2007年度支部三役研修会
中小企業憲章の到達点と取り組み
2月3日
国吉昌晴氏 中同協専務幹事(副会長)
全国に広がる愛知の学習方式
憲章運動は2004年度の岡山での全国総会で提起され、現在はその意義を深める学習運動に取り組んでいます。中小企業憲章は様々な切り口で学習することが必要です。まず、愛知の学習方式で提起されたように自社の分析です。自社を発展させていく上での外部環境の問題は何なのか。それは地域の課題、業界の課題、そして日本全体の制度に関わるものかもしれません。すると地域、国の政策のあり方、中小企業基本法なども学習しなくてはいけません。またEUの小企業憲章をひとつのモデルに研究していますので、国際的な中小企業の位置づけも学んでいかなければならない。このように課題はどんどん広がっていきます。今後も様々な切り口で学習運動を継続していくことが必要です。学習を重ねる中で見えてきたのは、憲章運動とは自社、そして同友会活動を検証するということです。そのスタートはやはり自社の経営体質の強化です。「労使見解」の精神を根底においた経営指針の確立、求人、社員教育など、日頃の活動のすべてが中小企業憲章につながっていく。言い換えれば、同友会が行う様々な活動を中小企業憲章という大きな目的に総合化していくことができるということです。
「中小企業が光を!」
同友会運動の原点に立ち帰る
今年は中小企業家同友会創立50周年を迎えます。会歴50年の会員である中同協の田山顧問は「中小企業憲章とは、中小企業こそ日本経済の主役であるという同友会発足から掲げてきた目的に取り組むことだ。現状は主役にふさわしい政策的な位置づけとは言えず、また国民的な認識も到達していない。しかし、同友会運動はそれをどう実現していくかというところから始まった運動なのです。」と言っています。私どもは主人公となるためにどう自分自身を鍛え上げていくのか。本当の主人公として経済の主役にふさわしい経営者、企業にする。この思いを同友会は貫いてきました。創立50周年にあたり改めて創立時の運動の原点を確認しておきたいと思います。
国家戦略の軸に中小企業を据える
「なぜ日本経済の柱に中小企業がならなくてはならないか」については、『中小企業憲章学習ハンドブック』でもまとめています。確かに日本経済は回復基調にありますが、その実態は様々な格差が広がっています。大企業と中小企業、そして都市と地方との格差です。なぜ広がったのか。それは大企業を中心としたグローバル化の進展です。駒沢大学の吉田敬一先生が述べていますが、日本経団連の奥田ビジョンの「メイド・イン・ジャパンからメイド・バイ・ジャパンへ」に象徴されています。国内で製造、販売し成長していくのではなく、世界中で作って世界中に売るという切り替えです。大企業の理論だとそうならざるを得ないわけです。しかし、それを支える大多数の中小企業が国内で経営しており、そこで働き生活している人がいるわけです。これがみんなメイド・バイ・ジャパンで世界中にちらばっていくのでしょうか。神奈川大学の大林弘道先生がハンドブックで述べていますが、稚内から石垣島まで、やはりそこで生まれ生活していくことが、その地域の人々にとって幸福なのではないか。その人たちの豊かな生活を支えていくのは中小企業、自営業なわけですから、中小企業を軸にした地域の活性化は、国家の大事な戦略ではないかと提起されています。また今、殆んどの県からは人口の流出が続いており、少子・高齢化がそれに拍車をかけています。たしかに若者が東京などの大都市で学びたい、働いてみたいという欲求は大いにあるでしょう。しかし、大事なことは、自分の出身地では生活の糧を得ることができないから出ていくという状況は何とか食い止められないか、ということです。
日本から学んだEUの中小企業政策
ヨーロッパでも真剣に中小企業政策に取り組みだしたのは30年前です。80年代の最大の課題は失業問題で、その時すでに大手では雇用吸収力がなく、中小・零細企業に注目しました。その時、一番詳しく学んだのは、実は日本の中小企業からだったのです。横浜国立大学の三井逸友先生によれば、EUの中小企業政策は、第1段階が87年から93年にかけて、中小企業をどう位置づけるかという議論を行います。第2段階が94年から2000年。EU内での統一した認識として、「シンク・スモール・ファースト」、あらゆる施策の最優先課題に中小企業を位置づける理念を打ち立て、2000年のEU小企業憲章へ結実します。そして今、EUの小企業憲章が狙っている最大の課題は、格差の是正だそうです。国家間の経済格差、所得格差をなくしていく。そのカギは小さなビジネスをどんどん起す起業家を育成すること。そうした小さなビジネスを起すことがすばらしいことだという価値観の教育、企業家という生き方を評価する姿勢、起業家支援のシステムも整備していくわけです。こういった国際的な視野で中小企業家が自らの存在を正当に評価すること。あわせて地域社会、学校教育の現場などに中小企業の理解をひろげていくこと。中小企業が宝であるということを各社で、そして同友会としてどう発信していくかということも憲章運動の大切な取り組みなのです。
なぜ今、中小企業憲章か
自社をいろいろな角度から捉える
今回の報告にあたり、鋤柄幹事長に愛知のビジョン作成当時の議論の様子をお聞きしました。2つの旗印の自立型企業づくりについては明確になるわけですが、「地域社会と共に」については、自社の経営実践と地域社会がどう関わるのか、地域とは何かが随分、議論になったそうです。こうした議論を積み重ねることが大切です。千葉同友会の研修会で、広浜代表理事とのグループ討論でこんな話題になりました。広浜さんの会社は石油缶のキャップの製造で全国シェアの半分を占める会社です。地域との関わりについてお話するなかで、広浜さんは「たしかに工場は千葉の船橋にあるが、マーケットは日本全国なので地域といわれてもピンとこない」とおっしゃいます。そこで「たしかにマーケットが日本、世界という中小企業はありますが、船橋の工場にお勤めの社員さんの大半が工場の周辺にお住まいでしょう。そうすると全国からお金を集めて、給料として船橋にお金を落としているではないですか。大変な地域貢献ですね」とお話しました。中小企業はまず雇用という面で地域社会にたいへんな貢献をしているわけで、ここがグローバルに展開する大企業とは違うわけです。自社を色々な角度から捉えてみることが大切です。
金融アセスから中小企業憲章へ
金融アセスメント法制定運動は大きな意義をもっています。全国で100万名の署名、愛知では13万名の署名を集められました。かつて売り上げ税反対運動の署名が全国で13万名でした。当時はアセスメント法のことは誰も知らない状態でしたから、大変な説得活動だったわけです。さらに法制化に向けて地方議会での国への意見書採択にも粘り強く取り組み、昨年末に1004議会での決議を取り付けました。この取り組みの結果として、ご存知の通りリレーションシップバンキングの機能強化や金融検査マニュアルの改訂に結びつきました。この運動で得られた自信として、私たち中小企業家の正当な願いというのはきわめて説得力があるということです。まだ法制化にはいたっていませんが、私達が日頃行っている運動の正しさを実証してくれましたし、そうした願いが実現できることが確認されました。しかし一方で分かったことは、金融機関を含め、中小企業に対する社会的認識の低さです。金融機関との懇談会では「中小企業の皆さんはしっかりした資金計画がない、また決算書の説明もできないではないですか」と返されます。私達は「我々は全会員が経営指針を成文化しようという運動を行っています」とお話し、経営指針の内容や会員企業の取り組みを紹介していきますと、金融機関の方の理解も深まっていきます。同友会活動の実状を発信することの必要性に気付かされました。また、今いたるところで金融機関の撤退が起こっています。農協、郵便局も撤退しており、地域の金融機関と呼べるものはどんどんなくなっているわけです。金融は経済の血脈ですから、地域に金融機関がなくなっていくことは地域経済が壊死していくことです。この状態は金融政策だけで解決できるものではなく、どう地域経済を抜本的に活性化、再生していくのかということを考えていかなければなりません。こうしたことを通じて、個別課題だけでは中小企業の根本問題を解決できないことが明らかになりました。そこでたどり着いたのが中小企業憲章というわけです。
憲章運動の今後の展開
5つの活動重点
まず、第1に、「改めて中小企業憲章とは何か、その学習運動を会内に広く浸透するまで継続して(当面2年間)取り組む」です。今年7月の香川での全国総会までの取り組みです。第2に、「会内での学習は、自社の経営課題と外部環境阻害要因を深く理解して、中小企業憲章をより身近に考える愛知同友会の方式に学び積極的に実践する」です。この2年間の全国総会、研究集会での憲章に関する分科会では、参加者に事前レポートの提出を求めました。この学習方法は、各地の憲章学習会を進めるなかで「憲章制定は我々の願い、経営の問題を解決するために制定されるものであるから、私達の経営の問題は何かを問うこと」が学習を積み重ねる上で大切なのです。第3に、「会外に対しての働きかけは、地域の歴史や現状をよく把握しながら、行政や他団体とのコミュニケーションをよくとり、条件のあるところから産業振興会議等を立ち上げるなど、中小企業振興基本条例(愛知では中小企業地域活性化条例)の制定に取り組む」です。「憲章の地域版とも言える振興(活性化)条例」と申し上げているわけですが、中小企業振興条例の各自治体での制定をバックアップすることを、中同協では2000年の国への要望事項から盛り込んでいます。第4に「憲章運動の今後を展望する工程表と課題を中同協・推進本部で整理する」です。第5に「学習運動に目途をつける2年後からは、各同友会から憲章の内容についての意見や提案を募っていく。来年の中同協総会以降は目に見える憲章の内容づくりにも着手することになる」です。いずれも7月の全国総会に向けて全国の教訓などの整理に取り組んでいきます。以上のように重点を定め、各地で運動を展開しています。
あらゆる活動が憲章に結びつく
各同友会の専門委員会でも、委員会の課題と憲章をどう位置づけるかを考えていくことが大切です。例えば社員教育委員会では「社員に中小企業憲章をどう捉えてもらうとよいのか」という取り組みです。社員教育委員会の研修で憲章について社員さんに投げかける。それは社員の方に中小企業で働くことに誇りをもってもらう、誇りのもてる中小企業づくりといえます。同時に「良いですね、あの会社。となりの大きな工場で働く人より生き生きとしていますね」と地域の人々からも評価を受けるような企業づくりに取り組むことです。30年取り組んできた共同求人活動は、中小企業に対する認識の浅さ、大企業偏重の価値観との戦いでした。中小企業で新卒者が雇える当たり前の条件整備をすることは当然ですが、ここ2年程の大企業の採用増に伴って各地では人材確保が重要な経営課題となっています。この他にもインターンシップなどの産学連携は中小企業の魅力を発信していく大切な取り組みです。また女性部では憲章を生活者の視点で見ていこうといっています。生活者とは24時間、その地域で生活している人のことで、安全・安心な生活用品が手に入るのかといった身近なことに着目していこうとしています。また少子・高齢化の問題も取り上げ、わが社の女性社員が産休・育児休暇を取りやすい状態かどうか等を研究しています。こういう一つ一つの活動が、すべて憲章づくりにつながっているという認識に立とうではありませんか。同友会の「3つの目的」の総合的実践が中小企業憲章の課題に直結しているという視点で取り組みましょう。「うちの同友会は憲章に取り組んでいない」という受け止めがありますが、りっぱな同友会活動をやっており、それが憲章の内容につながっているということを確認しあうことが大切です。特に「何のための企業経営か」という本質的な問いかけとともに企業づくりをすすめることは、中小企業憲章の意義と関連づける上で重要になっています。
地域における同友会の役割
条例への取り組み課題
中同協の活動方針では、基本条例制定運動に取り組む上での課題を、次の六点に整理しています。@行政の対応は同友会会員企業と同友会の社会的評価がベースになっており、同友会での21世紀型企業づくりの課題がこの面からも問われること。A社会的要請にこたえるだけの覚悟と役割を担えるかが同友会に問われていること。B大企業の社会的責任、応分な社会的義務を求めることが地域の必要な課題となっていること。C地域のことは地域で意思決定できる組織と人材をつくること。Dこの運動を通じて「地域の中の自社」「自社の未来と地域再生はひとつながり」という認識を会員にどう持ってもらうかが課題。E「中小企業振興」の政策的な幅を狭く考えない。覚悟ということでは、三重同友会の宮崎代表理事のお話が印象的です。三重県では地域産業振興条例を2005年に制定しています。中小企業にとどまらず、第一産業、大企業も含めた条例ですが、その際、一番参考にされたのが三重同友会の発言でした。条例は議会が発議し、議員提案できまっていく。この過程で自民党の議員団の勉強会に宮崎さんや事務局長が呼ばれて発言しています。
そうしますと、振興条例の中に「事業者の責任」が明記されます。これは大企業から零細企業まで範囲となるわけです。つまり、振興条例の制定を要望することは、改めて自社の経営姿勢が問われる。振興条例にうたわれる企業づくりに取り組む「覚悟」が必要になってくるわけです。自治体レベルでの振興条例制定では帯広市が先進事例です。帯広はすでに30年前に中小企業振興条例がありました。これは、旧基本法にのっとった振興条例で融資の支援や商店街振興といったように内容が古くなっていました。そこで、従来の振興条例を改定するのか、まったく新しく作り直すのかを検討する研究会を立ち上げています。この研究会の運営が大切で、行政が音頭を取りながら同友会、帯広商工会議所の三者が、それぞれ課題を出し合って毎月議論を重ねます。行政や他団体と連携を取りながら、同友会として提案をもって望むという姿勢です。昨年10月に商工会議所と同友会の双方からの提案が終わり、今年3月の議会で条例が制定される予定です。地域の捉え方でいえば、例えばお祭りへの参加のように経営者の皆さんは、地域社会とともに「生きる・暮らしを守る・人間らしく生きる」という大事な命題を立派に果たしています。こうした当たり前と思っている取り組みが憲章運動の大事な基礎になっている実践なのです。
今後の運動の進め方と期待
さて、愛知同友会へのお願いであります。現在、地域の問題では活性化条例制定に取り組んでいますが、これは各支部や地区が活動の中心になるかと思います。そこで、まず、具体的なアクションプログラムを描いて取り組んでいただきたいと思います。全国的には地方自治体は大変な危機感をもっています。特に北海道の夕張市のような問題が発生しますと、次はわが自治体かと思うわけです。そこで同友会のように自主的で、旧弊にとらわれず提案し、また実践する団体に期待が寄せられるのです。また、今後、愛知県内のすべての地域に同友会を作っていく上で、農業経営者など第一次産業の方の組織化を視野に入れていただきたいのです。今、全国各地で「地域内経済循環」のあり方について研究を始め、農業経営部会が発足しています。全国的に第一次産業の経営者を中心とした組織づくりを推進し、安心・安全な食の提供、そして食料自給率の向上といった取り組みも、憲章運動の一つの課題になるのではないかと思います。憲章運動を進めるにあたっては大上段に構える必要はありません。「こうすれば、もっと地域がよくなるのに」という問題意識を投げかけることが大事なのです。本当の意味で地域活性の源になるのは、一人一人のその地域に対する「愛」だと思います。地元をこよなく愛する気持ちをどうすればみんなが持てるのか、その取り組みを考えていきたいものです。日頃の例会では、ご自身の経営体験発表にあたり、経営環境をどうとらえるかを考える。すると自社の努力で解決できるものと、法律や様々なシステムを変えなくては解決できない問題が見えてくる。そのことを例会で報告いただき、「憲章への取り組みは、わが社の経営課題なのだ」というように報告していただくと理解が深まると思います。いづれにしても、自分の身近にひきつける、分かり易い憲章・条例の運動を展開していきたいと思います。
【文責事務局・多田】