第47回定時総会
第2分科会
4月22日
条例制定への道のり〜やるべき地域活動〜
事例報告高原藤一氏(株)たかはら社長
助言報告植田浩史氏慶應義塾大学教授
眠りの環境ビジネス
当社は寝具販売の会社で、お客様は95パーセント以上が地元の方です。経営理念の冒頭には、「お客様のライフスタイルに合った眠りの環境を提案できるプロ集団を目指します」とあり、眠りの環境ビジネス業をめざしています。経営理念の1番目に掲げているのが、「地域のお客様に常に頼りにされる企業をめざします」で、地域のお客様だけでなく、業者の方、会議所の方など地域のすべての方に常に頼りにしていただこうということです。やはり自社が地域から頼りにされないと、地域の問題はうまくいかないのと同じように、同友会も地域にあてにされる存在にならないと駄目だと思います。
条例の必要性を腹に落とす
さてこれまでどんな活動をしてきたかというと、まず地域問題をやろうという時に、同友会の書籍などを読んで、「中小企業地域活性化条例」の必要性をまず腹に落とすことが、第1に必要だと思いました。また行政や会議所の人達に、どう伝えることができるのか共に勉強会を行うなどしてきました。そうして、今年3月22日に、西尾市にて開催された三河支部総会には、西尾市長と地元の商工会議所の会頭、同友会の三河支部長それと私の4人で、パネル討論会を行うことができました。それにより、地域に役立つサービスや事業、従業員を大切にする会社づくりをしている会だという評価で見直していただきました。このような3者による催しものは同友会にとっても、大きな進歩だったと思います。
地域の人達からの信頼
それ以前、西尾・幡豆地区では、地区発足以来14年にわたって、地域と共に「会外の地域の方を呼んで同友会を知ってもらおう」と年に1回の公開例会を行っており、地元マスコミに取り上げられるようになってきました。金融アセスメント運動の取り組みで金融機関との関係もつくってきました。このような活動の中で気づいた事と学んだ事ですが、やはり企業家として地元の人達から信頼していただかないと、地域での活動は進まないと思いました。行政や商工会議所とのお付き合いで気づいたのは、お互いの立場を尊重すること、そして建設的な協力姿勢でのぞむことです。もうひとつ気づいたのは、地域のコアになる会員に集まっていただき、それぞれの持ち場でがんばってもらうことです。委員長は目立たない、プロデュース役に徹すればいい、ということです。
継続が大切
今後の活動ですが、やはり継続する事が大切で、今年度の勉強会の年間計画を決めました。昨日は、商工会議所の職員の方に来てもらって、条例のパワーポイントを見て、あとはフリートークで自己紹介などをしました。今年度は西尾市の第6次総合計画や中小企業政策をテーマに学習会と懇談会をすすめていきます。地元の人達と話をする時には、経営者としても頼りにされなければいけません。また同友会メンバーとして同友会も会としても信頼されなければいけない。これが大前提で同友会の例会やグループ会では「こんな会社づくりをしよう」と言う勉強会を地道にすすめています。そして、とにかく1度行政の方にどういう側面からでもいいのでアタックしてみると、自分達の活動が見えてくると思います。条例制定の道のりは遠いかも近いかもしれませんが、その中で気づくことがあるのです。先に「条例」ありきではなく、自分達の地域をこれからどうしていくのかを一緒になって考えていくことだと思います。
中小企業の重要性を高らかに宣言
植田 浩史氏 助言報告
条例の意味と必要性
条例とは第1に地方自治体が地域の中小企業を重視し、その振興を行政の柱としていく事を、明確にするために策定したものです。第2に、自治体の政策を具体的に示すものではなく、方向性とか振興への姿勢を示したものです。ここで重要なのは中小企業振興や地方産業振興に熱心な自治体が、すべてこうした条例を必ずしも持っているわけではなく、また逆に条例のある自治体が、すべて先進的な政策を持っているわけではないことです。実は条例だけ作ってあとはちょっとという自治体も少なからずあり、条例イコール頑張っているというわけでは必ずしもないということだけは確認をしておいていただきたいと思います。次に取り上げられる事の多い自治体の条例を、説明していきたいと思います。
自治体での事例紹介
最初は1979年の墨田区です。自立的な基本条例としては最初のものです。@地方自治体が中小企業施策を行うことの重要性を、はじめて高らかに宣言、A中小企業が地域経済にとって非常に大事な存在だということを強調、B自治体や市長、市民、企業の役割をきちんと条文で標したこと、等が特徴です。次に2001年に出来た大阪の八尾市の条例です。地方自治体が地域の中小企業を振興していくために、条例を戦略的に位置づけて制定させたという点が特徴です。また大企業の役割について言及していることが新しい点です。
新しい画期的な取り組み
2007年には帯広市に中小企業振興基本条例ができます。この条例が画期的だったことは、行政主導ではなく、まず中小企業者、具体的に言うと、同友会の帯広支部が主体的に取り組み、作り上げていった点です。これは従来にない新しい取り組みでした。そして同友会の帯広支部が、制定の取り組みを通じて、商工会議所や市役所などと連携を強めていったことも大事です。また格調高い前文が作られたことも重要です。帯広の歴史と伝統の中で、中小企業の果たしてきた役割が、端的に書かれており、ぜひ皆さんも1度お読みください。さらに、これまでの条例の中では、既存の中小企業の振興ということは掲げられていましたが、帯広の条例では従来なかった「創業」という点が掲げられていることも重要です。他にも、自治体や市長、市民や企業らの中小企業振興への義務も明記しています。
条例の意義
ではなぜ、中小企業振興基本条例が現在注目されるのかといいますと、ひとつには中小企業基本法が変わって、自治体が中小企業振興を、それぞれの地域で行っていく義務が生じた、ということです。もうひとつは、基本法いかんに関わらず、地域経済・地域社会・地方自治体の安定的な経営にとって、中小企業の存在の重要性が強く認識されるにいたってきたということです。「条例」には、3つの意味があると考えています。1つ目は地方自治体自身が、中小企業ないし地域の産業を振興するという立場を、自治体の内部に対して明確にするという点です。2つ目には、地域の中小企業に対して、自治体のスタンスを明確にする事を通して、自治体の考え方と方向性を理解していくこと。3つ目には、自治体の姿勢の連続性を担保していくことです。要するに、首長が変わったら、状況が変わるようなことをなくすためです。そして「条例の広がり」についてです。中小企業振興基本条例に類する条例は、全国に150ぐらいあるといわれていますが、古いものには内容的にあまり意味がないものも少なくありません。実質的には、79年の墨田区の条例が全国で最初の条例であると考えられます。
工夫を加えながら
90年代に入って東京を中心にいくつかの自治体で条例ができますが、これらは墨田区の条例をモデルにして、少しずつ工夫を付け加えながらできてきました。90年代の後半ぐらいから、バブル経済が崩壊して、中小企業の役割が大事になってきたということで、いくつかの自治体で条例が生まれ、2001年の八尾市の条例では、条例を軸に地域産業政策が打ち出されるように、戦略的に条例が位置づけられてきました。その後出来た条例は、八尾市の条例を参考に作られてきました。そして2007年は条例が一気に生まれてくる年です。中でも帯広の条例は、行政側からではなくて、民間の側、中小企業の側が条例制定に向けて動いて、それをきっかけに条例ができました。
調査・振興会議・条例は3点セット
墨田区の条例が、モデルになった大きな背景には、調査と振興会議と条例という3点セットが、墨田区では早い段階で実現していたことがあります。この墨田区の条例が最初に制定されるきっかけになったのが、1977年の「中小製造業基本実態調査」です。
墨田区はもともと東京で1番工場の多かった地域だったのですが、70年代に入ってどんどん工場が少なくなっていきました。また人口も減り、これから地域はどうなるのだろう、まずは、実態を調べようということで、区役所の中堅職員、課長さん以上200人が当時あった9000の事業所をすべて回って、調査をしたわけです。このようにデータを集めて、現状を把握したことが、スタートになっている点がとても大切です。それを前提にして、地域の中小企業振興が図られています。八尾市も3点セットを発展させていくということを、かなり強く最初から考えて取り組みました。最近の基本条例では、千葉県の場合は、振興条例を作っただけではなくて、具体的政策と条例がセットになって作られていきました。また、具体的な政策をチェック・検証する機関を条例の中で明確に打ち出しています。
何のための条例なのか
「中小企業振興基本条例のありかたと制定に向けて」ということで、大事な事は、「何のための条例か」ということです。条例とは、姿勢とか思いとかを文章化していくものであり、「中小企業が地域においてどのような役割を担い、位置付けにあるか」を示すと共に、「中小企業がどのような責務を負うのか」も、同時に明確にするものです。地域経済・地域社会において重要な役割を果たし、自主的で真摯な努力を続ける中小企業というものを、地域が理解し、地域全体で中小企業を支えていく事を示すものです。「条例化することの意味」というのは、持続的に中小企業をサポートしていく体制を作っていくことにあります。「地域の特色を生かした対応」ということでは、地域の産業の特色とか、地域でこれまで全体として重視してきた事を、反映させるものとして考えていく必要があります。そして条例というのは、「最終目標ではなく通過点である」と考えています。条例を具体的な政策に結び付けていくような仕組みが必要であり、条例によって目に見えるような変化を最終的には作り上げていくということです。
考慮すべきこと
基本条例の制定で考慮すべき点というのがいくつかあり、皆さんも気をつけていただきたいと思います。制定ということに向けては、運動・連携づくりをして、理解を広げていくことが必要です。また、効果的な提案者と協力していくということも必要です。市長であり、議会であり、同友会であり、商工会議所、各経済団体、市民、いろんな人と協力していくということです。また条例は最終的には議会の決定ということになりますので、地域ごとの政治的な状況にも同友会は中立的な立場を取りながら気を付けていくということです。
条例不要論に対して
条例制定を求める側としては、制定に費やす労力、コストと制定によるメリットの比較を考慮し提案していくことも必要です。また次のような条例不要論についても考えなければなりません。第1は、「すでに政策がいろいろあるので、あえて条例を作らなくてもいいのではないか」です。これに対しては、条例は政策そのものではなくて、自治体・市長・市民の姿勢を示すものなので、個別の政策があるからいらないということには必ずしもならないというのが、ひとつの答えであると私は思っています。第2に、「姿勢は基本計画の中で示しているので、あえて条例という中で示す必要はないのではないか」ということです。ただ、基本計画とはいろんな問題が入っているわけで、その中の1つとして中小企業の問題に触れているものです。それとは別に特に中小企業の問題を捉えて条例にするということは、その地域が中小企業というものを重視していることを示すことにもなりますので、基本計画と条例を2本柱にして進めたほうが強力ですよというふうに話はできるのではないかと思います。
条例作りを一緒に
第3に、「条例制定には手間がかかる」ということです。「特に商工担当の職員が少ない自治体では、ひとりがその問題に付きっきりになると、他の仕事が出来なくなるのではないか」ということです。そういう意見に対しては、同友会や経済団体、市民の力をフルに活用していくことや、あるいは、すでにある良い条例を参考にしながら、条例作りを一緒にやっていきましょう、というかたちで説得するのが良いのではないかと思います。
あと「条例の前にやることがいっぱいあるんだ」という自治体もあります。そういうところには、条例と並行して進めていくことが出来るし、条例を制定する事で様々な仕事がやりやすくなるのではないか、というふうに議論を進めていくこともありうるのではないかと思います。
自治体の役割がある
それから、自治体の役割について考える必要があります。地域経営的な視点に立って地域全体のデザインを考えて、様々な立場の人間や組織のコーディネート役として、役割を果たしてもらいたい。また、「自治体にしかできないこと」、「自治体がやると効果的なこと」をやっていただきたい。どのような将来像を持ち、実現していくのか。それは収支の問題というよりも、ビジョン的な経営ということです。そして、自治体の経営自身を安定的に行うための対応が必要です。これは、中小企業にも密接に関係しています。つまり、自治体の税収を安定的に確保するためには、その地域の中でより多くの人が働き、より多くの企業が存在し、経済活動を行っていく事が非常に大事だからです。
地域全体での取り組み
中小企業の発展があってはじめて、地域経営が成り立ちます。そのためにはお互いに協力し、意見を交わしながらやっていく事が必要です。ですから、条例というのは「中小企業に関わる人間・団体などが対等に一緒にやって行くということを宣言し、その姿勢を明確にしていく」という意味で大事なのです。最後に、中小企業の地域貢献に関してですが、1番ベースにあるのは、中小企業が地域の中できちんとした経営を行っていくことが根本的な地域貢献であると思っています。地域の経済循環を作り、雇用を確保していく事が大事です。考え方としては、はじめに、地域をどうしていくのかから始まって、中小企業の経営をどうしていくのか、そして条例の問題を考えるという流れになると思います。
(文責 事務局 黒田)
「中小企業地域活性化条例」の必要性
@企業数では99%以上が中小企業。70%以上の住民が中小企業で働いている。
A中小企業無しでは、地域の活性化は実現しない。
B地域活性化のためには、「中小企業地域活性化条例」が必要。
C「条例」は、行政とのリレーションシップの構築である。
D「条例」がないと政策法務の継続性が得られません。
E継続させるには「基本理念」である条例による行政運営が必要。
F「条例」制定により初めて市民から認知されます。
G「条例」は住民の理解と強力を得て、地域ぐるみで中小企業を認知し支援するという「公」の「宣言」である。
H「条例」は産業振興・中小企業活性化に対する、地方自治体の主体的な姿勢と責任を明確にします。そして継続的に成果を上げる施策の実施や、そのために必要な予算の確保や担保になります。
Iまさに今、地域経済の崩壊を食い止め、抜本的に地域経済を再構築する課題に正面から取り組む時である。
Jその取り組みの確かな足がかり、「基本理念」が「中小企業地域活性化条例」である。
西尾・幡豆地区(株)たかはら高原藤一