第10回あいち経営フォーラム
第6分科会
元気な会社、社員といっしょにつくろまい〜1人ひとりを尊重した共育ち〜
豊田弘氏 知立機工(株)代表取締役
元気とは人間の基本要素
基本的要素
たまたま読んだ儒教の本によると、「元気」とは「我々の存在や生活のもとになるもの」だそうです。ですから我々の存在活動は全てこの元気によるもので、元気がないということは、根本的に人間として失格だといえます。従って、「元気があるかないか」が、人間のいちばん基本的な要素となります。『元気』とは、「何があっても、常にはつらつとして、変わらぬ創造力・活動力を維持する」ことです。また、「見た目だけではなく、人間の根本的な部分に関わってくるもの」とのことです。
人生は自分の責任
独立する前に働いていた会社では、ナンバー・ツー的な立場に就いていましたが、社長が不正をしているのを発見してしまいした。まだ若かったのでストレートに社長を問い詰めました。それから仕事で無理を重ねるうち病気になってしまいました。そして会社に戻ってくるとしばらくしてから解雇されました。私は、就職試験に失敗し、病気になり、解雇もされました。しかしそれらは全部自分のせいだと思っています。病気になったのも自分のせい、解雇されたのも自分のせいです。自分がそういう道を選んだのだから、責任は自分にあるわけです。今では、前の社長に対しても「あの社長が、経営者になるチャンスをくれたのだ」と感謝しています。
「共に育つ」に惹かれて入会
ある時、友達とゴルフへ行った帰り道、友達のワゴン車の後部座席に同友会のパンフレットが積んであるのが目に入りました。そのパンフレットには「共に育つ」と大きく書いてありました。それが目に焼き付いたので、その友達に詳しく話を聞いてみると「同友会という、経営者の勉強会があって、こういう勉強をしている会だ」という話でしたので、「そういう会ならぜひ入会したい」ということで、同友会に入会しました。
経営責任から逃げない
3度目の大ピンチ
35歳の時に第2次オイルショック、それから13年過ぎた時にバブルが崩壊しました。バブルが弾けた後には、売上が半減しました。当時は、悪いことに売上を1社に依存していましたので、弊社も倒産がみえるところまで追い込まれていたのです。そんな時、その1社に営業に行ったら、担当者から「そんなに苦しいのだったら、社員のクビを切ればいいでしょう」と言われたのです。追い打ちをかけるように、銀行からも「これ以上は融資できません」と宣告されました。銀行からもダメ、お客さんからもダメ。そんな状況を、社員に正直に報告しました。
ピンチがチャンスに
私は、「社員を切る」ということは考えたことがありませんでした。それは、三河支部の共育研究会というところで勉強をしていたからだ、と思っています。「『社員と共に』という格好良いこと言っているのに、社員を切っていいのか。自分は本当に努力し尽くしたのか」と考えました。社員に「私は、家を担保に入れてでもお金を都合して、もう少し頑張る」と、正直に宣言して、その年の正月を迎えました。正直なところ、「こんな状況では社員も不安だろうから、何人かは辞めていくだろう」と思っていました。ところが、それから「辞める」という社員は1人も現れませんでした。正月には、いつものように社員が家に来てくれました。社員とお酒を飲んでいるうちに、「社長、やろう」、「社長、頑張ってやろう」と、社員が一生懸命に私を励ましてくれるんです。最後には、涙を流しながら酒を飲みました。どうして社員がそういうことをしてくれたのか、私にはわかりません。でも本当に、心から嬉しかったです。社長が逃げるな。社長が逃げてはいけないのです。そういうことを社員に教えられました。逆に社員に育てられたような気持ちです。
リストラをしないから業績アップ
それを機に、私は「1社に依存する体質をやめよう」と決意し、私が新規開拓に専念するために、会社のことは皆に任せると心に決めました。幸い、弊社が取引していた会社は大きくて信用力もありましたので、そこを評価していただけたのか、次々とお客が増えました。新規開拓はやり続けないといけません。お客をどんどん作って、それを後へつなげていくことが非常に大事だと思っています。それから苦しいときにリストラをしなかったことで、弊社の戦力は以前のままで保たれており、世の中の景気が少し上向いて、お客さんが増えてきた時に、弊社の業績もポンと上がりました。売上も利益もバブル期より上がり、非常に恵まれた環境となったのです。
ピンチのとき気付いたこと
それまでは、自惚れや奢りのようなものを持っていましたが、バブルが弾けて目が覚めました。外注先にも「仕事は断らないで、もしもできない仕事が舞い込んできたら、できないところだけうちへ持ってきて、その仕事自体は受けなさい」ということを言ってました。仕事を増やすためには、自主的かつ積極的な努力がいかに大事かということに気づいたのです。それから、会社は「人間中心」でなければなりません。社員は、社長が考えているよりもいろいろなことを考えています。その社員に負けないように、社長ももっと勉強しなくてはいけません。社長よりできる社員は、辞めていくか独立していってしまうと思うからです。あとは、何事も決断が早いと苦労にならないように感じます。決断は社長の大切な仕事ですが、いつまでも悩んでいるとそれが苦労として出てくるような気がします。
社員の思いが会社の理念
人間が中心の会社へ
「人間が中心になっていく会社を作らないといけない」と考えはじめました。社員全員で話し合う全体会議を始め、まず、社員に「どんな会社にしたいか」と問いかけることから始めました。皆で話し合って、自社の良いところ、悪いところはどこだ、ということも聞きました。それをノートに書き留めて「これが理念にならないか」といつも持ち歩いていましたが、ちっとも理念になりませんでした。それは、「人に見てもらって格好よいものを作ろう」と思っていたからです。あるとき、「このノートに書いてあることを、そのまま理念にすれば良いじゃないか」ということに気付いたら、すぐまとまりました。それが今の理念です。社員の思いを理念にした、というのが弊社の歴史でもあります。
人としてどうするか
会社の基本方針の第1番目で、「物事の判断基準は人間として」と謳っています。「人間としてやって良いか悪いかを判断し、人としてやるべきことをやる」、そういうことが総じて「人として」ということだと思います。全体でやる会議で、「人殺しをする人のことも理解してあげなくてはいけない」という意見がありました。びっくりして、「人を殺して良い、という理屈はない。理屈抜きで駄目なんだ」ということを教えたことがあります。「理屈抜きで『悪いものは悪い』ということを覚えなさい」と言いました。嘘をつかないとか、人の物を盗むなとか、そういうことが私のいう人間経営の基本なのです。
人間経営と会社経営
会社をやる以上は利益を出さなければいけません。私は人間経営と会社経営のバランスをとることを目指しています。人間経営ができていないと、どこかで綻びが出てきて、会社経営も頓挫するのではないか、と思っています。大変厳しい経営環境ですが、何はともあれ社長の元気がいちばん大事だと思うので、「『元気』って何だ」ということを皆さんも考えて、日々の経営をして行っていただきたいと思っています。私もよく社員と相談し、社員の意見も聞きながら、しかし毅然として決断する時は社長が決断する、そういうことだけはっきりしながら、やっていける会社にしていきたいと思っています。
(文責事務局山田)