第48回定時総会第2分科会
4月21日
地域力を活用した自立型企業
山口義行氏立教大学経済学部教授
野長瀬裕二氏山形大学大学院理工学研究科教授
小出宗昭氏(株)イドム代表取締役
中小企業の次の一手とは
世界の大きな流れを
〈山口〉私は常日頃から、いかに小さな商圏を担当する中小企業であっても世界の大きな流れをつかむ努力をして下さいということを伝えてきました。今回の不況で、情報のネットワークを自ら構築する必要性を経営者の皆さんは痛感したのではないかと思います。さて、アメリカ経済が立ち直らなければ、日本経済は立ち直らないというのは当面の真実ですが、問題は先き行きをどう見ていくかです。私は景気の底はアジアからやってくると思います。まだまだ厳しい局面は覚悟しなければなりませんが、戦い方は何通りもあるのです。全体のマクロの成長率がゼロでも新分野に参入することにより、急激に伸びることもありえるのが中小企業のおもしろいところです。厳しい側面もありますが、諦める必要はないのです。そこで今日は、マクロ情勢の厳しさを踏まえ、今後の経営を考える上で鋭い視点を頂けるお2人に登場していただきます。
活かされるべきポイントは各社にある
〈小出〉昨年の6月まで静岡銀行に26年間勤めておりましたが、現在は静岡県富士市にある富士市産業支援センターf‐Bizのセンター長を務めています。実は地域の中で頑張っているどんな企業にも、活かされるべきポイントは必ずあります。ひとつの視点としては、バランスシートの裏に隠れている価値そのものを見つけ出すことです。多くの経営者は、自社のセールスポイントに気付いていないパターンが多いので、私達は、目線を合わせて、一緒に考え、アクションを起こし、かつ結果を残していこうという取り組みをしています。
〈山口〉みなさん半信半疑だと思われますが、圧倒的多数の経営者は、「貴社の強みはこれでしょ」と問うと、「それが我が社の強みなの」という言葉が返ってくるのです。そのずれが有効なブランディング戦略やマーケティング戦略を不可能にしているといえます。これが、小出さんが15年間継続的に企業と関わってきて出た答えです。引き続き、野長瀬さんよりお願いします。
問題発見能力が必要
企業再生の可能性
〈野長瀬〉私は、現在、山形大学大学院で教授をしています。基本はどんなに忙しくても企業の現場に足を運ぶことを心掛けており、波長のあった経営者と連携しています。先日、財務が弱い会社をどうしたら再生できるかという相談を持ちかけられました。私は、各部門責任者から一人ずつ話を聞き、企業を分析することから始めました。銀行からの格付けランクが低くても問題を摘出すればこの会社は立ち直る事を銀行に説得し、きちんとした計画に基づいて再生を進めます。
伸びる会社の特徴
裏付けを持った事業計画で、経営者と銀行が合意をし、私たちのような専門家が仲立ちをすれば、再生する企業は結構あるのです。昨今の景気のあおりを受け、伸びていそうな企業に状況を聞いてみたら、8社中3社しか伸びていないという現実にぶつかりましたが、伸びている企業もあります。一体どんな特徴や強みを持っているのでしょうか。
第3者の目を活用
〈山口〉中小企業の問題点の1つは、問題発見能力です。多くの会社は、問題点をなかなか認識しきれていないのが現状です。強みもなかなかつかめないという話もありましたが、本当の問題はどこなのかを自分自身で見つけることも難しいものです。このような時に、第3者の目をうまく活用するということは重要です。問題を見つけただけでは何も解決しないので、解決に向けての具体的な事例をお聞きしましょう。
〈小出〉浜松に創業40年目の豊岡クラフトという家具製造業があるのですが、仕入先の事情で売上が落ちてしまいました。また、カタログ販売も手掛けていましたが、なかなか売上が伸びないのでどこか販路を紹介してほしいという相談を受けました。私は取引先に丸善があると聞き、決定的にブランディングが間違っていることに気付きました。丸善の家具は高付加価値製品を取り扱うマーケットですが、力を入れていたのが一般的な人が購入する通販カタログだったのです。
需要と供給のバランス
購入する人にとっても、豊岡クラフトにとっても需要と供給が釣り合っていなかったのです。そこで、ターゲットをJALショップとANASKYショップに絞り、こちらから仕掛けるという戦略をアドバイスしました。案の定、電話を1本入れただけで向こうから是非オリジナルの商品でやらして欲しいとの連絡が入りました。そして、狙い通り雑誌に掲載されることにより、豊岡クラフトという名前で、お金をかけず一気にブランド価値を上げることができました。
〈山口〉中小企業経営者は、自分たちがJALやANAに交渉しても相手にしてもらえないのではないかと思いがちですが、そんなことはないということですね。このような経営者の発想転換一つで会社は大きく変わるのです。
自社の強みを生かしきる
繋がりが付加価値を作る
〈小出〉次に紹介するのは、林製紙という会社で、ピーク時には、家庭紙の七割を作るほどでしたが、当時は厳しい状態が続いていました。トイレットペーパーやティッシュペーパーはどこの量販店でも安売り商品になってしまい、商品価値の低下が背景にありました。そこでトイレットペーパーは販促品として使われることが多いことに気付き、クリエイティブ書家と連携し「長いお付き合いを」という文字や絵を入れたトイレットペーパーを売り出しました。すると、単純な仕掛けですが、多くの注文が来るようになりました。
コラボレーションで付加価値を創る
また他の事例として、弁当屋と連携し、栄養士の作るスポーツ弁当を新商品として開発しました。当時、スポーツ栄養学は、栄養補助食品にかろうじて活用されていたようなものでした。しかし本来ならアスリートの食事として機能させられるのです。私たちはそこに着目し、日本で初めてスポーツの栄養学を盛り込んだお弁当を作りました。地元の弁当屋と組むことで、スポーツ弁当という新しい分野を開拓できました。弁当屋にとっても幕の内弁当から脱却できなかった現状を打破し、圧倒的な市場突破力で展開できるようになりました。多くの中小企業は、自己完結で発想してしまいがちですが、この2つの事例から言えることは、自社だけでは価値を見出せないものでも、知恵・技術を持った人と繋がる事で付加価値を作り出せるということです。
人と人とのぶつかり合いで
〈野長瀬〉「モノづくり」とは人と人とのぶつかり合いが必要不可欠であり、足りないものはお互いに補い合えばよいと感じています。私が見てきた限り、多くの企業は、技術力も開発力もありますが、マーケットの違いに気付かず、自社のセールスポイントを活かしきれていない状況です。
同友会運動の主体者
〈山口〉まずは、自分たちの強みと足りないものを明確にすることが大切です。そのためには、もっとプロの目を活用してほしいと思います。そして、この100年に1度という不況を体験する中で、中小企業運動がどう変わっていかなければならないかをもう1度考えていただきたいと思います。この危機を乗り越えた後、経営者として同友会運動の主体者として、より強靭な企業・より賢い経営者となって一層活躍してくれることを期待しています。
(文責:事務局下脇)