「労使見解」を学ぶ労務労働委員会10月23日
不況の中を生き抜くために従業員の力を生かして
上野修氏(株)アドバンスト・社長(中同協・労働委員会担当常任幹事、京都同友会・相談役)
労務労働委員会主催で「同友会3つの目的」を「労使見解」の観点で学ぶ3回シリーズの学習会が始まりました。講師は中同協労働委員長担当常任幹事の上野修氏((株)アドバンスト・社長、京都同友会・相談役)です。上野氏は1933年生まれで、1969年自動車免許教習所である(株)山科教習所を設立し、現在常勤監査役。88年には自動車学校の講師を育成する(株)アドバンストを設立し社長を務めています。労働組合が結成されたのを期に京都同友会に入会、95年以降の全国総会、全研、労使問題交流会に欠かさず参加し、「労使見解」の普及に努めています。
「泣く子も黙る」労働組合が結成され
30年ほど前、当社に労働組合ができました。「泣く子も黙る」闘う労働組合でした。「現場の人間はパートナーではない」と私は考えており、まずは敵視政策をとりました。弁護士、社労士にいろいろ相談しましたが、なんともなりません。問題を解決するのは経営者自身だと気づかされ、京都府庁へ行って相談しました。経営者団体の中で一番真面目に労使問題を扱っているのは同友会だと教えられ、早速入会しました。入会直後、立派な先輩経営者のところに行っては「労働組合が…」と話していたところ、「あなたは天に向かって唾してるだけ、全部自分にかかっているよ」と言われてハッと気がつきました。「人にはいろんな人がいます。それをどう生かしていくのか、これが経営者の器量なんです。『組合に弱くなれ』なんて言ったら、一生懸命企業を潰すように頑張ってくれますよ」と教えてくれました。「ああそうか、経営者としてまず人間関係を学ばなアカン。それには労使関係だ」と労働委員会に入り、経営者の責任はいい人間関係をつくっていくことであるということが分かり始めました。
アマとプロの違い
また当時同友会の勉強会で将棋の大山康晴名人の話を聞いたことが、ひとつの転機になりました。「プロとアマが何回指してもプロが勝つ。アマは自分の手の問題を考えるが、プロは相手の立場になって見ていく。プロは本質を深めるが、アマは現象に囚われているだけ。経営も同じ」「景気が悪いとか、社員が働いてくれないとか言っているうちはアマチュアに過ぎない。経営は人を生かす、人の本質に迫ることではないか」このように言われ、なぜ同友会が、また優れた経営者が人間の本質を深めなければいけないと主張しているのかが分り、そのように変わらなければと思いました。
裸になって本音を
一方で組合との関係はどうしようもない状況になり、「資本の出してくる方針なんかやらん」と組合が主張し始めました。その時会社をやめたら1億円以上の赤字が出ることがはっきりしていました。敵視政策を改めるのか、共闘関係を結ぶのか、瀬戸際に追い込まれました。ようやく私は生き残る為には、「パンツも何もかも脱いでやれ」という想いになりました。そこで「あなた方組合の協力がなかったら、会社は再建できない。協力してくれるんやったらやる」と、本音の話をしました。今まではこのことが言えなかったのです。すると喧嘩をしていた組合幹部が涙をポロッと流して、「私たちは企業や経営者を敵視する気はない。経営者の方から挑んできたら、私らは防戦一方。何も対立したくない」、そして「再建しようやないか」ということになりました。
経営者が変われば社員も変わる
こちらが変われば、相手はどんな人間でも変わるといういう事を知りました。そうと気づいたら、再建計画を出し、組合と話しあい現状認識を一致させ、意思統一し、企業再建ができました。労働組合との対立・激突を繰り返してきて、それがきっかけで同友会に入って、「人というのは表面だけを見て評価をしてはイカン」「物事の現象を見て右往左往していてはいかん。本質を見ることだ」と気づきました。また社員の家庭訪問をして、奥さんにも両手をついて協力をお願いする中で、会社は見えないところで多くの人に支えられていることを実感しました。会社の経理は組合推薦の経理士さんに見てもらうことになりました。とは言うものの再建というのは楽なことではありません。気のゆるみも出ます。夢やロマンがないと人は生きいきしないと思いました。当時、一流の仕事をすることを求めていましたが、給料は一流ではない。受けとる料金も他所と変りません。大変な冒険だと思いましたが、一流の仕事に一流の賃金、一流の料金をと提起しました。お客さんが一人も来なくなるのではないかと心配しましたが、社員は信じられないような力を発揮して、「高いけど親切」の評価を定着させました。
人を大切にするとは
同友会は私たち経営者に何を求めているか。それは人を生かすこと、それを企業経営の中で貫いていくことです。「労使見解」ではその1つとして、「経営指針づくり」の必要性を教えています。2つ目には、人を大切にするという考えをどう日常の仕事の中で生かしていくのかです。いろんな人がいて、一人一人が違います。この違いを認め合う。そうしないと協力関係が築けません。お互いの違いを認め、協力することで、経営者も従業員も力を発揮し、企業は発展する。経営者の仕事はこのことを会社の風土として定着させること、それを実践する人を育てることです。この2つが私たちに求められ、私も多くの先輩経営者から学んできたたことです。
【文責事務局・服部】
『労使見解』とは
同友会では「経営指針づくり」「共育(共に育つ)」「経営者の器づくり」といった言葉をよく耳にします。
その源は、中同協が1975年発表した「中小企業における労使関係の見解・中同協」(略称『労使見解』)にあります。
赤石中同協会長はこの『労使見解』から学ぶべき点として、第1に経営者の経営姿勢の確立、第2に、経営指針の成文化とその全社的実践の重要性、そして最後に、社員をもっとも信頼のできるパートナーと考え、高い次元の経営をめざし、共に育ちあう教育(共育)的人間関係をうちたてていくことと述べています。
「労使見解」は以下の八章から成っています。
(1)経営者の責任
(2)対等な労使関係
(3)労使関係における問題の処理について
(4)賃金と労使関係について
(5)労使における新しい問題
(6)労使関係の新しい次元への発展
(7)中小企業における労働運動へのわれわれの期待
(8)中小企業の労使双方にとっての共通課題
※パンフレット「人を生かす経営」所収(定価250円、事務局まで)