どうゆうき


▼この4月、金融庁から「金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編」の素案が公表された。政府の「デフレ対応策」の1つとはいえ、同友会の全国80万名に及ぶ署名活動を始めとする検査マニュアルの画一的適用への批判の「声」に押されたものであることは間違いない。経営環境の改善のために中小企業経営者が行動することが、小さいながら1つの形として結実してきた
▼だが、この「別冊」の内容については、残念ながら手放しで評価できないことも事実である。全体の基本的な考え方は、これまでの中小企業への融資慣行を追認しているだけで、著しく借り手に不利な現状を変えようといった姿勢は見られない
▼例えば、「中小企業の債務者区分の検証に際しては、代表者の資産との一体性」を「勘案及び確認」するとしている。現在慣行となっている個人と企業を「一体」とみなし、その上で代表者個人に資産があれば、企業の資産として認めようと言うわけだ
▼更には、これまでの物的能力だけでなく、「企業の技術力、販売力を勘案」するともしている。これまで金融機関でもなかなか評価できないでいるこうした企業の力を、金融庁の検査官が判断できるとはとても思えない
▼「経営指針」をはじめとする企業の「自己表現能力」を一層高めるとともに、起業を妨げる個人保証などのゆがんだ金融慣行是正のために、さらに地域や国民を巻きこんで、大きな声をあげていかなければならない。それは単に中小企業にとってだけではなく、不況からの脱出をめざす日本経済にとっても、大きな課題となっているからだ。

理事 後藤登