第18分科会
誰もが挑戦できる!地域の新生
陶磁器のまち瀬戸における地域の活性化
「瀬戸」という地域の経済
加藤洪太郎氏(名古屋第一法律事務所・弁護士)
瀬戸の過去・現在・未来
瀬戸は1000年の歴史を持つ陶磁器づくりのまちです。陶磁器という目玉があるからこそ他の産業も栄え、雇用が増え、地域経済を興してきました。特に戦後復興期は輸出の全盛期がありましたが、プラザ合意後の現在はその一割を切る壊滅状態となっています。未来の方向性として、私たちは量産品の安物ではなく、ファインセラ等の高い技術と瀬戸の資源や歴史風土を生かしたオリジナリティある産業観光のまちを創ろうと動き始めました。陶芸家、作家が集まっているまち。育ち、暮らし、食べていける、周辺事業も伸びて、人々が活発に交流するまちです。
新しい潮流、増えるギャラリー店
そういう仕掛けの1つとしてつくり出された店が『かわらばん家』です。新進・若手・中堅工芸作家が持ち寄る委託販売システムです。創作もの、一定水準以上のものしか並べません。大きな資金で仕入れるのではなく、自主的な作家たちの連帯意識によって民主的に運営されています。商品の魅力は地域を励ましました。シャッター通り商店街に若い客が増え、銀座茶屋という駄菓子喫茶ができたり、魚屋が和食屋に転業したり、学生の起業など、新たな息吹の参入がありました。最近の瀬戸は作家の直営店も増え、まち全体が変わってきています。
地域で作家を育てる
瀬戸には、全国から若者が集まる窯業訓練校があり、東京芸大からも来る大変な競争率です。しかし問題は、卒業後の引受先がなく、出身地に帰ってしまうことです。そこで、作家の卵たちのために、工場跡地を長屋工房につくり変えて貸すという動きが出てきました。愛知製陶所でも計画されています。長屋で頑張って成功して、ロンドンで展示会を開く人も出てきました。そういう長屋などで育っている作家が、『かわらばん家』で商品を並べるという形になっています。
新しいタイプのリーダー
李末竜氏(グラススタジオ・代表 「かわらばん家」運営)
焼きものとガラスのまち瀬戸
瀬戸は日本一のガラス原料産地です。私は窯業高校へ通い、そこでガラスと出会い、素材の魅力にとりつかれ、ガラス工芸作家となりました。クリスタルの父各務鉱三を輩出し、歴史ある瀬戸は、小樽や長浜に負けない本当のガラスのまちにできると思いました。仲間がいて、暮らして、自然の美しい瀬戸への愛着が深まり、「焼きものとガラスまち瀬戸」へのロマンが膨らんでいきました。
『道の美術館』を開く
GASというガラス工芸国際組織会議が97年に瀬戸で行われました。私はその招請運営メンバーの一員として、地域のさまざまな階層や団体などと関わり、連携しました。特に『道の美術館』の開催は地元商店街の人たちからたいへん喜ばれました。空き店舗やウィンドー部分を一時的に借りて作品を展示するという企画です。はじめは地元の理解が得られず随分苦労しましたが、結果は大勢の客足で賑わい、終了後、商店街から「もう一度やってくれ」と何度も依頼が来ました。その後、『せともんや』『新世紀工芸館』(陶芸とガラスの工房がある即売施設)など、作家の卵が安い家賃で自由に制作販売でき、一人前に育っていくことのできる環境整備づくりにも関わってきました。
『かわらばん家』
商店街はイベントをきっかけに、近くの名古屋学院大学商学部の学生と交流ができ、学生の協力でお店がオープンし、そこで働くなどの動きが出てきました。さらに活気への拍車となる「核になる施設づくり」の相談が商店街から持ちかけられました。私はギャラリーが欲しいと思いました。陶芸家にも会え、創れて、憩えて、楽しむことができるお店、それが『かわらばん家』です。立地条件は駅前から徒歩3分で、「陶の路」コースにあり、半径50メートル内にギャラリーが7軒、また若い人も増えつつあり、近くにケアハウスが建ちました。大家さんは印刷屋さん(『かわらばん家』名の由来)で理解あり、改装資金まで提供して頂き、旧市街地活性化の補助金も獲得しました。25名の常設作家にスペースレンタルして、月2回の企画展を開催します。また体験工房や、好きな作家の作品でお茶が飲める喫茶、一坪茶室、イベントなども開催しています。
「振興」から「深耕」へ
オープンしてまだ半年ですが、周りのお店にも変化が出てきました。新規開店もあり活気が出てきました。中部経済産業局の補助金事業成功例として全国にも報告されました。「振興」から「深耕」へ。自分たちの地域資源をもう一度しっかり見直してみることが大切です。必ず素晴らしいものがあります。
商店街は人の交わる場所で、生きた情報の宝庫です。学校や地域などさまざまな異業種交流によって新しい商品やサービスが起きてきます。もっと多くの人が地域に関われば、更に面白い展開が生まれてくるでしょう。
【文責事務局・加藤】
多用な人間が暮らせる新しい地域社会を(助言)
吉田敬一氏(駒沢大学経済学部・教授)
地域を新生するには、よそ者から見て、住んでみたいと思えるまちを個性的につくっていく、多様な価値観、多様な世代、多様な人間が暮らし働いていける地域づくりというのが1つの大きなポイントです。
21世紀の課題は地域の特性を活かした社会をつくることです。地産・地消のシステム・循環型の社会は、これまでの規格化・量販化の対極に立つもので、地域ニーズや地域資源を生かした地域密着型の中小企業でなければできません。きちっと地域経済・営業機能をカバーしていくことで、生活・福祉機能や教育文化機能も個性を持ってきます。瀬戸は始まったところです。芸術から産業化していく中で、ものづくりのあり方、普通の人のありよう、人のつくり方の目標が決まります。次に瀬戸に来た時は、(1)フロンティア型企業が採算に乗ってきているか、(2)行政支援が地域特性を活かして制度化されてきているかが点検基準になると思います。