青年経営者全国交流会 第7分科会(9月10〜11日)
次代を継ぐバトンリレー
西田 栄一氏 (有)西田葬儀社
第37回青年経営者全国交流会が北海道、帯広市で「つどえ開拓者たち、その熱き想いを今『力』に」をテーマに開催され、愛知から74名が参加しました。分科会では、愛知同友会の西田葬儀社の西田氏が継承問題について報告しました。以下要旨をご紹介します。

激戦の葬儀業界と自社の位置
創業72年 5代目社長の実践
葬祭請負業の自社は、本社を名古屋市昭和区に置き、葬儀会館を2カ所構えています。従業員13名、年商2億4000万円です。
名古屋市は20年後に、現在の約2倍の年間40万人の方が亡くなることが予測されています。こうした市場をにらみ、大手葬儀会館の建設ラッシュ、新規参入も加速し、競争は激化する一方です。この10年間に自社から半径2キロメートル以内に7社の競合が葬儀会館をオープンしました。
家業から企業へ
私は23歳の時に父の経営するわが社に入社しました。この時、本社の隣に直営の葬儀会館がオープンします。
父や先輩からは、(1)できることを一生懸命に、(2)亡くなった人を自分の家族のように、(3)仕事に絶対に慣れるなという「仕事に対する3つの心構え」を伝えられました。
また、当時同業者を訪問した際、若い社員が生き生きと働いている姿に感動し、家業の状態にある自社を企業にしたいと強く思いました。
葬儀会館オープンから2年は順調でしたが、競合会社が次々と進出し、大手の葬儀会館に囲まれる形になり、仕事は減りました。
私は「何とかしなければ」と父や先輩社員に相談しましたが、取り合ってもらえませんでした。
実は、自社は給与面など、社員への待遇が非常に良い会社です。売上が落ちても社員への待遇も変わらない状況を見て私は強硬策に出ました。
自分の価値がすべて
まず、友人3名に入社してもらい、昔からの社員を追い込むようにしました。それ以来、社員同士の仕事の取り合いが始まり、社員は次々と辞めていきました。営業部長も退職し、私が営業部長に就任したこともあります。
その後、会社を任せられるようになり、自分の力を認めさせたい、会社を大きくしたいという一心で数値目標だけを掲げ営業に特化します。しかし結果が出ず、営業マンに「結果が出るまで帰ってくるな」というところまでいきつきました。そして13名いた社員が6名になります。
2期連続の赤字を出して
私が会社を任せられるようになったある時、税理士に「2期連続の赤字で4000万円に近い。このままでは潰れます」と指摘されました。
これまでは、同友会の仲間に経営の悩みを相談したことはありませんでしたが、例会後の2次会で相談しました。すると「お前は会社を大きくすることしか考えていない。もっと基本的なことから始めなさい」と助言されました。
経営指針を作成して
さっそく経営指針を作成し、会社を成長発展させる2つのキーワードを拾いました。多くのリピーターをつくり、会社を安定させることと、他社にはない自社独自の良いサービス、商品をつくることです。リピーターの獲得として、お客様の満足度を上げることに力を入れました。大手と同じ土俵では勝負できないので、ソフト面での細かな勝負です。お客様の声を形にし、葬儀の事前事後のサービスを徹底しました。
結果、赤字から脱却し、「やった」と思いましたが、すぐに見当違いであることに気が付きます。実は、お客様は、過去に縁のある方ばかりで、先代や辞めた社員が蓄積してきたものでしかなかったのです。

自分は会社の歴史の一部
父との関係
私は、専務になったとき「会社を継ぎたい」と父に話すと、父は「ああ、そうか」とだけ言いました。当初、父が働けなくなった時が私の出番だと思っていました。
しかし、最良の継承を考えた結果、私が後継者としてしっかりやっている姿を見せ、先代を安心させなければならないことに気が付きました。そして、2008年に社長になる決意をしました。
「仕事に対する3つの教え」
社長に就任し、「会社は社長のものではない」「自分は会社の歴史の一部である」ということに気づき、これまでの姿勢を社員と両親に謝りました。そして、社内ルールの作成と徹底、社員の生活に目を向け、残業の削減と休暇の取得、社内のコミュニケーションをはかるということに着手します。
社長就任の際には、退職した友人も駆けつけてくれました。その時、「お前がメチャクチャなことをしていた当時、先代の社長は陰でフォローしていたんだぞ。お前の代わりに辞めていく社員に頭をさげて、その後の仕事の世話までしていたよ」と言われました。
父からの教えである「仕事に対する3つの教え」と社員の生活に責任を持て、社員への感謝を忘れるなという言葉にさらに重みを感じました。
やりがいを感じる会社づくり
現在、社員がやりがいを感じる会社づくりを実践しています。経営指針の発表会も開催し、今、2015年ビジョンを社員が作成しています。
私は父の仕事に対する姿勢や教え、これまでの歴史をもとに社是を「一期一会」としてまとめました。
社員一人ひとりが成功体験を積み重ね、仕事のスキルだけでなく、歴史とともに継承されてきた葬儀に対する姿勢を大切にしています。
新卒採用と葬儀会館のオープン
今年から新卒採用も始め、面接には大勢の学生が来てくれました。しかし内定を出すと辞退される状況です。私は良い会社になってきたと思っていましたが、学生の評価は正直で厳しいです。魅力ある会社づくりはこれからです。
一方、2号店となる葬儀会館を先月オープンすることができました。当初、周辺住民の反対があり、説明会を開催しても謝罪会見のような状態で、オープンが危ぶまれましたが、自社と地域の皆さんの間に入って、尽力してくれる住民の方が現れました。その方は過去2回、葬儀を依頼していただいたお客様であり、「当時、こちらの無理なお願いにも関わらず、嫌な顔せずに葬儀をしてくれた。必ず地域のためになる」と皆さんを説得してくださったのです。
この話を聞いた時、わが社の歴史が脈々と受け継がれていること、私には次の世代に渡していく大きな責任があることを実感しました。
やればできる自信
オープン当日には、反対していた住民も含め、300名の方が集まってくれました。何より嬉しかったことは、社員のモチベーションが一気にあがったことです。5年前からの計画が実現したことで、やればできるということを社員が感じてくれたと思います。
今があるのは、これまで西田葬儀社に関わってくれた方々のおかげです。成果が出るのはこれからですが、しっかりと歴史を受け継ぎ、「一期一会」の精神を次代に継いでいきたいと思います。
【文責・事務局 輿石】
社 名 | 有限会社 西田葬儀社 |
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本社所在地 | 名古屋市昭和区若柳町2−5 |
資本金 | 500万 |
創業 | 1937年 |
社員数 | 13名 |
年商 | 2億4000万円 |
事業内容 | 葬祭業請負業 |