●第12分科会
今からの時代は、環境問題抜きでは経営できない〜あなたは取引先リストからはずされる!〜
経営理念抜きで環境問題は語れない
鋤柄修氏(株)エステム・社長
(株)エステム 創業:1970年 資本金:6600万円 年商:30億円 社員数:261名 業種:水処理プラント設計施工等
加害者イコール被害者の時代
創業した1970年は、公害が社会問題化し、「このままでは日本に人が住めなくなるのではないか」ともいわれ、国がその対応に本格的に乗り出した時代でした。公害を出す企業は一方的な加害者であり、その他の企業と住民は被害者という構図がはっきりしていました。ところが、今日、車の排気ガスをあげても、加害者と被害者が一体です。あらゆる商品は消費のために生産されますが、使用後、燃やせばダイオキシンを発生する商品もあり、「後は知らん」という経営は、中小企業といえども成り立たちません。

環境重視企業は必ず成長する
これまでに私が出あった2人の経営者の対比で、この問題をお話します。A社は『良い製品は良い工場から』の経営理念を持っていました。この社長から「排水量が少なく規制にはかからないが、このままではいけない。これしか予算はないが処理施設を作って欲しい」との依頼がありました。この施設が完成した時、市や保健所から「時代の先取」と喜ばれ、あっという間に売上が10億を超え、さらにその倍に。これが善い循環でしょう。一方、同じ食品関係のB社ですが、処理施設は立派に造ったが稼動せず、「夜中にバルブがゆるみ」、指導を受けます。担当の社員2人から、「『これではイカン』と社長に言って下さい。私も胸を張って仕事がしたい」と泣きつかれました。私からも改善提案を数回出しましたが、社長から「今度怒られたらやる。今はお金がない」の一言。そこに営業に行くのを止め、この社員は2人とも会社を辞めました。処理費用ゼロで、税金や電気代など、みんな節約したにもかかわらず業績はA社に追い越され、小さな会社になりはてました。10年後、この社長に会ったら、「うちは処理するほど水を使うとらん」と、みじめな捨て台詞です。これが悪循環の見本です。
自立した会社には自立した社員が
この実例から言えるのは、環境問題においても経営理念がいかに大切かです。またそれを生かすには、社員一人一人が環境に負荷をかけない考え方を持てるかどうかの教育をすることです。愛知同友会がめざす自立型企業とは、自立した社員が集まった会社で、率先して理念を貫き、教育をすることは経営者の役割です。「経営理念抜きでは環境問題は語れない」のです。
めざすのは「循環型社会」
森康勝氏愛知県環境部環境対策課・主幹
増えるごみ処理費用
公害と環境問題の違いをまず理解していただきたいと思います。身近なゴミ問題で考えると、バブルがはじけても、量は増えつづけており、処理費も年間一人あたり1万1000円以上、トンあたり約3万円で増えています。大量生産・大量消費・大量廃棄が基本にあり、それに乗った生活様式が問題なのです。よく「こんなに税金を使って」とお叱りを受けます。私達も片付けなければならないから片付けざるをえないわけで、ゴミを出すのは納税者、片付費用はその税金なんです。「税金を使うな」と言うのなら「ゴミも出さないで」と言いたいのですが…。
使い捨て社会への問いかけ
使い捨て社会への問いかけとして、愛知県では1995年に「環境基本条例」を制定し、第9条で「持続発展の可能な社会(あいち環境社会)を構築するため『愛知県環境基本計画』を作ること」とし、98年には計画を策定しました。これが愛知県の環境施策の基本となり、県民の目に見えるようにと、(1)さわやかで澄んだ空気、(2)清らかで豊かに流れる水、(3)生物の暮らしを支える大地、(4)豊かな生態系を形成する多様な生物、(5)うるおいとやすらぎの空間、(6)持続的に活用が可能な資源・エネルギーという6項目のイメージを描きました。
めざすのは「循環型社会」であり、最適生産・最適消費・最小廃棄の社会経済システムの構築なのです。
愛知県庁自らも数値目標を課して
県も「愛知県庁の環境保全のための行動計画」(あいちアクションプラン)で、自らに数値目標を課しています。公共工事などでいうと県庁自身も事業者であり、消費者です。物を買い・造り・維持し・壊し・廃棄しますので、デニングサイクル(計画・実行・点検・改善)を活用して進めていますし、ISO14000シリーズなども、この考えの上に立っています。愛知県も来年度中にISO認証取得をめざしていますし、皆さんがISOを進める上で、県の中小企業施策をぜひ活用していただけるようお願いしたいと思います。
同友会会員は率先して環境問題への取り組みを
平沼辰雄氏(株)リバイブ・社長
(株)リバイブ 創業:1984年 資本金:1200万円 年商:8.6億万円 社員数:14名 業種:建造物解体工事、産業廃棄物処理業
生き残れるか
私どもでは、1994年2月に最新式焼却炉を弥富町に完成させましたが、規制が強化され、2002年には、ダイオキシンが1ナノグラム以上出せなくなります。これは一業者だけの焼却炉で達成できる基準を、はるかに超えています。そこで昨年、付近の住民を招いて説明会を行い、2002年には炉を取り壊し、今後焼却は行わないと約束しました。この規制をクリアーするためには今以上にリサイクルを進め、どうしても処理できない部分だけを埋め立てるより方法がありません。本当に環境を考えるには哲学が要ります。目前の経済が成り立つかではなく、生物として生き残れるか否かを考えなければならないのが、今の環境問題なのです。
私達世代の責任として
産業廃棄物処理業と言うのは劣悪な環境で、新卒など採用できないとずっと思っていました。ところが、5〜6年前から「ゴミゼロのシステムを創って行くのが僕たちの仕事、環境を一生の仕事にしたい」と言う若い人が増えています。「社会のためになり、お金になる。自分のところは時流に乗った良い仕事をしているんだなぁ」とつくづく思うようになりました。今後、専門家・行政を交え研究会を進め、いまの大学生から高校生、小学生までリサイクルの輪が見えるようにしたいのですが、そうしないと、次の世代も変わらないし、今、これに取り組むのが、私達の世代の責任です。
リサイクルのためのNPO団体を結成
その一つとして名古屋市の107万トンのゴミのうち事業所から出る紙ゴミが10万トンと言われている中で、せめてこの分をリサイクルの輪に乗せたいと、「O−net」というNPO団体を結成しました。メンバーは30名程度ですが、オフィス古紙のリサイクルのための活動を始めています。県の森さんが言われたのはあくまで処理費用で、回収・処理場建設・維持管理コストを入れると、とてもトンあたり3万円ではできませんし、それだけのお金が私達の税金から出ていることも考えて欲しいと思います。
新しい分野への進出や若い社員の意識の変化が
森部克明氏豊栄工業(株)・社長
豊栄工業(株) 創業:1969年 資本金:3000万円 年商:13.6億円 社員数:70名 業種:自動包装機・省力機械の設計製作(98年10月にISO14001に登録)
環境保全を認識し、豊かな社会づくり
1995年8月に産業機械の自動包装機自動化・省力化でISO9002を、98年10月には同じく14001の認証を取得しました。一人ひとりが環境保全を認識し、技術・技能を向上させ、経営効率を高めることで、環境負荷を限りなく少なくし、豊かな社会づくりに貢献する事が当社の目標です。具体的には、(1)エネルギーの省資源化をはかる、(2)汚染防止を徹底し、地域社会に迷惑をかけない、(3)環境マネジメントを構築し、継続的改善をはかる、(4)全社員に教育・訓練する、(5)法規をしっかり守るで,当社の正門にこの旨を掲げています。ISO14001を取得した理由は、食品関係の自動包装機が、環境ホルモンとの関係を指摘される包装材との関わりがあること、また当社は専用機械を中心に作っていますので、品質管理の9002をすでに取得しており、技術上の問題から比較的14000への展開は楽だったことが挙げられます。
企業のイメージや社員モラルも向上
取得して、企業のイメージは間違いなく向上しました。ISO14001はコミニュケーションを重んじており、地域社会や行政との対話が増えました。段ボールの使用が多いので月に1回、あえて地域の分別収集に出し、社員が手伝いにいっています。これもコミュニケーションの一環です。取り組みを知った金融機関から、環境機器の分野の開発を勧められました。某社とのタイアップで水を電気分解し、できた酸素と水素を混合ガスにして、鉄の切断・ロウ付けに使う装置を開発しました。この装置は造船や鉄工関係者から好評で、7月からの販売で7台、次年度予算での購入予定が3〜40社となっています。進出を考えて取り組んだわけではないが、結果的に、当社の新しい方向が広がりました。最後に、社員の意識も変わってきました。月に1回のノーカーデーは、出勤・業務・家庭で一切の車の使用をしない、また自主的に、地域社会の清掃と木や花を植えるようにもなりました。身を持って環境の大切さを学び、若い人たちに実践教育として非常にプラスになっていると実感しています。
【文責事務局・服部】