第42回定時総会第1分科会
4月24日
一人ひとりの社員ときちんと向きあって
笹原繁司氏綜合パトロール(株)社長(千葉同友会・副代表理事)
会社概要
●設立1991年●資本金1000万円●社員数76名●事業内容警備業●本社千葉県松戸市
ガードマンでもやるか
当社は千葉の松戸にある警備会社で、建設現場や道路工事の現場で交通誘導を行う仕事をやっています。工事発注次期や気候の関係で不安定な仕事です。最近では、大手や中堅企業が参入し、ダンピング合戦で料金が最盛期の半額以下までに下がっています。同友会に出会ったのは5年前ですが、今も社員全員が中途採用です。以前は人との関わりが苦手という不器用な社員が多くいました。面接の時もサンダル履きで来て、「ちゃんとした仕事が見つかるまでやらしてくれよ」と言い、応募理由を尋ねると、「立ってるだけで楽そう」「すぐ金になりそう」という返事で、今も変わらないのが現実です。現場についたら電話を入れる約束です。現場に来てないとの苦情で自宅に電話すると、「今、起きた。今日はパス」とガチャン。毎朝、こんな事態が一人ならず起きると、私自身が出社したくなくなります。
欠点を堂々と語る経営者との出会い
困り果て、ある先輩に相談すると、「同友会という会の勉強会があるから出なさい」と言われ出席し、「なんという人たちがいるんだ」と驚きました。自分の会社の欠点や困っていることを堂々と話しているからです。取引先や同業をライバルだと考えいた私の感覚では、その方の話の中身は絶対に隠しておきたいことばかりなのです。また「社員を上手く使うのが経営者の力量」だと考えていたが今は「間違いであった」とその方は語るのです。「なんで?」と一生懸命考えました。社員が自社を取り巻く環境について考え、どう乗り切っていくかを共有するには委員会活動が良いという話も聞きました。早速「業務推進委員会」を発足させました。そこでは、私がテーマを決めて説明します。誰も私と目を合わさないし、意見も出しません。指名すると、「みんな頑張っているよ。この歳になってなんで勉強会に出なきゃならないの。早く帰ろう」と言うし、思わず怒鳴ってしまいました。そして参加者はだんだん少なくなりました。同友会では「上手くいく」と言っていたのに…と思いながら、こんなことを半年間繰り返しました。仕事は減るし、会社の雰囲気は悪くなるし、どうにも仕様がなくなり、一番文句を言う社員に相談に行くことにしました。
「そこまで言うか」
もう社長も社員もありません。その社員には、仕事が減ってこのままではやっていけないと話しました。すると彼は、「社長がそこまで言うなら話すけれど、最後まで怒らずに俺の話が聞けますか」と念を押してから話し始めました。「なぜすぐ怒るの」「怒鳴るの」「委員会はおもしろくない」「テーマが難しい」などなど、「そこまで言うか」というくらいに彼は言ってくれました。帰り道、給料を下げてやろうか、クビにしようか、そんなことばかり考えていました。しかし家に着く頃には落ち着き、「これだけ本音の話をしてくれたやつがいただろうか。彼は結構、会社や仲間のことを考えていたんだ。これからも頼りにしよう」と思えるようになりました。そこで、次の委員会の準備の件で彼に相談したら、「俺たちでやるから、社長は手を出すな」と言われました。雰囲気が全然違い、笑い声が出るんです。そのうちに、「次回は社長は出ないで欲しい」ということで、彼らに任せるようになりました。
誰のための何のための会社か
委員会が上手くいかず苦しんでいたころ、同友会で「経営指針づくり」をやるというので参加しました。まず「貴方は何のために経営していますか」で、次に「どんな会社にしたいですか」、そして「貴方にとって社員は何ですか」と、変なことばかり聞いてくるのです。腹の立つ訳のわからないセミナーでした。戻ってから資料を見直し、「誰のための、何のための会社か」を考えてみました。答えはすぐに出ました。「私が借金して、私が創った、私だけの会社」。このことを出発点にして考えていくと、社員は社長である私のために働かされているのだから、やる気が出ないのだと気がつきました。目先の仕事には飛びついても、社長である私が会社としての考えを整理していないと、幹部や社員に考えを持てと言っても無理です。ようやく経営理念や方針といった経営指針の重要性に気づきました。
お客は社員を評価し、仕事を出してくる
まずお客さんは、わが社のどこが良くて仕事を出してくれるのか。どこが弱いのか。何が課題なのか。このように考えていくと、トップなのに自社の一番大事なことが何も分かっていなかったことに気づきました。そして何とかつくった経営指針の発表会を十数人の社員と一泊で行いました。「そんなことより、社長は俺たちのことをどう思っている?この業界はこれからどうなる?」という質問が出ました。次回の委員会に資料をそろえて説明すると約束すると自分たちで、「ゼネコンが倒産する時代だ。仕事を取らなきゃ」「セールスドライバーというのがあるから、セールスガードマンがいてもいいじゃないか」などと討議を始めました。それ以降、彼らから「仕事をとった」との連絡も入るようになりました。お客様は社長ではなく一人一人の社員を評価し、仕事を出してくるのです。その社員に仲間として感謝の気持ちを持ち、社員から仲間として認めてもらえる経営者になりたいと頑張っています。
【文責事務局・内輪】