元気をだせ講演会
障害者問題委員会8月27日
技術で寝たっきりをなくしたい
井浦忠氏(株)いうら会長(愛媛同友会代表理事)
会社概要●年商16億円●社員数115名(内障害者3名)●事業内容福祉介護機器の専門メーカー●特許出願750件
100回目には必ずものに
1%のアイデアを物にするのは99%の努力と汗です。2、3回失敗したら、「もう止めようか」となりますが、皆さん本当に99回やってみてください。元々のネタがよければ、100回目には必ずものになります。次に「たくさん記憶をする」。これはよく考え、じっくり観察し、具体的な経験をすることが大切で、それを書くことです。言葉や文字は省略されて伝わってしまうので、絵にします。絵には言葉や文字の1〜5万倍の情報量が入っていると言われます。上手下手は別として、自分の思うことを絵にして部下に示し、繰り返し試作する指示を与えなければ、特許のとれるような製品はできません。少し改良してうまくいったという例はたくさんありますが、それはライバルメーカーがちょっと研究するだけで真似られるものであり、結局、競争力を持ったものではないのです。
人間の尊厳を保つ発明
車椅子は100年以上前から研究されていますが、立てない、歩けないから使うにもかかわらず、前から、しかも立たせて乗せる車椅子を世界中で作り続けています。私が開発した車椅子はサイドが倒れて、横にずらすだけでベッドとの橋渡しができます。たったこれだけのことが今までなかったのです。福祉機器というものはこんなような矛盾をはらんでいます。その矛盾を突いて、人間の尊厳を保つような改良をしないといけないのです。
73歳で博士号を取得
今、皆さんに回覧していただいている鉄棒は径が素材の時より太いのです。丸棒は旋盤にかけたら細くしかできないことが当り前だと思われていますが、私はこれを旋盤で作りました。丸棒の一部を太くする方法を発見したからです。「なぜ?」と素直に思い続けた結果で、これで博士号をいただきました。この方法は発見までに何年もかかり、学会で発表しても信じてもらえませんでしたが、ドイツの学会では評価していただきました。その後も「太いのを一瞬にして嵌(は)めたのではないか」と言われ続けてはいるのですが。しかし、そのおかげで社内では、「私は73歳で学位を取得した。2007年までには、社内で弁理士の資格が取れるよう努力しろ」と社員に言い切ることができるようになりました。
福祉と経営の両立これが経営者の仕事
福祉機器の旗を揚げたときに、「個人対応を間違えると会社はなくなりますよ」と注意を受けました。1人の障害者の為に一生懸命になってしまうと、社員に給料を払うことができないのです。そこが福祉機器メーカーの特質です。本体はそのままで一部を改良し、特別な要望に対応できるものを想定して研究開発をしないと、企業経営としては成り立っていかないのです。個別要望に応えながら、数はまとめてつくれるポイントを探すことが大切なのです。
寝たきりの人をつくらないベッド
父の介護をする母の悲鳴から作った「寝返りできるベッド」をきっかけに、抱かなくても乗せ代えできる車椅子やストレッチャーなど、多くの機器をつくりました。その内に、「症状が進行する前に手を打てば、たくさんの機械は不要だったかもしれない」「寝たきりの人用のベッドではなく、『寝たきりの人をつくらないベッド』を作れば」と気づき、それを具体化するベッドを開発しました。若手と議論しつつ、機器を1つ1つ作りあげていくことが「共に育つ」実践であり、その人たちを雇用する場を作っていくのが、経営者の役割であると心しています。
【文責事務局・服部】