名古屋支部経営者のつどい1月22日
中小企業の強みを生かして
〜中小企業が光になる時代をめざして〜
吉田敬一氏駒澤大学経済学部・教授
地域に根ざした中小企業が日本経済の光になる
日本経済の構造転換
戦後の日本は、進められてきた近代化政策により、世界に類を見ないピラミッド型の下請け構造が形成され、良い商品を安くつくる日本型生産分業システムが力を発揮し始めました。80年代にはトヨタ自動車が、100万個中不良品は10数個程度という驚くべき水準の品質管理で、信頼性の高い日本の工業製品が世界市場を圧倒してきました。そして、そのモノづくりの土台を支えていたが中小企業でした。この日本経済の構造が大きく転換しつつあります。1つはグローバリゼーションの進展です。バブルの頃から製造業などの海外移転が進み、96年には海外の現地法人の売上が輸出を逆転しました。2002年の調査では輸出52兆円に対し、海外現地法人の売上は68兆円と、日本は従来の輸出立国ではなくなりました。こうしたグローバリゼーションに対し、「メイド・イン・ジャパン」の存在意義を質の点で明確に打ち出すことが求められる時代になりました。
「トレンドを創れ」
2002年に博報堂が欧米人・日本人(20〜35才の若手ビジネスパーソン)に対して行った「日本製品のどこを評価するか、されているか?」という調査結果数字では、日本人が思うほど欧米人は日本製品の品質や(米=71%、英=68%、日=96%)、信頼性(同64%、54%、91%)に高い評価を与えていないのです。かつて、圧倒的な競争力を持っていた日本製品の品質・信頼性は、このように大きなほころびを見せ始めているのです。原因としては、海外に展開した現地企業が、日本国内の中小企業ほどの高い精度と提案能力をまだ持っておらず、このことが品質や信頼性に影響を与えているのです。また、最近の欠陥自動車のリコールや大規模な産業事故の多発が示すように、コストダウン追求に血道をあげた生産の海外移転や、リストラによる熟練工の排除は、国内のモノづくり基盤を大きく掘り崩して、高い品質と信頼性を持つ「メイド・イン・ジャパン」ブランドに陰りがみえ始めています。
「ホンモノ志向」へ
欧米人は日本製品を機能性では評価していますが、ステータス性(見せびらかし・デモンストレーション効果)への評価はまだ低いのです(同12%、19%、41%)。日本人のライフスタイルが日常の衣食住で、ホンモノ志向や文化的なものを大切にしなければ、民族文化を大切にした「ホンモノの暮らし」をしている外国人には評価されないわけです。今後は中小企業や地域経済を、日本型の豊かな社会をつくっていくフロントランナーとし、トレンドを発信していく方向へ転換する必要があります。ここに地域に根ざした中小企業が強みを発揮し、「光になる」可能性があると思います。
これからは高いレベルでの資質と能力が問われる
「文化型」と「文明型」
モノやサービスは大きく二つに分けられ、それによって産業も2種類に区分されます。第1には「文化型」産業です。これは衣食住や生活必需品で、必ず地域や人間に根づいており、民族や地域の生活文化として非常に高度な芸術にまで進んでいく産業です。例えば季節で湿度変化が激しい日本では、素材そのもので湿度を調整する木造建築の文化が進んできました。ホンモノ志向の文化型産業は地場産業として集積し、個性豊かな町並みを形づくります。もう1つは「文明型」産業で、テレビや自動車など、必需品ではないがあったほうが便利・快適であるものです。これは素材や機能の点で地域や民族性の問題にはならず、万国共通です。それゆえ文明型の企業が発展すれば、必ずや多国籍的な展開をせざるを得ないのです。残念ながら戦後の発展過程の中、日本の各地域では生活の欧米化が進み、文化型産業、特に地場産業が崩壊してきています。グローバル化が進んでいる今日では、今まで軽視されていた文化型産業の再生復活で、「和」の文化を発信していく方向性が必要です。ここに今日の危機的状況を転換する展望があると思います。
文化型産業の再生を
日本の都市ではサラ金や自販機、コンビニという「人間の生活から計画性を奪うようなサービス供給機能」を持ったものが増え続け、中小商店や商店街の役割が失われつつあります。量の追求による規格化や大量生産、また使い捨てや人間的接触のない販売パターンで、ホンモノ志向のモノやサービスが生まれてこないという泥沼に入っています。しかし、ホンモノ志向に進むことで、地域循環型産業が出てくる可能性があります。ホンモノは修理によって使い尽くすタイプであり、こうしたライフスタイルに馴染むことで、人間は自然環境・資源・廃棄物問題などに構えることなく、対処しうるようになっていきます。そうした文化型産業の再生・復活の担い手は、地域密着の中小企業や地域経済であり、中小企業もマーケットをきっちり見すえた経営戦略・経営能力を持つ必要がるのです。
「オンリーワン」に
具体的には、なくなったらお客様が困る会社、「オンリーワン」の会社をめざす必要があります。その1番のポイントは、全体の方向性を示す経営者の資質と能力です。企業経営の基本はQCD(クオリティ・コスト・デリバリー)で、これが1番簡単な自己点検のポイントです。GNPの増大・人口増加の20世紀には、QCDのレベルアップだけで済みました。しかし、21世紀に入り生産の海外移転でGDPも減る、人口も減るという中では、「他社や他社の商品との差別化、プラスアルファづくり」が問題となります。高いレベルのQCD、つまり本業への徹底的なこだわりを持った上で、その特徴や強みを生かし業界の常識を打ち破る、そういうプラスアルファを持った企業は不況にも強いのです。
「専門家店」になろう
中小企業がこれからの光り輝く時代を考えるポイントは、流通・サービスすべて含めて単なる「専門店」から「専門家店」になることだと思います。「専門店」とは、例えばマクドナルドや吉野家のようなお店です。大規模なところは、どこでも同じ味を提供するために、アルバイトでもサービスの徹底的な規格化・マニュアル化を行っています。しかし、どう頑張っても「専門店」止まりで、マニュアル通りのサービスしかできず、お客様は過不足を感じます。では「専門家店」のサービスとは何か。規格化・マニュアル化などは、あくまで最低限やるべきことであり、それに加えて相手のニーズや商品知識のレベルに応じて提案し、「行き過ぎず行き届いたサービス」ができる、これが「専門家店」です。これには、社員一人一人が商品・サービスについての知識を持ち、お客様にも人間味あふれる対応や提案ができる。その結果、社員自身が誇りを持てる会社にしていくのです。そうした高いレベルの「専門家」になることが、非常に大きな課題であり、リーダーである社長の責務となっているのです。
これからのリーダーに求められる3つの資質とは
まずは「使命感」
社長には最低限この能力は必要だという、自己点検の基準があるはずです。私は3つの基準を持っていました。1つ目は「使命感」です。なぜ自分が会社をやっていて、そういう気持ちをどれだけ持っているか、持とうとしているかです。特に、創業から3代目の頃の会社は、ほぼ安定状態となり、社長が使命感を持ちにくい。さらに創業から短くても30年経過すると、会社の柱だった商品や技術が寿命を迎え、そこで使命感をしっかり持って第2創業をしていけるか、あるいは先代の使命感を継承していけるかが、大きなポイントになります。
「先見性」と「決断力」
2つ目は「先見性」です。今の状況に対応する戦術的な目と、10年・15年サイクルで近未来と中長期の未来を見抜く戦略的な目が必要です。あるいは世界・日本という広範囲の動きを見切る「鳥の眼」と、自分が勝負する地域社会の動きを見切る「虫の眼」。そういう複眼の先見性をリーダーは持たなければなりません。3つ目は「決断力」です。リスクのない「判断」ではなく、リスクを伴う「決断」をする力が経営者には求められます。例えば、判断としては業種転換をしたほうが良い。だがやれば血が流れる。それをやるかやらないかの決断です。これには単なる勉強だけでは駄目で、非常に厳しい人間的な研ぎ澄まされた修養が必要です。これは同友会のようなところで、色々な苦労話や成長話、様々な悩みを聞いたり話したりする中で、自然に身についてくるものです。以上が私自身が持っていた基準ですが、ぜひ皆さんも他にない自分自身の基準を持っていただきたいです。
「異人種交流」能力
そして、色々なタイプの経営者から学び、それぞれが世界に1人の社長を追求していくことが求められます。さらに、様々な危機に対応する戦略的な思考力やネットワークが必要ですが、ポイントとなるのは、自分と違う考え方・発想力を持つ社長(人間)との「異人種交流」能力です。ぶつかり合いもあるかもしれませんが、その中から新たな発想も生まれます。また、部下になる多種多様な人間と最先端のところで交流する能力が常に試されます。
「共育型」の人間を
これからは厳しい選別の時代です。「ホンモノ志向」と「間に合わせ志向」の2つに分かれてきます。間に合わせ志向の大企業に対し、中小企業はホンモノ志向を追求することです。その基本は、述べてきたような「共育型」の人間をどうつくるかです。それには同友会が行っている「経営指針」づくりです。こんな会社にしようという「理念」、それを数年後にはここまで実現しようという「戦略」、それを単年度に落としていく「計画」を持ち、実行することです。21世紀はそういう目標や指針を持った共育型の企業が求められるステージです。中小企業独自の強みや個性を発揮できる会社づくりのために、そういうことを真剣に学びあう同友会を、これまで以上に積極的に活用していただきたいと思います。
【文責 事務局・政廣】