ころばぬ先に杖を!私達中小企業の身近にも労働争議が…
加藤徳夫 加藤労務事務所(労務労働委員会副委員長)
この1年で3件の相談が
「労働争議」という言葉自体がめずらしくなった昨今ですが、この1年に労務労働委員会に3件のご相談が寄せられました。最初に受けたご相談は、給与規定の改定をきっかけにして職場に労働組合が結成されたというものですが、経営者の方の誠実な対応もあり、その後、組合との円満な関係づくりがなされています。残りの2件の内の1件は、幸いに11月、会社有利に解決しましたが、もう一件は団体交渉が中断したまま、労働組合からの音沙汰がないままになっています。この調子では、このまま終るかもしれませんが、直接委員会に相談がないものの、事務局には「周りの会社に労働組合ができた」という情報も寄せられており、これらのケースは氷山の一角とも言えます。
不況が争議を呼ぶ
最近の中小企業での争議の特徴は、職場の中に労働組合が結成されるのではなく、従業員が社外にある個人加入の労働組合に加入し、晴天のへきれきのごとく突然、労働組合から社員の加入通知と団体交渉の申し込みが来て、びっくりしてしまうというケースが増えていることです。大企業では大掛かりなリストラが進んでいますが、それなりに準備もし、労働組合との話しあいもきちんと行なわれているためか、あるいは労働組合が弱腰になっているためか、昔のような争議はあまり見られません。逆に、中小企業が大企業の真似をしてのリストラを行なうと、こうした労働争議に発展しかねません。
争議にならないために
労働争議が起るか、起らないかは、中小企業の場合、会社が従業員をどのように扱っているかで決まるようです。基本は中同協の「労使見解」にあるように、従業員を単なる労働力や道具と見るのではなく、経営者も従業員も同じ人間として共に苦労し、共に喜ぶ社風をつくるかどうかにかかっているといえるでしょう。不況で苦しければ、従業員ともよく話し合って解決の道を探し、どうしても人員整理が必要なら、次の4条件を何とか満たすことです。
(1)整理解雇の必要性があること(解雇しないと倒産に至るなどの強い理由)
(2)解雇回避の努力(できる限りの合理化、営業の強化、役員報酬の削減など)
(3)解雇する社員も含め、全社員に解雇しなければならない理由を理解させること。
(4)人選が合理的であること(同じ解雇されても困ることが少ない人を選ぶなど)
こうした誠意ある努力が争議を防ぐことになります。
それでも万一、組合ができたら
それでも組合ができた場合、まずは同友会の労務労働委員会にご相談いただくのが解決の早道です。基本は誠意を持って解決する姿勢です。組合を悪者視したりして、感情的になるのも避けてください。この前提の上で、以下の点が大切です。
(1)団体交渉は拒否しないで誠実に応じる。
(2)後日のため、交渉の様子を録音しておく。
(3)組合の要求は文章で受け取る。
(4)よく検討して回答する。受けられない要求は理由をつけて回答する。
中小企業の場合、組合との対応に慣れていない経営者が多く、下手をすると『泥沼争議』になりかねませんので、「ころばぬ先の杖」として。