第45回定時総会
第4分科会
4月17日
同友会で学んで、自分も会社も成長した
パネリスト
山田博比古氏(株)山彦専務・稲沢地区初代地区会長
森健次氏(株)永和工業社長・稲沢地区2代地区会長
高瀬喜照氏(有)高瀬金型社長・稲沢地区前(3代)地区会長
コーディネータ尾崎浩一氏(株)オプコ社長・名古屋支部幹事長
●何事も初めての経験
【尾崎】この分科会の準備を通じて、私は「一生懸命さ」を感じております。その一生懸命やってきた三名の稲沢地区の地区会長経験者をパネリストにお願いしました。
13名で地区が発足
【山田】私は稲沢地区ができる前は一宮地区に所属しており、そこで地区会長をやっていました。一年の任期を終えた翌年、稲沢地区を立ち上げることが決まり、準備委員長に任命されました。稲沢市に会社のある13人だけが百人を超える一宮地区から切り離され、正直「なぜ私がそこまでやらなければならないのか」という想いもありました。しかし準備が進むにつれて仲間の結束も強まり、稲沢地区の発足に漕ぎ着けることができました。
【森】私も入会した時は一宮地区に所属しました。当時は会社の規模も小さく、自分自身が工事仕事を持っていました。「同友会より目先の売上が大事」という職人的な感覚があり、すぐに休眠会員になってしまいました。入会して3年目に稲沢地区準備会に参加。役員選考で副会長候補に私の名前があがりました。13名ですので1人1役です。「いつか回ってくるなら早い方がいい」という理由で受けました。地区会長任期中は、地区会員を知ることを大切にし、1人1人の工場や事務所を訪ねて回りました。
【高瀬】私も一宮地区から別れ、稲沢地区の4・5年目に地区会長を務めました。その頃には、稲沢地区ができてから入会した会員が半数を超えていましたので、そういう人たちが参加しやすく、発言しやすい雰囲気をつくることに気を配りました。
●地区会長の心構え
変化をおこせ!
【尾崎】高瀬さんとお話していますと、「この会長だからこそこの地区なんだ」と感じることがあります。高瀬さんいかがでしょう。
【高瀬】今だから言えることですが、同友会の中で1番大変なのは地区会長だと思います。地区会長を2年間務めて、同友会で言われていることがようやく理解でき、さらに「3つの目的」に賛同できるようになりました。その意味で「地区会員に得をしてもらいたい」と言いますか、活動の中で何か学び取ってもらいたい、何かを感じてもらいたい、今までできなかったことに挑戦してもらいたい、そんな気持ちで地区会長を務めてきました。例えば、自分ひとりで長く経営してきた会員は、社員を入れることに大きな不安を持っていますが、その方に採用の大切さを感じてもらえた時はうれしく思いました。地区会長はそういう経験ができると思います。同友会に参加した会員が、今までできなかったことに挑戦できるような変化をおこせるなら、地区会長になって頂きたいと思います。
【尾崎】地区会長として3者3様の長所をお持ちですし、中小企業の社長としても「この人について行きたい」と思わせるカリスマ性もあるように感じています。他の方はいかがでしょう。
小人数だからこそ
【森】山田さんは副支部長になっても、時間がある時は地区に来てくれましが、その時もほとんど発言されませんでしたので、最初は冷たい人だと感じていました。しかし、それが「早く成長しろよ」と私に言ってくれていることに気づき始めました。山田さんと2人で話すと必ず、「森さんが地区会長なんだから、森さんの想いでやったらどうですか」と言ってくれました。高瀬さんは、会社でも同友会でも根強い人気があります。受け入れの窓口が広く、私も「何でも話せる地区」をめざしてきました。それは小さな地区だからできたことで、高瀬さんは2年かけて全会員から裏表なくすべてを引き出しました。高瀬さんはそういう会長でした。
【山田】森さんには人を惹き付ける魅力があります。森さんのアクティブな行動力は、私にはない部分です。そこを生かしたいと思い、私の次の地区会長に森さんをお願いしました。
●役を受けて自らの成長に
1人ひとりがリーダーシップを
【尾崎】次に役員育成といいましょうか、次の役員に託す想いをお願いします。
【森】自分が地区会長になった時は「地区の雰囲気を壊したくない」と思いました。同友会はボスを作らない団体ですが、リーダーは何人いてもいい、会員1人ひとりがリーダーシップを持てばいいと思います。稲沢地区の会員数が70名になり、地区を5グループに分けていますが、各グループが地区発足時の会員数より多くなっています。今のグループ長は、私の地区会長のとき以上の内容の仕事ができると思います。
同友会の役は自分の為に
【高瀬】「役を受けることが自分の成長につながる」という感覚が持てたとき、初めて同友会の良さが実感できるのですが、この感覚は「持たせること」ができません。地区会長をやっていく中で、自分が得したことを、他の会員にも感じてもらいたいですし、それぞれの会社でもそれを感じて欲しいと思います。「したたか」という言葉がありますが、経営者にとって「したたか」というのは褒め言葉だと思います。それは、社員を大事にしようと思うなら、今の時代を生き抜いていくための逞しさとしたたかさが必要です。地区の役員をやり問題点を克服する中で、そういうことも感じてもらえれば、それが地区のためだけでなく自社のためになる、というのが同友会で言う「経営と同友会は不離1体」ということだと思います。この辺りは、私もなかなか理解できませんでしたが、地区会長の任期を終えた今、本当に自分のこととして感じています。
●経営者自身を見抜く
お互いから学ぶ
【尾崎】人をあてにして育てていくことや、人柄を見抜いて適材適所に嵌めていくことがたいへん上手な地区だと思いますが。
【山田】同友会で本音を語り合ううちに、お互いの性格も見えてきます。その中で地区会員の人に「こんな役をやらせてみたい」ということが、地区会長なら自然に見えてくると思います。私が気をつけたことは、「同じ視線で会歴に関係なく、いろんなことを話して相手から学ぶ」という姿勢です。
【森】稲沢地区の会員はほとんど、社員数が1桁の小さな会社です。中にはそのことを心配する会員もいますが、その方には、「会員はまったく対等なんだ」と説明しています。会の中では同じ会員ですから、例えば士業の方を「先生」と呼んだりすることは間違いですし、隣の山田さんは売上100億円の企業で、年も私より1回りも上ですが、私は「山田さん」と呼んでいます。同友会は仕事の話をする会ではありません。鍛冶屋の社長と八百屋の社長とでは一時間も話はできません。同友会は経営の話をする会なのです。経営の話は会社の規模に関係なく共通します。そこから課題を見つけて勉強していく。困ったことを話しながらお互い知り合っていくわけです。高瀬さんの会社には毎日誰か会員がいます。高瀬さんはどんなに忙しくても相手をしてくれますから、人気があるのかなと思います。
理念は人間尊重
【尾崎】同友会の話はこれくらいにしまして、各社のご紹介をお願いします。
【山田】当社は理念に「人間尊重」を謳っています。「人を採用する以上は会社にも責任が発生する」のです。会社案内は少し古いものですが、毎年作り変えなければならないような時代になっています。同友会で学んだことはたくさんありますが、学んだことがすぐ生きることは少ないものです。しかし、何年か後でふと蘇ってそれが役に立つ、というようなことも多いと思います。
【森】今は売上が一億円です、が、地区会長をやっていた頃は売上が倍ありました。その頃は社員を完全な作業者と見ており、私自身も1人の作業者に数えていました。社員を倍働かせ、売上も倍で、給料も倍払っていました。そして仕事の9割が下請けの仕事で、メインの仕事が六割も占めていました。売上も上がり利益も出始めていましたが、同友会の仲間から見れば、危ない経営だったと思います。同友会で経営指針や労使見解を学び、今は下請け仕事をほとんど辞め、自社商品にウェイトを置いてがんばっています。形態を大きく変えましたので苦戦してはいますが、社員のやる気は格段に高まっています。「社員が会社に求めるものはやりがいだ」ということは、『労使見解』にも書かれています。「役員を受けることで、同友会を学んだ」という意味では、本当に得をしたと思っております。
社員が育つ楽しみ
【高瀬】うちの会社は金型の製造とその金型を使ったプラスチックの射出成型の仕事ですが、不況業種なんです。少しいい方向に向かいつつあるかな、という程度なんです。金型は人件費のカタマリですから、生産はどんどん中国に移っていきます。その中で、工場もこの2〜3年で全部建て直し、設備投資もしました。同業の人が見たら不思議がるくらいです。プラスチック成型をやっている会社の多くは、正社員が身内の2〜3人と、他にパートや外国人労働者が20人くらい。そうしないと、人件費をかけたら採算が取れない業種なんです。そういう中で、うちは39名の内34名が正社員です。会社案内に写真が載っている社員は共同求人で採用した社員です。昨年は新卒を6人採用しましたが、お客様が「1年目でよくこれだけできるな」と感心してもらえる程成長できました。同友会で『三位一体』と言われますが、私はそのとおりだと思います。採用した新卒者に期待して託し、その人が育つことでまた会社の繁栄につながっていく、ということを信じています。実際に期待してやらせると、その期待に応えてくれます。私が同友会に入ったときは社員は3人でしたが、今では30人を超えています。「社員が育ってくれる」という楽しみができました。それは同友会で学んだことです。
●1つの事をやりとげる
演劇をすべて手作りで
【尾崎】お配りしたパンフレットには、経営者からのメッセージが込められている、と思います。その集大成として、3月16日の尾張支部総会の中で「雪どけの陽」という手作りの演劇を披露しました。
【高瀬】話の発端は「稲沢地区の5周年で支部総会を設営しよう」ということからでした。その中で演劇の話が出たのが1年前の3月です。脚本から演出、大道具・小道具、練習までの全部を、素人の自分たちだけでやっていくということは大変なことです。しかも、始まったら想像以上に大変だったのですが、「これをやり遂げたら自信にもつながるし、やっていく途中にも勉強になることはたくさんある」とも思いました。その中では、「自分の身になる」という感覚も持てたと思います。経営者としての意地やお互いのライバル心もあったと思います。進めるうちにだんだんエスカレートし、結果的には最初の想定以上の内容になったと思います。
1年間の準備の中で
【森】稲沢地区は短期間で急激に人数が増えましたので、「会員間に温度差があってはいけない」と、グループ会に力を入れながら、グループ間の交流や地区全体での交流にも力を入れてきました。ほとんどの会員に関わってもらえましたので、この1年間は人と人とが会う接点が増えましたが、正直な話、関われなかった会員との間には、逆に温度差が出始めてしまいました。しかし、これだけのことをやり遂げたという点で成果はあったと思います。やりながら同友会らしさを感じた点ですが、多数決で決めずに時間をかけて歩み寄って成果を出していくことを勉強しました。多数決で決めた場合、反対意見の人は最初から「蚊帳の外」になってしまいます。そうではなくて、反対の理由を時間をかけて話し合い、できない理由を理解しながら、できる範囲での協力をお願いする、全員の気持ちを同友会的に掴み取っていく、これは大きな成果がありました。しかし、良いとばかりではありません。特に最後の3カ月間は、週に何回も、シーンごとに集まって練習したので、自分自身が現場を抱えている会員さんは、仕事を放って練習に参加しました。演劇に打ち込み、会社に手が回らなくなった会員もいます。普通の例会にはない「学び」を徹底的に腹に落としたことで同友会の本当の良さを知り、同友会が大好きになったというメンバーばかりでした。
苦しさをバネに
【尾崎】最後に山田さん、準備会から6年間携わり、この演劇で皆様に伝えたかったことは何でしょうか。
【山田】最初は「できる人だけがやれればいいだろう」と思っていました。ところが、台本を見ましたら自分の出番が長いんです。これには困りました。しかし「船が出た以上はやり遂げないと自分の責任が果たせない」と考え直しました。私の台詞は『労使見解』に関わる場面でした。ある日の練習の合間に、同友会に入会した頃の非常に経営に苦しんだときの自分の実体験を皆さんにお話しましたら、「それがいい」ということで、そのエピソードを劇中に盛り込みました。それは、「経営者はいいときばかりではない、苦しいときのほうが多いくらいですが、『その苦しさをばねにして這い上がる』という思いを持って、苦しくてもあきらめずに継続しよう」という意味でお話しました。その意味で私は、同友会に入って勉強したことが今の会社につながっているという想いを持っています。
【尾崎】3月の演劇は3名の地区会長の手を経て、このような流れの中で服部会長につながっています。今後の更なる稲沢地区の発展を期待しています。
(文責・事務局井上一馬)