第44回定時総会第4分科会
4月28日
経営理念の実践で、オンリーワン企業をめざして
〜職場は職員ひとりひとりの晴れ舞台

土井章弘氏(財)操風会岡山旭東病院院長(岡山同友会代表理事)
●設立1983年●病床数162床●職員数271名●脳神経運動器の総合専門病院
同友会の「3つの目的」は病院経営にもピッタリ
経営理念とは「坂の上の雲」のようなもので、近づいたと思ってもまた遠ざかってしまう、とにかくそれに向かって努力し続けるものだと思っています。
香川同友会の「共育講演会」に感動
私は1975年から12年間、香川県立中央病院に勤務していましたが、85年に香川同友会の「共育講演会」に誘われて参加し、若林繁太氏の講演を聞いたのが、同友会との最初の出あいです。「熱心に勉強している経営者の会だな」と感心し、さっそく入会を申し込んだのですが、経営者でないからと当時は入会を断られました。しかし、その後も行事案内は送られてきたので、岡山に帰るまでの2年間、いろいろと勉強させていただきました。1987年に岡山へ帰り、整形外科を開業していた弟と一緒に今の病院を始めました。香川の同友会から連絡があったのでしょうか、さっそく岡山同友会の事務局長が入会の説明に来られ、入会することになりました。同友会の3つの目的「良い会社になろう」「よい経営者になろう」「良い経営環境をつくろう」を病院に置き換えると、「良い病院になろう」「よい院長になろう」「良い経営環境をつくろう」と、病院経営にもピッタリです。「自主・民主・連帯」や「人間尊重の経営」という考え方も病院経営にはピッタリで、同友会との長いお付き合いが始まりました
理念をつくるが…職員が猛反発して
「病院にも経営指針が必要だ」と言われ、鉛筆なめなめ病院の経営理念をつくりました。そして90年に第1回となる発表会を行いました。「同友会の仲間も呼んで行ったのですが、職員からは「なぜ病院に経営が必要なのか。儲け主義ではないか」という意見も出され、幹部にさえ反発されました。「これはいかん」と思い、東京同友会の第一経理の丸山博先生に来ていただき、経営指針の勉強会を病院内で行いました。その時、「社長と社員の間には暗くて深い溝がある」と言われ、この溝を埋めるのが経営指針だということを学びました。その結果、もう一度経営理念を考え直すことになり、全員でディスカッションを行い、以下のような経営理念が確定されました。
【経営理念】
(1)安心して、生命をゆだねられる病院
(2)快適な、人間味のある温かい医療と療養環境を備えた病院
(3)他の医療機関・福祉施設と共に良い医療を支える病院
(4)職員ひとりひとりが幸せで、やりがいのある病院
「経営指針書」を銀行に持参して
92年頃、病院の増床を図るための増改築を決めました。それにともない土地を確保、職員も増やし、週休2日制も取り入れ、託児所も設けました。ところが見通しが甘かったせいもあり、患者数も伸びない、診療報酬も上がらず、このままだと病院経営が成り立たたない状況にまでなりました。そこで銀行へ経営指針書を持って行き、元金償還を待ってくれるようにお願いしたところ、「経営指針書を持ってくるところは少ない」と返済を待ってくれました。また経理公開も行っており、職員も状況を理解してくれて、学会出張費を自前で出すなどして協力してくれましたので、何とかこの難局を乗り越えることができました。97年には増床することができ、現在の162床となっています。
3つのビジョンと8つの基本方針
「学習型病院」めざす
私たちの病院は経営理念のほかに、3つのビジョンと8つの基本方針があります。ビジョンの1つ目は総合病院にはしない、あくまでも「脳神経運動器の総合的専門病院」とすることです。2つ目は「学習型病院」で、とにかく学ぶこと。これは同友会の学習型企業づくりをまねたものです。3つ目が「総合画像センター機能」です。PET−CT・CT・MRIなどの高額な医療機器を導入し、近隣の病院や開業医の先生と共同利用しようというものです。
理念の浸透と人間尊重の経営
さらに基本方針は次の8つで、第1に「経営理念の浸透」です。これが一番大切だと考えています。当病院では研修会を年に10数回行っており、その内容は様々ですが、経営理念を浸透させることを大きな目的としています。以前は必ず私が理念の話をしていましたが、今では看護士長や診療部長、薬局長が翻訳して自分の言葉で語ってくれています。2つ目が「人間尊重の経営」です。石垣は大小様々な石で組み合わされているように、人の集まりも同じで、いろいろな性格の人間がいて、それぞれの持ち味を生かせば良いと思います。
「情報公開」と「共育の実践」
3つ目は「情報公開」です。経理の公開に関しては年2回、春の経営指針の発表会の時と秋に行っています。4つ目は「共育の実践」です。経営指針書には、(1)みんなで力を合わせていこう、(2)陰でこそこそしないでいこう、(3)良いことは進んでしよう、(4)働くことが一番好きになろう、(5)いつも「なぜ」と考える人になろう、(6)もっと良い方法はないかを探ろう。以上のように書いてあり、これらが「共に育つ」という事ではないかと思います。
癒しの環境や個人情報保護など
5つ目は「癒しの環境の整備」です。医療のコアの部分は患者様が良い医療を受けて早く直るということですが、それだけでは不十分です。視覚・聴覚・味覚など、人に快い環境が大切であり、そのためには職員一人ひとりが、どれだけ患者様のことを思って対応できるかです。6つ目の「地球環境への貢献」に関してはISO141001を取得しましたが、それ以前から意識して取り組んできました。7つ目の「チーム医療」については、医師と看護士、事務方などがそれぞれに独立した組織になりがちですが、意識してチーム医療を行っています。8つ目の個人情報保護法の問題では、Pマークの取得に向けて準備をしています。
全員参加型で経営指針を作成
経営指針の作成にあたってはパートを含む全職員に、(1)環境・市場の変化、(2)当院の持ち味、(3)患者様は何を望んでいるか、(4)地域社会への貢献、(5)克服すべき弱点、(6)当院の戦略、(7)貴方にとっての理想の病院という項目でアンケート調査を行いました。結果を各所属長がまとめ、それを基に経営スタッフとブレーン・ストーミングを行い、私の責任で経営方針を決定しました。その後、各部署・委員会で計画を作成、院長と部長のすり合わせを経て、経営指針発表会を行いました。経営方針(戦略)の項目が大変多いのですが、これは社員から挙がってきた意見を、できるだけ取り入れるようにしているからです。産労総合研究所というところの依頼で、「経営指針実践実例集」を発行することになったのですが、私だけが執筆するのではなく、関わった人全員に原稿を依頼しました。このように全員参加型の経営指針書が、だんだんとできつつあります。
「病院文化の創造」をめざす
「給料を払う学校」
指針作成のプロセスの中で、社会性・人間性・科学性について学ばざるを得ないということがよく理解できました。成文化することで、その八割方は実現できますし、社員の提案を尊重していけばいく程、実現されやすいということを学びました。学習型病院としての取り組みでは、教育費用は総収益の1%を目標にしています。同友会で学んだことを素直に実践しています。同友会大学や共育研究会、例会など同友会の様々な行事に、できるだけ職員を参加させています。また様々な学会や研修会へ職員が参加したいと言えば、断ったことはありません。当病院は医学部や看護学校、専門学校などの実習病院になっており、専門医師の研修指定病院、臨床研修指定病院にもなっています。従って、「うちの病院は授業料を取らず、給料を払う学校だ」と職員に言っています。
「病院は地場産業」
「経営というのは、利潤を追求するのではなく、理念を追求することが大切」。この言葉は広島同友会の広島洋紙の桜井さんから教えていただきました。当病院は民間の病院ですが、病院というのは公的な存在であるという意識を職員に徹底していかなければなりません。究極の戦略としては、「患者様の感動」、病院のファンづくりです。これは長野同友会の仙仁温泉岩の湯の金井さんから学んだものです。病院という所には、そんなに遠くから来る人はいません。そういう意味では、病院は地場産業なのです。東京同友会の文化堂の後藤さんからは、いろいろ書いたものを見せていただきましたが、その中に「上がしっかりしないと、下が全部だめになる」という言葉があり、ドキッとしました。さすが苦労されている人だなと思い、この言葉もいただきました。
各自が役を演じて しかし主役は患者様
さて当病院は、「スズメの学校よりメダカの学校」だと言っています。「ムチを振り振りチーパッパ」のトップダウンの学校ではなく、「誰が生徒か先生か、みんなで仲良く」という育ちあいが共育です。「職場はあなたの晴れ舞台」というのは本日のサブテーマでもありますが、私は院長という役、ドクターはドクターという役、看護士は看護士という役、事務は事務という役回りです。本当の主役は患者様であり、私たちは経営指針書というシナリオに沿って、職場という晴れ舞台の上で、それぞれの役を演じているのです。
「うまい、はやい、やすい(適正)」
私たちがめざしたい病院(オンリーワン病院)とは、第1に「うまい(手術や治療)、はやい(待たせない)、やすい(適正価格)」という病院です。第2に「癒しの環境づくり」です。当病院には、庭を管理する専属ガーデナーがいます。彼は病院の元調理師でしたが、勉強し、園芸福祉士という資格を取りました。岡山市や岡山県の園芸コンクールで優秀賞を受け、全国でも優秀賞をとってしまいました。人というのはやる気になれば何でもできるものです。今、彼はインストラクターとして園芸教室をやっていますが、30名程いる生徒さんがボランティアで病院の庭づくりを手伝ってくれています。
「一歩まえへ」
そして3つ目が「病院文化の創造」です。病院のこれまでの「痛い」とか「苦しい」というイメージを変えたいというのが、私の想いです。「笑いとユーモア溢れる癒しの病院」をテーマにしたパッチ・アダムスという医者の映画を観て、本人を招き講演会を行い、これを記念して、病院内に「パッチアダムスホール」をつくりました。病院というのは1つの文化であり、病院を見れば、その国の文化程度が判るのではないかと思います。私はドンキホーテかもしれないですが、そんな病院文化を創造していきたいと思いますし、後藤せき子さんの「一歩まえへ」という言葉のように、常にチャレンジしていきたいと思っています。
人間成長の薬
最後に、私も医者の端くれですので、皆さんにお薬を差し上げます。それは「こそ丸」という丸薬(がんやく)で、「あなたがいればこそ」の「こそ」です。この丸薬は感謝、謙虚、愛情、思いやり、などを適度に混ぜ合わせてあります。腹が立った時などは、「妻がいればこそ」「社員がいればこそ」「同友会があればこそ」と念じて2〜3粒飲み込むと、大変良く効く成長の薬です。副作用はありませんので安心してお持ち帰りいただき、経営に、家庭に、役立てていただければと思います。
【文責事務局・山田】