第43回定時総会第1分科会
4月28日
人を活かし、先を読む〜激変時代の経営者の戦い〜

田山謙堂氏(株)千代田エネルギー会長(中同協顧問)
会社概要
●設立1947年●資本金4600万円●社員数正規35名(他パート等89名)●事業内容石油製品小売業(ガソリンスタンド経営)
規制緩和の下、猛烈な価格競争が
この20年、小売業は減少の一途をたどっています。その中で1987年までの石油業界は、精製から末端の販売に至るまで、資源エネルギー庁という所轄の役所によって規制され、保護されている業界でした。しかし国際化・自由化の流れの中で、1987年以降規制が緩和され、石油精製設備は許可制から届出制へ、原油の割り当てもなくなり、さらにサービス・ステーション(以下SS)の建設数規制も取り払われました。そして96年には、石油製品の輸入制限が完全に撤廃され、日本国内の石油製品が高ければ、安い外国製品がどんどん輸入できるようにもなりました。この完全自由化を前にして、メーカーから小売の段階まで、いっせいに価格競争が始まりました。ガソリンの品質はJIS規格で均一に決められているがための価格競争です。1990年頃の当社SSの1リットルあたりのマージンは約20円でしたが、現在では7〜9円となっています。さらに5年前に消防法の改正で「セルフSS」が生まれ、ここでは、一般のSSより2円程度安いガソリンを販売しているという状況です。
コスト削減が至上命令となる
こうした中、売上量を倍以上に伸ばさなければ、それまでの経営が成り立たなくなりました。小規模SSは淘汰されざるをえなくなり、毎年約1500カ所のSSが整理・淘汰されており、今後もさらに続くものと思われます。そこでコスト削減がこの業界では至上命令となります。一番のコストは人件費で、総労働時間をいかに減少させるかが勝負となります。自社で「待ち時間」(お客様が来ない時間)を集計してみると、労働時間の50パーセントを占めました。そこで曜日や天候によるちがいなど、様々な条件に合わせて時間帯を分析し、ひまな時間帯は社員一人というように総労働時間を少なくし、人件費を減らしてきました。電気代や水道代も意識的に節約することで、かなり削減できました。このようにコストをギリギリまで削減することが、SSが成り立つ為のノウハウの1つなのです。
ガラス張り経営で社員の自覚を高める
こういった経費の節減は、社員が自覚して、自主的に取り組まない限り、成功しません。社員の自覚を高める為には、経営計画を作成する時点から社員の協力を得ることが不可欠です。「なぜコスト削減が必要なのか」「どうすれば減らせるのか」「どのくらいのコスト削減なのか」など、社員と徹底的に論議しました。そして目標を共有し、「みんなで頑張る」という状況を社内でつくるようにしてきました。また会社の経理をガラス張りにして、「会社の事情を社員誰もがわかる」という体質づくりも重要でした。当社では営業所ごとの毎日の売上と利益が、社員からアルバイト一人ひとりに、さらに何をどれだけ売って、1人当たりの利益がどれだけあったかなどが、翌日には各営業所に知らされるシステムになっています。社員も会社の状態を理解して始めて、自分が頑張らなければという自覚が高まります。また創意工夫も生まれます。こういったことは、ガラス張りの経営の中でこそ、生まれてくるのだと思います。
かけがえのないパートナーとして
経営者と社員が力を合わせて会社と社員の生活を守っていくんだという信頼関係を日常不断につくり上げていくことが、どうしても必要です。当社には労働組合があり、賞与や給料の問題などはできるだけ率直に話し合い、社員の理解と協力を求めています。このようにお互いに腹を割って話ができるようになると、社員は経営者にとって、かけがえのないパートナーだということが、しみじみとわかるようになります。私どもの経営理念の中には、「経営者と従業員が力を合わせて働きがいのある会社をつくろう」と書かれています。他社にできないサービスや販売力を発揮して、絶対に勝ち残ろうと社員と話し合っています。
この10年が勝負
このように大変な業界ですが、ガソリン需要が堅調であり、毎年0・5%程度は増えていることが救いです。しかし、乗用車の小型化や省エネ化がすすみ、車の台数は必ずや減ってくるでしょう。私達の業界もあと10年程はもつと思いますが、それ以降のことはわかりません。この10年が勝負です。「労使がお互いに力を合わせて、勝ち残っていこう、それが次へのステップにつながるはずだ」と社員と話し合っているところなのです。ガソリンのSSだけでは規模を拡大し、発展させていくことは不可能です。何か新しい仕事をつくっていく以外に活路はありません。当社のSSは21カ所から現在九カ所となりました。閉鎖したSSは、マンションや中古車販売センターに模様がえしたり、郊外型レストランに貸したりしています。より効率のよい商売に転換しなければいけないのです。また、600坪以上ある大型のSSは、2カ所をセルフに転換、1カ所は大変上手くいってドル箱になっています。このように事業所の転換とコスト削減によって、企業の効率化を計っています。
自分たちの知恵で
ただ残念なことに事業所の転換を進めていくと、どうしても余剰人員が出てきます。そこで労働組合と相談しながら、他社への紹介や早期退職制度を設けて、若干の退職金上乗せで辞めてもらわざるえないということも、現実ではあります。効率化だけでは、将来展望は開けません。そこでまったく新しい事業を立ち上げるため、プロジェクトを立ち上げました。同友会の会員の皆さんにも協力していただき、今のうちに新しい事業の柱を打ち立てていこうとしています。自分たちの知恵で、他社が手がけにくい分野の仕事を探したいというのが現在の想いで、年内には2つの新しい事業を立ち上げる予定です。
【文責事務局・山田】
参加者感想
●時代の荒波を受けた価格競争激化の中、コスト削減策を模索しつつ、「ガラス張り経営」に努め、労使の信頼関係を強化して創意工夫の社風づくりに日夜励む田山氏。店舗統廃合や余剰人員配置策、新事業への参入や展開などは、真のパートナーシップによる社員の理解共感を得られてこそ、創造的前進ができる。自ら率先して走り続ける田山氏の言動に驚嘆。(H氏)
●違った業界でも大変な地殻変動が起こっている。新規事業を立ち上げながら、中期ビジョンをどう構築するか。自社と共通の問題に立ち向かう田山氏の迫力に学んだ。経営者の経営姿勢こそ、労使の信頼関係の要。討論では泥臭い話もあり、各々冷静な情勢分析もしている。必死で自社を維持・発展させようと頑張っている姿に勇気づけられた。(K氏)
●各業界とも環境変化を先取りしている会社が勝ち残る。夢の大きさが大切。変化を察知し、対応するには、経営者が柔軟な姿勢で社員の意志などに耳を傾ける人間力が必要。また社長に足りない分野は社員の能力を借りる、社員に任せて育てる社長の「器」も必要だ。(T氏・H氏)