中日本代表者会議(石川県−6月15・16日)
「新業態の創造」が最大の課題〜小売の原点はもてなしにあり
鈴木孝典氏(株)丸豊・社長(副代表理事)
●会社概要
☆設立一九五〇年 ☆事業所七カ所 ☆資本金一〇〇〇万円 ☆社員数二二名 ☆売上高四億円 ☆事業内容女性下着などの卸・小売販売
六月十五・十六日、石川県で行われた中日本ブロック代表者会議での「わが社をとりまく業界の現状と経営戦略」のテーマで愛知の鈴木副代表理事が行った報告要旨を掲載します。
●「空洞化」「規制緩和」そして消費不況
愛知県といえばトヨタ自動車、機械産業等ピラミッド型・タテ型社会で、これまではその組織の中にさえいればメシは食え、発展できると言われてきました。ところが九一年以降、大きな変化が起こっています。その一つが「構造変化」です。工場の海外進出にともなう空洞化で、地元に発注が来ないということが起こります。広島が本拠地のマツダが愛知県の企業に見積りを要請したりし、「ピラミッド構造だけではやっていけないぞ」という状況になっています。二つ目は「規制緩和」です。日本では「黒船が来ると弱い」という歴史があり、トイザラスの日本進出をめぐって「規制緩和」が進行しました。その後大店法が緩和され、ますます自由競争になりました。二〇〇〇年六月からは大店法の廃止と大店立地法の施行で、基本的に自由な出店ができるようになりました。大手の巨大なショッピングセンターが乱立し、売場面積が拡大してます。しかし販売量は増えておらず、苦しさは拡大しています。九五年から九六年にかけて踊り場的に少し景気が良くなりました。ところが九七年四月に政府は、四月に「消費税」の税率を三%から五%に引き上げました。三月には駆け込み需要がありましたが、予想どおり、四月には消費は冷え込みました。
その夏の「特別減税」の廃止、秋には「医療費」が値上げされました。これで消費意欲がすっかりなくなりました。愛知では政策不況と考えてきましたが、現在まで消費不況は続いています。
●卸・小売180万軒が10年後、100万軒に
さて流通業界ですが、大手量販店を中心にした出店競走の中で、売場面積の大幅拡大が続いています。標準化は資本や人を持っている大手が強く、現在は独占的なシェアーを確保するためのチャンスになっています。「そごう」「西武」「ダイエー」や「ジャスコ」「イトーヨーカ堂」等が売場拡大を展開し、結果、勝ち負けがはっきりしてきました。またロードサイドを中心に出店してきた専門大店やホームセンター、ドラッグストアー等も続々出店しており、業界の大手がさらに拡大競争をするという弱肉強食の状態の一方、その影響で商店街が歯抜けになっていきます。流通・小売の業界は百八十万軒が百四十万軒に減ってしまいました。さらに二〇一〇年には百万軒をきるという予測になっています。
●海外の大手がやりたい放題に
加えて、大店法が廃止されて出店しやすい環境になったことや、土地価格の下落で出店しやすくなったことで、戦略力の優れた海外の大手の出店が予定され、国内の流通業は壊滅的にやられるとうわさが飛びかっています。たとえばフランスのカルフールが浦安に出店しますが、東洋対策はすでに実験済みで、欧米は日本を有望市場と見ています。アメリカやヨーロッパでは地域の条例による都市計画上の縛りがあり、出店しにくい条件がありますが、日本ではやりたい放題に出店できます。ホームデポやベッド&ビヨンド等の有力チェーンは、たぶん代理店を使わずに直営出店で一気に上陸してくるでしょう。私どもの業界ではフランスのエタム一号店が上陸し、注意をしておかねばならないのは商品だけではなく、優秀な業者やメーカー、場合によっては建設業者まで連れて来るということです。
●急増するネット販売
最後は、インターネットによる販売が拡大していることです。「楽天市場」では、女性下着の販売は昨年六〜七軒のモール店にすぎませんでした。ところが今年半年間で十八軒増えて、現在は二十四軒にまで拡大しています。ちなみに婦人服は五〜六百軒で大部分がまだ月に五十万円程の売上というところですが、一千万円をあげるところもあります。一方、女性下着の標準店では一千件のアクセスがあり、二十〜三十件の受注で月に三百万円の売上になっています。この現実を冷静に見るべきだと思います。
●崩壊しつつあるブランド神話
私のいる女性下着業界で言いますと、大手の量販店の売上が拡大している反面、個人の専門店で単価減・売上減となり、チャンネル別では専門店が圧倒的に減っています。
業界ではブランドメーカーをはじめとして数々の変化が起こっています。それはブランド神話が崩壊しつつあるということです。従来ならブランドメーカーがテレビのコマーシャルを入れると、相当の数量が売れましたが、それが今では予測どおり売れなくなりました。魅力がなくなったのです。理由は二つ考えられます。一つは新製品といえどもいくつかの大手スーパーのブランドメーカーへの圧力の結果、常時一〇%オフの状態にあります。従っていつも値段の下がっている商品、どこでも買える商品に、消費者はいつまでも魅力を感じないということになります。もう一つは団塊ジュニアやOLを含めて「ブランド」意識の変化です。有名ブランドメーカーは四十歳〜五十歳以上の世代の支持が多いということです。もちろん団塊ジュニアの世代もブランド好きなのですが、ブランド意識が少しずつ変化していて、無印良品やユニクロ等がブランド化しています。ユニクロがなぜ流行したのかは千九百円フリースの価格にあります。大手のスーパーがフリースを百万着手配するところを客の欲しい商品と価格を的確に設定して、八百万着でオーダーします。
無印良品もそうですが、あのベーシックなカラーも若者にはおしゃれと受け止められており、そんな中で業界の神話は次々と崩れています。
●「新業態の創造」がわが社の戦略
大きな目標として、「うちにしかできない業態」をつくりあげたいと考えています。百貨店やコンビニやスーパーとは違う、ファンになくてはならないお店をつくって行きたいと思います。専門店の業態とは何かを考えています。例えばコロッケ屋さんの場合、コロッケという品種を問題にするのではなく、北海道の男爵芋しか使わないコロッケ屋ならおいしそうだとかいうことです。そのお客様がどういうお客様か、その生活や暮らしはどうか、お客様のどの生活シーンに商品提供するのかを問いつづけたいと考えています。さて、わが社の基本方針の第一は、考え方の中心として小売業は「もてなし」の文化であるということです。その意味では「店は客のためにある」という考え方の中で、接客サービス力の向上が最大課題と言えます。第二には「女性を美しくする」コーディネーター業ということです。下着を販売していますとお客様が本当に喜ばれる一瞬があります。それは試着室の鏡の前で、お客様が今までの自分とは違う自分を鏡の中に発見したときに、ニコッと笑う一瞬です。新しい下着をピッタリと身につけた自分は昨日までとは違う自分なのです。本当に嬉しそうにしていらっしゃいます。これをコーディネートする専門家を育て上げる必要があります。第三には自社のオリジナル商品を開発して差別化することです。現在の小売の店舗数は七店舗ですが、オリジナル商品を中心にして卸売にも手をつけました。業界の「中抜き」が進行する中で、当社としても製造小売業の道を模索したいと思っています。最後にインターネット販売です。売場拡大競争の中、またコストアップの中で販路、チャンネルを多岐に考えることは重要と考えます。オリジナルな商品構成と他店に差別化する内容づくりを基本として考えていますが、じっくりとした調査を踏まえて、数カ月後には動き出す予定です。
【文責事務局・福島】