第46回定時総会
第3分科会
4月24日
中小企業の「強み」はこうして創られる!
〜45周年記念出版の取材企業から学ぶ〜
●コーディネーター 阿部 克己氏(愛知東邦大学経営学部准教授)
◎パネリスト 浅生 卯一氏( 〃 経営学部教授)
〃 田村 豊氏( 〃 経営学部准教授)
〃 平沼 辰雄氏((株)リバイブ代表取締役)
変わる中小企業のイメージ
【阿部】現在、中小企業のイメージが変わりつつあります。昨今は国や地方自治体の中小企業への光の当て方が変わってきたし、中小企業の側もそれに応えられるようになってきました。1999年に中小企業基本法が改定されました。「中小企業は遅れた存在」という認識から、課題を抱えながらも、これからの社会、経済に対して積極的な役割を果たしているとの評価に変わってきています。皆さんは中小企業憲章の運動に取り組まれていますが、こうした状況を追い風と受け止めて、「時代を牽引する可能性ある存在」として、自らを発信していくことが大切だと思います。ではどんな企業づくりを行っていけばよいのでしょうか。それは強みをもった自立型企業です。私達は中小企業のどこが強いのか、なぜ強いのか、強さがどのように形成されるのかに注目して、この本をまとめました。
具体的事例に見る「強み」
異なる工程を統合化
【浅生】製造業ではこれまで「分業化」が進められてきました。しかし、今回取材した企業では関連する工程をむしろ「統合化」することで、逆に優位性を発揮しており、オネストンと高瀬金型の事例を紹介します。オネストンでは、もともとプレス金型部品の販売を主としていたものが、あるとき部品を研磨して納品という事態を迎え、自ら研磨機を購入し、金型部品の製造まで手がけるようになります。現在では2つの自社工場を構え、部品製造、販売の両方を手がけています。金型部品には標準品と特注品があり、特注品の場合は細かな仕様の注文があります。オネストンでは営業担当者も図面を読む力をもっており、顧客の要望に細やかに、しかも迅速に対応できるので信用を得るとともに、営業力もアップします。高瀬金型は、当初は金型の設計製作のみでしたが、1980年代半ばにプラスティック成形を手がけるようになりました。金型と成形という密接に関連する工程を統合することで、時間と費用の削減が可能となります。金型は成形(加工)の出来不出来によって絶えず修正を要求されます。また使っていくなかで傷むのでメンテナンスも必要になります。これが別々の企業で分業化されていると修正時間がかかりますし、コストもかかるわけです。このように別々の会社が担当していた異なる工程を自社に取り込む、すなわち「統合化」することで営業力、販売力、コスト競争力の強化を図っている事例です。
徹底した顧客密着
【田村】羽根田商会は製造現場で使われる工具などを販売する商社です。ここで紹介するのは、顧客の長期的、潜在的要求を掴もうとする「開発型営業」と呼べる戦略です。具体的には、顧客の現場をよく見せていただいて、その中で何が問題なのかを営業が探知して分析し、その課題に適合する商品を見つけてくる。そして「この商品を導入されれば、御社の製造方法や製品の性能はこう変わりますよ」とプレゼンテーションを行い、買っていただくという営業戦略です。例えば10年かけて育った商品があるそうです。弾性体を利用したユニークな減速機だったのですが、当時は、技術的には面白いけれど、何に使うとよいのかまったく分からない商品だったそうです。しかし、その後の試行錯誤の中で、その精密で小型軽量という特長はロボットに適しているとひらめき、営業をかけていったところ、現在はロボットに不可欠な部品となっています。つまり最初は売れるかどうか分からないが徐々に使い方、使われ方が研究されていく中で見えてくる、こうした新たに販売する商品の開発(発掘)が、羽根田商会の売り上げの30%程にまでなっているそうです
地域から支持される企業づくり
【平沼】リバイブは解体工事、産業廃棄物処理業です。環境問題をどうするか、ここからわが社のあるべき姿を構築し「地域から信頼される会社になろう」と掲げています。以前は焼却炉を建設しゴミを燃やしていましたが、地域の方々からダイオキシン発生は大丈夫かと問題提起をいただきました。処理に問題はありませんでしたが、結果として焼却炉は閉鎖しました。このとき「地域から信頼される企業でなくては」と実感し、社員と色々と話し合いました。現在の社名「リバイブ」は、回復、復元という意味があります。地域から信頼されるとはどういうことか具体的に取り組みました。例えば当社には太陽光発電の設備があります。震災などで地域のインフラが寸断されたとき、当社にきていただければ、電力供給ができます。また会社のとなりに溜池を作りビオトープを創っています。さらにオフィス自体を環境対応機器のショウルームにして、実際に販売する機器を当社で使用しています。このような具体的に理念を実践し、説得力をもつことが強みになっていくと思います。
「強さの根幹」は人材育成
幅広い経験をもった技術者育成
【浅生】タケダでは新技術、新製品の開発をたいへん重視しています。社員の構成も正社員が八割を占めています。派遣、パートですと短期的に人件費は安く済みますが、自社が求める固有技術の確保や向上ができないということで正社員の採用に力を入れてこられました。大卒の新入社員も必ず現場の体験をさせるのが日本企業の特徴ですが、タケダでも理系、文系かかわらず原則として最低1年間、プレス加工の現場を経験させます。とりわけ技術系の社員の場合、1年間プレス加工の経験の後、金型の加工、修理を3年程経験して設計にまわるのです。いきなり設計に配属しないのがポイントです。営業も同じように最初にプレス加工。その後、発送、生産管理、検査、営業というように広く経験させる人材養成をとっています。そうした中で固有技術の蓄積を行っています。
「自分とは何か」「仕事とは何か」
【田村】先程もお話した羽根田商会の事例を紹介します。社長の佐藤氏は社員のモチベーションアップに試行錯誤され、社員が自分と仕事がどこでリンクするのかが分かれば、課題が解決するという答えに行き着きます。社員に「自分」と「仕事」をしっかり自覚してもらい、仕事が「自分をかけられるもの」に変化しなければ、モチベーションは上がらないということです。そこで羽根田商会では利益に応じて様々な研修機会を設け、そのリンクについて考えさせる機会を定期的に作っています。さらに利益の一定比率を社員に還元するルールをつくることにより、「営業収益が社員の成長の機会増大とそれが自分の収入にリンクするシステム」を創り出します。こうした取り組みで社員のムードが変わっていきました。次に知立機工の豊田社長のお話を紹介します。豊田氏は、毎月1回土曜日休日の3時間ほど(休日なので自由)と、3カ月に1回土曜日の時間内に半日かけて(勤務)社員とじっくり話す時間をとっています。ここでは「自分とは何か」、「社会の正義、不正義とは何か」など様々な出来事を取り上げて、社長と社員の関係を超えて、お互いの価値観をぶつけ合う時間を取っています。「何かと大企業のほうが良いと思うことに対して、中小企業にいることの魅力が作りだせれば、社員は中小企業で働き続けるだろう。自分は何ができるのか、何のために自分達がここにいるのかといった根本的な問題を解かなければ、仕事に熱が入らない。そういうところに行きあたったのです」と豊田氏は語ります。この2社は長期的な視野にたって、かつモチベーションの内面性を非常に大切にしている事例です。
「強さの源」とは
創造的コミュニケーション
【田村】経営者の思いは経営指針という形で表面化されますが、それが社員の中に入って力にならなければなりません。その仕組みをどう作っているのかに私は注目しました。企業の強みを創り出しているのは経営者はもちろんですが、そこで働く社員です。取材先の各企業では社員の力を引き出すコミュニケーションが確立されていました。問題にぶつかり、その中で「社長1人が困った」といっているのは典型的な例ですが、そこに社員の中で議論があって、社長に「こんな方法があります」と知恵が伝わっていくというケースです。ディスカッションの中で問題を発見し、分析し、問題解決のために上司や同僚などみんなで話す。アイデアは誰しも持っているわけですが、それを引き出すのはなかなか難しいことなのです。相談しあい、共感しあうという社会的なムード、そして社内のさまざまな英知がつけ加えられていく、いわば「創造的コミュニケーション」が確立されている。これは簡単には作り出せないことですが、とても大事な中小企業の強みだと思います。
経営者のこだわり
【浅生】経営者の方々は会社、事業のあり方に強いこだわりをもっていました。例えばスギ製菓では「おいしく、安全、安心なえびせんべいづくり」、永和工業ではブランドの確立、デザイン性に優れた完成品をつくることにこだわってみえます。バルト工房では焼き物のまち瀬戸にあって「焼き物とガラスのまち瀬戸」に変えるというこだわりというか夢をもっていらっしゃいます。あるいはサカエでは「100年住宅を創る」ことを提唱されています。またエイベックスでは多くの加工メーカーがNC旋盤で加工しているところを、旧来の六軸自動旋盤にこだわって、自社の技術基盤を形成しようとしています。経営者があることに非常に強いこだわりをもっている。それが経営理念として反映されたり、ビジョンとして発表され、社員に浸透していく。これが強みを形作る出発点、前提条件となっています。
経営者に求められる会社デザイン力
【阿部】取材先企業の強みの共通点を述べます。まず経営指針が確立していることです。潜在的に存在している自社の強みを経営指針を作ることで、社長自身も社員にも明確にすることができる。つまり、経営理念が企業の体内に浸透し、理念が行動規範になっている「理念型経営」であることです。次に顧客第一主義の徹底です。顧客からの要望に対し多少の困難であってもむしろそれを課題と受け止め、成長の糧に変えていく姿勢です。3番目に人材育成です。社員のモチベーションを上げる、スキルを身に付けるといった具体的な仕組みが整っている。その際、経営者もまじえた豊かなコミュニケーションが確立していることです。4番目に経営者の環境変化に対する適応力、時代や自社の強み、弱みを冷静に分析する自己分析力に優れていることです。さらに注目しておきたいことがあります。個々の要素が優れている企業はいくつもありますが、企業は、いずれもこれらの要素を上手く組み合わせる総合力を持っている。それが強さを作り出しているのではないかと思います。その組み合わせを束ねるのが、経営者の大きな役割です。経営者が会社をどの方向にもっていきたいのか、いわば「会社をデザインする力」といってよいかと思いますが、その力が際立っていたと思います。
「強み」を自覚し時代の牽引者に
【阿部】ぜひ「自社の強みとは何か」を自覚し、その強さを磨いていただきたいと思います。強みをもった自立型企業が増えることが、中小企業が大企業と並んで時代を引っ張っていく存在となる。皆さん自身の経営を強くしていくこと自体が、日本の新しい経済社会の局面を切り開いていくということにつながっていくと思います。
【文責 事務局・多田】