金融アセスだより(第74回)

苦しんでいた信用金庫業界

金融アセス運動に関わった学者として立教大学の山口義行先生が有名ですが、地域金融を専門とし元銀行員でもある私は、信用金庫業界との関わりからこの運動を知るようになりました。

金融アセス運動は2000年代初頭、「貸し渋り・貸し剥がし」に苦しむ中小企業の声を背景に拡大しましたが、中小企業融資を本業とする信金業界もまた、金融庁の「金融検査マニュアル」による杓子定規な検査に苦しんでいました。メガバンク・大手地銀はいざしらず、信金は中小企業融資が細れば自らも将来を閉ざすことになります。それでも、金融検査マニュアルが赤字続き・債務超過の企業への融資を実質的に制止するものであったため、不本意ながら貸し渋りを行っていたのです。

地域のお金は地域で活かす

金融アセス運動に米国の「地域再投資法」(CRA法)の理念を持ち込んだのは、山口先生の慧眼です。「地域のお金は地域で活かす」という理念は、中小企業者の「地域の金融機関が集めた預金をその地域に生きる我々に貸さないのは不当だ」という思いに応えるものです。同時に、心ある地域金融機関からみても、「地元地域への積極的な融資姿勢」を同法が支援してくれることにより、不良債権減らし偏重の行政への抑止力が期待されます。

金融アセス運動は、結果的に金融検査マニュアルの改善(「別冊・中小企業融資編」)に結びつき、その延長線上に09年の金融円滑化法もあります。同法がまもなく期限を迎えようとしている現在、未実現の日本版CRA法を含め、再度アセス運動が目指したものに目を向け直す必要があると思います。

 

中京大学教授  由里 宗之