愛知同友会・第40回定時総会〈第4分科会〉
「経営環境改善」(同友会第3の目的)の今日的な意味を考える
福島敏司氏愛知同友会・事務局長
●経営環境改善の条件は整いつつある
経営環境改善の課題では愛知同友会はいくつかの特徴を持っています。第1には、中小企業の経営環境が一層厳しくなり、内向きの勉強会だけでなく、国民生活や中小企業、地域をどうしていくかという視点から、環境を変えないと生き残れないという認識が会内に広がっていることです。2番目は、「企画室」の戦略会議が動き出したことで、関係の先生方との交流を含めて、政策提言にかかわる学者・研究者との連携ができつつあることです。3番目は、この間、佐々木会長が経営環境の変化に対して新聞の取材をたびたび受けています。またテレビでも名古屋発で全国に放映されるようにもなってきました。『中小企業と言えば、同友会となってきましたね』とある新聞記者が言うように、マスコミが注目をするようになっていることです。4番目は、この1〜2年前から行政の対応の変化です。特に昨年の東海豪雨の時など、同友会は会員企業の経営現場の実態を把握した上で、約200名の被害状況をホームページで公開しました。このページは実に多くの方々に見ていただきました。後日、会で県や市に『激甚災害』指定を受けるよう要請し、政府が異例の激甚災害指定を行なう情報源になりました。5番目は、会でインターンシップをスタートさせて3年が経過したことです。同友会が県下の大学のインターンシップ生を受け入れ、大学生が中小企業で研修するスタイルが確立されて、教育関係者から高い評価が寄せられつつあります。最後は、障害者雇用とか障害者の人間発達を考える点で、愛知県や名古屋市等の養護学校、障害者訓練施設等とのかかわりが広がっており、佐々木会長は就業に関する審議会の委員を依頼されています。このように、中小企業をとりまく経営環境を改善していく点で、いくつかの条件が整いつつあるのです。
●「中小企業基本法」改訂と私達中小企業
全国事務局長会議での清成教授の問題提起
99年11月に中小企業基本法が改訂されました。中小企業政策の基本が、護送船団方式から転換したと言われていますが、本当にそうでしょうか。昨年4月の第39回総会で神奈川大学の大林教授が「新中小企業基本法」をめぐって問題提起しています。ぜひ「同友Aichi」(281号)をお読み下さい。88年夏に開催された全国事務局長会議の席上、今回の基本法改訂の審議会の座長を務められた清成教授(現法政大学・学長)が、「あなたたち同友会は、小さくて経営に苦しんでいる中小企業を支援するのか?より成長し発展しようとする中小企業がさらに発展するために支援するのか?」と質問しました。これを聞いた全国の事務局長の大半からの答えは『両方』でしたが、10年ほどを経過して基本法の改訂で登場したのが、今回の新法です。
新施策を利用するたくましさを
戦後中小企業政策の基本は「上層育成・下層淘汰」と言われています。中堅以上の優秀な中小企業は育成するが、苦しい弱い中小企業は淘汰していく、潰れてしまいなさいという元々何もしない政策だったのです。従来の政策の基本がそうで、さらに今回の新基本法はそれを公然化しただけで、中小企業政策の基本は何も変わっていないと思います。従って今回の基本法改正で私達中小企業が救われるというのは大きな誤りでしょう。ただ、私たちの前にはいくつかの支援法が登場していますから、こういう支援策をよく研究して私たち中小企業が利用しようとしない限り、経営はますます苦しくなるし、利用しようとする人達との間に、大きな格差を生み出してしまいます。新しい基本法が多数の中小企業を救うものにはならないという点を大前提にしておかなければならないこと、そうであっても、中小企業向けの新しい施策は利用するたくましさが私達に要求されているのです。
●「99同友会ビジョン」が生まれた背景
愛知発!「21世紀型企業」像
1999年4月の愛知の定時総会で、「99同友会ビジョン」が確立しました。これはさかのぼること7年前、92年の創立30周年で日本福祉大学の小栗崇資助教授(当時)にお手伝い頂いて出版した『小さな会社が日本を変える』の中の問題提起がベースにあります。バブルが崩壊して、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄という産業構造が崩壊するなかで、これからの中小企業は「21世紀型企業」をめざすとして、その企業像を(1)学習型企業、(2)問題解決型企業、(3)ネットワーク型企業としました。この愛知の提案は全国にも影響を及ぼし、中同協は93年の全国総会(北海道)で、「21世紀型企業像」を発表しました。
サードイタリアへの視察
翌94年、会員有志で組織する「愛知県中小企業研究財団」が呼びかけてサードイタリアを視察します。この結果はパンフレット『21世紀型中小企業戦略へのヒント』(研究財団)にまとめられています。地域社会の中小企業集積が地域経済を活性化させている事例をつぶさに見てこようということで計画され、サードイタリア視察は実に教訓に満ちたものになりました。第3セクター型の地域中小企業研究機関があって、ここが地域の中小企業と一体になった支援をしているとか、インパナトーレと呼ばれる問屋商人のことだとかを学びました。帰国してからの話し合いは「これなら日本にもあるのではないか、西陣はどうか、東大阪はどうか、墨田はどうか、大田は?」など、いろんな地域の名前が浮かび上がってきました。
東京・大田への視察
そんな議論を経て、97年に東京大田の中小企業視察を実施します。この経験は『空洞化を超える技術とネットワーク』(研究財団)に収録されています。大田の特徴は、「自転車ネットワーク」とか「路地裏ネットワーク」と言われる、ここにしかない得意技を持った中小企業の地域集積という点にあります。そして東京同友会大田支部には「21大田中小企業政策研究会」(略称21研)という研究会があって、会員のほかにも研究者・学者・行政マンなどが多様に参加し、「多面的に広く様々な分野から学び、時代の転換を研究する」ことを行っていました。
7年の積み上げが「ビジョン」に結実
「99同友会ビジョン」では「自立型企業づくり」と「地域社会とともに」を提起しました。自立型企業づくりはいろいろな形で議論になってきました。一方もう1つの旗印「地域社会とともに」では大田から学んでいろんな形の「研究会づくり」を提案しました。その後、愛知における研究会づくりの足跡は『共同を力に〜中小企業家たちの挑戦』(研究財団)に紹介されていますので、ぜひご覧下さい。愛知のこのような活動について神奈川大学の大林教授は、以下のように特徴づけています。(1)愛知同友会は創立の当初から会員の要求を集約し、改善を促すという実証的な活動を行ってきた。(2)自立型企業の提案は、モノづくりの拠点であり、強固に大企業がリードする地域において追求しようという意味で、極めて大きな意義がある。(3)会員自らが会員講師となって自己の経営上の問題や経験を率直に話し合うことに優れた特徴がある。一方で、「学びあう」ことから、「研究する」ことへ発展させることが、今後、一層求められていると「研究会づくり」の重要性を強く指摘しています。
●愛知発、中小企業家発「金融アセスメント法」
3度にわたる実態調査を踏まえ
従来の改善を求める要望という形ではなく、「同友会発」「法律作成を求める提案」として、「金融アセスメント法」は今日的な意味で極めて重要です。この問題に対する愛知同友会の取り組みは97年に始まります。11月末の「貸し渋り調査」では、「すでに経験」(13・4%)「今はないが今後心配」(58.9%)と72.3%もの会員が、「貸し渋りの不安」を抱えていました。98年5月には、「ガンバレ!社長シンポジウム」を前に第2回の「貸し渋り調査」が行われ、10月には「特別保証制度」が実施され、11月にはこの利用状況とあわせて、3回目の「貸し渋り調査」が行われました。ここで「貸し渋りあり」と回答した人は27.4%、97年11月一13・4%、98年5月17.8%等と比較して、「貸し渋り」が一層ひどくなっている事が判明しました。また、特別保証制度を利用した企業が約半数あり、その内94%の企業が「金融機関に勧められた」と回答、そのうち16%の企業は「既存融資との借り換えを求められた」と回答していました。さらに、その融資金利は1.5%から4.5%の間に百社以上がバラつくという、信用保証付きであるにも関らず、相手を見て金利を決めるという状態になっていることが実態として明らかになりました。
全国的な運動に発展
この調査結果を多くのマスコミが報道しました。そして、翌99年2月の参議院予算委員会で、民主党の海野徹議員の日野正晴金融監督庁長官に対する「旧債振りかえ」についての代表質問に利用されました。こういった動きに関連して、99年3月に自民、公明、民主、共産、自由の五党の国会議員を招いて「政党シンポジウム」を開催。山口助教授(当時)が提案している「金融アセスメント法」の原型とも言える提案が、「山口私案」という形で発表され、全政党が賛意を示しました。その後、全国的な制定運動が盛り上がり、今年の中同協の「政策要望」の重点項目に(1)金融アセスメント制度の早期法制化、(2)中小企業の実情に沿った別の基準の検査マニュアルの作成、(3)ペイオフ解禁は実行猶予措置等を掲げるようになっています。また、政党レベルでは民主党が「金融の円滑化に関する法律案(金融アセスメント法案)」を作成、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、全国中小企業団体連合会、全国商店振興組合連合会、そして中同協という中小企業団体を招き、ヒアリングを開催しています。当面する重要な政策課題として「金融アセスメント法」の制定の運動を、同友会運動の課題として、創造的にすすめる必要があります。
●「3つの目的」の総合的実践が大切
共同求人のめざすもの
さて、「共同求人」で大卒採用に取り組む活動は、今年も4月19日と20日に吹上の振興会館で第1回目の合同企業説明会を開きました。しかし、参加学生は2日間で900名と昨年の半分でした。学生数が減っているのは同友会だけではなく各説明会がそうで、全国的な傾向のようです。さて、同友会の会員企業は共同求人の目標とする「優秀な人材を採用して経営体質を強化する」「大卒を採用して、育てることができる経営者になる」ということは大切なことです。しかし、合同企業説明会を開いて採用活動だけやっていてもダメです。かつて小学校の教科で中小企業が出てきたら先生が「貴方たちそんな事していたら、将来、中小企業にしか行けませんよ」といって子供たちを注意するという話を聞いたことがあります。教育現場がこんなことをやっていて、どの子供たちが中小企業に魅力を感じるでしょうか。
インターンシップも政策的課題
同友会はインターンシップで学生の研修を受け入れて4年目を迎えます。こういった活動を通じて中小企業への理解を広げることも求人の支援になります。ところがそのインターンシップについても、初めは「求人採用のきっかけになる」と注目されて、大企業が飛びつきました。ところが採用には結びつかないことが分かると、1年後には素早く撤退しました。同友会は最初から、(1)「新人でもアルバイトでもない研修生」と考える、(2)インターンシップを採用の手段にはしないという2つの目標を立てました。「社員教育のチェックになる」「感想文が幹部研修の教材になる」等の利点はありますが、一般的には受け入れ企業にあまりメリットがなく、企業がなかなか集まりません。また、研修生の交通費が企業負担となるといったおかしなこともあります。インターンシップ制度は旧文部・労働・通産の3省共同提案で始めたのですが、受け入れ企業に対する、何がしかの支援措置があっても良いのではないでしょうか。
行政の調査にも私たちの声が反映
障害者雇用の実態調査について、最近チョッとした事件がありました。昨年8月に愛知県が調査した「知的障害者雇用実態調査結果」についてです。障害者のインターンシップ要請で来局した産業労働部就業促進課の課長補佐が「こんな調査をやりました」と資料提供をしてくれました。データを見て驚きました。同友会が今年3月の懇談会で、「ぜひ55人以下の企業も調査の対象にして、データを出して欲しい」と松田障害者問題委員長が要請したことが実現していたのです。何の施策の恩恵もない小規模な中小企業で54.2%の障害者を雇用している実態が明らかになりました。
政策課題は身近に
先日、企画室の第1回戦略会議が開かれ、ある研究者の方から、「国際展示場や志段味・ヒューマンサイエンスパーク、守山のガイドウェイバスに地方自治体がどれだけお金をかけているのだろうか」という問題が投げかけられました。また、「あまり利用していない施設を維持・運営する為に万博や空港以上のお金をつぎ込んでいるのかも知れません。このお金をもっと別の分野に活かせば、全国一の中小企業政策が展開できるのかも知れない」と言います。1社だけでは解決できない問題を、力を合わせて皆と解決させましょう。自社だけで抱きかかえて、自助努力の課題にしてしまわないで、会員や中小企業が統一できる課題にすることが、すごく大事です。そうすれば、政策課題はこんなにあるということではないでしょうか。
【文責事務局・内輪】