第47回定時総会第1分科会
4月22日
全ての会員が黒字企業に〜同友会らしい黒字企業〜
パネリスト:青木義彦氏/経営労働委員長、白井美佐子氏/共同求人委員長、加藤輝美氏/共育委員長、田中誠氏/障害者問題委員長
コーディネータ:村上秀樹氏/産官学連携プロジェクト長
理念と担う役割
【村上】日本の経済は、ここへ来て景況が少し鈍化しているように思われます。毎日の報道でも同友会の2月末景況調査でも、各企業の業況判断はだんだんと悪くなってきています。大企業は別として、全国的に「中小企業の7割が赤字」という発表があります。それに対して、愛知同友会のアンケートでは逆に7割の方から「黒字」の回答をいただいています。今日は、4人の委員長にパネリストをお願いしております。各委員会がどんな活動をしているか、あるいは、同友会の理念のどの部分を担い、伝えているか、始めにお伺いしたいと思います。
人を生かす経営
【青木】労務労働委員会は、今日の定時総会で経営労働委員会に名称を変更します。委員会としては「人を生かす経営」をテーマにしています。どの企業にも、切っても切れない課題として人の問題があります。参加者は自分の会社の経営課題を「人」というところに置いて、学び、時には厳しく指摘しあっています。この委員会は、労働三法を中心とする労務問題を取り上げてきました。就業規則や給与規定を定め、労働法に適った経営をするということは、経営者に課せられた最も基本的なことだと思います。労使見解についても引き続き展開していきます。また、新しく「経営成熟度診断」に取り組みます。これは、自分の会社の課題がどこにあるのか、具体的に「見える化」できるように展開していきたいと思っています。
小さくても新卒採用
【白井】共同求人委員会は、中小企業が1社ではできない新卒採用を共同で行うことを通して、まずは「小さな企業でも新卒を採用できる」ことを実感していただくことを目的としています。なぜ新卒にこだわるか、と言いますと、中途採用の社員では「どれだけ投資して教育したとしても、会社の経営理念がなかなか伝わらない」ということがあります。新卒社員は「理念に共感し、自分と会社のベクトルが合ったから入社する」というところから始まりますので、入社後の教育投資がより効果的だと思っています。もちろん、理念を持たずに共同求人活動に参加する方もいますし、「採用計画はないけれど、1度は新卒も入れてみよう」という方もいます。そういう方には、まず「経営者自ら採用の現場にも参加して欲しい」とお願いをしています。そして「そのことが自社を改善するいいチャンスになる」と伝えています。学生に、自社の経営理念を詳しく具体的に説明することの難しさに直面し、学生に語りながら自分自身が腹に落としていくことを実際に体験してもらい、それを重ねることで理念の再確認もできます。
共に育つ
【加藤】共育委員会の「キョウイク」は「教え育てる」ではなく「共に育つ」です。共育委員会は、4月に新入社員研修を行い、半年後の9月にその新入社員の半年間の変化や悩みをフォローするフォローアップ研修を設けています。また、経営者と社員が一緒に学ぶ共育講座を運営しています。経営者が社員を同伴し、同じテーマでグループ討論するこの講座は、5年8期の歴史を持っています。共育については、「どう共に育つのか」がポイントになります。私が以前そうだったように、社員だけを研修に行かせたり、社員さえ育てば会社は繁栄すると考えていたりする経営者が多いのがまだまだ現実です。「企業は人なり」と言われます。この「人」というのは経営者自身のことだと思っています。「経営者自らが学び変わらなければ、企業は何も変わらない」という趣旨で活動しています。
人間尊重の経営
【田中】同友会の障害者問題委員会は、他の団体の福祉活動とは全く違います。「人間尊重の経営」に基づいて、会社の風土を変え、地域からの信頼も得て障害者も戦力として共に成長していこう、と活動しています。最近では、障害者の短期の就労実習を10年程継続しています。今、力を入れているのは、社会問題にもなっている、引きこもりの方々への取り組みです。こういう方々は、1度社会に出た後に人間関係などでつまずいて引きこもってしまうケースが多く、「力はあるのに、大企業では門前払いで、試す場がない」という問題に、「地域に根差し、全ての人が人間らしく」と掲げている同友会だからこそ、前向きに接していこうとしています。業種によっては難しいところもありますが、仕事を細分化していけば障害者でもできる作業が出てきます。私自身も同友会での実習が縁で2人を雇用し、現在もう1人実習中です。「機会が無いがために、また引きこもってしまう」という話も聞きます。課題もありますが、成功したときには地域から信頼される会社になれると思います。
三位一体の経営を
【村上】労使見解をベースに経営指針・採用・共育を三位一体で展開していく、というサイクルを同友会は提唱していますが、「同友会らしい黒字型企業」を作るには、どんな部分が必要なのかお伺いしたいと思います。
価値ある会社へ
【青木】創業して20数年のうちには、赤字を出した年も何度かありますが、基本的に黒字を続けています。その中では、銀行から見て「いい会社」であっても、自分の中では納得できていないことも経験しました。雇い入れたうち半数以上は残ってくれていますが、「この人とは一生やっていきたい」と思っている社員が辞めてしまい、自分の経営意欲そのものがなくなってきてしまう、という経験もしました。「いっそのこと会社を閉めてしまおう」とまで考えたときもありましたが、今までついてきてくれた社員に対してあまりに無責任だと考え、思い留まりました。それで、もう1度最初からやろう、と思ったときに同友会に出会いました。たまたま労務労働委員会の主催する、現中同協会長の鋤柄さんの「あなたの会社に価値はありますか」という勉強会に参加しました。自分の会社のことを自分と社員以外から問われるのは初めてで、これは面白いと思い、継続して参加するようになりました。委員会で皆と議論することで、社員が辞めていった理由が理解できました。私が頭の中で考えてやっていることと、実際に社員が私を見て感じていることとが全然違っていた、ということに気付きました。20数年間経営してきた中で、個別に社員と話すことはありましたが、社員とのギャップを無くすために、今は社員全員と腹を割って話すようになりました。労使見解の第1章に「経営者の責任」として「経営姿勢をはっきりさせなさい」と書いてあります。労使見解を生かして経営指針を成文化し、それを社員と共有するところに行き着いたことが、私の転機になったのかもしれません。社員に対して、口で「いい会社にしよう」と言うだけで、全くと言っていいほど経営の姿勢が変わっていかなかった自分が、経営指針をつくって社員とグループ討論をするようになってからは、少しずつ変わってきたのではないか、と感じています。
人が育つ企業
【白井】私は、急逝した父の後を継いだ2代目ですが、生前の父から「おまえが社長になったら、会社は3日で潰れるぞ」と言われたことがあります。父から受け継いで8年やってきましたが、法人4税をきっちり払っています。私の会社は、同友会で勉強したことをやっていたら黒字になった、というのが実感です。私が社長になってすぐ、同友会で教わった「労使見解に基づく三位一体」を生かすことにしました。社長の自分を支えてくれる社員のことを考えながら、新卒を採用したり、共育したり、障害者のことを考えたりして勉強し、実践していった結果、利益が上がるようになりました。新卒の採用について言えることは、採用する段になって初めて社内整備に手を付けることができる、というのが実態です。新卒を採用するためのいろんな問題点が浮き彫りになり、その都度1つひとつ改善していくことで、会社が「企業らしい組織」に変わってきました。やる気を持って入ってくる新入社員に対して、今いる社員も「自分も負けていられない」という意識が芽生え、20年前と比べると、社風も人の動きも変わってきたことが分かります。これが最終的に、売り上げに繋がったり、企業規模が大きくなることに繋がったりしたのではないかと思います。共同求人委員会では、「人が育つ企業」ということを自社で実感していただける勉強会を続けていきたい。いろいろな課題を、バランスをとりながら勉強し実践していくことで、同友会らしい黒字になるのではないだろうかと思います。
ワンマン経営から
【加藤】脱サラして創業し、23年間やってきたわけですが、創業以来ワンマン経営をやってきました。「小粒でもピリリと辛い」企業づくりをしたい、と思って教育をしてきましたが、中途採用のためなかなか揃わない、こちらが思うようにモチベーションも上がらない、そういう状態が続きました。私もワンマン社長でしたので、教育も押し付けで、首切りもガンガンやっておりました。そういった中で、しだいに「このままではいけない」と感じるようになりました。モチベーションを上げるには、押し付けではなく、社員の姿勢を引き出す必要があるのではないか、と思い始めました。人が育つということは「姿勢をいかに引き出すか」だと思います。社員から姿勢を引き出すためには、任せることしかありません。私も、過去には自分で全部を管理していなければ気が済まなかったときもありましたが、たとえ胃が痛くなろうとも我慢して任せることが大切です。ただ、経営者はトップである以上、会社の責任は全て負うのが当然です。腹をくくれば楽です。そんなところが自分自身の人格形成にも繋がっていきます。社員の能力を引き出すためには、社員ときちんとコミュニケーションを図ることが大切だと感じています。社員1人ひとりを知り好きになることで、お互いに信頼関係を築くことができます。経営指針も大切です。友達同士のように和気藹々とやってはいても、どんな企業を目指しているかをしっかり決めなければ社員は同じ方向性を向いてやってくれません。経営計画を作る上では、経理を公開していないと、つまずいてしまいます。一緒に育っていくためには、いろんな要因を踏まえて、ブラックボックスのない働きやすい職場を作ることだ、と自分なりの結論を出しています。人が育つことが企業の発展に繋がっていくと信じています。
社員がすごい
【田中】当社は製造業で、設備投資が多いので、減価償却が大きく、微益というところでやっています。2月の行事で発表をしたときは、社員と女房を呼びましたら、女房から「うちの会社は社員がすごい」と言われました。どこがすごいかと言いますと、8年前に初めて知的障害者を雇用したときのことですが、私は社員に反対されたら雇用しないつもりだったのですが、社員からは「やってみましょう」という声が多かったんです。当社は職人ばかりで、普段は余計なおせっかいはしないのですが、何か困っていたら声はかけるようにしています。その社風が、人間関係で病んでいる人には居心地良かったのかな、と思います。他にも、いきなり8時間の労働が無理だという方は、徐々に労働時間を延ばしていったりもしています。お昼を過ぎたら突然帰ってしまった方もいて、さすがに忙しい時は私も怒ってしまうのですが、他の社員たちがフォローしてくれたこともあります。ある社員が事故に合って長期休んだ時には、週の半ばで1日は休まないと体が続かないという社員が無理をして出てくれたりもしました。社員自らが動いてくれています。これが共に育つではないかと思います。
わかりやすい活動
【村上】議案の18頁を読みますと、「会員1人ひとりに分かりやすい活動」ということが提案されていますが、各委員会は自分の活動をどう会員さんたちに伝えていくのか、お伺いします。
誰もが学べる場
【青木】会員は、必ずどこかの地区に所属します。誰もが学べる場として提供されているのが、自分の所属している地区の例会です。地区での交流では、お互いのことが良く分かってくると、お互いの勉強になり、より親しくなることができますが、私が同友会に入会してよかったと思うことは、初めて会う他地区の会員や、全国行事でその日に初めて同じグループ討論に着いた方でも、自分が会社で抱えている経営課題などを包み隠さず話してくれることです。他の会や団体では、表面的な話はあっても、困っている話はほとんど出ない。同友会に入ったら、そういう話が例会でもどこでもどんどん出て、自分が悩んでいることと、目の前にいる経営者が悩んでいることとが、突き詰めていくと根は同じだ、ということに気付きます。地区例会では、お互いの経営課題をきちんと議論するべきで、それができなければ例会に出てくる意味がない、と思っています。会員は、良い会社・良い経営者を目指して参加しています。そのための「答え」はありませんから、1人ひとりがそこで悩み考えながら聞いたヒントや、何かしら思いついたことを、自社に持ち帰ってやってみて、それで次に繋いでいく、この日々の活動しかないと思います。全ての会員が、そういう学びができる同友会を、活動部門では2010年ビジョンで実現したいと位置付けています。中同協が中心となって「企業変革支援プログラム」というものを準備しています。私も委員として参加しています。「いい会社・いい経営者とは何か」ということを見えるようにしよう、というものです。その中では、労使見解の中で経営者が要求されていることを、「経営者の責任」から始まって、会社の全資産を有効に活用して利益を上げ、その利益が自分たちの生活になり、地域にとってもプラスになる、という社会運動だととらえています。全ての会員がそのことに気付き、その上で「自分も経営を頑張ろう」というふうになるといいな、と感じます。
事業継承とつながる
【白井】私が共同求人を始めたきっかけは、事業継承とも繋がっています。今いる社員も、30年先には年齢もそれだけ上がっていますので、今のメンバーだけでは企業は維持できないことが解ります。5年後15年後をどうしよう、と考えた時には当然、自分の後継者も必要になってきます。私には2人の娘がいますが、例えば娘が継ぐとしてもまだ20年は先のことですので、そうすると各年代にキーマンを作っておかなければいけません。そうすると、事業継承も実は新卒採用と関係していると思います。これから「企業を安定させて成長させていこう」と思うと、どうしても人が必要になってきます。私が最初に共同求人に参加したときは、母体となる父の会社はありましたが、実際には私1人でもう1つ会社を起そうと思い、「この会社を一緒にサポートしてくれるメンバーを募りたい。今は1人だけど、それでも一緒にやってくれますか」と学生に言いました。そうしましたら、当時の時代背景もあったかもしれませんが、100名を越える学生がブースで話を聞いてくれまして、会社説明会には70数名が参加してくれました。何にも無いところから始めたことを思えば、社員が1人もいなくても、こうやって会社を作っていけるんだ、と実感しました。
新卒採用で人を育てる
【加藤】私は長年ワンマン経営をやっていましたので、「今までの逆をやれば労使見解につながるのではないか」と思いました。ワンマン経営をやっている時は、社員を信頼してない人間が自分自身の中でできていました。社員の良いところをみて好きになることが、お互いに信頼し合える間柄を作れることにつながると思います。私も共同求人に参加しています。中途採用だけをやっていた私は「今の人材で今日明日は食べることができると思う。しかし、5年10年先になっても、今の人材で食べていけるか」と問われ、答えることができませんでした。そのとき、新卒採用をして人を育てていくことが大切だということに気付きました。人は教わるよりも教える方が勉強になります。後輩に教えるという立場になったら、その社員はものすごく成長します。これがどんな外部研修よりも成果がありました。これが「共に育つ」の1つの形だと思います。経営理念は、みんなが幸せになるためにあるものです。「社員と共に」というのを遠まわしにしないで、「一緒に育っていくんだ」という思いで、経営者として切り替えていただきたいと思います。
ネットワークを組む
【田中】委員会の取り組みを会外に発信すると、いろんな方面から依頼を頂きます。全部お受けしたい気持ちなのですが、今の体制ではとても無理なので、2010年までに、各地区とその方面を結ぶネットワークを組んでいきたいと思っています。そのためには、地区でも障害者雇用・共育・共生をテーマにした例会をやっていただけるときは、私どもに声をかけていただいて、一緒に勉強させていただきたいと思っています。3年後はすぐですが、実現できるように少しずつ情報を集めていきたいと思います。短期でいいので、就労実習を受けてみて下さい。長期の実習や雇用となると、社内の合意などのハードルもありますし、失敗したときの不安も大きいと思います。1週間の短期実習というのは、例えば掃除だけでもいいんです。それだけでも、彼らが「働く」ということを我々が思っている以上に大切に考えていることがわかります。人間尊重を目指す同友会員であるならば、ぜひ1度受けてほしいと思います。障害者問題委員会は、以前は「身内や親戚に障害を持った方がいる」ということから関心を持たれる方が多かったのですが、今は関心の持ち方も多様化してきています。「これが必ず必要だと感じたから来ました」と言って、青同の方がいきなりお見えになることもあります。委員会で制度を知って、すぐ実習生を受け入れている方もいらっしゃいます。個別の課題だと受け取られやすいのですが、もっとたくさんの方と一緒に考えていきたいと思います。【村上】ありがとうございました。最後に、パネリストの皆さんから、「これだけは言っておきたい、このことを言い忘れた」ということがありましたら、お願いします。【加藤】同友会で学んだことは、1つでもいいので、何らかの形で会社で実践していただきたいと思います。5年10年経つ頃には会社がどんどん変わっているんじゃないか、と思います。これが本当に同友会の醍醐味だと思います。「これをやったから会社が黒字になる」というものはありませんが、黒字になっていく兆候はあると思います。ぜひ皆さんが各企業で実践をして頂きたいと願っております。
(文責・事務局 下脇)