「外形標準課税」とは?政策委員会「外形標準課税研究会」(連載第2回)
「外形標準課税」は道理なき課税〜雇用と地域経済に悪影響も〜
戸谷隆夫戸谷隆夫税理士事務所(北地区)
「地方自治確立対策協議会」(全国知事会、全国都道府県議会議長会などで構成)は、法人事業税の外形標準課税導入の必要性として、「税の空洞化、約七割の法人が各地域で行政サービスを受けながら、法人事業税を負担していません」と主張しています。その主張には大きな誤りがあります。
赤字法人は税を負担していない?
第1の誤りは赤字法人も法人住民税均等割、固定資産税、自動車税、事業所税など地方税の負担や、地方譲与税の原資である地方道路税、石油ガス税、自動車重量税など国税の負担を通じて地方財政を負担していることです。地方自治体の財源のうち法人事業税の占める割合は4%、税収の約11%にすぎません。税の空洞化に道理はありません。そればかりか、従業員の雇用維持、従業員の給与所得からの税収等を通じて地域経済に大きく貢献しているのです。
根拠のない応益課税
第2の誤りは「行政サービスから受けた便益の大きさが納税者ごとに明確であり、対価が確定されている」という受益と負担の対応関係が明確にならなければ、応益負担は成立しないということです。そもそも応益課税とは、課税の根拠を示すものであり、課税の方法(負担)を表すものではありません。課税の方法として応能課税と均等課税があり、近代法では応能課税がすぐれた原則とされてきました。なぜなら、担税力を考慮しない課税は、本質的に国民の生存権や私有財産権と対立するからです。外形基準がなぜ受益の尺度となりえるのか、私には理解できません。「支払能力および受益の尺度として、所得を採用した事は賢明であった。これは健全な指針であり、今後も連邦租税制度の指導原則として、維持されねばならない。(中略)負担能力の大なるものに対して公正なる負担を課し、その力弱き大衆に対して負担の重課を避け得る手段としては、所得に対する課税こそ最も適切なる機構というべきである」(1935年アメリカのルーズベルト大統領の議会教書より)。この教書に見られるように、アメリカは現在に至るまで、連邦税の中に一般消費税、付加価値税を制度化することを拒否し続けている唯一の先進国となっています。
雇用に重大な影響
中小企業は、精一杯の効率化とコストダウンにより経営を何とか継続させています。企業の人件費に対して社会保障費である健康保険、雇用保険の負担は年々増加しています。さらに人件費に税を課すことは、企業の雇用維持にさらに負担を強い、賃金の抑制、必要以上のリストラを招く懸念があります。その結果、消費の後退と地域経済への影響を及ぼすものとなります。また、優秀な人材を育成するという将来への人的投資を妨げるばかりか、「正規雇用」から社内外注化や業務の切り離しを通じて請負契約、業務委託契約等にシフトし雇用形態を歪める恐れがあり、中小企業庁も懸念を表明しています。