第4回戦略会議(企画室)ディベート討論1月22日
出るも残るも薄氷踏んで中小企業の海外進出を考える(中国・東アジア)
出席者のみなさん
●ディベート参加者
(1)加藤明彦氏エイベックス(株)(自動車部品製造)
(2)佐々木正喜氏オネストン(株)(金型部品卸・一部製造)
(3)鳥越豊氏(株)鳥越樹脂工業(プラスチック製品試作)
(4)西良三氏墨田トータルサービス(株)(エアドライヤー等の販売保守)
(5)村田幸洋氏大同紙工印刷(株)(プラスチック印刷)
●研究者の方
(1)井内尚樹氏(名城大学経済学部・助教授)
(2)阿部克己氏(東邦学園大学経営学部・助教授)
(3)森川章氏(名城大学経営学部・教授)
あなたは出る派?出ない派?(自社と業界を考える)
▲出る派
出るか?残るか?迷う
【加藤】正直言って迷っています。わが社は自動車部品業界で仕事をしており、スプールバブルを製造しています。切削、熱処理、研磨やアルマイト加工の仕事で、年間で2000万個という大量の部品をつくっています。他にも手を出していこうということで、愛知県中小企業振興公社の関係を生かし広域商談会に参加、3〜4年前から別の仕事もやっていますが、現在、年間で3000万円くらいになります。こちらの仕事は最近ベトナムに進出すると言っており、社員500名の国内工場を閉鎖し、ベトナムに移すと言っています。
▼出ない派
特殊技術を持てばこそ
【村田】私は印刷業です。印刷業と言っても紙ではなく、1985年頃から研究開発を手がけ94年から事業化したプラスチックシートやフィルムに印刷する仕事です。タバコやジュースの自動販売機で商品見本のところに並べてある見本ケースやクリアファイル・クリアケースなど、通常の印刷機では印刷できない素材に印刷するのが当社の仕事です。プラスチック印刷ができるのは、全国34000〜5000社の印刷業界の中でも20社程度です。その中でも高度な技術処理ができるのは、3〜4社にすぎません。これらの企業はスペックが高く、大手企業のお客様は必ず印刷の前に色のチェックに来社されますので、とても海外には出られません。従って、海外へ出て行くことは考えていません。
▲出る派
タイに出て6年、人脈もできた
【西】タイに出て、6年が経ちました。今年は名古屋での売上のほぼ半分くらいまでタイであがるようになりました。仕事は自動車メーカーに関係した、主にエアーコンプレッサーの2次側(エアードライヤー)の製造とメンテナンスを主体にしたエンジニアリング業です。タイで出入りしているお客様はトヨタグループ各社と、現地で新しく取引を開始したお客様で、それなりの人脈もできてきました。今思えば、当社の海外進出の経緯はいろいろありましたが、出て良かったなと思っております。
▼出ない派
一個づくりにこだわる
【佐々木】プレス金型の部品を販売・製造しています。金型は大量生産の道具で、その金型用の特殊バネや特殊ボルトを取り扱っています。既製のものを在庫に持っていたり、特注で設計した図面をもらって加工して出荷するものがありますが、特に私どもでは図面をもらって加工して出荷するものを中心に扱っています。「金型は昔花形、今はガタガタ」と言われましたが、最近では10年前のバブル崩壊から、忙しいところと暇なところに極端な差が生まれています。一方で自動車業界はモジュール化が進行しており、金型の統一化(一体化)志向されています。わが社はお客様の要望に応じて「1個づくり」を命にしており、「注文を受けてから1週間で納入する」というのがモットーです。ですから仮に日本で10000円のものが中国で作ったら2000円でできたとしても今、無理に出ることはないと考えています。
▲出る派
タイ・中国への進出を検討中
【鳥越】タイの現地企業と取引があり、アジアや中国の仕事も受けています。昨年1月に「タイで困っている技術がある」という日本企業の要望で、タイの自動車部品メーカーの仕事をしました。この仕事は新型車両が出る時に部品の金型と評価用のチェッキングゲージの仕事で、国内調達して扱います。岐阜の金型メーカーと合同の対応をしており、部品メーカーの「製品設計もお願いできないか」という要望に応えて、いすゞに1名、ホンダにも設計者を派遣して部品設計の仕事を受けています。今後、カーメーカーの金型コストは大変厳しく、今後の対応を考えて、3月1日から3日にかけて中国の金型メーカーを視察に行きます。
どう選択するか?なぜ選択するか?
出る派の想い
国内と海外部門の仕事を分けて
【加藤】出るならどんなメリットで出るのか、人件費が20分の1と言われますが、それだけで出れるでしょうか。第1に「労務費」は5〜6割と言われています。20分の1のコストで当然のはずですが、半分もかかったのでは生産性は必ずしも良い訳ではないのです。もう1つは、「お客さんの拡大に繋がらないか」という期待があります。ベトナム、タイ、インドネシアや中国は世界のカーメーカーが全部出ています。こういった企業と取引が始まるチャンスがあります。同時に国内の仕事の受注に繋がらないかという期待があります。第3には、技術を国内で取得という名目で、現地の研修生を向こうの人件費で受け入れることができるのも魅力です。派遣ということで国内に来てパートの代わりに加工をさせることが、労務費対策になるかも知れません。こういうことを考えると、出ることもやぶさかではありません。しかし、出るにしても国内での技術がしっかりしないと無理なことで、国内についてはさらに合理化して2割程度はコスト削減はできるでしょう。出るにしても国内が駄目だと言うことではなくて、小ロットと雑物を分けて、国内のメリットはメリットとして享受したいからです。友人の会社は、現在50万個の生産を100万個に増産するということで、コストダウンを図るために中国に進出しました。11月に現地に進出した当初は5台の機械で80名の従業員を雇用しました。日本の4〜5人分の人件費であるということですが、3カ月して200人の従業員で40数台の機械を動かしています。
国民感情や考え方の理解を
【鳥越】わが社のメインは試作関係です。国内は仕事が薄くなってきましたから、海外で「仕事がないかな」というのがホンネです。 試作から量産へ変化しながら、量産を踏まえて海外、特に中国への展開を考えたいところですが、単独では難しいので岐阜の金型メーカーと一緒に進出を考えています。しかし、板金やプレス関係はプラスチックに比べると、かなり良い物ができると思っています。2001年10月に出された34〜35万円の「モミモミ」というマッサージ機のプラスチック試作を造っています。板金は100%中国生産です。プラスチックは韓国で成型しますが、月産で8000〜9000台を現在は国内で組み立てます。しかし半年後には組立ても中国に移ります。人件費の格差がそういう移動を起こします。設備投資は国内よりも高い水準です。タイではマシニングセンターの投資水準が日本国内よりも高くなっています。トヨタ自動車がベビーカーの製造をしていますが、アジアの工場は品質管理も良いといわれてきました。幹部が現地視察に出かけ帰国後、「まだ出せない」と言ったそうです。見てきたのは向こうではトップレベルの企業ですが、品質管理の考え方・観点がまるで違うのです。「進出したい」という気持ちの中でも、「使い分けをすべき」と考えています。自動車部品、健康器具、美容器具などの生産においては、材料コスト・加工コストではメリットがあると考えています。また進出に当たっては、ロットの問題があります。見込み生産の問題で国内では月1000個で対応しますが、中国ではコンテナー1台分、1万個単位になりますから、注意が必要だと思います。
現地生産、現地消費が前提
【西】以前は国内で受けて現地へ持っていっていましたが、タイ・バーツで受けて、現地でメンテナンスの出来ないところには注文しないといわれ、進出を決心しました。現在、タイでのトヨタの計画として、(1)トヨタ車を100%タイ製の部品にする、(2)2004年までにIMV(インターナショナル・マルチ・ビークル)プロジェクト(年四十万台の新車を製造する)の立ち上げがあります。これらのプロジェクトがあって、当社のタイ現地法人では、ある会社より600トンの成形機4台の据付関連工事を依頼されました。この成形機は日本国内での遊休機を数社から集めて、タイに送ったものです。また別の会社では、1週間前まで稼動していた生産ラインをそのままタイへ移設しました。復元する仕事もやらせて頂きました。タイ市場で言うと、自動車ではトヨタ、ホンダ、いすゞが元気で、フォードと連合のマツダもあり、日産、三菱の工場も稼動し、GM、BMWなども現地で生産を開始しています。日本の部品メーカーはすべてのカーメーカーをターゲットにして部品供給をしようとし、その準備でかなりの活況を呈しています。当面の仕事はありそうです。タイでの仕事は、結果的にタイの人のためになることがまず大切だと思います。私達がタイで仕事をさせてもらえるのは、彼らより日系企業の考え方が理解でき、少しノウハウがあるだけです。「タイで作って、タイで消費する」ことを常に意識すべきだと思います。
出ない派の主張
【佐々木】金型部品で1個・2個という仕事をしています。在庫は持たない、1週間以上の在庫は待たないという考え方です。高精度・高品質・短納期が勝負ですから、日本へ持ち込んできたら、運賃だけでも高くなります。仕事は今後どうなるか。金型生産額(プラスチック金型、ゴム金型を含む)は2000年に1兆5000〜6000億円で、食パンの1兆2000億円より少し多いだけです。トヨタ、デンソー、マルヤスなどの企業のほかに、金型専業メーカーはバブル期に1万2000社ありましたが、現在は8500社です。国際的には(為替レート110円として)日本を100とすると欧米110、台湾60〜70、中国30〜40くらいの価格となり、また日本で全世界の40%の金型が製造されています。業界はタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどへ出て行っていますが、やはり技術レベルの高いものは日本で作られています。またプレス金型は「たたく」ので金型の寿命が短くなります。中国で作っても補修(予備)部品が必要になります。私どもは金型保全課から修理用の部品の仕事をもらってくるわけですから、中国で安くつくって日本に納めようということでは、まったく意味がないでしょう。
得意技を持った自立型企業に
【村田】従来の発想では刷れないものに刷ろうと考え、新素材をシート物で刷れないか、その技術を自社のオリジナルで開発できないかと考えてきました。また価格競争をしたくないから、得意技をもって自社で決めた価格で売れる商品づくりをして、他社のできない技術力で短納期で対応してきました。今晩、試し刷りが終わって、明朝から本刷するような工程では、海外シフトは基本的に無理です。問題はコスト競争力だけではないのです。中国に工場進出してコスト競争はどこまで行くでしょうか。会社が存続すれば良いのでしょうか。社員の生活はどうするのでしょうか。日本の1億2000万人の人間はどうなるのでしょうか。そのことが社員にとってどういうことなのかと思います。こういった整理がつけば、海外に出ることはあるかも知れませんが、整理がつかない限りは考えてはいません。
研究者の感想より
地域と文化の問題を抜きに進出できない
【井内】私はルールさえあれば出ても構わないと思います。和装が韓国や中国に進出していますが、着物は平安の時代から600年の歴史を誇る京都の伝統と文化の上にあるもので、海外に生産移転したからといって、それらの国に和装を身につける文化はありません。価格の論理だけで、安ければどこで作っても良いということではありません。これは規制を掛けなければあかんと思います。「ルイ・ヴィトン」は量販ものはアメリカでもつくり、スペインでもつくります。しかし、高いものはフランスのパリの周辺でつくります。日本の仏壇は向こうでもつくります。価格の論理だけで出て行くのはあかんと思います。「車」もワールド・ワイドなら良いと思います。トヨタさんも誰のおかげで大きくなったのでしょうか?どこかの場所で生産して大きくなったのでしょうか。企業論理だけで大きくなったわけではありません。地域の人の論理があって文化の問題が必ずあるはずです。日本は海外進出の時に文化の議論はしてこなかったと思うのです。西さんの発言で、「タイや中国で消費するものだけをつくりに行く」「支援しに行く」というポリシーに大賛成です。アジアではまだまだマニュアル車対応です。日本社会は明らかに変わります。そういうときに同友会の企業のように日本に残って電気自動車に対応できる部品で対応することをどんどんやって欲しいと思います。
地域を守るアセスメントが必要
【阿部】出て行くか、出ないのか「自立型企業づくり」を外に出ることでしたいという考え方と、外に出ないことで自立型にしたいという考え方があります。個別企業がスピード化の時代にどうやって行くかという選択の仕方だと思います。個別の企業にとっては良くても悪くても、生き残らなければなりません。考えなければならないのは、もう1つの方向として「地域とともにどうするか?」という課題です。「個別企業の生き残り」と「地域とともに」という課題に対して、地域をどう考えていくのかという問題になります。企業の海外進出が進めば空洞化が進んで、雇用がなくなることにも繋がり、個別の企業は生き残るかも知れませんが、地域が陥没し、失業が増えて、社会が抱える課題が新たに発生することになります。どうやって地域社会の環境破壊を犯さずに生き残るのか?経済学で言う「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」をどう避けるかです。そのためには社会的な仕組みづくりと個別企業の生き残りの問題をどうやって合わせるかを考えなければなりません。「アセスメント法」的な方向として社会的な仕組みづくりを考えていくことです。同友会は金融問題では「アセスメント法」の提案をしていますが、金融問題とともに空洞化に対する「アセスメント」と、個別企業の生き残りについて企業の「独自性」とを同時に追及しなければならないといえます。
国際的に協調できる政策的なスタンスを
【森川】「出るか、出ないか」については実態調査が必要ですが、量産型は減って、小ロット・難加工・短納期に国内ではシフトしようとしていると思います。これは今後も変わらないでしょう。そのことで2・3指摘したいことがあります。1つ目は、海外移転に対する政策的歯止めです。自動車も家電なみに海外移転するとなると、日本の多くの中小企業は大変なことになるでしょう。日本では「ローカル・コンテンツ」の主張がなされたことはありませんが、アメリカでもヨーロッパでも自動車産業についてはこの考え方を政策の基本にしています。日本でも海外移転に対する、大きな歯止めをかける「政策的なスタンス」が必要ではないでしょうか。2つ目は、ブランド指向の問題です。高品質・高価格は大衆商品ではなく、ごく一部の消費者を対象にして成り立っています。したがってごく少数の企業の戦略として成立し得ても、業界すべての企業がこの戦略をとるわけにはいかないことは明らかです。3つ目に指摘しなければならないことは、空洞化の穴をいかに埋めるかということです。自動車部品もまだまだ海外に出ていくと思います。問題はその穴を埋めるための仕事をいかに創り出すかということになります。基本は内需対応の仕事がポイントになると思います。1億2000万人の人間が生活しているわけですから輸入もあるでしょうが、「衣」「食」「住」のどこかに関わって何かの仕事があるはずです。新たな仕事はこの分野が中心にならざるを得ないと思います。
【文責事務局・福島】