自立型企業づくりの布石(自立型企業支援室)
会員企業に見る中小建設業の経営課題
山田佳倫(愛知同友会・事務局)
現在、事務局(自立型企業支援室)では、各会員企業を訪問させていただき、各業界での「自立型企業づくり」の実像を探っています。その第1回として「建設業」をとり上げました。
●愛知の会員は意外と元気
建設業界をめぐる状況は、少子化等により新築住宅着工件数の確実な減少(96年が163万戸に対し2000年は121万戸)、公共工事(2001年3月実績で前年同期比6.7%減)や民間の設備投資の縮小(2001年3月実績で前年同期比15・4%減)など、何1つ明るさが見えない。昨年、約30社の建設関連の会員から話を伺ったが、他社との差別化を図り、必死で頑張っている姿が浮かんできた。新築では他と異なる得意技(得意分野)で活路を見い出している企業群と、リフォームを中心とし、その中で特徴を出そうとしている企業群が見られた。このことが、中同協の景況調査などにより、他県に比べて、愛知の建設業の会員が元気な理由の一端だと思われる。一方、今年の中小企業白書によれば、中小建設業の最大の経営課題は「官公需要の停滞である」となっている。それは中小企業庁のアンケート(3月調査の結果)によれば、(1)官公需要の停滞26.2%(2)下請単価の低下、上昇難23.6%(3)民間需要の停滞22.6%(4)大企業の進出による競争の激化8.5%(5)新規参入者の増加3.8%となっているからである。そこで今回、建設業関連の会員の現状と、最大の経営課題をどのようにとらえているのかを、十数社の会員から話を聞いた。
●価格設定がカギA社(不動産・デベロッパー)
地域密着の営業で、3年間で売上が2.2倍になった。その要因は以下。(1)土地仕入れの差別化=売買の相談があった物件のうち、条件のよいものだけを分譲用に自社で買い取る。(2)他社よりも価格は安く、例えばカーテンレールや照明器具は設置済みといった内容は良くする。並の上、または上の下をねらう。(3)地域に知られている信用力と営業力(これまで建物完成までには完売)。資金的には土地代も建築代も銀行が全額融資してくれる。団塊ジュニア世代が住宅取得期に入るため、質の高い住宅の需要はあるので、2010年20億円の経営計画は前倒しできると考えている。経営課題はデフレ社会の中で、需要より供給が多い状況で、どう売っていくか。突き詰めれば価格設定がカギ。
●人材の育成が課題B社(総合建設)
昨年は民間が3割ダウンだったので、今年は3割戻すことを目標にしている。そのためにはOB施主とのコンタクトをより密にすること、地域密着をよりすすめることで、目標を達成したい。これからは建物の付加価値も高くなり、これまで20〜30年で建替えを想定していたが、これからはもっと長くなるだろう。売上至上主義ではなく、適正な利益の確保を優先していきたい。今期から決算書や経営指標などすべて社員に公開した。目標が達成できれば、全員でアメリカへ研修旅行に行こうと頑張っている。経営課題は、「民間需要の停滞」だが、本当の最大の課題は「人材の育成」である。今年も3人、来年も3人新卒が入社してくるが、そういう若い人達をいかに早く戦力化するかが課題。
●大手との競合の中でC社(一般建築)
法人化して3年、官公需0%、大手の下請0%、民間の住宅100%できている。これまでは特に営業はせず、紹介のみでやってきた。この地域はまだ土壁の需要が多く(70%)、下地に鉄板を使うSNウオール工法(作業性が良く、強度が1.5倍)で当社の特色を出している。安売りメーカーは別にして、大和、住友など上位ハウスメーカーとは価格では充分勝負できる。「品確法」による性能表示を数値で出してくるので、当方もトステムなどの新しい工法を使うことにより、迅速に性能表示の数値を出せれば有利に戦える。経営課題は、大企業の進出による競争の激化=ハウスメーカーとの競合状態にあり、対応策は前記数値による表示とスピードやレスポンスの速さを追い求めることにある。
●環境問題から建物をD社(総合建設)
終戦後、「とにかく住む所を」とそこらにある材料で作った。その後、高度成長期に入っても「うさぎ小屋」がどんどん作られて、バブルの崩壊まで続いた。その結果4500万世帯に対し4800万戸も作ってしまった。京都での地球温暖化防止会議以降、住宅も今のままで良いのかと考えられるようになった。家というものは自分が育ち子供を育て、思い出をはぐくむところと考える。100年持つ家を作れば、25年で建て返る(燃やしてしまう)より、CO2の発生が4分の1になる。そこで「百年持つ家」をコンセプトに、在来工法の純木造住宅と、カナダからの輸入住宅(2×4)を扱っている。公共工事0%、大手の下請0%で、「環境問題から建物を考える」という認識がなかなか広がらないが、そのことにこだわって行きたい。
●幅広いリフォームをE社(総合建設)
建設業は未来がないとは思いたくない。人間が生きていく上で必要不可欠な「衣・食・住」の1つであり、永久になくならない。業界が膨大に発展しすぎた反動が今来ているだけ。(業者の数は飲食店より多いと言われている)公共工事が25%(名古屋市が多い)、民間が75%。この比率はあまり変わっていない。大手の下請は0%。新築住宅は大手ハウスメーカーの企画宣伝力に負ける。もちろん規格品でない注文住宅はやるが、リフォームに力を入れていきたい。リフォームと言っても幅が広いが、オール電化の家、アルミパネルの外壁かぶせ工法、ガーデニングなど。問題は「民間需要の停滞」。その中でいかに売り込むか、PRをするかが課題。
●前提の「人材育成」
一部の紹介になってしまったが、訪問企業12社中官公需を扱っている企業は6社であるが、経営課題として「官公需の停滞」を挙げたところは1社もない。確かに「官公需の停滞」は経営上大きな影を落としているが、そのような現状を認識して、自らの努力によって解決を図ることができることが「経営課題」ではないだろうか。少なくとも話を聞いた会員は、その様に考えている。その経営課題は「受注の確保」「適正利潤の確保」があげられ、そのためには「人材の育成」が最も重要ということではないだろうか。