どうゆうき

▼ジャーナリストの野村進氏著「千年、働いてきました」によると、日本は世界一の老舗企業大国であり、創業100年を超える企業が全国で約15,000社、200年以上は3,000社あるといいます。200年以上の老舗は中国で9社、インドで3社、ドイツは800社、オランダは200社。いずれにしても3,000社の日本は群を抜いています
▼そしてその老舗企業の多くは製造業。ものづくりにおいて、素材や製品を、単なる「もの」として扱うのではなく、すべてのものに生命が宿るという独自の職業倫理に基づき、また家業は継続第一で、安易な拡大、拡張、投機を厳に戒める「家訓」を持つのが特徴だとしています
▼著者はこれら老舗製造業の共通項の1つに哲学者の加藤尚武氏が言う「町人の正義」を実践してきたことを挙げ、資本主義の弊害も明らかになってきた今、名もなく生きてきた人達の倫理観、それも伝統的に培ってきた町人の倫理観を積極的に生かすしか、生き延びる道はないと語ります。実はこの「町人の正義」は老舗企業にこそ脈打っている、と著者は実証しています
▼(トルコの)遺跡に佇みながら、日本のことを考えていた。”石の文化”ではなく”木の文化”が栄えた日本には、四、五千年前はおろか千数百年前の遺跡すら地上にはほとんど残されていない。だが、その一方で、老舗という文化は驚くべき質と量を保ち続けている。トルコの大地には古代神殿の柱がそびえているけれど、日本にも老舗文化という名の『透明な柱』が無数に立ち並んでいるのではないかと。あとがきでの著者のこの言葉が印象的でした。

相談役 福谷正男