広報部3月22日
第43回定時総会4月28日
第4分科会
中小企業の新しい可能性が見えた〜地域社会のリーダーとして〜
井内尚樹氏名城大学経済学部助教授
第4分科会では、名古屋支部長の加藤明彦氏(エイベックス(株))と副代表理事の山本栄男氏((株)サカエ)がパネリストとして登場、加藤氏からは工場進出に関して行政の対応や姿勢の違いを、山本氏からは現在地元で取り組んでいる「中小企業振興基本条例」制定の運動が報告されました。コーディネーターの井内氏からは「中小企業基本法」や「地域振興条例」の活用法などが語られました。今回は井内氏の発言要旨を紹介します。
万博の経済効果は
「万博ショック」という言葉がありますが、これは自治体の財政問題につながっています。名古屋市の支出は資料を見ると、土木費が1番となっています。収入はものづくり都市なのに、企業の税金より土地の税金のほうが多いのです。また愛知県は外型標準の関係で法人関係の税収が予想より70億円マイナスとなっています。このような中、万博を開催すると地元経済はどうなるのでしょうか。名古屋市の目玉はサイエンスパークと企業誘致ですが、前者では購買価格と売出し価格の差がすでにマイナス75億円近くあり、また企業誘致の予算は6000万円程度なのです。愛知県は昨年末に万博の経済効果を2兆2000億円と試算しました。2005年以降、2010年までに1兆4000億円の経済効果があるとしていますが、ほとんどが中部空港関連の収入です。これに対し、民間のシンクタンクの試算では空港の経済効果はマイナスです。空港ができると、みんなが海外で買物をして帰ってくるだけで、地元にはお金が落ちない、名古屋に来る人より出かける人が多く、それでマイナスの結果としていますし、実際、関空も出る方が多いのです。
「仲良し型」経済
地元のトヨタ関連は世界相手のコストダウン競争に慣れっこですが、もともと愛知の経済は、「仲良し型」経済、悪く言えば迎合的なのです。タクシー業界を例にとると、規制緩和後、値下げを実施した事業所は大阪で80%、東京で約17%ですが、東海地域は岐阜の1社しかないのです。また、道路清掃の発注をめぐり、裁判沙汰までなっていますが、名古屋市が地元業者に出していた7000万円の仕事を競争入札で出したとたん、半値の3500万円になり、地元と埼玉と大阪の業者20社が落札しました。今、あらゆる面から「黒船」が愛知にやってきて、仕事の流れの構造変化が起きているのです。このような経済環境の変化を前提にして、どのような自立型企業をつくるのかが大事な点なのです。中小企業家が前向きに、地元での共存共栄の道を歩もうとすると、地方自治とか、地域経済と中小企業の関りなどを考えざるをえないのです。
中小企業基本法改正で変わった地方行政の役割
さて地域経済と中小企業との関連を考える上で、まず皆さんに知っていただきたいのが、99年に改定された中小企業基本法の内容です。特に、「地方自治体の責務」を定めた第6条は重要です。改正前は「地方公共団体は国の施策に準じて」と定められ、国の指示を仰がないと何もできなかったのです。しかしこの改正によって、「地方公共団体は、中小企業に関して国との適切な役割分担を踏まえて地方公共団体の区域の自然的、経済的、社会的条件に応じた施策を策定し、実施する責務を有する」に変わりました。これを受けて独自の条例である「中小企業振興基本条例」を2002年12月に作ったのが埼玉県と八尾市です。埼玉の条例の前文では、「中小企業政策を県政の重要課題として位置付け、中小企業基本法第6条に定める地方公共団体としての県の責務を果たすため、この条例を制定する」としています。
先駆的役割を果たした東京・墨田区の条例
全国で先駆的な役割を果したのが東京の墨田区で、1979年に「墨田区中小企業振興条例」を制定し、第4条「施策の大綱」で、「中小企業に関する調査及び情報の収集、提供者に関する施策」の項目を設けています。これに基づいて区内の全事業所調査を行い、各事業所がどんな機械や技術を持ち、どの分野に強いといった企業台帳(データベース)を作りあげてきました。また大阪の八尾市も基本法改正後に条例(八尾市中小企業地域経済振興基本条例)をつくりました。残念ながら、審議段階で財政的措置の項目が削除されましたが、大企業の地域貢献などの条項は入っています。
超党派で生まれた埼玉の振興条例
一方で埼玉県の条例には第6条で財政措置「施策を実施するため必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする」が入っており、重みがぜんぜん違っています。また第5条では次のような項目があり、今後の進展状況が注目されます。●「中小企業における製品等の販路又は役務の提供範囲の拡大に資するため、県の発注する工事、物品及び役務の調達等に当たっては、予算の適正な執行に留意しつつ、中小企業者の受注機会の増大に努めること」●「物品の調達等にあたっては、中小企業者が製造又は加工した物品の利用の推進に努めること」県会議員全員で超党派の「不況打開議員連盟」が生まれ、できたのがこの条例で、地域の仕事は地元の企業に回すという方向性が出されたわけです。一方では愛知県には「万博ショック」という財政問題があり、財政危機が進行して、他地域から来て半値で持っていくという事態が生まれています。埼玉県のように条例をつくって、あくまで地元の中小企業を中心に地域を活性化させていくという方向性を皆さんはどのように考えるかというのが、私の問題提起です。
【文責事務局・服部】
(井内氏よりの追記)
総会後、三菱自動車岡崎工場の閉鎖が発表されました。八尾市では条例を根拠に撤退表明する大企業(コクヨ)と市長が話し合いました。一方、愛知県は岡崎地域の経済は大打撃的なのに、閉鎖反対を言っていません。岡崎の問題は大企業からの仕事がなくなることですから、対岸の火事とせず、地域経済を振興するための基本的なルールが今求められています。
参加者感想
◆中小企業基本法なるものがあり、中小企業向けの条例や中小企業憲章の存在を初めて知った。行政へ働きかけることの大切さを知った。(K氏・O氏・H氏・N氏・他)
◆同友会活動に自信が持てました。行政や条例などは、今まで考えたこともなかったが、知ったことで今からスタートです。金融アセス運動が国や社会を動かしたことから、自分たちの価値にあらためて気づいた。継続的に学んでいく大切なテーマであり、もっと中小企業基本法について知りたい。(T氏・M氏)
◆零細企業でも、それなりに地域に貢献できることが沢山あると気づいた。地域社会から見て「自社が存在する必要性」がある企業づくりを。中小企業文化を創っていきたい。(T氏・N氏・O氏)
◆地方自治体の財政悪化の中で、企業のかかわりは何ができるのか。自分の住む自治体と自社のかかわりとして考える視点に気づいた。(Y氏)
◆地域の活性化は同友会が自助努力をしながら輝くこと。足元をしっかり見据えて、地道に企業力向上が大切である。(T氏)
◆行政に働きかけるには、社員教育を行い、企業を発展させ、地域で信頼されことが大切。あの社長の話なら、行政も聞きましょうとなる。我田引水とならないようにすること。(O氏・M氏)