第31回全研(富山)(3月8・9日)
自立型企業づくりは「労使見解」の全面実践から
加藤明彦氏エイベックス(株)・社長(愛知同友会・理事、名古屋支部・幹事長)
●「世界最適調達」の中で
当社は、自動車部品のオートマティックトランスミッション(A/T)の中に組み込まれている、油圧のバルブという部品を、年間で約2000万本生産している会社です。自動車業界は、海外生産における空洞化の為に、国内の生産が非常に小さくなってきております。「世界最適調達」という、私達にとっては非常に厳しい、全世界的規模での競合を強いられています。
●他社よりも半歩先んじれるように
私は「一歩も二歩も先んじると、非常にお金もかかるし社員にも相当負担がかかる。でも、そこまで無理しなくても、他社よりも半歩だけでも前に出れば、他社よりも先に進める!」と考えています。わが社では「切削と研削化工」を技術的に蓄積してきましたので、これを他社と差別化できるように専門的に深く追求していこうと思いました。使用する設備を内製化したり、周辺を合理化することで、一人が多数の機械を動かすという観点で原価軽減も進めています。また、当社の弱いところを「強み」として持ってみえる企業とタイアップし、互いに弱いところを補完しあうことによって、新しい技術や新しい組織が生れるのではないかと相互補完関係による新しい売上の拡大を進めています。「開発」と「販売」は他社にお願いし、私のところはそれをベースに「製造」していく格好で、異業種交流で3社と、去年からは茨城大学にも加わってもらって共同研究で開発を進めています。
●自分自身の生活を支える為の企業に
私は2代目で、「自社にも新しい近代経営を入れなきゃいかん」と張り切って入社したのですが、古参社員との軋轢だとかで、なかなか「近代経営」が浸透していきませんでした。20代から40代の前半まで本当に「人の問題」で苦労しましたので、現在も「人」が一番の課題で、人が成長してくれれば、会社は絶対発展すると確信しています。社員の気持ちを考えながら進めていかないと、結局いくら良いことを言っても会社は上手くいかないという経験もありましたので、そういう観点で自社を見直しました。まず「会社の存在意義」です。1つは「自分自身の生活を支える為の企業」ということです。私達は売上をお客様から頂いていますから、「お客様第一主義」とよく言います。しかし「社長が悪い」「社員がいう事を聞いてくれない」と内部で問題を起こし、お客様を無視していないでしょうか?こういう点でピシッとお客様に目を向ける事が基本だと思います。
●自分自身をいかに認識できるか
2つ目は、「どれだけ自己啓発できるか、自己啓発する中で自分自身をいかに認識できるか」ということです。会社の中の問題には2種類あり、1つは過去に発生している「目に見える問題」です。その解決のため、当社では昭和40年代からQCサークル活動を一生懸命やってきました。そしてもう1つは、今は気が付いていない「目に見えない問題」です。気がつかない問題をいかに顕在化させ、解決させるかが会社の発展につながります。切削工具を例にとって考えますと、その刃物のもっている特徴を最大限使っているかどうか、いわゆるあるべき姿と現在を比較してみます。そこには必ずギャップがあり、ギャップの一つ一つが課題として顕在化してきます。それを1個1個つぶしていくことが潜在的な課題の発掘であり、これを解決することが会社の将来の発展につながると考えています。
●会社は「やりがい」「生きがい」を提供する場
3つ目は「それぞれ人間として持っている潜在能力を引き出して活かす」ことです。その人の能力をきちっと見て、あと少し頑張れば達成する目標設定をしていけば、少しの努力で達成感を味わうことができ、自信もつきます。そうするとさらにやってやろうという意欲が出てきます。潜在能力をいかに上手く引き出すか、その仕掛けやチャンスをつくることが、私達経営者の役割だと思います。会社というものは働くだけの場所ではなくて、「やりがい」「生きがい」が提供される場所だと思っています。
●売上の1%強を人材教育費に
社長の一番大事な仕事に「投資」があります。「設備投資」と「人に関わる投資」ですが、「人に関わる投資」には一番お金がかかります。試算すると、約40年勤めると2億円、能力のある人であれば、年収1000万くらいと計算しましても4億円くらいかかるでしょう。でも「人財育成」に関して、皆さん日頃そこまで認識していないのではないでしょうか。私は「会社というのは一人一人が成長した分だけ成長していくんだ」と思っていますから、売上の1%強を予算化して、現状では売上が約10億ですので、約1000万から1500万くらい人材教育費に当てています。厳しい環境の中ですが、今やらなければいけないことだと思ってやっておりますが、これは「人づくり」ではなく、あくまでも「人づくりのベース」だと考えています。
●人材の定期採用は組織づくりの根幹
「三位一体」の「経営指針」で、「方針」をきちっと実践していく為の計画をつくり、なおかつ計画どおりにいっているかどうかというのは難しい話です。わが社は「目標管理」という形で、社員一人一人が半年計画を立て、そこから毎月フォローしています。そうすると私も社員が何を考えているのかがよく分りますし、社員も1カ月が終わった時点で、「これができた、これもできた」となります。できないものをなぜできなかったのか課題として残して、来月どうするのかと積み上げていくと計画がほぼ達成します。「求人」では、「3年に1回必ず採用する」等という定期採用が大事です。それが組織づくりの根幹になります。もう少しすると、少子化の影響で、非常に採りにくい時代がくると思います。私達がよほど経営指針をきちっと話しないと、学生が選ぶ立場ですので、本当にいい学生は来てくれません。「三位一体」の「共育」の1番のベースは、この『労使見解』に基づいた経営指針の中の経営方針を、きっちり浸透させていくことではないかと思います。
●「目標管理」で指針の浸透を
経営者の「想い」が方針になって途中からは社員も一緒に関わってくるのですが、社員と一緒にやっていってどう達成するか、そのためには経営者は社員から学び、社員も経営者や同僚から学ぶことです。一緒にやっていく中では「仕掛け」が必要ですから、計画・実践・チェックをしてまた計画にフィードバックしていく「目標管理」が、一番経営方針の浸透と「共育」になるだろうと進めています。かつての体験から、トップダウンとボトムアップのバランスは、社員からの働きかけを待つのではなくて、トップから仕掛けなければいけないと思います。あるときはトップダウン、あるとき少し引いて、ボトムアップできる状態、このバランスが非常に難しいと思いながら、社長業をしています。
【文責事務局・浅井】