第34回全国総会第17分科会
下請け体質から自立型企業体質への転換〜自動車部品製造業の「勝ち進む経営」〜
加藤明彦氏エイベックス(株)・社長(名古屋支部・支部長)
自社の強味・弱味を分析
当社は、創業1949年の高精度切削・研削加工の会社です。現在オートマチック車のトランスミッションのバルブ・スプールを年間約2000万本生産しています。企業理念は「私たちは、常に『良品を生産』することを追求し、社会にとって『役に立つ企業』として努力します」です。同友会に入会して2年目、96年2月の全国研究集会の分科会で報告してから、生産量は20%、売上高は10%、内製化推進による付加価値向上で社員数は45名から70名とそれぞれ増えました。同友会の共同求人から初めての大卒を採用したのも6年前ですが、現在では充分育ち、幹部社員として活躍しています。この間の自動車部品業界の変化は著しく、海外生産による空洞化、国内自動車市場の成熟、世界最適調達の動きなどが進み、当社はまさに構造転換の真っ只中にあります。自分の強み・弱みを分析して方向性をきっちり見出す、自社の特色を見ながらどうやって手を伸ばしていくか、これがこれから生きる一番の道だと思って、経営をしています。
専門性の追求やネットワークづくり
当社が試みたのは、本業重視による専門性の追求、つまり当社が得意とする切削・研削加工の技能・技術を深く掘り下げて追求することでした。ご指導を受けている精密工学会理事の先生がある設備を見て、「この設備の最高能力をあなた方は知っていますか」と聞かれました。調べてみるとある設備は3分の1位の能力しか発揮していませんでした。そこでどんどん最高能力に近づけていく改善活動を進めたまでは良かったのですが、ここで新たな問題が発生しました。要するにあるべき姿まで追求していくと、今まで目に見えなかった真の課題が浮かび上がってきます。これが改革活動であると指導を受けました。今は、これらの活動を通して専門性を深く追求していくことにより、新たな技術力や開発力が生まれてきています。また、当社にない経営資源を持っている企業や大学・研究機関との連携、行政・金融機関から資金援助を受けるなど、様々なネットワークをつくることも大切なことだと考えました。自社の技術に関連する刃物の耐久性を2倍にする研究を試みたのですがなかなかうまくいかず、それらの関連する人を探したところ、ある国立大学の先生と出会い改めて研究を始めました。思い切って取り組んでみたら、自社で研究するよりもはるかに安い費用で、しかもこの研究が学会で発表されると、「これはおもしろい」ということで他の先生からも問い合わせがきました。現在は3校の先生方と研究を続けていますが、つき合ってみてわかったことは、各校特色があり、極める分野もそのための研究施設も違うということです。研究していたことも総合的にやらないと開発できないもので、結果としてネットワーク構築による経営資源の活用ができました。
人づくりは共同求人から
「人材投資」は会社の発展に大きく影響するので、まさに社長の仕事だと考えています。そのため、同友会の合同企業説明会には必ず参加し、直接学生に経営理念や方針を語っています。トップが語ることによりベクトルがあい、共鳴する人はついてきてくれます。社員教育は入社後からではなく、共同求人の出あいから始まっていると考え、行動しています。また、当社は、年3回の長期連休前に一日全社員研修を行っており、春は「経営指針発表会」を行い、そこには必ず知り合いの同友会会員さんに参加をしていただき、コメントをしてもらっています。社長が同友会で何をやっているのか知らせる機会にもなります。夏は、「報連相大会」ということで、日頃の改善活動の成果発表やグループ討論を行い、何でも言いあえることができる風土づくり、いわゆるコミュニケーションの場にしています。また冬は、経営指針発表会後の経過や目標の進捗状況を確認するためにまず各部署が発表をし、次に同友会の特色でもある『学び方を学ぶ』ということでグループ討論を行います。そして後半期どう進めていくのかを発表して全員のベクトルを合わせるための「目標成果発表会」を開催しています。同友会の『共に育つ』ということの究極は、経営指針書が全社員一人ひとりにまで浸透した、その姿だと思うのです。
社員が成長した分しか会社は発展しない
私は、会社イコール人生だと思います。社員一人ひとりが成長した分しか会社は発展しないと考えています。ムリに発展させるとどこかで犠牲者がでます。会社を体質強化しながら発展させるには社員の潜在能力をどう引き出すかですし、社員が自分の成長を実感できる職場が必要です。「会社は問題がなくなると発展しない」と言われますが、今、気づいている問題というのは目に見える問題であり、それはすでに過去に発生したものであり、これが今までの改善活動ではないでしょうか。もちろんこれらの問題は解決しなければいけませんが、今の時代は、未来のあるべき姿(目的・目標)を描いて、現在の現状を認識しそのギャップから生まれてくる問題、目に見えなかった真の課題、これが改革活動だと思います。すなわち将来ビジョンとのギャップに対し、これからどうすれば良くなるのか模索していくことが、未来発展型のプラス思考と考えます。
「10年後は私達に任せてください」
2年前に5年先のビジョンとして新しい工場を建てようと社員に持ちかけました。するとある若手社員から、「その工場は誰が運営するのですか」と質問があったので、「当然、あなた方若手を中心に頑張って発展させるのです」と答えました。そうしたら「そうならば、建てるのが5年後ならその工場の体制を考えるためには、10年後のビジョンを考えるべき」と言うのです。そこで社員と一緒にビジョンつくり始めました。ところが2カ月ほどすると、若手社員から、「社長は会議に出ないでくれませんか。僕らは白紙の状態からやっていきたいのです」と言われ、私が先入観の入った意見を言っていたのだと大いに反省をしました。半年が経ち、2010年ビジョンが完成しました。「いいできだ。この計画が達成できるよう私も10年後まで頑張る」と宣言をしたら、今度は、「言いづらいのですが、ここには書けませんでしたが、私達はあと5年を目標に何とか育ち、3代目を中心に会社を成長させていきます」というのです。暗に5年後には引退せよと言わんばかりで、この出来事はある意味うれしくもあり、さびしくもありました。
同友会で学び、企業を発展させる
これから更に厳しい経営環境が待ち受けています。そうした中、お客様から認知される存在価値のある企業になっていかなければなりません。そのためにも、企業の方向性を示す「経営指針書」の社員全員のベクトル合わせや「専門性の追求やネットワークづくりによる市場創造」「先行投資となる人財共育」などを中心に、お客様に提案ができる自立型企業体質を同友会で学び、更に強化していかなければなりません。この計画を達成して、いつの日かこのような場所でまた発表したいと思います。
【文責事務局・多田】