第36回青年経営者全国交流会
第5分科会
地域に愛される店づくりは、社員に愛される店づくりから
坂野豊和氏(株)まるは代表取締役
9月11〜12日、岩手県盛岡市にて、第36回青年経営者全国交流会が開催され、全国から725名が、愛知からは104名が参加しました。第5分科会では、尾張南青同の坂野豊和氏((株)まるは)が報告しました。以下、報告内容を紹介します。
祖母が築いた原点
「まるは」は、私の祖母が、1950年に魚の行商からスタートしました。その後、お客様の声に押されて、食堂から旅館業までを営むようになりました。祖母の教えである『常に感謝の気持ちを忘れない』を大切にし、祖母が築いた原点である『お客さまに喜ばれることは何でもやる』を実行してきました。私の父はまるはの店長をしておりましたが三男でした。私は会社は当然、長男である伯父が継ぐものだと考えており高校を出たあと、旅行社に勤めました。その1993年は全国的な温泉ブームがあり、その時に当社も温泉を掘り当てました。天然温泉湯本「まるはうめ乃湯」は良い宣伝にもなり、売り上げも上がっていきました。しかし、同僚やお客さまとの会話の中で、「まるはは味が落ちた」とか、「社員の対応が悪い」など、私の期待を裏切る噂も聞こえてきました。そこで、連休を利用して、まるはを手伝うことにしました。初日から、朝5時に会社に来るように言われました。出社してみると、まず、冷凍してある魚介類を解凍する作業から始まり、そして「昼時は混雑して時間がない」という理由で、開店前から魚を焼いていたのです。サザエに至っては前の晩に茹でたものを冷蔵庫に入れておき、翌日は冷たいままでお客さんに出していたのです。サザエが冷たいことで、父が何度もお客様に頭を下げていたことを、今でもよく覚えています。
顧客満足だけの追求
店長だった父の右腕に当たる人が、「俺たちの話を全く聞いてくれない」と言って会社を辞めていったのもショックでした。当時は食い逃げされることも多く、会社の物がなくなることもありました。その対策として、窓には格子が、ドアには南京錠がつけられました。祖母の相続の話もあり、社内はバタバタしていました。結局、1997年に、三男の父がまるはを継ぐことになり、私も父から会社に戻って手伝うように言われました。会社に戻り、最初に「焼き場」という、魚を焼く部署に就きました。「とにかくお客様に満足される料理を出したい」と周りに相談しましたが、家族も社員もなかなか聞いてくれません。不満もたまり、同じ焼き場にいた先輩2人と毎週のように飲みに行くようにしました。そこでは、どうしたら冷凍の材料を使わない温かい料理をお客に出せるか、徹底的に議論しました。それには、「焼き台が足りない」ということになり、父に頼んで増設しました。また「冷凍の材料がなければ、新鮮な料理を出せる」と、古い在庫を全部捨てることを決意しました。その作業には1週間余りが必要で、中には3年前の魚もあったのです。1998年に支配人にさせてもらい、そこからいろいろな改善を始めました。しかし、今から思うと、顧客満足を追求するあまり、社員には「気に入らなければ辞めていけ」という高い姿勢で接していました。それでもついてきてくれた家族や社員のおかげで、業績は上がりました。
人材育成をはじめる
業績は上がりましたが、社員のことは考えていないので、どんどん人が辞めていきました。これではいけないと思い、人材採用にも真剣になりました。2002年に、ハローワークで4名を採用しました。初めての採用でしたので、私も手をかけてフォローしました。その時の社員は今も全員が残ってくれていますが、次の年からは、私も慣れたり忙しかったりして責任者に丸ごと任せてしまい、結果的にその年に入社した人はほとんどの人が辞めていきました。そんな2003年、同友会に入会しました。それから、「経営者になりたい」「経営指針を作成したい」と考えるようになりました。「自分がいなくなったあとの会社はどうなるだろうか」という問題提起の下、経営指針などをまとめた「パートナーカード」を作りました。2005年には、中部国際空港と名古屋市内の繁華街とに2店舗を同時出店しました。中部国際空港への出店については、当初、祖母を始め多くの反対がありましたが、店長に立候補する社員もいて、出店を決断しました。この空港店はマスコミからも注目され、一見華やかでしたが、ホール担当の社員が1年間で全員辞めてしまいました。万博と重なってお店は連日満席で、スタッフは休みも取れない、昼休みにも座れない、というようなことが半年ほど続いていたのです。まるで、温泉が出た時の、忙しさに流されていた状態と同じです。
社内の風通しが良い
2006年に社長に就任し、経営指針を作成しました。それを「パートナーカード」にまとめました。「社員が満足しなければ、顧客満足などありえない」という視点から作られました。最近は、社内の風通しも良くなったように思いますし、プライベートで来店する社員も増えました。まるはで婚約式を挙げてくれたスタッフもいます。最近、食品の偽装問題が世間を騒がせていますが、ある日の朝礼でこんな報告がありました。メニューで「天然フグ」とされていたフグが、実は養殖だったことがわかりました。お客さまから質問されて調べてみると、たまたまその日に入ったものだけが養殖だったことがわかりました。このような報告は、社員がやりがいと誇りを持って働いてくれているからこそ出てきたのだと思います。社長のトップダウンだけでは社員はつらいものです。自主的に考えてくれることはありがたいことです。これは、まるはの原点である祖母の教え、『常に感謝の気持ちを忘れない』『お客さまに喜ばれることは何でもやる』を、規模や時代の流れで改善することになります。課題だらけの会社ですが、経営者は誰よりも熱く、どうしたら社員が夢や目標を持つことができるか考え実践していこうと思っています。
【文責・事務局八田】