第47回定時総会第4分科会
4月22日
経営に生かせる地区づくり
堂上勝己氏梅南鋼材(株)(大阪同友会代表理事)
自社の経営をどうするか
創業52年、3代目として
私の会社は、大阪市西成区で鋼材の販売をしております。創業して52年になり父が創業者で兄がその後を継ぎ、私が3代目です。売上が5億4千万円、社員は21名です。いま一般の鋼材屋の粗利は15%ぐらいで高くないのですが、鋼板を加工して販売して粗利をよくしています。自社は鋼板の切断や折り曲げ加工をやってます。一部はお客さんで作って頂き完成品を納めるという商社的なこともやってます。業界は、原材料が高騰していて鋼材価格を転嫁できないと儲けにならず、私どものところでも相当に値あがっています。逆にメーカーも赤字になるという可能性もあり、1年くらいで変化があると思います。粗鋼生産は1億2千万トンを超えおり原材料高がメーカーや流通においても非常に打撃になってきていてユーザーにおいてはもっと厳しい状態です。大阪は家電メーカーが多く、海外移転の空洞化と本社機能が首都圏に移っています。
退会が止まらない
大阪同友会は1991年をピークに3670名の会勢でした。ですがバブル崩壊とともに1992年は821名も退会してしまい、延々と退会が10年間止まらず、やっと2002年に止まってきました。増強も北海道か大阪かという状況でしたが、退会は大阪がトップでした。そういう時に小さな基礎組織で、顔と企業が見える活動にしていこうと支部を増やしていきました。ただ組織を変えて退会をとめようと思いましたが、組織の変更だけでは退会は止まりませんでした。これは運動を支える組織をどうつくるか、というもうひとつの教訓でした。かつて同友会のことを聞いたら何でも知っている『ミスター同友会』という役員がおられました。自分も「素晴らしい」と思っていましたが、しばらくすると会社が倒産してしまいました。同友会の3つの目的と会社があわなかったのです。
経営のプロがいない
これは運営のことは抜群にうまい、運営のプロをつくってきたけど経営のプロをつくってこなかったということです。そうしたことから2001年発表したビジョンは、企業作りを中心にした、初めて経営をどうするかを中心に据えました。もうひとつは有名人を呼ぶのではなく、経営に生かされるような経営実践を報告する例会を行わないといけないということです。会勢も増えると組織も増えます。しかし組織を支えられる役員が少なかったのです。まず組織の整理と、継続した役員育成を目的に役員研修講座を作りました。講座は厳しい内容になっています。現在7期で178名の卒業生がおります。同友会の歴史からはじまってほぼ同友会のことがすべて理解できる内容になっています。講座では正副代表理事がグループに入り同友会の理念から外れた議論には指摘する役割で参加しています。こういう取り組みで、運営の理解ではなく、同友会理念に基づく経営とは何かが浸透してきていると思っています。
気づきを与える
経営指針作りも分厚いマニュアルを作って、セミナーとしてやっていましたが、地域に根ざし、たくさんの人に受講してもらえるように、中間組織であるブロックで開催しています。「人に教えられない」から講師が出来ないという方もおられました。しかしこの講座は「教えるものではなく、気づきを横から与えるものではないか」と皆で務めることにしました。自分自身から、にじみ出た考えや苦しんで出来たものが経営理念となるのではないかと、そのための気づきを与えるものでいいのではないかと思うのです。約400名が受講するのですが200名は指針づくりに入る体制を作って欲しいと思います。やはり半分くらいの人が経営指針を作って企業作りに一生懸命にならないと退会が増えています。今でも退会が止まらないことはそういうところが原因と思っています。
課題をはっきり意識する
不況を追い風に
お客さんはバブル当時は値段の話ししか言いません。自社はまず「加工できます」と営業しますから、値段のことより「こんなことができる」という話をするようにしています。こういう具合にトータルコストとして下げ、スピードを上げています。現場の職人さんから見て、自社商品は前工程がすでに終わっているので仕事が楽になるという評価を頂き、売上が上がってきました。経営環境が厳しくなった最近ですが、わが社に追い風といえます。それから「何にお使いですか」とできるだけ提案営業を徹底して販売に結びつけています。わが社は160社と取引をしていますが、相当のスピードで取引先も廃業倒産しています。新規開拓も相当のスピードでしていかないとお客さんが増えない、ということがおきています。営業も女性の営業社員がダイレクトメールを送り電話をします。「ご要望はないでしょうか」と伺い、そこを男性の営業が新規開拓にいくという作戦をやっています。先方に行きますと、いままで自社で出来ていないことを要望として言われます。できない要望でもなんとか応えることが次の仕事のアイデアになっています。それが結果的に既存のお客さんにも「こんな事が出来るようになったのか」と喜んで戴けます。常に会社を変えていけるように心がけています。
社員に権限を委譲して
同友会に入ってまじめに出席するとすぐに役員になりました。5年くらい経つと今度は「支部長をやって欲しい」と言われ、だんだん会社の事を社員に任せて権限を委譲するようになりました。任せるとなると、例えば鋼材価格は相場製品で、今日と明日の価格が違うということを社員にわかってもらわないといけません。これは“才覚がないと勤まらない”と思っていましたが、私の大きな錯覚でした。マトリックスをつくり説明したら簡単に済む話でした。いまでは社員のほうがバシっと判断してくれますので、自分はなんだったのかと思ってしまいます。配送の発注についても自分の間違いに気づきました。社員が交渉をしていたのに最後の段階で「なんとか値下げできませんか」と値段交渉と契約をしていました。あとで「えらいことをしてしまった」と思いました。いままで社員が延々と長い時間交渉をしてきて最後は社長が“ええかっこするのか”と。それだったら最初から全部社長がやってくれと思うだろうと気づきました。そういったこともあって私は、最近は判を押すだけです。ディーラーも、最後は誰が決定するのか、と考えながら値段をつけているので社員がやってもそんなに値段は高くはならないと思います。そういうように社員がイキイキとしてやってくれることを大事にしています。
指針発表は真剣勝負
自社も経営指針を作成しています。先日も指針発表会をやりました。毎月の会議にはこの経営指針からの進捗状況が全員から出てきます。真剣勝負ですので、数字を入れ試算書と一緒に金融機関にも送ります。外部に出すものはチェックが厳しくなります。期の途中に支店長が「目標どおりにいってますか」と来るのですが、毎月試算表を出して分かっているはずなのにやってきます。それは目標が達成できていないのはなぜか、と問いにきている訳で、その理由と対策を話すようにしています。1つでも多くの場所にこの経営指針をばら撒いていたほうがいろんな方から指摘され、より真剣になります。同友会の中でも「代表理事、計画通りいってますか」としっかりチェックされますのでありがたいです。
何のための例会か
同友会の例会とは何のためにあるのかと考えると、例会は経営の手法を披露する場所ではなく、理念の実践を凝縮した報告をし、参加者もその実践をどう受け止めるのか、という同友会運動の1番の高まりの場所ではないかと思っています。ですから真剣勝負の場所です。報告者の実践の話をどういう形で受け止めて議論するか、グループ討論の中身にも意味があると思います。私も入会当時はこんな熱心な会があるのかと思いました。自分の至らなさも気付くこともできました。このように会外から来ている方は大変カルチャーショックを受けています。その例会の中身がどうか、が増強につながる重要な試金石になっています。
経営課題は明確か
しかしこの大阪も最近、例会で入会が少なくなってきています。最近の会外の経営者の方は経営課題をもって、あっちこっちに勉強しにいっています。正直、同友会は甘いな、と言う人が出てきています。たくさん勉強している方がゲストで来ていますので、それに打ち勝つような例会をしていかないと入会に結び付かないと思っています。遂に最近は全然経営課題も考えないで参加している会員もいます。経営指針やいろいろなものを作っていると経営課題はいっぱいあるのです。また経営課題を持ちながら例会に出席しているかということが決め手になります。いい話を聞いて帰ろうかと思うだけでは、自社に持って帰るものが少ないと思います。例会では気づきを与えていくグループ長の采配が大事になってくると思っています。それから例会の1番の醍醐味というのは「経営者の経営姿勢」「生き様」というのを学ぶことが1番です。経営指針や会社での取り組みを行うきっかけになったドロドロとした悩みはどこにあったのか。そういったことも学んだほうが良いと思うのです。
経営者の悩みは「人」
人間力をあげる
経営の悩みの大半が「人」の問題です。よく社長は社員がどうだとかいいますが、いきつくところはすべて社長自らの問題といえます。自分の生き様、人間力をどう上げていくかということと社員がどう育っていくのか。そういうことがイコールでなければいけないと思います。そして、そういうときに労使見解に学ぶということが生きてきます。労使見解には、1番最初に「いかなるときにも経営を維持発展させないといけない」とはっきりと書いてます。私も社員に「勉強せえ」とよく言います。しかしたまにしか採用しない会社で勉強しても実感がわかないだろうと思います。いまのように定期採用していきますと必死になって勉強しないと後輩に抜かれますし、自分の役割は増えてくる。このように新しい息吹が湧き上がるような会社が、皆が勉強して成長できる一番の会社ではないかと思います。
学ぶこと=変わること
ときおり「例会の発表者がいない」と相談があります。大きく成功した事例があればいいのですが、そこは「学んで会社でこういう実践をしました」、という報告でよいと思います。
例会の報告者は、問題の提起者であって、凄い経営で成功しているという話でなくとも、「学んだことを実践してこんな成果がありました」とか、「こんな失敗がありました」という実践報告をどう完了させていくかということが大事だと思います。学んで実践しない人は多くいます。「今度やります」といって5年ちかく言っている人に、「いつやるんや」と私は言います。学ぶということは変わるということだと思うのですが、学んでも変わらない人は知識を入れているだけです。「この人の話は先日聞いた」ということではなく、学んだら会社に取り入れて自社を変革するとか自分自身が変わっていくことが学びの原点といえます。その辺を間違えている人がいるのではないかと思います。
自社を良くする。これが役員の役割
こういう学びの原点をつくるベースが役員会で、その役員会で会社の問題点や課題を持ち合って話しあってるかが大切です。運営ばかりでは大変疲れます。本来は自分の経営課題を話しながらそこで話された課題が、次の例会のテーマになるということが重要なことだと思います。役員をやったら役得になるので、「会社が良くなるので役員をしなさいよ」、といいます。お世話係だけになるような役員会は考えものかなと思うわけです。お互いが刺激しあえるような役員会になっているのかどうか、そこで経営課題が発見できればいいわけです。例えば、いまの材料高をコストにうまく反映している人はいないか、うまく反映できている人がいるとその人に報告者をやってもらえばいいわけです。それが会員のニーズだと思います。もうひとつは50分話を出来る人に報告者をやってもらおうと決めていますが、本来は少しの時間しか話を出来ない人にどうやって50分話ができる内容を引き出してあげるかということが役員の仕事でもあると思います。
事前訪問が大切
大阪ではたいてい例会をつくるときは必ず1回は会社を訪問し、レジュメを用意してもらいます。代表理事といえども「皆が学びたいのはそこじゃありません。もっとこういうふうにレジュメを変えてください」とダメだしをもらいます。リハーサルも行います。こういうふうに延々と聞き出して、いろいろと引きだしてあげると報告者のためにもなります。経営の棚卸と将来展望を一緒につくるようなイメージです。いま大阪ではこんな1番勉強になる報告者を他の支部ではなく、自分たちの支部から出すことにこだわっています。ほとんどが自前の会員で報告者を出して作り上げています。これが例会作りの醍醐味ではないかと思います。
地域をどうするのか
月1回の例会を行わないと1カ月飛び、会員さんにとってはなかなか会う機会がありません。自社の経営の話や地域の話を交わすということも活動のベースになったほうが良いと思っています。中小企業憲章というものは「地域をどうするのか」ということから始まっています。大阪でも平野地区で大阪市が産業フェアを開催したらいろんな団体が集まりました。主要なメンバーは同友会の会員でした。こういうことを考えたら同友会というのは、あちこちから頼りにされるような団体になっていくのではないかと思っています。
自己変革は楽しい
まずは役員が同友会で言ってることが正しいかどうか自社でまず実践してみて、胸を張れるのかが、リーダーの役割として必要だと思います。リーダーの役割は常に自己変革を続けること、学ぶことは変わることです。学んだことをどうやって実践して自分が変わり、そして会社が変わり、その変わったことを例会で再度報告するという還流の輪を作っていくことが同友会の例会であり、学びでもあるというように思います。
【文責:事務局・井上誠一】