景況分析会議に参加して3月12日
「安売りに身を投じたら…」福島敏司(愛知同友会・事務局長)
「デフレスパイラル」と言われる中で、あらゆる業界が安売り競争に突入しており、「モノは動いていても売上にならない」「仕事はあっても儲からない」という経営者の悲鳴が聞こえてくる。私たちが「99同友会ビジョン」で目標にしてきた「価格決定権」は単に1つの業界や一企業の問題としてではなく、全業界や業界全体の問題として影を落とし、倒産や廃業の話は後を断たない。
トラック運送業界では
すでに10年程前に、トラック運送業界の経営者は「社員が営業活動に行けば、値下げ競争の中に身を投じるようなもの。営業マンも営業には行きたがらない」とこぼしていた。ご承知のように、トラック運送業界ではいち早く「規制緩和」が進行し、それ以前の保有台数規制が緩和された。数台しか保有していなくても、運送会社を立ち上げることができるようになった。このことによってトラック数台の業者の人たちが業界に参入。業界の運送価格を下げる役割を果たしてきた。コスト低減の大命題の中では、物流価格を低減させたいという考えが優先され、トラック運送業界の経営がより逼迫される状況を生み出してきた。加えて現在問題になっているのは、2003年10月の排ガス規制の強化である。既存の車両を排ガス規制に対応させるため、車両の買い替えが問題となり、資金的にも対応できない企業では稼動トラック以外は眠らせて走らせないとか、この機会に廃業する動きが頻発してくるという。
電気工事業界では
電気工事や内装工事など建設の下請け業界でこんな話が多い。「入札でかなり安い見積もりを提示したら、仕事は取れたが、他の入札業者との間に大きな開きがあって失敗した」というのである。仕事が回らないほどの安値で入札に臨まざるを得ない実態と、業界は既に「そんな安値で無理して仕事を取るな」という方向に動いているのが実態だということである。
マンション広告はやらない(印刷業)
最近、毎朝の朝刊に「マンション広告」の折込みが絶えない。印刷業の会員経営者に言わせれば、「うちはマンションのチラシはやらない」と言う。「価格の叩き合いで、チラシを刷っていては商売にならない」というのである。「値引き合戦をしなければならない戦場では勝負はしない」というのは懸命な作戦かもしれない。しかし、そこに身を置かざるを得ない企業にとっては、命を縮める路線を突っ走しることにもなる。
1人が百円倹約1億円の売上減に(飲食業)
中華のファミリーレストラン経営者はこの不況の中でもメニューの改訂はしていない。売上は1億円のダウンであるが、客数は年間100万人であまり変化していない。客数が変化せずに売上がダウンしているのは、客当たり単価が百円減っていると分析する。デザートをやめるとか、単価を落としたメニューでの注文が一般化し、消費者の自主防衛策がここまで浸透しているかと思わせる。
54店舗中2店舗で値上げ実験中(飲食業)
居酒屋の外食チェーンを54店舗経営している経営者は、昨年の11月に外食関係のバブルが弾けたと分析している。加えて、昨年6月からの道路交通法の改正で大打撃。外食も選別の段階に入っているとの近況を語る。関連する54店舗の中では2店舗で値上げを実験、「今の時代に値上げができなければ潰れるしかない」と、今後の戦略を研究する。
同じ路線では戦わない
会員企業の様子が少し変化してきている。「これまで通りの値下げ競争には参加しない」「これ以上の値下げ競争を展開したら、自爆せざるを得ない」という決断である。中には一転巻き直して、値上げに転じるところ、「減るなら減れ!」とばかりに競争参加を拒絶するところなど様々であるが、いずれにしてもポイントは「従来型の値下げ競争はできない」という判断である。こういう時期に問われるのは「自立型企業づくり」の取り組みである。現在、各社が自立型企業ではないという意味ではない。よりレベルの高い自立型企業でなければ、いくら「自立型企業」を標榜してみても、ジリ貧に陥って潰れてしまっては仕方がないという意味である。同友会が言う「自立型企業づくり」の目標に照らして、わが社の得意技は何か、何で勝負するかを明らかにしないといけないということだ。同じ路線では戦わないという方向性だけでは戦う術が見えてこない。わが社がどこで戦うかを明らかにすべき時なのではないだろうか。