第42回定時総会
第2分科会4月24日
トップの想いを明文化しなければ判らない!
〜信頼をもとに全員参加の経営をめざして〜
井上弘氏(株)エアコンサービス・会長(東京同友会・代表理事)
会社概要
●設立1966年
●資本金8000万円
●社員数65名
●事業内容 空調等設備の設計・販売・施行
喫茶店からエアコン屋に
私が事業を始めた当初、「経営計画書は頭の中にある」と言ってきたものです。それが同友会に入って学ぶことにより、文章に書くことの素晴しさを知りました。これによって目的を共有でき、社員が本気になって取り組んでくれる。そして昨年5月、35年前に入社した社員に、代表権と共に社長の座を譲りました。さて、私は東京の下町で妻と2人で喫茶店をやっていました。無理をして店に入れたエアコンの調子が悪く、何度も修理を頼み、それを手伝う内に修理ができるようになり、エアコン屋を始めました。当初から理念らしきものはありました。それは親から遺言として残された言葉で、「人に喜ばれることをやれば、自分にも喜びが返ってくる」というものです。開業をしたのは6月で、猛暑の影響で仕事はドンドン入りました。ところが9月に入り涼しくなると、パタリと仕事がなくなりました。そこでどうしようかと必死に悩み、夏の間に痛んだエアコンのメンテナンスをする保全という仕事を考えつきました。当時は小さな病院、美容院、床屋などが高価なエアコンを入れ始め、メンテナンスに困っていたので、また仕事がドンドン入ってきました。そこで新聞広告で従業員を募集しました。
「売って売って売りまくれ」
社員が2〜3人の頃は文章化していなくても想いは伝わっていました。しかし、それ以上になるとどう対処していいかわからず、当時流行していた軍隊調の特訓方式を取り入れ、「売って売って売りまくれ」でやりました。そこにあるのは文章でも共有化された考え方でもなく、数字の羅列だけでした。朝8時から9時半まで特訓をやって、最後に肩を組んで替え歌を歌い、街へ飛び出していきます。エアコンの修理屋がいつの間にか売り屋になって「売って売って…」とやっていたら、売れたんですね。当時は当社の人事評価は売上高のみ。売れない人は辞めてもらっても仕方ないという考えでした。そしてテレビコマーシャルまで入れて関東1円に拡販体制を敷き、市場を広げていきました。その販売競争の中で創業の精神「お客様に喜びを与えることで自分にも喜びが返ってくる」は忘れ去られていました。
気づいた時は社員が半分に
1980年、オイルショックと冷夏の影響でエアコンは売れなくなりました。すると36名いた社員が半年間で18名が辞めていき、私は経営意欲を失いかけました。しかし運が良かったことは、そこで同友会に出会ったことです。社員の採用をどうしようかと悩んでいた時、たまたま同友会の共同求人を知り、早速入会。共同求人活動に参加し、運良く1名の新卒学生を採用することができました。その学生を定着させることを考えている時、先輩会員に「部下を1人でも雇えば、会社がどちらの方向を向いているのかを知ってもらわないと力にならない。そのためにはまず紙に書きなさい」と言われ、経営指針書づくりが始まりました。
文章化が情報共有化の前提
情報を本当に共有化するためには文章化がどうしても必要です。全員で情報を共有しなければ、誰かが独り占めしてしまう可能性があります。そうならないためにも情報を全員にオープンにすることにしました。就業規則はもちろんのこと、賃金体系、教育計画、休日制度、独立制度、研修制度など、あらゆる制度をオープンにしました。まず信頼が先にあり、真剣に語り自分の意見を述べ合うようになると、それまでやっていた1泊研修会の中味が変わってきました。自分たちの現状をいかに改革するかいう内容に変わってきたのです。
求人仲間がライバル
経営計画書をつくる場合、ライバルが居ることが大切だと思います。私の場合は同友会の共同求人の仲間がライバルでした。求人のガイドブック原稿には、給料や休日、教育制度などを記入しなければなりません。その為にも就業規則や賃金規定など、諸規定をきちんと成文化しなければなりませんでした。そこで共同求人の仲間の諸規定などを参考にさせていただき、整備・成文化していきました。経営計画の作成には色々な方法があると思いますが、当社では初めから「全員参加型」をめざしました。それは、「社員にも責任がある。責任というおいしい果実を社長や一部の幹部だけのものにせず、社員全員におすそ分けをしよう」という基本的な考え方からです。
手書きが生む責任感
このようにして経営計画書をつくり始めて20年になりますが、当社の一番の特徴は、全員が自分の字で書く、手書きということです。どういう気持ちでやっているのか、どういうことができるのかなどを自分の字で書くということです。これをやり始めると自分たちがどれだけ稼いでいるのか、必要な経費はどれだけかなどを社員自身も自覚できるようになりました。そして今期(第41期)の経営計画書は、全員が会社の必要な年間経費を算出した後、適正利益を計上し、納税配分2、株主配分1、会社配分1、社員配分1の税前5分法と納税後3分法という方法を確立しました。現在は社員たち自身で予算をつくり、社長は居ても居なくてもいいようになり、「40年かかってここまで来たな」というのが実感です。
【文責事務局・山田】