自立型企業づくり
今求められる自社の存在価値抜け出せない構造不況逆にやりがいに
田中信吾氏日本ジャバラ工業(株)・社長(兵庫同友会・代表理事)
<会社概要>
●設立1960年
●資本金4000万円
●年商16億円
●社員数70名
●本社神戸市
●事業内容ジャバラ等製造販売
仕事と経営とは次元がちがう
今こそ経営者の資質が問われている時代だと思います。不況というのは全員同じ条件で、今まではまじめに仕事をしていれば利益が出たのですが、そういう時代ではなくなりました。このことは逆にいえば、経営者としては非常にやりがいのある時代になったということです。私達経営者は何らかの形で日常業務をやっています。一生懸命仕事をすることで経営をしている気になっているのですが、本当は仕事と経営とは次元が違うんですね。私自身、このことに気づくのに10年以上かかりました。
困った時こそ同友会
当社は、15年前に2期連続で赤字を出したことがあります。その時に父親から受け継ぎ、社長に就任しました。それまでは家内工業的な会社でしたから、まず組織づくりに力を入れました。しかし、なかなか思い通りにはいかず、1年目は赤字になりました。そこで同友会へ出て行き、「社員教育はどないするんや」と話をしたら、すぐに人材育成委員長にさせられてしまい、大いに学ばせて頂きました。また、これからは新卒も採用しようと、共同求人委員会をつくって活動を始めました。同友会で学んだことをすぐに実行すると、売上も上がり、利益も出るようになりました。
バブルがはじけ売上げが急減
次に若い人に来てもらえるようにと、週休2日制を導入しました。ところがちょうどバブルがはじけた直後で設備投資が冷えこみ、売上が急に落ちてきました。これはいけないと、「週休2日をしばらく返上して欲しい」と言うと、若い社員の何人かは辞めていきました。学校側からも「もう推薦はしない」と言われてしまい、何とかしなければと考えました。そこで取り扱い商品について見たところ、何の変哲もない他社と同じものだということに気づきました。なぜ売れていたのかと言えば、当社の歴史が古かったからです。売れなくなれば当然値引き競争になり、単価も下がり、量の減少と併せてダブルパンチになりました。
震災の混乱の中学んだ内と外
これは何とかしなければと考えている最中に起こったのが阪神大震災です。多くの会員が被害を受け、当社も本社工場が半壊しました。その復旧の混乱の中で1つ気づいたことがあります。神戸ではジャンパー姿で飛び回っていた時、たまたま大阪まで行ったら、そこではスーツを着てネクタイを締めて、何もなかったようにみんな歩いているのです。つまり神戸の中では、みんなが「大変だ、がんばろう」と言っているのですが、一歩外へ出れば状況が違うのです。不況で大変だと言い合っていても、一歩国外へ出たら違うということなのです。
イタリアの新製品で売上げアップ
さて、他と違う新しいものを開発しなければと、頭では判っているのですが、具体的にはどうしていいのか判りません。そんな時、以前見本市で知り合ったイタリアの同業者のことを思い出し、さっそく行ってみる事にしました。工場見学などをさせてもらい、話し合う内に、「これからこんな製品を作ろうとしているが、良かったら作らないか」と言われ、見てみると、当社とはまったく違った製法で作る新製品なんです。そこでヨーロッパとアメリカは彼のところで、アジアは当社でやることになりました。幸か不幸か阪神大震災で工場は半壊状態でしたので、震災特別融資を受けることができ、全額この新製法による新商品につぎ込みました。初めは実績がないということで、売るのに苦労しましたが、だんだんと流れに乗り売れるようになりました。
パテントもISOも社員を巻き込んで
そこで、これらのパテントを採ろうと思ったのですが、何せやったことがなく、困ってしまいました。そんな時に大手の会社をリストラされた、その道に詳しい人が入社してきました。「これは」と思うものを片っ端から彼に頼みパテント申請をしてもらったのですが、少しでも相談した人、意見を聞いた人は共同開発者としました。するとパテントが取れたときには額縁の中に連名で名前が載るのです。すると「次は自分も」と、社員の意識が変わってきたのです。次にISO9001を取ることになったのですが、その時社員に言ったのは、「ISOを採ることが目的ではない。会社が変わることが目的でISOはその手段だ」と言いました。通常他社では若手5〜6名でプロジェクトをつくっているのですが、当社では古参幹部を含めて25名でプロジェクトをつくり、1年半で取得しました。
「もう一歩前へ」
昨年、企業理念の見直しを行い、自社の存在価値とは何かを改めて問い直してみました。結果として利益を上げることであり、それは当社にとって新しい可能性を開拓するということ以外にありません。それを短く判り易くし、「もう一歩前へ」としました。これまで経営計画があっても赤字になっていたのは、戦略がなかったからだと気づきました。戦略は自社の存在価値とは何かを徹底化することで見えてくるものです。そこで戦略を持った幹部社員づくりを進めているところです。特に社員教育をしてこなかった古い社員ほど問題が多い。そういう人たちにどうしたらやる気を持ってもらえるのか、その処遇について現在試行錯誤をしているところです。
儲かる仕組みをつくる
仕事をすることと経営をすることは次元が違います。常に時代の流れを読みながら会社をいい方向に持っていく。そういうことが経営であり、儲かる仕組みをつくり続けることだと思います。社員というのは会社がより良い方向に変わってきたということが見え出した時に、すごくやる気を出してくれます。それまでは社員にはわかりづらいのですが、噛み砕いて何度も何度も話をし、いわば洗脳していくのが、社長の仕事だと思っています。常に変化を与えながら、より良い方向へ持っていくようにしていることを社員に見せるといろんな問題が出てきますが、それを1つ1つ乗り越えることで、会社は良くなっていくと思うのです。
【文責事務局・山田】