商店街の問題はわたしたちすべて(暮らし・都市・まち)の課題

田中亨氏田中政商店・代表〈呉服・寝具卸〉(地域活性化委員長)
地域活性化委員会では、商店街問題は単に商店だけのことでなく、「私達すべての暮らしや都市、まちの課題である」という考えで、昨年八月から研究活動を積み重ねてきました。五回の「商店街経験報告会」(各内容は表に要約)のうち、第三回目の会合で、田中地域活性化委員長がこれまでの活動をまとめ、新たな課題を提起しました。
「地域一番店」から「まちづくり」へ
私の商売は呉服卸で、きめ細かい営業と個性化戦略で頑張っているつもりですが、なかなか苦しいです。外商の折、お客さんの商店街を見て回っていますが、地場産業やコミュニティが衰退したところでは、和装どころではありません。商店街再生の話から切り込んで売り込んでいますが、地場産業おこし、文化、豊かさの土壌がないところでは、和装産業は育ちません。地域を考えるとき、人々の暮らし、人と人の結びつきがなくては成り立ちません。すなわち基礎は『人間』です。住む、暮らす、買物や仕事をする、商店や会社ができる、そして活き活きとした商店街は、人々の暮らしの集積なのです。住宅と商店街は一体、つまり商店街再生は地域活性のシンボルです。同友会が商店街にかかわる意味はそこにあります。人・もの・金が動けば景気もよくなり、新しいビジネスも生まれ、地域は活性化します。今、同友会のビジョンでは(1)地域経済の担い手としての中小企業、(2)企業家と生活者の複眼視点、(3)産地から世界という広角の視点という三つが提起されています。私はさらに「企業の根っこが成長する場」という発想を加えたいと思います。地域は企業の大黒柱であり、共創共歩や情報ネットワークの場です。そして中小企業の役割は経済的側面だけに留まらず、社会的・文化的側面に渡っています。

テーマで売る時代に
薬局に健康靴、和装店に美容院などなど。「誰に」「何を」「どのように」売るか。業種でくくるのではなく、徹底した業態化を推進する。店舗や商品構成・販売など、店の個性を全面的に打ち出すことが今、大切です。時代のテーマは健康・環境・遊び・楽しさです。構造不況業種と言われる中でも一〇〜二〇パーセント売上を伸ばしているところもありますが、それは社員・顧客・社会性など、いずれも経営品質が高いからだと言えます。八〇年頃を頂点に小売店の数が減少し、規模間での売上格差が増大しています。特に個人店数の減少が著しく、商店街も衰退、さらに長引く消費低迷で、大型店同士が激突しています。春日井駅前では、清水屋、ザ・モール春日井(面積あたりの売上が全国トップクラス)、春日井サティ、ユーストア気噴店、西友楽市楽座と物凄いサバイバル競争です。顧客環境の変化も重要です。少子化・高齢化で世帯規模が小さくなり、女性の社会化とあいまって、外食や惣菜需要が大きく伸びています。消費者は品質を求めると同時に低価格指向でバランスを考え、購入先を確実に使い分けしています。高齢者を消費者として位置付けられるかというのもポイントです。
商店街を四つに分類してみると
商圏の広さを基準に、商店街を以下の四つに分類することができます。
(1)全国から集まってくる観光地等の超広域型
(2)比較して買いまわりできる広域型(年数回〜月一回)
(3)郊外の大きめの駅を持つSCや専門店などの地域型(週一回程)
(4)主婦の日常買まわり品で、徒歩自転車圏内の近隣型(ほぼ毎日)
「商店街問題」という時は通常〓の近隣型をさしています。生活者にとって最も身近で重要な役割を持つ「生鮮三品」がまず大手に食われ、商店街がどんどん衰退するという悪循環になっています。商店街には地域のふれあいがある。手軽で便利。コミュニティを支える場。高齢者にとっては身近な仕入先。子供の遊び場、教育、老人と子供のふれあい、社会性を育む場。近くて便利で楽しくてあらゆるものが揃う、文化もある、都市の顔という様々な役割・機能が商店街にはあります。
商店街は舞台・個々の店は俳優・まちづくりは演出
空店舗問題、地価テナント料問題など多くの課題があります。せっかく頑張って商店街を発展させてきた喫茶店が、大家の家賃値上げで出て行かざるをえないという話を聞きます。また、お祭り準備で頑張った店主が、大勢のお客が来る当日に、人手不足で困るという話もあります。経営力ある個々の店(名優)が集まらなければ商店街(劇)は成り立ちませんが、独自の脚本と演出、メーキャップ(協力協同)が、もっとも大切な要素となっています。個々の経営努力と協同活動は商店街の両輪です。またアーケードやモール、街路灯などのハード面に高額の投資をしてもそれが直接の武器(集客)とはなりません。むしろ「ふれあい、ぬくもり、楽しさ、そして人に優しさ」というソフト面でのテーマを、接客や小さな設備(トイレ・公衆電話、ベンチなど)といった少しの気配りで具現化することが、大きな力となります。東和銀座商店街では空店舗を商店街で運営し、有志でお弁当の配達会社を設立したり、墨田橘銀座商店街での「シルバーライフカード」でのタイム割引サービス、また西新道錦会商店街はファックス斡旋による協同宅配事業と安心ネットを発足したりしています。しかし真似ごとは成功しません。商店街ごとに特色と課題は別で、条件が違うので、自らの現場で最も有効な方法を創ることです。内部競争を嫌ったり、他の商店街と背反したり、自分の都合だけというのでなく、消費者志向でお客さんにとってどうなのかを、最優先すべきです。そのためにも若いリーダーが必要であり、その育成支援が必要なのです。
【文責事務局・加藤】
商店街経験報告会より(8月〜1月・5回シリーズ)地域活性化委員会
事業展開として、商店街の役割として、街づくり三法など、商店街をとりまく環境について多面的な報告と、それに基づく討論が行われました。各報告を箇条書きにして整理してみました。
■第1回(8月6日)■
「苦境にある商店街と生鮮食品・惣菜業界」沼波一郎氏(資)奈多屋・社長
(惣菜・弁当等製造小売)

・「死角がない」。大型ショッピングセンター、デパート、コンビニなどの弱点や隙間がまったくなく、今日では中小小売店の生き残る余地がない、というショッキングな問題提起。
・大型店内での競争も熾烈を極め、競争共栄でなく死闘場。スクラップアンドビルド戦略だけでなく、独立個店の夢に展望をかける。
・ナショナルチェーン化が進む今後、日本の文化やコミュニティに存在価値をたくして、街ぐるみ、住民や行政と一緒になって「差別化・個性化・特色化・独自性」という豊かな暮らしづくりを構築する考え方を基本に持ちたい。(個々の店の自然発生的な動きでは、死角を打ち破れない)
■第2回(9月8日)■
「祖父の代からの店の業種転換とこれからの戦略」鵜飼孝次氏(資)尾張屋本店・社長
(オーダー紳士服、和装雑貨小売)

・時代の変遷。大正時代に祖父が下駄の花緒卸で創業。ブランド名をつくり、絵カタログで通販や輸出などを行い、当時として先駆けた商売で大繁盛した。
・時代の波を何度も乗り越えて今日三代目として、和装小物に紳士婦人オーダー服を加え、東京やロンドンにも進出したいと夢を語る。
・名古屋は資産にお金かけるが、消耗品には使わない地盤。オシャレで文化的で仕事や生活感覚など豊かな名古屋にしたい。
・若くて仕事に燃えていた頃、出る杭を徹底的に打つ呉服屋商売世界(名古屋商売)に苦しめられた。
・時代に乗り遅れたらダメ、良い時に次の手を打つ。名古屋駅前ツインタワーの完成で、商圏地図はガラリと変わる。
■第3回(11月11日)■
「地域活性化と商店街再生の考え方」(中間まとめ)田中亨氏田中政商店・社長
(呉服・寝具卸)(下記参照)
■第4回(12月7日)■
「新着!商店街活性化の現状」土屋雅彦氏(有)みやび工房・社長
(企画プレゼンテーションサポート)

・商店街はホームページで意欲的に情報発信。若い人達への効果は高く、関心を引き寄せる。しかし実質的商取引はまだ。補助金行政の弊害でどこも同じに見えてしまう。もっとローカルで泥臭い生の情報を。
・商店街のコンセプトが鮮明、栄=飲食ぶらぶら、広小路=文化とまちづくり、城山=散策楽しそう、桜山=名所めぐり、大門=エコ。
・DMや広告媒体でなく、ニュースやちょっとしたお徳情報など、直接お客とやりとりできる強さが、商店街で生かせると良い。リンクで外へ向かう姿勢が大事。
■第5回(1月18日)■
「まちづくりと補助金〜行政との関わり方」高岡正昭氏(有)共生都市計画研究所・社長
(再開発コーディネーター、コープ住宅企画)
・中心市街地活性化。行政の郊外偏重政策や土地高騰、大型店出店戦略等により都市の空洞化、高齢化が進行。商店街や地域活性は住宅(人の暮らしの集まり)政策と不可分。
・これまでの縦割り行政から施策を1本化し、認定されたTMO(タウンマネジメント組織)に補助金を集中投下する中心市街地活性化法だが、現実には問題解消されていない。
・補助金行政頼りでなく、若いリーダーシップや発想と現場の経営センスある自らの行動でしか地域は活性化しない。企画書やハードでなく、現場での人材育成に資金を。
【地域経済の担い手は誰か?】
*東京の中小製造業(平均従業員数19人規模)<中小企業事業団89年調査>より
(1)事業主住居地が事業所所在市区と同一
・同一38.4%・徒歩自転車圏13.2%・同一市区10.0%*合計61.7%
(2)仕入・外注・出荷の過半数が同一市区
・仕入23%・外注20%・出荷23%
(3)働く従業員の50%が同一市区に住む
・小売・サービス業では、更に深く地域との関わり合いが強いと考えられる。
・雇用や社会コミュニティ、文化活動の豊かさに中小企業は大きく寄与。