第48回定時総会
第4分科会
4月21日
経営に誇りと喜びを
新井敏男氏(株)アライ
「何のための経営か」の気づき
軽い気持ちで入会
私は、32歳でサラリーマンを辞めて、親の鉄工所に入りました。社員10名程の構内下請けでしたが、すぐに倍の20名に増員しました。しかし、構内下請けなので私が良くなると反比例で他が悪くなり摩擦が生じました。その後、(株)アライの前身をつくり、85年に会社を設立しました。92年に同友会はゴルフも飲み会もできる会だと聞いて入会しました。入会後数年間はゴルフや飲み会には積極的に参加していました。ある日、同友会の地区役員を引き受け、役員会で意見交換をすることで物事が変わり始めたのです。
経営指針作成を決意
役員会の仲間の会社に行った際、経営指針書に衝撃を受けました。私は、社長でありながら、経営指針書の存在も知りませんでした。思わず「これはどこかに売ってないか」と尋ねました。その時初めて経営指針書は社長が自分で作るものだと教えてもらったのです。同友会に入会した年から3期連続で赤字を出していました。そんな困っていた時期でもあり、仲間の経営指針書が凄いものに思え指針書の作成を決意しました。早速、春から始まる同友会の指針作成勉強会に参加しましたが、秋にはついていけなくなりました。指針書が作れない理由は、理念がないからでした。正直、「たくさん稼いで給料をたくさん出すこと」が当時の1番の目的でした。
目標達成にはチェックが大切
指針ができないまま2年が経過しました。結局、借りてきた言葉をつなぎ合わせて理念を作りました。しかし当初は、社員の理解が得られず、「そんな会社に入ったつもりはない」と腕のある社員が辞めていきました。それでも諦めず、同友会で学んだことをとにかく社内で実践したのです。経営理念を全社員にわかりやすく説明したものを、理念浸透図と呼んでいます。理念と現状を正確に把握し、中期、短期の計画を経営指針に具体的に入れ込むことで、PDCAの仕組みをつくってきました。目標達成のためには、C(チェック)が最重要であると位置付け、チェックしやすい体制づくりにも力を入れてきました。
社員が主役で会社が進化
指針作成までには大変苦労しました。しかし、骨組みが完成してからは、スムーズに成文化が進みました。それは同友会の方法でグループ討論を行い、社員と一緒に試行錯誤をしてきたからです。始めの頃は借りてきた言葉で経営理念などを作っていましたが、ずっと言い続けていたら徐々に会社と社員が変化してきたのです。その秘密は、今のわが社の強みも、今の指針の形も、全て社員からの提案で出来上がってきたものだからなのです。そのため社内に指針が浸透するようになり、社員が主役となって会社が進化していることを実感しているのです。
人は人に磨かれる
良きライバル
同友会の中でこれほどモチベーションが上がった理由の1つに、同世代のライバルの存在がありました。私が尾張支部長を務めていた頃、名古屋支部長、三河支部長の三支部長のお互いの経営指針発表会に参加し合いました。他社の指針発表会に参加して、自分が出遅れているように感じました。ある日、三河支部長の会社を訪問した際、昼食前にパートが理念を唱和していることに驚きました。経営理念の浸透方法や社員教育など、参考になることがありました。時間はかかりましたが、社内へ方針を落とせるようになったのは先生でもあり、仲間でもあるライバルのおかげです。他社の指針発表会に毎回参加できること、そしてその進化を感じられることが大きなヒントとなり、刺激になりました。
指針作成と発表会
わが社も、指針作成と発表会を始めて12年になりますが、最初の6、7年は空回りでした。始めは苦労しますが、自社の2、3年後のビジョンを描き、自社と社会との関わりも視野にいれて存在理由を明確にしていきます。それを成文化して進化させていけば良いのです。会社の方向性やビジョンは成文化しなければわかりません。立派でなくても経営指針を作ることが経営者の必須事項といえます。経営指針を作成したら次は指針発表会をして会社の方向性を社員にしっかり伝えることが大切です。15年程経過した今では重点目標だけ提示すると、残りは全て社員が考えます。これができるようになったのは、PDCAのサイクルを確立させたからです。チェックの位置付けである指針成果発表会では、全社員1人1人が半期の成果を発表します。成果を発表して認められることでモチベーションが上がり、次なる課題が見つかります。このPDCAを繰り返していくことで理念に近づけています。
社員を認めること
私は人の欠点を見つけては指摘する嫌味な経営者でした。しかし、同友会で労使見解に出会い、考え方が変わりました。欠点の指摘ではなく、できた部分の成果を認めるように変わりました。10年程続けている取り組みとして、社員1人1人との面談があります。毎朝30分、順番に社員の良さを認め、指針、個人目標をもとに進捗状況の確認を行っています。社員の話から経営のヒントも多く吸収できます。以前は一方的に怒鳴りつけることもありましたが、社員を認めることで、社長のことも認めてくれるようになったのでしょうか。社員の定着率が格段に良くなりました。認められることが社員の原動力にもなっていると思います。
三位一体経営をまわす
社員のための社内報
鉄工所の現場では、目の前の鉄だけを見ていて空しくなることがあります。製造した製品がどこで使用され、社会やお客様にどう貢献しているのか知って欲しいという思いで、毎月社内報「ひまわり」を発行しています。コンセプトは「人に必ずある良いところを探して掲載する」です。これは社員のための社内報です。社員の活躍を中心に、社員が読んで楽しくなるような記事を掲載しています。このアイデアは同友会の全国総会から学んだものです。全国総会の会場で「これは良い」と直感で思い、次の日から取り入れました。それから毎月発行して、創刊百号を超えました。
危機感の共有
社員の人生、生きがいを考えたとき、「楽しく働くこと」のできる会社にしていかなければなりません。わが社では、この景況下で約30%売り上げがアップしています。その理由として、社員の自主的な行動があげられます。上から一方通行のトップダウンではなく、ボトムアップで会社は成長しています。経営環境の悪化にしても社員に危機感を煽るのではなく、共有することが大切です。今後の具体的な戦略まで考え、そのために今必要なことを把握し、それに対するPDCAを行うことが重要です。目標で数値化できるものは数値で示しチェックしやすい環境づくりも達成のコツです。目標に対するチェックを行うことで、次の目標や課題が生まれてきます。少しでも目標に近づき、認められることで、新たな意欲が沸いてくるはずです。
役を受けて会社が伸びる
これまで同友会の学びを実践してきて、役を受けて着実に会社が伸びました。同友会の支部や地区の組織は会社組織と同じです。同友会は、車の両輪のように常に会社とリンクしています。同友会の中で気付き自社で実践することで会社が飛躍的に成長しています。我が社の中期ビジョンは30億企業になることです。金額ではなく、社会に30億円分の貢献ができ、社会から支持される会社になることを目指しています。それから、働きがい、やりがいがあり、幸福を見つけていけるような「いい会社」と言われる企業になれたら良いと思います。同友会の学びは、労使見解をベースにした三位一体の経営を回すことです。経営指針の作成、共育ち、採用の3本柱で自社を強くしていきましょう。
(文責事務局伊藤)