中小企業地域活性化条例プロジェクト
12月7日
中小企業振興基本条例の精神がどのように生かされているか
〜東京都墨田区の商工行政に学ぶ
高野祐次氏墨田区産業経済課長
中小企業の街
墨田区は南部を中心に、ニット製品や皮革製品、アクセサリーといった日常消費財が生まれ、北部は機械金属系の部品加工産業が盛んです。 事業所数は1万9000で、その中の製造業系は5000を超え、事業所全体の3割です。東京都全体の製造業が占める割合は10〜12%で、それに比べると3倍近い集積があり、モノづくりの機能が集まっています。19人以下の事業所が93%を超え、中小零細企業が集積し、2次加工、3次加工といった下請け加工の工場が多い中小企業の街です。区内に住んでいる人が区内の事業所で働いている割合(自区内就業率)は52%で、昭和40年代はこれが8割くらいでした。ですから、区内の産業振興をやることは区民の生活に直結するという理念があり、20数年前の区長がまず産業振興に取り組んだと聞いています。
「振興基本条例」制定と施策の基盤づくり
中小企業振興基本条例をつくるにあたっては、当時の係長級以上の職員百80人が区内に出て、製造系の9000事業所の実態把握を行いました。その上で条例があるだけでは仕事は進みませんので、条例にどのように魂を入れて進めていくかということがその後展開されました。学識経験者などによる「中小企業振興対策調査委員会」を立ち上げて、今後の産業施策の骨格を提言しました。それを進めていくために具体化する役割を担ったのが「産業振興会議」です。これは工業者、商業者等、区内産業人と学識経験者、そして私たち区の職員の三者で具体的な提案を実行するための諮問機関で、具体的に条例を執行する役割を果たしてきました。1980年当時は施策の草創期であり、施策の基本は中小企業への融資、個別企業の経営相談、業界団体の振興計画づくり、個別セミナーなどが中心でした。そして、産業会館(1983年)、中小企業センター(1986年)など、具体的に支援するための施設建設から、施策が一歩踏み込む形になりました。
ハードとソフトを共に
産業振興会館は、製品を展示する展示会やファッションショーを催す場で、墨田から生まれる製品を売り込む場という位置づけです。中小企業センターは、特に機械金属系製造業の方々がいつでも開放利用できる工作機械があり、墨田でつくる技術をレベルアップする場と位置づけています。このような施設をつくるにあたって、機械は何を置くか、どういう体制で相談を受けるかなど、事業の内容も含めてハードとソフト両方を検討したのが産業振興会議です。
「3M運動」でイメージアップ
また、小さな博物館(ミュージアム)、マイスター、工房ショップ(マニファクチャリング)の3つの運動もこの産業振興会議から生まれました。工場や作業場の一角で墨田を象徴する産業や、文化に関係するコレクションを展示する「小さな博物館」、ものづくり技術を継承していく方々をマイスターとして認定し技術向上を図る、そしてものづくりの現場と売る店を一体化した工房ショップ、この3つが3M運動です。これらの施策を進めるにあたっては、10年・20年先を見据えた産業ビジョン「イーストサイド」で、区内の産業の今後の方向性を打ち出しました。そのビジョンに基づき、5年間程度のスパンで工業振興マスタープランを立案しました。条例をつくり、大きなビジョン、そしてそれに基づいたプランをつくり、具体的に進めていくためには、産業振興会議でいろいろな意見を出していただきやっていくという形で歩んでいます。
職員がペアで現場に出かけて
新しいマスタープランは、「中小企業のまち・すみだ新生プラン」と銘打って3つの戦略を立てています。1つ目は、「事業所の後継者育成」を柱にした「フロンティア人材」の育成、2つ目に経営革新をめざす企業群の創出で、早稲田大学との産学官連携事業で「墨田区の企業の経営改善」、三つ目がニュービジネス・ベンチャー・新規創業等の集積育成です。昨年からは「ものづくり企業大賞」を設け、オンリーワン企業10社を表彰しています。区長が受賞企業を訪れて従業員の前で表彰しますので、社長だけでなく、むしろ従業員が会社を誇りに思うのです。選考にあたってはデータを集め、職員7名が2人ずつペアを組んで、現場に出かけています。このように墨田区では職員が現場に出る仕掛けをつくり、地元企業との日常的な交流を深め、信頼関係を築きながら産業振興事業を進めています。
【文責事務局・浅井】