第4支部新春賀詞交換会(1月27日)
愛知同友会創立メンバーが語る困難に立ち向かってこそチャンス!
〜これからの経営環境はこう変わる〜

遠山昌夫氏菊水化学工業(株)社長
社是を信じて一筋に
人生はいつもチャンスだと思います。おそらく今から数年の間、世の中は音をたてて変わっていくと思います。変化の際中はあまり感じませんが、5年くらい経つと感じるわけです。そう考えますと人生はいつもチャンスです。立ちむかうことがチャンスなんです。逃げていてはチャンスはまったく来ないんです。今から30数年前、わが社も経営が厳しい時期がありました。売上は低迷し、社員の集団退職がありました。そこで、社員全員に集まってもらいました。全員と言っても当時30人くらいです。会社の状況を説明し、「これからどういう会社をつくろうか」という話をしました。その時、3カ月かけて社是をつくりました。「みんなのために」という社会性、「よりよい商品」という科学性、もうひとつ「我々は人間なんだ」という人間性。これをつくりました。それを信じて今まで一筋にきたわけです。

不況が争議を呼ぶ
最近の中小企業での争議の特徴は、職場の中に労働組合が結成されるのではなく、従業員が社外にある個人加入の労働組合に加入し、晴天のへきれきのごとく突然、労働組合から社員の加入通知と団体交渉の申し込みが来て、びっくりしてしまうというケースが増えていることです。大企業では大掛かりなリストラが進んでいますが、それなりに準備もし、労働組合との話しあいもきちんと行なわれているためか、あるいは労働組合が弱腰になっているためか、昔のような争議はあまり見られません。逆に、中小企業が大企業の真似をしてのリストラを行なうと、こうした労働争議に発展しかねません。
最後までやることがある
私は宗教家ではありませんが、かつて日蓮が鎌倉幕府に盾突いて,佐渡に流されたときの話です。佐渡に着きますと、今まで島流しにされて餓死した人の骨があちこちにあります。明日は自分がその身になるのです。しかし彼は、何日も何日もお経を唱えながらそれを拾ってまわり、土に帰らせました。明日死ぬ身になっても、やることはあります。会社が明日潰れる状態でもやることはいくらでもあるわけです。私の場合も、明日にも会社が潰れそうな中で真剣に立ち向って社是をつくったからこそ、真実が見えたのです。中途半端なことではできなかったと思います。
誰が先を見るのか
日本は今、大変混乱しています。経営者の方々からアンケートを取りますと、「先が見えない」「希望がない」という回答が一番多い。混沌としているんです。日本の経営は「おみこし経営」でした。社員みんなで会社を担ぎ、社長が上に乗って団扇で仰いで、ふらふらしながら「わっしょい、わっしょい」進むわけです。それでも電柱にもぶつからず、余所の家も壊さず、必ず目的地に着きます。アメリカやヨーロッパは「ボートレース経営」です。一人が笛を持って前を見て、あとの人はひたすら漕ぐ。漕ぐ人と見る人しかいない。中間には誰もいないわけです。今までは「おみこし」でしたが、「ボートレース」の経営に変わろうとして、その要領がまだ掴めないのが今の日本の姿なのですす。
経営は「環境適応業」
経営者として一番始めに考えなければいけないことは、「世の中がどの方向に向かっているか」ということです。政府がどの方向に日本を進めようとしているかを見ないといけません。経営というのは「環境適応業」なんです。環境と反対のことををやったら、何をやっても儲かりません。環境に合うことをしなければいけないわけです。日本の経済戦略会議の資料には、どこにお金を落とすかが書いてあります。これまでは建築・土木・道路でした。日本列島に美術館は七百七十八あります。市庁舎も県庁も省庁も立派。もう、そういう工事はありません。これからは情報通信・環境・物流・バイオテクノロジーです。建築や土木には少しも触れられていませんから、お金がそこへ行くということはありません。当社の話で恐縮ですが、塗料の出荷の内容は十年前は新築と改装が七対三の割合だったのが、三年前に三対七と逆転しました。去年は新築一に改装九です。これでは「お先真っ暗」です。これが現実です。ですから、十三年前からお金を使って、研究開発を一生懸命やり、環境商品として、公害のない塗料を何十万とつくりました。

魅力ある会社になれ
もう一つは規制緩和です。今度ウォルマートが東京に出てきます。今、アメリカのスーパーマーケット業界は、大手十社で国内二五パーセントのシェアを持っています。五年後には五社で五〇パーセントと言われています。ものすごい勢いで買収が進められています。日本でもチェーンストアが大変です。今、サークルKが二千七百店舗です。セブンイレブンが八千店、ローソンが七千店。これでは生き残れないと言うんです。「これではだめだ」ということで、サークルKやサンクスなど五社が連合して一万二千五百店です。それでも残れない、というんです。アメリカが出てくると、こんなことが日本でも起こります。ああいう形態で生き残る方法は、チェーンストアで広げていくか、買収か、二つしか方法がないんです。生き残れなくても潰れるわけではありませんから、買収されないところは、それはそれでまた大変です。「食われる条件をつくっておかなければいけない」とも言えます。食われない会社は、魅力がないわけです。魅力のある会社というのは、食われる会社なんです。
今、何が必要か
経営というものは、「俺はこう生きる」という理念です。「私の考えはこうだ」と、頑なに思い切ることです。諦めたら何も思いつきません。「自分のポジションは、ここしかない」と思ったら発想が変わり、見えてきます。「これで食っていこう」と思うと、そこで差別化しなければいけない。一味違うものを考えるということは、物の見方を変えることです。自己流の考えでは「今、何が売れるか」もわかりません。流行は一瞬に変わります。五年続いたり、二年で変わったりします。昔は新商品が一つ出ると、その業界全体がよくなりました。今ではどんな商品でもその一社だけが恩恵に与かります。ではどうやって生き残るのか。
「儲け」より「誇り」を
私は四十年前に会社を起してから、社会性として「世の中のために何かしよう」と、そればかりやったんです。徹底して公害のない商品をつくりました。今は当たり前ですが、昔は平気だったんです。塗料も公害の出る原料を使えば、どんな色でも出せます。そういうものを塗料の中に入れないために、似たものを見つけてきて研究開発すると、コストが何倍もかかります。売値は同じですから、儲かるわけがない。だから会社が大きくならなかった。今でも自信を持って言えます。それが私の良心ですし、誇りなんです。社員も皆「世の中のためになる」という誇りで、今まで生きてきました。これは徹底しています。ところが、ありがたいことに世の中が変わりました。昔は新聞記者に「社長、そんなことをしていたら会社が潰れますよ」と、よく言われました。私は「世の中のためになることをやって潰れたら、いいじゃないか。もし潰れたら世の中が悪いんだから」と、言い切ってきました。そうでも思わないことにはやれなかったんです。ところが、ありがたいことに潰れる前に世の中がだんだん変わってきました。そうしたら日本だけでなく、海外からも「これはめずらしい」と、立派な人が見に来ました。四十年間同じ理念でやっているということです。
何が何でもこれだけは
一例を挙げますと、塗料がそうです。今でもシンナーがありますが、このシンナーもよくありません。大気中に舞い上がって、温暖化になります。吸えば事故にもつながります。それで「塗料は水系でいこう」となりました。本当は塗料は水系の方がいいんです。いけないのは渇きが遅いことと、水は零度で凍結しますから,北海道とか東北では冬に使えません。日本中を回りましたが、「水は水ですから、だめです」と言われました。それで、アメリカのメーカーと共同で開発し、二年前に成功しました。建築塗料ですが、シンナーと同じスピードで乾きます。夏は夕立がありますが、乾燥が早いので流れません。今この商品は、売上げの二〇%あります。これだけが右肩上がりの環境商品なんです。しつこくしつこく、明けても暮れても考えていれば、チャンスは来るんです。素材はどんどん変わりますし、世の中もどんどん発展します。当社は「何が何でも、これは生きているうちにつくらなければいけない」という社会正義でやっています。金儲けではだめです。世の中のためにならなければいけません。それひとつですから、そこに道が開けるわけです。どこを工夫するかというのにも、また手順があります。今の世の中は、ものすごい勢いで流れていますから、碇を沈めて「俺はこれでいける、何が何でもこれでいける」と踏ん張っていれば道が開けます。じっとぶら下がっていてもだめです。苦しいけれど人の三倍も五倍も考えて、もがくことです。神様はうまいことつくっています。そこで道が開けると思うのです。
【文責事務局・井上】