理事・支部役員学習会 9月14日

山口私案「金融アセスメント法」を学ぶ
「怒り」を「知恵」に



 「公的資金注入で金融危機は収まった」「特別信用保証制度で中小企業の資金繰りは楽になった」など、「問題はすでに解決したはず」という声もあります。が、本当に解決したでしょうか?
 企業家の声を集め、課題を整理し、解決のための具体的提案を行っているのが、愛知同友会でも活躍されている立教大学の山口義行氏です。今回、氏の提案である「金融アセスメント法」の学習会が9月14日に開催され、理事・支部役員を中心に、53名が参加しました。


中小企業のための金融システムの創出

 報告の中では、同友会のアンケート調査による「中小企業のための金融システムを創出すべき」という声をまず紹介。さらに、私達が「不当」だと感じている点を、(1)不良債権のツケを「貸し渋り」等で中小企業に負わせている点、(2)国民の税金で銀行の不良債権を買いとり、後始末している点、(3)「個人保証」の問題、(4)特別信用保証制度も結局、リスクを国に負わせている点などを挙げました。このように私達の「庶民感覚」からの正当な「不満」を出発点にして、「金融アセスメント法」が生まれた経過を語られました。9月16日の第5回理事会では、「中小企業経営者自身の問題としての認識を広めること」等を確認しました。
 提案の内容を以下全文掲載いたします。

 皆様のご意見、ご感想をお待ちしております。

 aichi@douyukai.or.jpまで




「怒り」を「知恵」にかえて
今こそ「金融アセスメント法」を制定しよう

〜21世紀政策構想フォーラムからの提言です〜





目次

はじめに

第T部いま、なぜ「金融アセスメント法」なのか
T 金融危機から学んだもの
U 「金融アセスメント法」はどういう問題を解決しようとするものなのか
V 「金融アセスメント法」の構造と手法




はじめに

 近年の金融不安とりわけ北海道拓殖銀行や山一證券など大型金融機関の経営破綻に揺れた1997年秋以降、日本の国民は金融問題について様々な体験をし、いろいろなことを考えさせられました。
 何よりもまず、国民はいわゆる「金融システムの維持」のために、多額のコストを負担する羽目になりました。公的資金による破綻金融機関の不良債権の買い上げ、金融機関への多額の「公的資本注入」、金融機関の不良債権処理に関する税の優遇措置などがそれです。さらに、最近の超低金利預金も、実質的には金融機関の不良債権処理を助けんがための「預金者から金融機関への補助金」になっていると主張する人もいます。「金融システム」を利用するのは国民自身なのだから、その維持や補修のために国民がある程度のコストを負担するのはたしかに止むをえないことだとも言えます。
 しかし、そうだとすれば、せめて、こうした事態が生じるに至った原因の究明が公的な機関で徹底的になされ、政治家や官僚、金融機関経営者などの名前も含めて、その責任の所在が国民に明らかにされてしかるべきです。こうしたことがまったくなされないばかりか、一方では、「貸し渋り」や「貸し剥がし」が横行することによって、金融機関の「経営健全化」(自己資本比率の上昇など)に伴う「痛み」を、一方的に中小企業が負わされているというのが現状です。「大人しい」といわれる日本国民ですが、さすがに、こうした「理不尽」には、多くの人々が怒りさえ感じたのではないでしょうか。
 私たち、21世紀政策構想フォーラム(経済政策プロジェクト)――当フォーラムは、学者やジャーナリストなどで組織された政策立案を行う民間シンクタンクで、どの政党からも独立した非営利組織(NPO)です――は、こうした国民的経験をムダにすることなく、むしろこの経験を生かして、日本の金融システムが国民の立場から見てより望ましいものとなるように、この度、「金融アセスメント法」の制定を提言いたしました。
 それは、金融機関が経営の健全性を維持しながら、同時に、その社会的役割を積極的に果たすよう促すための法律です。この小冊子は、私たちが、こうした法律の制定を提言する意図がどこにあるかを解説的に述べたもので、とくに今回の金融危機の最大の被害者でもあり、また借り手の立場からの金融システム利用者の代表ともいえる中小企業経営者の方々に向けて書いたものです。
 今後は、いわゆる「ビッグバン」によって金融機関どおしの競争が激化し、金融システムのあり方も大きく変化することが予想されます。金融機関間の競争激化と金融再編成のあおりをくらって、交渉力や情報収集力に乏しい中小企業の資金調達が不安定化することが懸念されています。こうした不安定な時代には、「金融アセスメント」という考え方がぜひとも必要である、と私たちは考えています。一人でも多くの方が、本冊子をご一読いただき、私たちの提言について前向きにご検討下さることを心より願っております。

第T部 いま、なぜ「金融アセスメント法」なのか

T 金融危機から学んだもの
「中小企業のための金融システムを創出すべき」という声

 さて、まず図1を見ていただくことから話しを始めたいと思います。これは、東京のある中小企業団体(東京中小企業家同友会)が会員企業に対して行ったアンケート(500名を対象とし、131名より回答、1999年7月5日集計)の結果です。「中小企業の努力が活かせる環境づくりで重要だと思うもの(3つまで複数回答)」という問いに対し、「中小企業のための金融システムを創出すべき」という答えが58%とトップの地位を占めていることがわかります。今回の金融危機で、中小企業経営者たちがどんなに「痛い目」に会ったか。このアンケート結果は、その深刻さを如実に物語るものだといって良いでしょう。
 ところで、こうした中小企業経営者たちの声に、行政担当者や政治家は一体どのように応えようとしているのでしょうか。「公的資本注入で金融危機は収まったではないか」。「特別信用保証制度で中小企業の資金繰りは楽になったではないか」。こんな風に考えて「問題はすでに基本的には解決したはずだ」などど認識している人も少なくないと思われます(注1)
 しかし、それは明らかに「問題発見能力」の欠如です。「公的資本注入」がなされ、特別信用保証が実施されたにもかかわらず、今日あらためて「中小企業のための金融システムを創出すべき」だと経営者たちが訴える理由はどこにあるのか。そこには、公的資本注入や特別信用保証だけでは解決されないどのような問題が隠されているのか。いわばその「問題探し」を積極的に行って、解決の方向を見出していく。
―― 今日、行政マンや政治家に求められるのはそうした姿勢なのだということを、まずもって強調しておきたいと思います。

中小企業経営者たちは何を「不当」だと感じたのか

 中小企業経営者たちに金融問題を体感させたものは、いうまでもなく金融危機と「金融再生」政策が引き起こした「貸し渋り」や「貸し剥がし」(金融機関からの一方的な貸金回収)にほかなりません。しかし、そうした体験が、「中小企業のための金融システムを創出する」必要性を感じさせるまでに至ったのには、それなりの理由があります。それは、一言でいえば、そうした体験を彼らが明らかに「不当」なものだと認識したことです。

 まだ、ほかにもたくさんあると思いますが、重要なのはこうした「庶民感覚」的ではあるが正当な「不満」から、制度上の問題を摘出すること、そして解決に向けた具体的方策を見出していくことにあります。それは、たんに「銀行に中小企業向け貸出を増やさせればいいんだ」ということでもないし、したがってまた「中小企業向け貸出が増えれば問題は解決する」というような性質のものでもないのです。そうしたたんなる「量的」な問題ではなく、もっと「質的」な、まさに「システム」上の問題なのです。そのように考えれば、中小企業経営者たちがあらためて「中小企業のための金融システムを創出する」必要を訴えている意味も理解できると思います。

解決すべき「システム」上の3つの問題

 上述したような中小企業経営者の正当な「不満」――これは、中小企業経営者に限らず、近年国民の多くが抱いた「不満」でもあると思いますが――の背景には、「システム上の問題」として、以下の3つの問題があることを指摘できると思います。 第1は、銀行業務の「公共性」に関する法的規定が、これまできわめて曖昧であったという問題です。第2は、銀行と借り手との間でなされる取引上の慣行が、これまで中小企業に著しく不利であったという問題です。第3は、これまでの金融行政が官僚による裁量的な指導に極度に依存してきたために、金融システムの利用者たちに「もの申す」機会がまったく与えられてこなかったという問題です。
 こうした問題を解決することが、とりもなおさず「中小企業のための金融システムを創出する」ことになるのではないでしょうか。実は、「金融アセスメント法」を制定すべきだという主張は、同法の制定をもって上記のような「金融システム上の問題」を解決しよう、あるいは少なくとも解決に向けてその「第一歩」を歩みだそうとするものなのです。以下、順追って説明していきたいと思います。

U 「金融アセスメント法」はどういう問題を解決しようするものなのか


銀行業務の「公共性」が確保されているかどうかを具体的に確認する

 まずは、第1の、銀行の「公共性」にかかわる問題から述べてみたいと思います(注2)。周知のように、現行の銀行法にはその「目的」を規定した第1条に、「銀行の業務の公共性にかんがみ…」という文言があります。しかし、その「公共性」が具体的に何を意味するのかという点については、必ずしも明らかではありません。そのため、様々な解釈を生み出すことになるわけですが、実は、この問題は現行銀行法の制定をめぐって盛んに論議された問題でもあるのです。たとえば銀行業界は、「銀行の公共的性格とは、預金者保護と信用秩序の維持を図ることが根幹であり、そのためには銀行経営の『健全性』の確保こそ大切です」(「銀行法改正に関する意見」1979年3月22日付、金融制度調査会長、銀行局地宛」)という意見を表明し、「公共性」の中身を「預金者保護と信用秩序の維持」に限定すべきだとする主張を展開しました。
 こうした銀行業界の主張と同様の立場に立つなら、たとえば今回の「公的資本注入」も「預金者保護と信用秩序の維持」のために行われるのであり、それに役立てばいいということになります。言い換えると、それによって中小企業への貸し渋りが緩和されるかどうかは ――付随的にかかわる事柄ではあっても ――銀行業務の「公共性」を維持するための資金投入であるという観点からは、直接には関係の無いことだということになります。実際、銀行業界はこうした理解をしているようです。
 また、中小企業経営者が今回の「公的資本注入」に対して抱いている「不当」感――(中小企業に冷たい)銀行をなぜ公的資金で救わなければならないのかという「不当」感――、これも、結局は、公的資金を投入して銀行業務の「公共性」を維持するということと、末端の中小企業への資金供給を確保するということが、切り離されていることへの「不満」ないし「懸念」にもとづくものだと考えられます。しかし、現行の銀行法はこうした銀行業界の主張をそのまま受け入れたものではありません。
 銀行法には、「銀行の業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに、金融の円滑を図る…」と記されています。つまり、「公共性」概念の中に「預金者保護と信用秩序の維持」に加えて、「金融の円滑」ということが記されており、この点では銀行業界が主張したものとは明確に異なっています。この「金融の円滑」ということについて、制定当時の銀行局長である米里銀行局長は、次のような答弁を国会で行っています。「第1条の書き方は、『銀行の業務の公共性にかんがみ』というのが全体にかかっておりまして、信用秩序の維持、預金者保護、それとともに金融の円滑、こうなっておりまして、ここで言っております『金融の円滑』というのはあくまでも社会的に要請されている望ましい分野に資金を円滑に供給することであろうかと思います」(衆議院大蔵委員会、1979年5月6日)。
 こうした理解に立つなら、銀行業務の「公共性」を維持するために公的な資金を投入するということと、末端の中小企業への資金供給を確保するということ――健全な中小企業への貸出が「社会的に要請されている望ましい分野」への資金供給であることは言うまでもありませんから――、この両者が不可分に結びつくことになります。
 さて、少々長くなりましたが、「金融アセスメント法」というのは、一言で言えば、「社会的に要請されている望ましい分野」に資金が「円滑に供給」されているかどうかを、金融危機のような異常時だけでなく、もっと定期的に調査(アセスメント)し、銀行業務のその意味での「公共性」を確保することを、監督機関に義務づけようという法律なのです。「預金者保護と信用秩序の維持」ということに傾斜し、金融機関経営の「健全性」の維持ばかりが強調されているのが、昨今の「自己資本比率規制」型金融行政です。もちろん、金融機関経営の「健全性」は決定的な重要性を持っています。経営の「健全性」が維持されていなければ、「金融の円滑」を確保することも困難です。
 しかし、だからといって、経営の「健全性」さえ維持されていれば、「社会的に要請されている望ましい分野への円滑な資金供給」という、銀行業務のもう一つの「公共性」が確保されると考えることも単純すぎると言えます。経営の「健全性」の指標である自己資本比率の維持・上昇を達成しようとして、金融機関が健全な借り手である中小企業に対し「貸し渋り」や「貸し剥がし」を行っている昨今の状況は、まさに経営の「健全性」と業務の「公共性」が時として矛盾・対立することがありうることを示しています。「金融アセスメント法」を制定して、金融機関の活動を経営の「健全性」と業務の「公共性」(円滑な金融)の両面から監視することが必要です。そして、こうした監視の下で、仮に自己資本不足が原因で、両者の両立が困難になった金融機関が見つかった場合には、一定の条件の下で迅速に「公的資本注入」を実施するといった金融行政のあり方が求められているのです。
 こうした金融行政の仕組みを構築することは、中小企業が社会的に重要な役割を担うものである以上――もちろん、そうあるために不断の努力を積み重ねることが中小企業経営者に求められていることを強調することも忘れてはなりませんが――、結果的に、「中小企業のための金融システムを創出する」ことにもなると思われます。

交渉力の乏しい利用者にとって著しく不利な金融慣行を是正する

 次に、第2の、銀行と借り手との間でなされる取引上の慣行が、これまで中小企業に著しく不利であったという問題に関して述べたいと思います。その際、理解しておく必要があるのは、たとえば「貸し渋り」の問題は、たんに「借入れがしにくい」ということだけにかかわる問題ではないということです。借り手の「不満」は、なかなか借りられないことだけにあるのではなく、なぜ自分が借りられないのかということについて、銀行側から十分な説明がないことにあります。これは、「貸し渋り」が社会現象化するとともに鮮明化してきた問題ではありますが、それ以前からも銀行との交渉力に乏しい中小企業経営者等が常に感じてきた不満でした。
 また、先に指摘しました中小企業経営者の「不満」 ――「自分たちが銀行から借入をする際には個人保証によって事実上の無限責任を負わされているのに、銀行経営者自身はたとえ銀行の経営を破綻させてもその個人財産を失うことがない。これはおかしいのではないか」といったこと――についても、実は同様の問題が隠されています。
 中小企業経営者のばあいには、居住している住宅を担保にしなければ銀行借入ができず、また、本人はもちろん妻の「連帯保証」までとられ、ひとたび経営に失敗すれば家族もろとも「路頭に迷う」ことになる。場合によっては、第三者の連帯保証まで要求されるため、自分の経営の失敗で他人にまで絶大な被害がおよぶ。こうしたリスクを背負わなければ、銀行から資金が借りられないというのが、中小企業をとりまくわが国の現状です(図2)(注3)。今回の金融危機は、こうしたことがいかにも「不当」なのではないのかという感情を、中小企業経営者たちに強く抱かせる結果になったわけです。
 しかし、考えてみれば、そもそも、こうした問題がこれまで放置されてきたこと自体が問題だったともいえるのです。前者の「説明不足」の問題についていえば、何よりもまず、「銀行の融資基準の公表や拒否理由の通知」また「拒否が不当と感じた借り手が監督官庁に再審査を依頼する仕組み」などを確立することが必要です。少なくとも、金融機関側が融資条件を一方的に変更しようとする場合には、文書によってその理由をきちんと借り手に通知するといったルールぐらいは早急に確立すべきだと思います。これは「貸し渋り」や「貸し剥がし」の実体調査に役立つだけでなく、間接的にではありますが、その抑制にも効果があると思われます。こうしたことはけっして無理なことではなく、すでにアメリカなどでは実施されています。
 また後者の「個人保証」などに関する問題についても、アメリカの現状は日本とは大いに異なっています。以下の一文を紹介します。「『こんなことを始めるために、まともな仕事をやめてしまったとは呆れたもんだ。うまく行かなかったら、身ぐるみ剥がされるくらいじゃすまんぞ』。父は重大なことを大急ぎで告げるようにささやいた。…『いろいろな書類にサインをさせられただろう』。ローンに個人保証が必要なことを言っているのだ。…ぼくは思わず笑ってしまった。父の時代と比べると、世の中はずいぶん変わった。あの頃、事業を始めるのには、すべてを投げ出す覚悟が必要だった。貯金も、家も、自尊心も。事業は人そのものだったから、失敗すれば、すべてを失う。しかし、今日では、事業と個人のあいだには明確な一線が引かれている。会社が倒産しても、経営者の個人資産は法律で守られている。そうでなければ、…リスクの大きい事業には、誰もが尻込みする。四十年前だったら、ぼくははたして会社を始められただろうか」(ジュリー・カプラン著『シリコンバレーアドベンチャー』、日経BP出版センター、78ページ)。
 ここで言う「四十年前」の状況が日本の現状です。こうした現状を放置しておけば、「会社を始め」ようとする人々はなかなか現われてきません。これは、たんに中小企業にとってだけでなく、日本経済全体の活力を維持していく上でも、大いに問題です(注4)。念のため、欧米金融機関の顧問税理士でもある岡部享氏の次の文章も紹介しておきます。「『げに恐ろしきは連帯保証人』というが、この制度こそ悲劇を起こす根元。廃止すべきである。アメリカにもこの制度はあるが、ほとんど利用することはない。すべて自己責任が原則である。銀行が融資して返済不能になれば借り主は破綻するが、それ以外はなにもない。自宅も守られる。銀行がそこに貸した責任を自分でとるわけだ。だからこそ、起業家が、失敗を重ねたあとで大成功する例も多いのである」(『実例集・大銀行「極悪非道」の手口』講談社、1998年5月。44ページ)。
 日本はあきらかに、交渉力の乏しい借り手に著しく不利な状況が放置されてきました。少なくとも、企業の代表者以外には連帯保証を求めないことを原則とするぐらいの慣行は早急に確立されてしかるべきです。いずれにしても、こうした問題がいつまでも改善されてこなかったために――もちろん、その1つの原因として、社会的存在である「会社」と私的な存在としての経営者「個人」との間に適切な距離を置こうとしなかった「公私混同型」中小企業経営者の存在があったことは率直に認めるべきだと思いますが――、ひとたび今回のような金融危機が起きると、中小企業経営者は現行の金融システムが「自分たちのためのシステム」にはなっていない、新たに「中小企業のための金融システムを創出する」ことが必要なのだと、強く感じることになるわけです。
 「金融アセスメント法」は、こうした取引慣行についても、利用者利便の維持・向上という観点から調査(アセスメント)し、より望ましい形で金融取引を行っている金融機関を高く評価することによって、問題のある金融慣行の是正やより望ましい取引きルールの確立を促そうというものでもあります。この点でも、それは「中小企業のための金融システム」づくりに役立つと思われます。


官僚裁量型金融行政を是正し、利用者参加型行政システムへの転換を図る

 最後に、第3の問題、これまでの金融行政が官僚による裁量的な指導に極度に依存してきたということに関連する問題について述べたいと思います。日本の行政システムがいわゆる官僚主導型で、しかも手法は主に「行政指導」という、一般の国民からは非常に見えにくい、結局は官僚のさじ加減一つで状況が大きく違ってくる、そういうやり方に依存してきました。そのために、結局は、民間の企業や銀行は「お上」の顔を覗いながら業務を行なっていく、場合によっては、「お上」の顔を立てることが消費者や利用者よりも優先される、そんな状況を生み出すことにもなってきました。中小企業経営者たちが現行のシステムを自分たちのための「金融システム」だと実感できない、その1つの理由はここにもあると思われます。
 もちろん、近年、監督官庁は金融機関に対して、従来の「事前的規制」から「事後的規制」に移行するべく努力していますし、金融情報の開示についてもかなり進展しました。しかし、たとえば、「『貸し渋り』は大いに問題だ。そういうことを行なっている銀行に対しては是正に向けて厳しく指導していく方針だ」といったことを、政府とくに金融監督庁は国会で答弁していますが、「どういう銀行が『貸し渋り』を行なっているのか」あるいは「『貸し渋り』を行なっているかどうかを金融監督庁はどのように調査しているのか」といったことは、一般の国民には知らされていません。
 「借り手である中小企業などへのヒヤリング調査などは果たして行われているのか」、あるいはまた「監督官庁が誤った判断をする場合もあるだろうから、銀行側からの『反論』の場を保証してやる必要があるが、それはどのようにしているのか。」「『厳しく指導していく』というが、指導の効果があったかどうかは、どのようにして検証しているのか」といったことも、国民――金融システム維持のためのコスト(税金)を負担しているのは国民ですし、またその金融システムの実際の利用者も国民なのですが――には知らされておりません。これでは、国民からすれば、あたかも「だまってオレたち官僚に任せておけばいいんだ」と言われているような感覚になるのも止むをえないでしょう。
 また、最近では、金融再生委員会(金融監督庁)は現状をオーバーバンキング(金融機関が多すぎる)と判断し、金融機構の整理・統合・縮小、簡単に言えば金融機関の数減らしに着手しています。その場合、「どれを残してどれを潰すか」を決定するのも事実上官僚です。金融再生委員会は99年6月11日付けで、「地域金融機関の資本増強についての基本的考え方」という文書を出しています。その中には次の文章があります。「地域金融機関のその地域における重要性や存在状況等、地域の実状に応じたものにする。その際、申請金融機関がその地域の中小企業に対する資金供給においてどのような役割を果たしているかについてに十分考慮する」。
 地域経済に対して、どのような金融機関がどのような「重要性」をもっているのか。またそれらがそれぞれ「地域の中小企業に対する資金供給においてどのような役割を果たしているか」。こういった情報は公にされていないか、あるいは少なくとも国民が入手しやすい形では開示されていません。しかし、それは本来その地域の住民や経営者たちにこそ知らされるべきものなのであって、監督当局が知っていればいいというようなものではありません。
 なぜなら、地域に必要な金融機関を育て守っていくのは、それを利用し、それを必要としている地域住民や企業経営者たちにほかならないからです。「金融アセスメント法」は、監督官庁に対し、「円滑な資金需給」「利用者の利便」「金融機関経営の健全性」という3つの観点(注5)から、必要な情報を収集し、金融機関の活動について評価することを義務づけるものですが、同時に、金融機関に対して下した「評価」とその判断理由を、可能な限りの多くの情報とともに、利用者が入手しやすい形で(たとえばインターネットなどで)定期的に公開することを義務づけるものです。
 これは、高い「評価」を得た金融機関にとっては利用者に対する有効なアピールになりますから、結果的に、利用者の増加を通して望ましい金融機関を応援し、育てていくことになります。また、反対に、「問題あり」と評価された金融機関は、そうした評価を監督当局が新たな支店の設置や合併等の認可において重要な判断材料とするため、できるだけ早く改善しておこうと考えます。いずれにしても、金融アセスメント法は、こうしたいわば「利用者参加型」で望ましい金融機関を育成していく環境を整えるとともに、金融行政の透明化によって裁量行政の歪みを是正していくことを企図したものです。
それは徐々にでも、現在の金融システムを、国民が「自分たちのための金融システム」だと実感できるようなものに近づけていくのに役立つものと確信します。

V 「金融アセスメント法」の構造と手法

金融アセスメント法はどんな構造になっているのか

 金融アセスメント法は、以下の6点について法的に規定することを主な内容とするものです。

どのような手法を用いるのか

 さて、上記のような構造にある金融セスメント法を実効あるものにしていくためには、その実施手法に関して、以下の4点についてより詳細に検討しておく必要があります。その第1は実際の分析作業の担い手、第2は調査項目の策定、第3は「評価」の方法、第4は金融機関に改善をせまるためのペナルティーのあり方についてです。
 まず、第1の、実際の分析作業の担い手についてですが、各都道府県に、財務局職員、公認会計士、都道府県職員、金融機関退職者などの専門家からなる「分析センター」を設置し、これをアセスメント委員会の下部組織とするのが適当なのではないかと考えます。
 第2の「調査項目の策定」についてですが、これについては、現在の金融監督庁が収集・使用している情報を基本に考えていくべきだと思いますが、念のため簡単に整理しておくと次のようになると思われます。まず、「a)円滑な資金需給」についてですが、基本的には、評価対象金融機関が、(1)各「分析センター」が設置された都道府県の資金需給においてどのような役割を果たしているのか。(2)なかでも、いまだ間接金融に大きく依存せざるをえない中小企業に対する資金供給について、その影響はどうなのか、(3)一方的な融資条件の変更などによって資金供給の安定性にマイナスの影響を与えていないか。こういったことが調査項目になると思われます。
 そのためには、それぞれの金融機関について、各都道府県内での地域別、規模別、業種別の融資状況のほか、借入「申請」の件数やそれに対する「却下」の比率などのデータが必要になる――もろちん、「却下」がそのまま「貸し渋り」を意味するものでないことはいうまでもありません――と思われます。
 次の「b)利用者利便」についてですが、これについては、先ほども述べましたが、(1)金融機関側が融資条件を一方的に変更しようとする場合には、文書によってその理由を借り手に通知するといったルール、あるいは(2)「融資基準の公表や拒否理由の通知」など、借り手が利用しやすくなるような措置の実施に向けてどのような取組みがなされているか、また(3)「個人保証」や「連帯保証」等に関してどのような姿勢で融資がなされているか、その際、小規模企業に著しく不利な取引慣行があるとすれば、その是正への取組みはどうか、さらにはもっと一般的に、(4)預金者や借り手の利便性を高めるためにどのような努力がなされているか、といったことが調査項目になると考えられます。
 さらに、「c)経営の健全性」については、やはり(1)不良債権額の開示、また(2)引当金の状況、(3)自己資本比率などが重要な指標になると思われます。ただし、この調査項目に関しては、「都道府県別」の調査では意味がありませんので、各地の「分析センター」が情報収集・分析するのではなく、中央の監督官庁が、関連会社等も含めた「経営体」全体について、全国的な調査・分析を行う必要があります。したがって、「アセスメント委員会」はむしろ監督官庁からの調査・分析結果を受けて、金融機関「評価」を行うことになると思われます。といっても、このことは、経営の「健全性」を見てゆく上で、融資の地域別実態把握が不必要だということではありません(注6)
 次に「評価」の方法についてですが、これについては先に述べた3つの基本項目――「a)円滑な資金需給」「b)利用者利便」「c)経営の健全性」――のそれぞれについて、金融機関ごとに「優秀」「良好」「改善必要」の三段階で評価するのが、国民にもわかりやすく、良いのではないかと考えます。ただし、「評価」は二様に行う必要があります。
 1つは、「地域別評価」、すなわち都道府県ごとで、それぞれの地域を基準にして見た場合の各金融機関に対する「評価」です。いま1つは、それらを総合して金融機関ごとに下した「総合評価」です。というのは、営業地域が限定された小規模な地方銀行や信用金庫の場合には、「地域別評価」がほぼそのまま「総合評価」となると思われますが、営業範囲の広い都市銀行や大手地方銀行の場合には、「地域別評価」とは別に、それぞれの経営戦略を考慮に入れて「総合評価」を行う必要があるからです。といっても、これは、「a)円滑な資金需給」ないしは「b)利用者利便」に関するものであって、「c)経営の健全性」については、先に述べたように「総合評価」のみでよいのではないかと思われます。
 最後に、第4の、「ペナルティー」についてですが、これも先に述べたように、「アセスメント委員会が行った評価を、支店開設や合併等の認可の際に、監督官庁が考慮に入れることによって、結果的に問題金融機関の業務展開に制限が課される場合がありうる」という形で、改善を促していくやり方が適当なのではないかと考えます。

 以上のような構造と手法を有する金融アセスメント法ですが、いずれにしても、もっと多くの人々による前向きの検討を経て、実効性の高い、しかも歴史的に意味のある革新的な内容をもったものになることを念願しております。

注1
 金融機関への公的資本注入が実施に移されていますが、中小企業から見た金融機関の貸出姿勢は「ゆるむ」どころか、むしろ「厳しさ」を増しているのが現状のようです。「東京商工会議所は『中小企業の資金繰り等に関するアンケート結果』をまとめた。それによると、中小企業の資金繰りは改善しているものの、民間金融機関の貸出姿勢については『厳しい』とする回答が増加している。/調査は、資本金1億円以下の会員中小企業476社を対象に、6月5日から10日までの期間実施した。回答総数は447社で、回答率は99.3%。…(3月に行った前回調査に比べ)民間金融機関の貸出姿勢については、『さらに厳しくなった』が6.8%で『相変わらず厳しい』の49.8%と合わせると、『厳しい』という回答が56.6%を占め、前回に比べ10.2ポイントも上昇している。…貸し渋りが経営に及ぼす影響では『すでに限界にきており、経営に深刻な影響が出ている』が13.5%で前回に比べ1.5ポイント悪化した。しかし、『このままの状況が続くと、いずれ経営に影響が出ると思う』は3.7ポイント改善し44.4%となった」(1999年7月14日付『日刊工業新聞』、( )内山口)

注2
 以下、この項目で述べることを整理するにあたっては、柴田武男聖学院大学教授の論文「金融機関の公共性と社会性」(『生活経済学会会報』第9巻1993年12月所収)が非常に参考になりました。関心のある方は、同論文を読んでみてください。

注3
中小企業庁長官の私的懇談会として設置された中小企業政策研究会の『最終報告』にも、次のように記されています。「借入に際して代表者が個人保証を行っている企業の割合を資本金規模別にみると、資本金規模が拡大するに従い、保証を行っている企業の割合が減少しており、資本金規模と企業の信用力には関連性が認められる。/特に、資本金5億円以上の企業においては、個人保証を行っている割合が、16.4%に過ぎないのに対し、資本金3億円以下の企業では過半数を超える企業が個人保証を徴求されており、企業としての資金調達力が脆弱であることがわかる。(『中小企業政策研究会最終報告』1999年5月中小企業政策研究会、88ページ)。

注4
 「中小企業の場合、企業の債務を企業の代表者が保証していることが一般的なため、事業者の再挑戦も実質的に困難となっている」(前出『中小企業政策研究会最終報告』41ページ)。なお、こうした問題の解決には、金融慣行の改善だけで対応することは難しく、「倒産法制」の整備を進めることも大切だと思われます。「米国にとってもベンチャー企業の活躍にとって、80年代までに倒産法制が整備され、迅速な手続き、財産保全措置により失敗時のリスクを最小限にくい止めるとともに、家族の扶養権が一定程度保護されることとなった制度面での対応が重要な役割を果たしたとの指摘もある」(同上、同ページ)

注5
 これら3つの観点のうち、「円滑な資金需給」と「利用者の利便」については、すでに現行の銀行法の31条に、合併等の申請があった場合監督当局が「審査」しなければならない事項として規定されています。調査項目としてはけっして目新しいものではありませんし、まして奇抜なものではありません。念のため、以下に現行法の関連部分を抜粋しておきます。「第31条 金融再生委員会は、前条の認可の申請があったときは、次に掲げる基準に適合するかどうかを審査しなければならない。/ 一、…当該合併等の当事者である銀行又は信用金庫等が業務を行っている地域…における資金の円滑な需給及び利用者の利便に照らして、(合併等が)適当なものであること」(( )内山口)

注6
 自己資本比率規制の新たな国際基準を検討している国際決済銀行(BIS)のバーゼル銀行監督委員会も、「実務指針」として、地域別融資など「より詳細な情報開示」を重視しています。「指針でバーゼル委が最も重視しているのは情報開示。具体的には貸出債権を(1)業種別(2)地域別(3)貸出金の種類別――などに分けるほか、特定業種、特定地域への融資集中度に関する情報なども開示するよう要請している。地域別では「アジア」「欧州」といったおおくくりではなく、国内地域を細分化した開示などが検討対象になる」(1999年7月28日付『日本経済新聞』)。

山口 義行(立教大学経済学部助教授)筆