第5回あいち経営フォーラム
基調報告「自社発展の原動力とは!」
活路を拓く!中小企業の知恵と技と連携で
第5回「あいち経営フォーラム」が、10月17日「メルパルク名古屋」等で開催され、680名が参加しました。14のテーマでの分科会に先立って「自社発展の原動力とは」をテーマにした基調報告が行われ、「中小企業の今後のあり方」「経営者は何をすべきか」「同友会で何を学ぶか」を中心にパネル討論が行われました。
●パネリスト宮ア由至氏((株)宮ア本店・代表取締役社長)鋤柄修氏((株)エステム・代表取締役会長)
●コーディネーター福島敏司氏(愛知同友会・事務局長)
パネリスト紹介
(1)宮ア由至氏(株)宮ア本店・代表取締役社長・創立1846年・資本金6750万円・社員数80名・年商47億円・事業内容酒類製造
◎1987年に6代目社長に就任、1984年三重同友会設立にあたり代表理事となり、現在に至る。
(2)鋤柄修氏(株)エステム・代表取締役会長・創立1970年・資本金6600万円・社員数320名・年商31億円・事業内容水処理プラントメンテナンス・設計施工
◎1991年に代表取締役社長に就任、2002年より代表取締役会長になる。1980年に新聞記事を見て同友会に入会し、地区会長、理事、副代表理事を経て、95年より代表理事となる。
「いいものを少しずつ長く」(時代変化と企業戦略(1))
【福島】
全国的には愛知の景況は比較的良いと言われていますが、愛知では経営危機という捉え方が少し弱いのではないかと話題になります。そこでまずは、「業界における時代の変化」という入口からお話いただきたいと思います。
川下が変わると、川上も変わる
【宮ア】
私は三重県で清酒・焼酎を作っています。会社を取り巻く環境について、大きく2つのことをお話します。酒業界は規制の業界であり、お酒を「売る」「卸す」「作る」のすべてに免許が必要です。小売の業界においては、ちょうど1カ月前に大幅な規制緩和がされ、どこの店でもお酒が売れるという状況になりました。「売り場が増えていいですね」と言われますが、そうではありません。総需要が落ちている中で売り場が広がるということは、競争が激化するということなのです。これまで免許をとることができなかったスーパーやコンビニ、ホームセンターまでが、今年はドラッグストアが免許を申請し始めました。小売の業態が変化すると、その変化に合った卸売業しか残らず、その残った卸売業に対応するメーカーしか残り得ない。つまり川下が変わると川上も変わらざるを得ないのです。このような規制緩和については10年前から業界の人たちは知っていましたが、「その時がきたら考えよう」という対応でした。きちんと対応できないメーカーは脱落し、残るべき小売店も残らなくなってきています。これは、どういうスタンスで酒を扱うかという明確なポリシーを出していないからです。スーパーやコンビニではコンサルタント業務ができません。小売店は対面販売なのでこのことが可能ですが、その自覚的に勉強しなければ、生き残れません。この10年間でどう手を打ってきたかが、小売店でもメーカーでも大きな差となって出てきています。
深刻な少子高齢化
2つ目は少子高齢化の問題です。酒業界では皆さんが考えている以上に深刻な問題で、子どもが減り、お年寄りが増え、病院に通っているお年寄りに対して、医者はお酒を「やめろ」か「減らせ」と言います。従って体の心配をせず毎日のように楽しくお酒を飲む層が急速に減っています。それなのに私たちの業界は、酒の価格を安くして「飲みなさい、飲みなさい」と促しているのです。たくさん飲むと身体を悪くして病院へ行くことになり、本来楽しめる方が楽しめなくなるわけです。これでは最終的に飲む人がゼロになってしまいます。私どもの会社方針は、「いいものを少しずつ長く」です。2リットル800円のパック商品は当社にはありません。少なくとも3倍はする値段の酒を毎日少しずつ長く楽しんでいただく。これが私たち中小の酒屋の生きる道であり、少子高齢化に対するわが社の戦略でもあります。
大手が大変ならば、中小はもっと大変
もう1つは国外戦略です。人口が爆発的に増加しているアフリカや、中国市場へどう売っていくかです。私たちのような中小企業でも、日本市場以外に目を向けなければなりません。飲酒人口が減ることに目をそむけず、新たな国外戦略を模索しています。規制緩和や少子高齢化については前からわかっていました。自社にとってどんな影響を及ぼすかを常に考え、自分でどう手を打つかです。大手が大変ならば、中小はもっと大変です。自分でやっていかなければ、この非常に厳しい時代は乗り越えられないと思います。
「つくる」から「メンテナンス」へ(時代変化と企業戦略(2))
【福島】
「環境」というのは時代のキーワードですが、その分野でお仕事をされている鋤柄さんはどうでしょうか?
「ハード」時代は終わった
【鋤柄】
マスコミがよく使うことばの中に「環境」という言葉が出てきたのは2〜3年前です。そうなった時、業界は末期症状であり、誰もがいわゆる環境ビジネスに参入しているのです。
1970年に社会問題となった公害ですが、出した企業部署を処罰する法律ができました。それから20年、「被害者であり、加害者である」ということに気づき始め、10年程前の法律改正で、「環境基本法」ができました。私たちの仕事は、汚れた水を浄化する排水処理プラントのメンテナンスと設計施工です。日本の場合、廃水は具体的に3つのシステムで処理されています。1つは下水道です。これは日本で一番遅れている分野でしたが、現在、人口の65%が下水道の恩恵にあずかり、全国に普及しました。普及率が70%までくると、「つくる」仕事はほぼ終わりです。2つ目に工場廃水です。これは空洞化が進み、日本で大きな工場はまずできません。例えば三重県にシャープの工場ができましたが、今回が国内での最後の工場だと言われます。これは日本国内に工場廃水の施設をつくり、高い労働賃金でモノをつくっても採算に合わないからです。3つ目に浄化槽です。水洗トイレの普及により、浄化槽業界も一時は非常に潤った時期がありましたが、下水道の普及で、浄化槽は二度と復活しないのです。以上のように、「つくる」というハードの時代は完全に終わっています。しかし、人間が生活する限り排水を出すわけで、つくり上げたものは大切に守っていかなければなりません。
業界の壁がなくなる
私が社長になった1990年に、「わが社はメンテナンスを主力で行く」と宣言しました。下水道や工場廃水、浄化槽のメンテナンスに力を入れて、当社の売上の六割近くになっています。しかし、今は次の段階に入ってきています。飲水業界では現在、ミネラルウォーターか上水道です。上水道は官営の仕事でしたが、法律改正で民間委託が可能になりました。今までは、上水・下水・工場廃水・浄化槽とすべてが行政の縦割りで、各業界ができていましたが、これからは『水』という大きなくくりとなって、このライフラインの領域にも大手が進出してきます。これは、わが社のような地方専門の中小企業と大手の水処理メーカーの関連会社との闘いです。負けた時には自社はなくなるという危機感があります。経営者は時代の10年先を見て自社の運転をしなければならないのです。
「知ることと変わることはまったく別」(同友会での学び)
【福島】
必死にトップの仕事を位置づけていらっしゃると感じました。さて、お二人が同友会でどのように学んでこられたのかをお話いただけますでしょうか。
「今日の異端は明日の真ん中」
【宮ア】
同友会では報告や講演で知識を得ることができます。私はいつも同友会で「知ることと変わることはまったく別」と言っています。知識を得ることが完結ではなく、報告を聞いて自社がどう変ったかが常に検証される、ここが他の会とは違うところです。最近はマインドやカルチャーを変えろなど、とにかく変化の時代と言われていますが、会社も同じです。しかし、部下に「マインドを変えろ」と言う前に、まず「経営者自らが変らねば」という危機感があります。私は最近よく「今日の異端は明日の真ん中」と言います。今の時代はすごい勢いで動いており、異端でいてもすぐに真ん中になり、真ん中からもあっという間に落ちます。自分が動かなくても時代が動くのです。時代の変化を甘く見ていると、その時代から落ちてしまう。常に変革をしていかなければもたない。「ライバルは時代」なのです。わが社の先代もその前も、常に変革を行い、とても異端のことをやってきた会社なのです。「老舗」と言われるところは、常に変革の連続で、変革をやめた瞬間に企業は単に古いだけで、汚くなります。古いと汚いは紙一重で、古いものが古くて伝統的だと言われるのは、改革という手を入れて、汚くならないようにしなければならないと思います。その為にも「自己変革」という意味で、同友会は私にとってたいへん良い修行の場なのです。
一緒に頑張ろうよ!
【鋤柄】
私も同友会に志願して入会し、確かに自分は変りました。経営の勉強を始めたのは同友会に入ってから、正確には40歳になってからです。経営者にとって一番大切なことは、時間のコントロールができるかどうかで、誰にでも平等にあるのは時間だけです。この時間をいかに有効に使うかを会の諸先輩から学び、人よりも早く自分を変え、会社を変えてきたつもりです。入会当初、「会合には必ず出席しろ。困ったことがあったら先輩に聞け。もっと聞きたければ訪ねていけ」と語る先輩にめぐり合いました。そのことば通り、新幹線や飛行機に乗って、自分の課題を解決してくれそうな全国の先輩を訪ねました。逆に私のところにも訪ねてきました。福岡から新幹線に乗ってきて、しかも同友会の仲間につき添われて、ある方が当社を訪問されました。これでは断れません。出遅れても、「今から一緒に頑張ろう」となります。これが同友会の良さだと思います。
学んで実践、この中で新たな目標が(地域社会と共に)
【福島】
良い会社づくりの努力が実り、業績をあげ、地域からの信頼度も増していくという状況の中で、愛知同友会の「金融アセスメント法」制定運動の取り組みは、何を財産として残したのでしょうか?
言うべきことを言える経営者に
【鋤柄】
金融アセスでは学習会を経て、署名運動を行ったというプロセスから、「99同友会ビジョン」の柱の1つ「地域社会と共に歩む」の明確な像と目標が見えてきました。最終的には金融庁も「リレーションシップ・バンキング」という考え方を打ち出し、地域金融機関は中小企業に対する独自の計画書(アクションプラン)を作成するように行政指導が行われるようになりました。中小企業にとっての金融機関は、やはり地方の中小企業に価値のある機関でなければ意味がありません。金融問題について学習すると、金融行政や金融のあり方のおかしなところがわかってきます。そして、金融機関とお客は対等であり、中小企業家も言うべきことは言わなければならないということがわかってきました。ところが、中小企業の最大の欠点は、言うべき事を言える経営をしていないことです。ごまかし経営を行い、最後は自宅を担保に入れるという考えなのです。これでは社長を辞めたくても、辞められない状況を自らつくっているのです。対等な立場になるためには、社長が信頼されて金融機関と付き合っていく会社をつくることです。アセスメントの勉強からはいろいろな学びがあり、皆さんと一緒に運動ができました。現在も進行中ですが、地域を活性化させる1つの大きな運動だったと思います。
三重県下で一番あてにされる団体
【福島】
宮アさんは多方面でご活躍ですが、三重同友会の地域での信頼性はどうでしょうか?
【宮ア】
今、三重県の経済団体で行政から一番あてにされているのは同友会だと思います。例として、三重県ではベンチャーのキャピタルを行っており、そこには県内5人、県外5人からなるベンチャー達人委員というものがあります。私もその委員の1人ですが、県内5人中3人が同友会メンバーです。3人も同友会から選んでいただける程、行政の対応が変ってきました。また、「ビタミン三重」という異業種交流活動に銀行が参加してきました。なぜかというと、銀行が「ビタミン三重」を融資の対象として捉えていただくようになってきたわけです。「農業部会」には、農林系の金融機関が投資目的で参加を希望しています。極端に言えば、ほとんど無担保で、このようなプレゼンテーションは今までにありませんでした。このようなことが当たり前のようになってきました。随分ありがたいことで、過去の実績が結実したのだと思いますが、その分、社会的責任がたいへん大きく、きちんとした対応をしなくてはと、自戒しています。
「時代の変化に対応し、経営を維持し発展させる」(経営者の役割と責任)
【福島】
今の時代において、経営者の役割と責任を果たすために、一人ひとりが同友会で何を学びどう変わっていけばよいのでしょうか?
社員が人生をかけられる会社
【鋤柄】
同友会の『労使見解』には、経営者の責任として「いかに経営環境が厳しくとも、時代の変化に対応して、経営を維持し発展させる責務がある」とあります。決して「継続させる」とは書いてありません。当社では、2000年の会社創立記念日に、高卒第1号として入社した社員の永年表彰を行いました。彼が入社した1980年、わが社はプレハブ2階の建物でした。彼の入社式当日、心配して付いてきた父親はわが社を倉庫と勘違いし、そのプレハブが息子の会社だと知ると、帰ってしまったそうです。20年が経ち、わが社は5階建てのビルを買収しました。20年間、ただ潰れずになんとかやっていただけならば、あのプレハブの建物で表彰をしていたでしょう。結果的に業績を上げるのは社員ですが、その導きをするのは経営者です。何十年か経った時、社員が人生をかけて社長とやってきてよかったと、お互いに喜び合える会社をつくることが、経営者としての責任ではないでしょうか。
企業の付加価値とは
【宮ア】
同友会でいろいろな事を学んできました。特に、企業にいかに付加価値をつけるかということです。銀行からの企業価値は決算書ですが、同友会では決算書に出ないことばかりやっています。わが社は経営理念すらありませんでしたが、それが発展し酒造業界初めてISOを2つ取得しました。これも決算書には出ていませんが、当社の付加価値を理解していただけるのではないでしょうか。同友会では理念・指針から始まり、いろいろな諸規定のすべてを教わりました。それが結果として企業価値について現れてきます。酒類業界は遅れていたので同友会で学ぶことはとても多かったのです。ISO取得の時、わが社の役員は「大手がやってから中小も進みましょう」というマインドでした。しかし、同友会では他の業界もたくさんやっているのです。そこでわが社は「大手がやっていないからやろう。それだから中小は残る」とマインドを180度変えました。
積極的な謙虚さ
同友会では異業種の方から学ぶことが非常に多く、いろいろな話を聞いて実行してみるとほとんどが業界初で、いつも異端です。また、同友会のある方から「同友会では積極的謙虚さが学べる」と教えられました。本当に勉強をしようと思ったら聞きに行く、これが積極的です。同時に聞きに行くという行為は、謙虚さです。今日のフォーラムでは、知的な刺激をたくさん受けると思います。その中で自社で実践することは必ず1つか2つはあるはずです。それを実践して下さい。そして実践した結果、会社がどう変ったかをお互いに定点観測しあっていただきたいと思います。
【文責事務局・岩附】