第11回障害者問題全国交流会(静岡県沼津市10月24・25日)
共生、共働、共感、個性かがやくゆたかな社会
10月24・25日、静岡県沼津市で第11回障害者問題全国交流会が開催されました。第4分科会「障害者の雇用は人間性をつくる」のテーマで愛知同友会の江尻富吉氏(信濃工業(株)・社長)が報告しました。
第4分科会「障害者の雇用は人間性をつくる〜障害者と健常者が共に働き、育ちあうために」江尻富吉氏信濃工業(株)(海部・津島地区)
私は食べるために独立し、単品物の機械をつくる鉄工会社をやってきました。創業から7年目に同友会に入会しました。私の次男は知的障害をもっており、親として、人間として、この子の良さを実感していますが、11年間、同友会に障害者問題委員会があることを知りませんでした。1989年、愛知で第4回障害者問題全国交流会が開催され、経営者が障害者について何を考えているかに興味を持ち参加しました。これが私の人生と会社の変化の始まりでした。それまで養護学校のPTA役員などを経験し、成長していく障害者の姿を見て、人が育つ喜びを感じていましたが、彼らに仕事ができるとは思えなかったのです。ところが交流会では、経営と結びつけて考え、実践している人たちと出会いました。「俺は何をやってたんだ」とさっそく委員会に参加しました。委員長も引き受け、わが社での障害者雇用の取り組みが始まりました。
ボランティアから「労働者」の雇用へ
わが社は男ばかりの職人集団で面倒を見てくれる人がおらず、それまでの実習は失敗の繰り返しでした。実習をボランティア(障害者が来る場所の提供)としてだけとらえ、育てる観点を持てなかったからです。10年前、障害者にかかわりたいと情熱を燃やす学生、飯田ゆかりさんと出あい、事務員として採用しました。彼女はジョブコーチ(定着のため援助する人)の役割も果たしてくれました。
企業が変わった
この時、たかし君という養護学校の卒業生を雇用しました。彼の朝のあいさつは返事があるまで繰り返します。「僕に仕事を下さい!」と担当者をトイレまで追いかけます。散らかりっぱなしの靴は徹底的に揃えます。彼の行動は「彼にできることを、俺達がやらないのは恥ずかしい」と社員に言わせるようになりました。わが社の風土が変わり始めました。彼の給料を生み出す為、顧客の見直しが行われ、次いで給料体系全般を見直したことが、バブル崩壊後の当社の生き残りに繋がりました。彼は10年間で、しっかり給料を稼ぐまでに成長しました。昨年、彼は郷里の九州に帰り、現在、わが社に障害者はいなくなりました。現場のリーダーの一人が、「社長、寂しいよ。もう一度、障害者の人を雇おうよ」と言ってきました。彼は周りの人に「職場に理性だけでなく、感性の世界を創ろうよ」とも話しているそうです。現在、実習生が2名来ており、1名は来春から、もう1名は再来年から採用したいと思い頑張っています。
【文責事務局・服部】
※江尻氏の報告では、10年間たかし君の家と職場を往復したノートを基に飯田さんが書いたレポートが活用されました。このレポートは雇用を考える経営者や学者、施設の方々から、「得がたい資料」として高い評価を頂きました。今回の交流会の報告集とあわせてご希望の方は、事務局・服部までご連絡ください。
●参加者の感想
▽最近、わが社でも障害者の方2名に生産ラインに入ってもらっていますが、一時的な思いつきや感傷的な感情ではもたないと思うこともあります。今回、何とか生産の現場で存在感を感じてもらえる雇用を継続していこうとの想いを強くしました。障害者と企業内の仕事がマッチングするには、ジョブコーチがポイントかもしれません。▽障害者の雇用についてこれほど真剣に考えて下さっている方々が多いということを知って、障害を持つ子の親として安心しました。親としても、障害者(児)のことを知ってもらうことなど、できることからやっていきたいと思います。
委員会紹介(7)障害者問題委員会
共生社会をめざして
中小企業家として何ができるのか
もしも働く意欲と能力を持ちながら、障害があるだけで雇用されないとしたら…、それはとても残念なことです。現在でも障害を持ったたくさんの人達が就労を望み、自分を試すチャンスを求めています。社会的な弱者との共生社会づくりで、企業家として何ができるのか、雇用や実習を通して、会社が社員がそして経営者自身がどう変わっていくのか、人を大切にする経営とは何だろう、これが障害者委員会の大きなテーマです。委員会では、(1)障害者の就労実習の受け入れ、(2)雇用企業の実践報告・見学、(3)県・市への政策提言など、幅広い活動を行っています。
企業の風土が変わってきた
ここ数年は、愛知県産業労働部や名古屋市の保健センターからの依頼からの実習受け入れ活動が多くを占め、評価を得ています。会員企業での実習受け入れも、年を追って広がっています。障害者を雇用する企業からは、いろいろな問題を抱え苦労したという意見も出されます。しかし多くの場合、雇用をきっかけに企業に内在していた問題が表面化し、これらの問題に取り組むことで、強靱な経営体質の企業をつくっています。自社の社員が持つ人間力に気づき、「うちの社員は素晴らしい」「お互いを理解しよう、思いやろうとする気持ちが生まれ、企業の風土が変わってきた」などの声も出されています。その他、名古屋ハンディ・マラソンへの参加や障害者施設との交流などを通して障害者と直接交流し、私たちは素晴らしい感動と勇気を与えられています。人を大切にする企業づくりをめざす同友会として、共に生き、共に働く場づくりをめざし、今後さらに多くの会員の皆さんと共に取り組んでいきたいと思います。