は実需ではなくグローバルなスクラップ市場価格に左右されている。景況は落ち感あり。

5.設備、電気工事、管工事

  • 建設業の構造改革がいよいよ進み始めた。多重下請け構造の解消、一人親方の入場規制、法定福利費の計上および支払い状況等、下請け業者への確認管理体制が必須条件となってきており、仕事を請ける前に業者選定と確保が必要な状況になってきた。
  • 電機通信工事業では建業法の関係により1人親方の離職が増加。また、元請け会社よりスマートフォンが支給され、名目はペーパーレス化の主張だが、実際はGPSを利用した監視。それは実際に持されている現場の人間も感じており離職へと繋がる行為になっている。単金は上がらないが、毎年毎年のように作業者に負担がかかっている状況。自社での離職者は未だないが、今後の対応策に四苦八苦している。国からの指摘・改善要求がでるまで耐えなきゃいけない状況なのか、それとも別の業種に転換すべきか、5年後10年後を考え中である。
  • 案件は多いが、人手不足、材料の高騰を単価に反映できず採算がとれない現場が多く見られる。

6.建築設計、不動産

  • 4月着工数、分譲、賃貸、一棟売りいずれも堅調に推移。分譲が若干減。4月受注は元請0.9、下請△11.6と大手主導で金が回っている。人手不足と材料高で利益率は下がっている。空室率が上がっているが建設投資アクセルから足が外せない需給ギャップのきわどい状態が続く。危ないところも出ている。土地は高値が続くが過熱感はなく駅近い物件など実需で動いている模様。
  • 新築戸建は勝負けがより明確に。契約までの期間延長、厳しい価格競争にさらされ、現場監督や担当者一人あたりの物件数が増え、協力業者、職人に対して目が行き届かずミスが多くなりそう。
  • 業界全体の在庫が増えている。地価上昇等により販売価格は上がったが売れ行きはさほど良くない。
(2)製造業

●業況判断DIの「今月の状況」では2期連続して落ち込みが見られますが、前年同月比でみると、製造業は4期連続で回復しており、15年11月調査以来の±0となりました。売上高DIも4期連続で回復し、15年11月調査以来のプラス値に転じ、次期見通しも2期連続で回復の見込みですが、経常利益DIは2期連続で落ち込んでいます。仕入価格DIが3期連続で上昇傾向を示しているにもかかわらず、販売価格DIが横ばいで推移していることにも一因があるように思われます。経営上の問題点では、「人件費の増加」「従業員の不足」「熟練技術者の確保難」の3つが上位を占めるなど、依然として労働力不足が課題ではありますが、雇用動向では「不足」と回答する総数が4期ぶりに低下するなど、変化の兆しが見られます。

(事務局 井上一)

1.金属加工・樹脂加工

  • 以前は強みであった短納期対応が標準になってしまった。今後、付加価値をつけるには超短納期対応が必要になるのではないか。
  • 自動車業界は、国内生産が減る一方で値下げ要請が相変わらず続き、しかし原材料費は上昇し、とても厳しい状態です。
  • 本格的に金属材料の価格が上昇していき、物にもよるが10~30円/kg程度上昇した。また、設備・機械関係の動きが鈍く、残業するほどの仕事がない取引先もある。
  • 営業活動範囲が中部地区中心から関東から関西へと広がっており運賃が利益圧迫につながっています。
  • 仕事はあるが、資金が回らない。
  • 相変わらず半導体関連業界は忙しい。今年いっぱいは受注があるだろう見通しが立っている。どこまで続くか見極めるのが大切だと感じる。採用活動は厳しい。人手不足感は今後ずっと続きそうだ。
  • 知的財産関連に向けられる経営資源が大企業との間で大きく差が出る。中小企業にとって規模拡大の障壁となっている。

2.機械部品・機械製造

  • この地域の製造業は大手自動車メーカーの動きに振り回されすぎる。仕事量の情報が交錯して何が正しいか、どう準備しておいてよいかよくわからなくなっている。
  • 若い人の人材確保がとても難しくなってからかなり時間が経過してしまった。今後、どう人材確保をしていけばよいか全くわからない。
  • 現状は物流や新規案件などの物の動きがよくない。昨年5月も同様だったため好転するような兆しが見えない。今後の見通しとしても不透明感は否めない。
  • 最低賃金のアップ率ほど工賃が上がっていないので利益は下がっていくばかりである。
  • 自動車メーカーの自動化設備をやっているが、米トランプ政権や北朝鮮問題等の為替変動や政策変動により、客先の設備計画が頻繁に変わる。
  • 受注価格が安すぎると思っている。安い仕事で振り回されているのではないか。仕事があれば忙しいと勘違いしているのではないか。
  • 社員を雇用している会社は目先の仕事を低価格で持っていく。見積もりに関して言えば、とりあえず仕事を取る、といった形をとっている。
  • 業界やお客様によって景況感の強弱が違うように感じるので、一律で景況感が良い・悪いを言い辛い。

3.印刷・包装関連

  • 全体的に動きはにぶく、苦しい状況が続いている。定期的に入る仕事で助けられている部分はあるが、その他の動きが悪すぎる。時間がある時に作ったサンプルを配布しているが、予想以上に反応が良いと感じる。ここを入口にして、生産体制の見直しや少しでも受注を増やせるようにPRしていきたい。
  • 事実、値下げ強要・値引き強要が行われていても下請けとしては今後の展開などを考えて告発を「できない」「しない」が多い様に感じ取れます。法的に守られていると言われても、告発をしてから徐々に仕事量が減らされ打切りになるかもしれない、と思うと言えない方は多いのではないか。値引き額に対しても10%から20%など、過度な数値を出してくる得意先がいるのも事実だと思います。

4.食品・繊維製品・雑貨・身の回り品製造業

  • バッグ業界は職人不足、呉服業界は新製品の売り上げ不振に伴い、生産者の減少。
  • 販売単価は上昇したものの昨年と比較すると来客数の減少がみられる。思った以上に店頭は苦戦している。在庫処分で店頭価格を引き下げると販売数量は極端に伸びる。インバウンドは順調に推移しているため爆買いに陰りがあるとすぐに在庫が膨らむ。
  • 受注価格は相変わらず値下げ競争である。
(3)流通業

●業況判断DIについて、前回2月期結果と比較すると、「今月の状況(19→18)」と1ポイント減少、業況判断DI「前年同月比(1→2)」と1ポイント増加、「次期(3ヶ月)見通し(23→27)」と4ポイント増加の結果でした。売上高DIでは、「前年同月比(6→11)」で5ポイント増加し、経常利益DIにおいても、「今月の状況(21→26)」で5ポイント増加、「前年同月比(△1→6)」で7ポイント増加しました。しかし、仕入価格変動DIでは、「今月の状況(23→25)」で2ポイント増加、「前年同月比(21→24)」で3ポイント増加しており、仕入価格が上がっている様子が伺えます。そして資金繰りDIでは、「今月の状況(△20→△19)」となっており、依然として資金繰りが苦しい状況が続いています。その他の質問の結果では、従業員が不足していることから人材確保が必要であること、また経営上の力点として、「付加価値増大や新規受注(顧客)の確保」に注力しているとの回答が大半を締めました。

(事務局 墨)

1.機械器具(自動車、事務機器、電設資材等)

  • 自動車関連は安定しているが、ロボット用減速機が急速な需要の増大に対応しきれず長納期化している。普通に発注しても6カ月近くかかり、これにより受注を逃すことが増えている。
  • 本来であれば、昨年末に出荷される予定であった新型ハイエースの部品がようやく主要部品メーカーからでてきた。金型納期がどこも8~9月末となっているため、加工メーカーの確保が難しい。

2.建築資材

  • 円安だが、価格転嫁はできず。建材を扱っているので、運送業界の動向が非常に気になる。建築現場などへの配送もあるが、その場合配送拒否か特別値上げを運送会社から提示されている。
  • 住宅関連は、着工数そのものはまだ落ち込みが無いのは「借家」が下支えしているから。ただ借家のサプライチェーンは、所謂「系列」で裾野の広がりは限定的で、ほぼ無いに等しい。
  • 家具製造は、大手メーカーが海外で新工場が立ち上がるため、家具完成品の対日供給圧力は増す。輸入品との競争になるため、日本国内メーカーは価格競争か輸入では対応しきれない。

3.繊維、衣服、雑貨

  • 大手量販店、コンビニの値下げの動きにみられるように、安く販売する傾向が強まっている。運送業者からの値上げ要請が増え、物流の面が厳しい状況になりつつある。

4.飲食料品

  • 連休明けから受注量の激減、急な気候の変化による農作物への影響により仕入れ単価が増大。人手不足から受注商品の内容に変化が現れており、売上減・人材確保難・人件費増大などかなりひどい。

5.運輸、情報通信

  • 中部地区では投資が春から夏まで停滞している感アリ。夏以降でのまき直しは売上確保上必須。東京は需要が旺盛。東京オリンピックまではこのまま好況が続く見込み。
  • 作単価の低下で、付加価値の増大を行わざるを得ないが、付加価値はすぐには売上につながらないため、構造的に厳しい状況が続いている。
  • 法規制など、二重行政によるコンプライアンス遵守への矛盾、業界実態・実情と行政の乖離に業界企業が困惑。コンプライアンスにかけた予算、仕入価格高騰分を販売価格(運賃)に転化できない。燃油単価の上下動が激しく、利益確保やキャッシュフローを改善するも、燃油が高騰すれば苦労も吹き飛んでしまう。
  • ドライバー不足による労働時間の問題が浮上。コンプライアンスの厳しさ、運輸局からの監査、お咎めなど悪循環で苦しめられている。運転免許取得の法令の変更、高速道路の夜間割引率、物流業界は大変な環境の中で生き残りをかけている状況である。燃料の高騰もじわじわと押し寄せている。

6.保険、不動産

  • 金融庁よりコンプライアンス重視ばかり求められ、本業以外の作業のみが増大している。
  • 自動車ディーラーが自動車保険の獲得に力を入れている。
  • 住宅の売れ行きは、相変わらず鈍ったまま。GWのハウスメーカー展示場来客数は、名簿ベースで3~4割減っているようです。事業用地や中古工場の問い合わせもかなり減ってきており、最近は中古住宅の売却の相談が増えてきている。
  • 不動産において、業界全体の在庫が増加。地価上昇等により販売価格は上がったが、売れゆきはさほど良くない。
(4)サービス業

●今月の業況判断DIは29→29、経常利益DIは27→29、前年同月比売上高DIは14→16とわずかに改善しました。サービス業の3業種の動向を見ると、業況判断DIでは、専門サービス業39→38、対個人サービス業18→20、対事業所サービス業28→18。経常利益DIは専門36→34、対個人17→25、対事業所16→24。前年同月比売上高DIは専門25→18、対個人2→15、対事業所14→14と対個人は全体として改善傾向にあります。

一方で仕入れ価格変動DIの変動がないにもかかわらず、販売価格変動DIは10→6と落ち込み、資金繰りDIも△20→△22と悪化しており、今後の動向に注視する必要があります。

経営上の問題では、「従業員の不足」45%と依然として人手不足感が続いています。これらの経営上の課題に対応するための「経営上の力点」では、「付加価値の増大」56%、「新規受注(顧客)の確保」52%と前回からの変動はありません。

次期見通し、売上高DIは22→20、経常利益DIは27→31、業況判断DIも36→35と大きな変動はない見通しです。人手不足が深刻化する中、生産性、付加価値を高めるための具体的な経営戦略がますます重要となります。

(事務局 伊藤)

1.飲食業

  • 働き方改革により人件費が上がるため、他経費の削減など知恵を出していく必要がある。
  • アルバイトの時給が値上がりしており、正社員雇用が出来ないという悪循環。人手不足が解消されず、営業困難に陥っている深刻な状況。

2.自動車整備業

  • 後継者問題等で同業他社の廃業が増加。先行きが不透明。
  • 小規模企業への高圧的な値引き強制や新規参入の大手企業が価格競争を仕掛けてきている為、末端の修理業者は衰退の流れを止められない。

3.産廃・環境

  • 資源販売単価はやや好調だが発生は微減傾向の為、将来的には衰退産業に移行していくかもしれない。
  • 片付け、遺品整理、家事代行(清掃等)の需要は年々増加しているが競争は激しくなってきている。
  • 樹脂業界は自動車販売数の減産により若干低迷。カボーンフットプリント(二酸化炭素)低減のリサイクル樹脂に関しても大手メーカーは付加価値を感じず見向きもしない。現在、中国は日本からの樹脂輸出先であるが、10年後には逆転しているかもしれない。国内の空洞化が進み大手メーカーの製造先が無くなれば樹脂販路の確保も深刻な問題。

4.洗濯・理容・美容

  • 経営環境は悪化しているが、現状把握し打てる手を打てば売上増加、利益増加も可能。
  • 人口減少の中で人材を確保することが課題。外国人労働者の採用も考えなければならない状況。

5.冠婚葬祭業

  • 少子高齢社会に伴い、葬儀業界は小規模化となり周辺売上も低迷を余儀なくされている。大手企業による店舗点在密度が高くなり、顧客争奪戦の飽和状態である。

6.広告、印刷業

  • メディアについてはペーパーレスが懸念。クリエイティブに関しては、広告(コミュニケーション)の在り方が変容、多様化しているのでコンテンツ価値が理解されにくい。若年層の優良人材確保と育成が重要な課題。

7.社会福祉・介護事業

  • 世代の変化に伴い販売方法を考えて商品転化及び広告、発信方法を変えて行かなければならない。法改正を含めた今後の展開が重要視される。

8.専門サービス業

  • 今後AI(人工知能)による仕事減の波が押し寄せてくる。5年後10年後を見据えた行動が必要。
  • 世情の不安定化が顕著になり、見通しの不安定さが、経営を沈滞しかねない。経済の基盤が中小企業である事の本質を、言葉だけでなく、実践的課題とすべき事態。