第47回定時総会 第5分科会
4月22日
経営が楽しくてしかたがない!
佐藤祐一氏(株)羽根田商会社長
名古屋支部長
同友会と会社経営の軌跡
社長になって10年
我社は1951年に創立した生産財の販売をしている会社です。生産財というのは、一口で言うと工場で使う道具です。正社員77名、パート20名、合計で97名が働いており、昨年の売上は85億円でした。入会して10年、社長になって10年。同友会と経営は不離一体とも車の両輪とも言われます。同友会での気づきと会社の変化をまとめました。1997年に同友会に入会し、まず、最初に転機となったのは、入会した翌年に手書きの経営指針を作ったことです。地区での報告がきっかけでした。2000年に作成した第50期のものは約10ページあり、経営指針書と言える最初のものでした。翌年には大変力を入れて、80ページとなってしまいました。自分の想いをまとめる意味では良かったと思うのですが、社員はげっそりして誰も読んでくれませんでした。
教育と共育の関係
2004年には高知県で行われた青年経営者全国交流会でネッツトヨタ南国の横田社長(現会長)の話を聞き、共育と教育の関係を学びました。2005年には今まで社内で開催していた経営指針発表会を、ホテルで開催しました。このあたりから会社の中が大きく変わりました。2006年には理念共感型の新卒採用を始めるなど、学びを実践して成長してきました。2006年から2008年にかけて、名古屋支部幹事長・支部長という役を頂くようになり、同友会と会社のことがかなりリンクするようになって来ました。役の責任感が実践への原動力になっているのを感じます。
同友会の本質
1997年の6月、愛知同友会の前会長である佐々木正喜氏に入会を進められ、同友会がどんな会なのか、何も知らないまま入会しました。そして10年間次々と役を受けているうちに、いろいろなことが解ってきました。同友会は、自分から学びに行かないと何も学べません。先輩経営者がそれぞれの経験を蓄積してきた会で、これが他にないところだと思います。それから、前向きな人達と出会い、試行錯誤する勇気を頂いて、この10年やって来ることが出来たと思います。
人を中心とした経営
先日の全国総会で、同友会の1番大切なことに気づいたことで、「同友会における経営のサイクル」が描けるようになりました。その会合ではグループ討論をしても、なぜか相手の方と話がかみ合わないのです。立派な会社を経営している方でしたのに、人材・共育の話はまったくリターンがなく、戦略・戦術の話ばかりをしていました。私はこの方は「人に興味がない」のだと感じました。その時、全国の同友会の人と話ができるのは、「人を中心とした経営」つまり「人間尊重」の考え方(労使見解)という共通の価値観を持っているからだと気づいたのです。世の中の経営の本でも経営指針が大切と書いてありますが、「人間尊重」の考え方(労使見解)を中心にしているのが同友会であり、その本質といえます。
よい経営のサイクル
そして、その考え方をベースに経営指針・共育・採用の3つを有機的に進めていく「三位一体の経営」を行うことで、社内のベクトルが合い、他に依存しない会社、すなわち自立型企業になっていきます。その結果、売上・利益が上ります。利益があれば、技術や商品の開発、採用にお金が掛けられるので、ますます良い人が入り、良い商品が開発できます。これはよい経営のサイクルに入ることになり、強靭な経営体質の企業になれるのです。当然、経営の目的である経営理念の実現に近づくことにもなります。こうした経営をしようとしている会社が愛知には3000社あります。各社が強い会社になれば、中小企業の認知度も上がり、社会的な立場も確立されるでしょう。それを後押しするのが中小企業憲章の制定運動です。私たちは、まず「三位一体の経営」を実践して良い会社を作る必要があります。
経営指針を作ってみる
戦略不在の会社経営に不安
同友会に入る前に2年ほど常務をしていて、あちこちで経営指針を作ると経営がしやすいと聞いていました。私も経営指針を作ろうと思いましたが、社長になっても出来ないまま時間がたちました。しかし、1999年にどうしても書かなくてはならないことになりました。入会の翌年9月に、当時の所属地区である第四青年同友会の次期地区会長を依頼され、そこで地区例会の報告者をやることになったのがきっかけでした。報告者という機会により、その報告資料として自分の経営を紙1枚に手書きでまとめたことが自社の経営指針のスタートになりました。もともと社長就任時から戦略不在の会社経営に不安を感じており、経営指針の必要性を感じていましたので、それがいいきっかけとなりました。
4つの戦略を確立
創業者と違って2代目は自分で何のために経営しているのかを考えなければなりません。それが経営理念になりました。また、商社不要論、いわゆる中抜きが言われる中で、戦略がなければ心もとないので、いかに存在価値を出すかを真剣に考えました。その結果、先代から受け継いだ1つ目の戦略に新たな戦略を加え、現在では4つの戦略を確立できました。振り返れば、報告の機会があったからこそ経営指針が出来たのです。指針というのは、一旦出来ると、加筆修正でやっていけます。1ページでも良いので、まずは作ってみることが大事だと思います。
毎年続けて行なう経営指針の発表会
同友会では経営指針発表会を行うことが推奨されています。私も2000年に社内で初めての経営指針発表会を開催しました。意気込んでやったにもかかわらず、社員はシラケており寝ている社員までいるような始末でした。翌年の指針書は80ページにも及ぶものになりました。しかし、社員たちは相変わらず冷ややかで、孤独感にさいなまれました。大変悩みましたが、やり続けなくてはと自分を叱咤激励し、その後も毎年開催していきました。2005年は名古屋支部幹事長を受けていた年でした。役を受けた以上、皆さんのお手本にならなければという思いから、「活動のてびき」を参考にして、経営指針発表会を社内ではなくホテルで開催し、仕入先、金融機関と同友会の人たちを13名程お呼びしました。立派な会場に、私も入って思わず「オー!」と思いました。すると、来る社員も声をあげて表情が変わりました。この日の経営指針発表会は、今までは何だったのだろうと思うくらい社員が集中し、手応えを感じました。
いい会社とは
年配の社員が多い中で、自分の意思を通すためには、自分のブレーンを増やすしかないと思い、常務時代から採用には積極的に取り組んでいました。その手応えのあった2005年の経営指針発表会の時、社員60名のうち自分が採用した人が31名になっていました。さらに、翌年には新卒が社員の半分を越しました。「新卒採用が半分を超えると、会社は変わる」と同友会の先輩から聞いていましたが、それは本当だと感じました。ここにたどり着くまで8年掛かりました。そのことに意を強くして、新卒採用に注力すると同時に、理念や想いに共感した人を採用することに、より強くこだわりを持つようになりました。
理念を共感してもらう
我が社では、中途採用の社員が3年程で伸び悩むケースが多くあります。「明るくて元気な人」ということだけで採用すると、3年程経つとそうでなくなってしまうのです。やはり理念共感型でないといけないといえます。その点が難しく、今は中途採用を止めています。共育ちを「共育」(きょういく)というのは、同友会だけです。社長も社員も何のために働くのか、どんな人生を歩むのかを人間として同じ立場で一緒に考えるのが共育です。「教育」と「共育」の違いは何なのでしょう。前にもお話しした横田社長から「鬼と金棒」の話聞きました。鬼が人間性、考え方。金棒が知識、スキルです。大きくて強い鬼、つまり立派な社員になってもらうためには、まず、鬼を大きくしなければなりません。そうでないと、大きな金棒は振り回せません。鬼を大きくするためには、共育により考え方、価値観、即ち理念の共有が必要です。そのうえで知識の教育をすれば強い鬼になります。
やるのは社長次第
2007年に、あいちフォーラムの分科会で報告された沖縄教育出版へ1人で見学に行きました。1時間半の元気の出る朝礼を見て驚くと同時に、どうしてその会社の社長にできて自分にはできないのかと思いました。よく見るとやっていることの1つひとつはごく普通のことです。やれないと思っているのは、自分がそう思っているだけなのに気がつきました。翌日から我が社の朝礼にも、体操、握手、肩もみを導入しました。その後、9月に12名の社員と共にまた会社を見学させていただき、翌日から「掃除」と「ワッショイ」を加えることに皆で決めました。特に掃除は当番や割り当て制を廃止し、自主的にやるように変えました。先に出勤した人が社内をやっていると、押し出された人は外へ出て掃除をしています。地域の人たちから「ありがとう」と声を掛けられるようになりました。掃除についてはルールがないのがルールです。やらされて掃除するのではなく、自主的にやるから意味があることを話し合いました。会社が大切にしていることは、おかしなことが起きたらすぐに修正すること。この話し合いが結局は理念の共有につながるのだと思います。
畑にあわせて種を蒔く
同友会に入るといろいろな役を受けます。私は、振返ってみると役を受けたことで同友会も辞めなかったと思います。また、役として皆のお手本にならなくてはと思い努力をしてみたら、よい結果も出ました。それに役の責任として全国会合にも出るようになりました。そこで出会ったすばらしい経営者にもたくさんの刺激をいただきました。社長の器とは実践力だと思います。やれるやれないを決めているのは社長自身だからです。結局、社長の役割とは、自分の畑(会社)の状態を見極め、いつどの種(施策)を蒔くのかを決めることなのではないでしょうか。芽が出るように畑にあわせて種を蒔く。どの要素を選ぶかということが大事です。我社では最近、「人生計画研修」というものを取り組み始めました。自主性、自発性を高めていけたら、もっとすばらしい会社になっていくと思います。何でもやってみなければ学びになりません。同友会に入ったのは自社が良くなるためですから、学んだことを自社で実践して自社が良くならないと意味がありません。みなさん、一緒に学んで実践していきましょう。そして、社員が生き生き働ける「いい会社」をめざしましょう。
【文責事務局野副】